アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

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1巻

1-2

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 一歩外に出ると、そこは切り立った崖に囲まれ、ダンジョンというよりも谷間のようだった。
 部屋に射し込む光を忘れていた訳ではなかったが、ダンジョンという言葉から、ここは建物の中か地下だと思い込んでいた。
 今さっき出て来た場所を振り返ると、そそり立つ土の壁面に入口だけがポツンとあった。どうやら崖の中に掘られた洞窟だったようだ。
 高く垂直にそそり立つダンジョンの壁は、十階建てのビルくらいの高さがあるだろうか。目立った植物もなく、随分ずいぶん殺風景さっぷうけいだ。
 もしかしたら、崖を登れば外に出られるんじゃないか? なんか拍子ひょうしけだな。
 期待していたダンジョンと違い、若干テンションが下がったが、気合を入れ直して探索を始める。

「さて、どこから行くかな」

 改めて周りを見渡すと、正面と左右にそれぞれ道が続いている。部屋から見て正面の通路に入ってすぐの場所には、それほど高くはない木が一本だけ生えているのが見えた。
 通路は自動車が三台くらいは並んで走れそうな幅があるが、どの道も曲がりくねっていて、ここから見る限り先がどうなっているかは分からない。

「まずは正面から行くか」

 俺は正面の道へと進む。
 緩やかに曲がる道に沿って数分ほど歩く。開けた場所が見えてきたので、その場で足を止めた。
 目を凝らすと、広場の中央で何か動く物が見えるので、注意深く近付いてみる。
 そこには、高さ五メートルはありそうな、象よりも大きい黒いサイがいた。
 頭部には二本の長い角が生え、とげの付いた太い尻尾しっぽを揺らしながら、その場をウロウロしている。
 俺は圧倒的な存在感に、思わず体を低くして身を隠した。
 でかすぎるだろ!
 あんな奴、どうやってこの剣で倒すんだよ。皮膚も見るからに硬そうだし、どう考えても無理だ。
 いきなりあれに食われて終わるのは嫌だし、早く離れよう。……草食かもしれないけど。
 俺は、サイに見つからないように、目を離さず、ゆっくりと後退しながら来た道を戻った。


 部屋の入口まで戻って一息つき、左右の道を見比べる。
 どっちも何があるか分からないし、適当で良いか。
 俺は気持ちを切り替えて、部屋の入口から見て右手側の道を歩いて行く。この道もまっすぐではなく、先が見通せない。さっきみたいな馬鹿ばかでかい奴がまたいるかと思うと、段々と先に進む事に恐怖感を覚えてくる。
 先が見えない所はゆっくり、静かに行こう……。あんなのに襲われたら確実に死ぬ。


 慎重に進むと、通路の先にまた開けた場所が見える。
 やっぱり何かいやがるな。トカゲか? 四匹……いや、五匹。しかもデカイし……
 そこには、二メートルほどの赤いうろこを持つトカゲが、地面に腹を付けて寝そべっていた。コモドドラゴンだっけ、格好はあれに似てる。しかし、鱗の色が強烈だ。真っ赤なトカゲとか、いかにも毒がありそうで、絶対に近付きたくねえ……
 遠くから少しの間観察してみたが、あの大トカゲの群れを突っ切って進むのは不可能だし、ましてや倒すなんてあり得ないと判断し、再び気付かれないように来た道を戻る。
 やばいぞこれ。倒せる奴がいないんじゃないか? もし体が大人だったとしても、あんな化け物に手は出せないだろ。こりゃ、壁を登る方が安全かもしれないな……
 最初のテンションは全て吹き飛び、トボトボとした足取りで部屋の入口へ戻った。
 残った最後の道を見つめ、一度足を止めて考える。
 まだ一箇所あるんだ。悩むのはとりあえず行ってみてからにしよう。いくら神様だって、無理ゲーは用意しないだろ。
 下がった気持ちをふるい立たせて、最後の道へと足を進める。


