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第二章
一か月後の自殺計画
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第二章
ムギはもう、いない。そんな事実は私の心を締め付け、私は毎日のように無心だった。ただでさえ精神を追い詰めていた人の一番大切なものを取ってしまったら、こんな状態になるのは当たり前だろう。
ムギがこの世を去った際に母親に言われた。「辛い時に傍にいてやれなくてごめんね。」と。でもお母さんは、ムギがいなくなった次の日も出勤した。自分がいかに大事にされていないか、明確になった瞬間だった。
「香織、本当に大丈夫…?」
休み時間に現実を放棄していたからだろう。美羽に心配されてしまった。
「…美羽、みのり、私今日のお昼いつもと違う場所で食べたい。」
私はごまかすために、適当に思ってもいない言葉を発した。
「なんだ。そんな軽いことなら遠慮せず早く言ってよねー。」
私たちは結局、屋上でお昼を食べた。私が気まぐれで言った屋上は絵に描いたように眺めが良く、言って正解だと思った。
「ここの屋上初めてきたけど、景色綺麗だねー。」
…ここから身を投げたらすっきりするだろうな。自分の身体が、この綺麗なキャンバスに浮き上がるのだから。どうせ死ぬなら美しい場所で死にたい。
「美羽、みのり、私明日から毎日ここでお昼食べたい。」
私たちはいつも、天井の下でお昼を済ませていた。でもここは、美しい空が天井だ。私はもう決めていた。この空をバックに死のう──。
「それいいじゃん!ここ眺めも良いし、お昼はいつも教室だったからね。」
「私もいいと思う。風通しも良くて落ち着く。」
よし決まり。私は心の中でガッツポーズをした。──やっと死ねる。
この日を境に、午後のルーティンは屋上に行くこととなった。喜ばしいことだ。
「毎日思うんだけどさ、このお弁当本当に香織が作ってるの!?」
「うん。朝はどっちの親も時間に余裕がないから。」
「本当すごいよね!尊敬しちゃうなー!」
…何もすごくない。美羽だって習い事をしてたからピアノが弾けるじゃない。それと一緒なんだ。家庭の事情で身についた技術は誰にだって存在するはず。私の場合、それがたまたま料理だっただけだ。
私は、美羽を無視して自分だけの思考に潜る。この中学の屋上の柵は、だいたい1メートル強だ。柵に手を置いて手に体重をかけ、身を乗り出せば越えられる。柵の方は問題なさそうだ。この調子だと一か月後には確実に計画も立て終われるだろう。では次、人の目につかない時間帯──
「──香織ってば!」
「…え?」
一気に現実に戻された。
「ずっと柵の方見てボーっとして、大丈夫?もう授業始まるよ。」
「ご、ごめん!戻ろう。」
私の悪癖が発動してしまった。友達といる時は要注意だ。
次の日。私は昨日よりは浅めに、思考の海に潜る。時間帯…。深夜に学校に忍び込むことは難しいし、仮に入れたとしても防犯カメラに私の姿がはっきりと残るだろう。それはあまり美しくないし、好ましくもない。そうだ、授業を抜け出して授業中に死んでやろう。我ながらなかなかの名案だと思った。決まりだ。──私は一か月後に死ぬ。
「今日も香織のお弁当、色合い最高ー!」
「そう…?ありがと。」
「なんか香織、今日ご機嫌?」
「あはは…。…そうかも?」
そんな他愛のない会話ですら、今は心地よかった。
ムギはもう、いない。そんな事実は私の心を締め付け、私は毎日のように無心だった。ただでさえ精神を追い詰めていた人の一番大切なものを取ってしまったら、こんな状態になるのは当たり前だろう。
ムギがこの世を去った際に母親に言われた。「辛い時に傍にいてやれなくてごめんね。」と。でもお母さんは、ムギがいなくなった次の日も出勤した。自分がいかに大事にされていないか、明確になった瞬間だった。
「香織、本当に大丈夫…?」
休み時間に現実を放棄していたからだろう。美羽に心配されてしまった。
「…美羽、みのり、私今日のお昼いつもと違う場所で食べたい。」
私はごまかすために、適当に思ってもいない言葉を発した。
「なんだ。そんな軽いことなら遠慮せず早く言ってよねー。」
私たちは結局、屋上でお昼を食べた。私が気まぐれで言った屋上は絵に描いたように眺めが良く、言って正解だと思った。
「ここの屋上初めてきたけど、景色綺麗だねー。」
…ここから身を投げたらすっきりするだろうな。自分の身体が、この綺麗なキャンバスに浮き上がるのだから。どうせ死ぬなら美しい場所で死にたい。
「美羽、みのり、私明日から毎日ここでお昼食べたい。」
私たちはいつも、天井の下でお昼を済ませていた。でもここは、美しい空が天井だ。私はもう決めていた。この空をバックに死のう──。
「それいいじゃん!ここ眺めも良いし、お昼はいつも教室だったからね。」
「私もいいと思う。風通しも良くて落ち着く。」
よし決まり。私は心の中でガッツポーズをした。──やっと死ねる。
この日を境に、午後のルーティンは屋上に行くこととなった。喜ばしいことだ。
「毎日思うんだけどさ、このお弁当本当に香織が作ってるの!?」
「うん。朝はどっちの親も時間に余裕がないから。」
「本当すごいよね!尊敬しちゃうなー!」
…何もすごくない。美羽だって習い事をしてたからピアノが弾けるじゃない。それと一緒なんだ。家庭の事情で身についた技術は誰にだって存在するはず。私の場合、それがたまたま料理だっただけだ。
私は、美羽を無視して自分だけの思考に潜る。この中学の屋上の柵は、だいたい1メートル強だ。柵に手を置いて手に体重をかけ、身を乗り出せば越えられる。柵の方は問題なさそうだ。この調子だと一か月後には確実に計画も立て終われるだろう。では次、人の目につかない時間帯──
「──香織ってば!」
「…え?」
一気に現実に戻された。
「ずっと柵の方見てボーっとして、大丈夫?もう授業始まるよ。」
「ご、ごめん!戻ろう。」
私の悪癖が発動してしまった。友達といる時は要注意だ。
次の日。私は昨日よりは浅めに、思考の海に潜る。時間帯…。深夜に学校に忍び込むことは難しいし、仮に入れたとしても防犯カメラに私の姿がはっきりと残るだろう。それはあまり美しくないし、好ましくもない。そうだ、授業を抜け出して授業中に死んでやろう。我ながらなかなかの名案だと思った。決まりだ。──私は一か月後に死ぬ。
「今日も香織のお弁当、色合い最高ー!」
「そう…?ありがと。」
「なんか香織、今日ご機嫌?」
「あはは…。…そうかも?」
そんな他愛のない会話ですら、今は心地よかった。
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