 先の二つの道よりも長い距離を歩くと、次第に道幅が狭くなってきた。そこで俺は、道の真ん中に行く手をはばむように立ちふさがる赤黒い半透明の塊を見つけた。

「ん? ……あれは! スライム来た!!」

 定番の雑魚ざこモンスターを発見して、俺は思わず笑顔でガッツポーズを取る。そのまま剣を抜いて前に出ようとしたが……思い留まった。
 待て、落ち着け、俺。少し興奮しすぎだ。あれが何なのか、ちゃんと確認してから行動しないとやばいだろ。
 冷静になって考えてみると、どうもダンジョン内で目覚めてから感情の起伏が激しくなっている気がする。この状況がそうさせるのか、体が子供になっているせいかは分からないが、もう少し自制心を持たないと、自分でも思ってもいない突発的な行動を取りそうで怖い。
 そう思い直し、改めて視線の先にいるモノを観察する。
 赤黒いスライムは、子供になった俺の腰ぐらいの高さがあり、上下に水面のごとく揺れているが、その場から移動する様子はない。
 俺は姿を隠さず、二十メートルほどの距離を取って様子をうかがうが、こちらに気付いている気配はない。視覚はないのかな? いや、そもそもスライムの前後が分からない。もしかしたら、後ろを向いているから気付いてないだけかも。
 遠巻きに考察と観察を続けていると、スライムの体の中に丸い球を見つけた。あれを狙って攻撃すればいけるんじゃないか? ゲームで良くあるパターンだと、あれが弱点だよな……
 俺は先ほど見てきた、二箇所の道の先を思い出す。
 どう考えてもあの黒いサイには勝てないし、トカゲは数が多い。一人で複数を相手にするなんて、愚策ぐさくでしかない。まあ、たとえトカゲとタイマン出来たところで、一みで殺されそうだし。
 そう考えると、俺が道を進むにはスライムを倒すしか選択肢がない気がする。
 大体、スライムなんてゲームでも序盤で出て来る雑魚なんだし、いけるんじゃないだろうか。少しばかし大きくて赤黒い不気味な色をしている事は気になるけど……あの日本で有名なRPGでも赤いスライムはそんなに強くなかったはずだ。
 よーし、まずは、ゆっくりと近付いて動きを見るか。あの体だ、俊敏には動けないだろ。
 俺は一歩一歩様子を見ながら、スライムに近付いていく。
 その間、スライムは全く反応しなかったが、十メートルくらいまで近付くとスライムの体が大きく揺れ出した。

「げっ! やばいか!?」

 つい声を出してしまったが、その場ですぐに立ち止まり、息をひそめてじっとスライムを凝視する。しばらくそうしていると、奴の動きが止まった。
 ふ~、この距離だと反応するのか、怖いな。
 こっちに近付いて来ないのは、見えてないのかな? それとも、音や振動で探知するのか?
 足元にある小石を拾いスライムの数センチ横に投げてみる。
 すると、すぐさま反応があり、スライムはかなりの速さで体の一部を伸ばして小石を取り込んだ。
 また小石を拾い、今度は一メートルほど離れた場所に落とすと、先ほどよりは動きが遅いが、また体を伸ばしてその場所を探っている。
 いずれにしても、近くに行くと動くか。この狭い道じゃ通り抜けるのは無理っぽいな。
 う~ん、しょうがねえ。
 小石で反応するんだから、ゆっくり歩いても変わらないだろう。スライムが動きだす前に一気に方を付けるか。
 俺は両腕で握った剣を高く上段に構え、覚悟を決めてスライムに向かって駆けて行く。
 スライムは震え始めるが、こちらに来る様子はない。
 そのまま走って近付き、スライムの体の中にある小さな球を目掛けて、思いっきり剣を振り下ろす。

「おぉぉらぁぁ!」

 気合の声と共に振り下ろされた剣は、わずかにスライムの体をゆがませるが、まるで粘土ねんどを叩いたかのような鈍い感触が手に伝わり、刃はそこで止まった。

「げっ!」

 俺が驚きの声を上げると同時に、スライムの表面が激しく波打つ。スライムが獣の牙を思わせる形に変化すると、そのまま俺の方へ伸びて来て、一瞬で腕を掴んだ。

「やべええええ!」

 体中から嫌な汗が一気に噴き出る。極大の危険を感じ、思いっきり腕を引き抜こうとするが、全く動かない。
 次の瞬間、スライムの本体が俺の体へと驚くほどの速さでい寄って来る。そして、またたく間に俺の全身がスライムに取り込まれた。
 ぶぅ息がっ! やべええ死ぬっ!
 ……熱いっ!?
 あぁっ、痛てえぇぇぇ!!
 息が出来ずにもがいていると、体中に熱さを感じ、次の瞬間には激痛が走った。
 痛いっ、いだい! やだ! だずげで!
 思考は痛みに支配され、死さえも意識出来ない混乱の中、ただ闇雲にもがき続ける。
 だがその時、指先から暖かい光が溢れ、体中を覆った。
 あれ……痛みが……
 俺の体を覆った光が膨れるように広がると同時に、スライムが弾けて俺から離れる。
 何が起こったのか理解出来ず辺りを見回すと、形の崩れたスライムが、核を中心に元の形に戻ろとしてうごめいていた。
 今のうちに!
 俺は脱兎だっとの如く駆け、来た道を逃げ戻る。
 いつの間にか裸足はだしになった足の裏には石が食い込み、血が噴き出していた。
 異常なまでに息は上がり、足がもつれて膝から倒れ込んだ。しかしすぐに立ち上がり、再び地面を蹴る。
 とにかくあの場から逃げ出す事だけを考えて走り続けた。


 気付いた時には部屋の中。俺は体中から汗を噴き出し、仰向けに倒れていた。

「怖ぇ……。あんな痛み初めてだぞ。痛すぎて何も出来なかった」

 天井を見つめて息が戻るのを待っていたが、あのスライムが追って来ていないか気になり、急いで部屋の入口に張り付く。そして、恐る恐る外を覗くが、スライムの姿は見えない。
 通路から目が離せず、しばらく凝視していると、突然痛みに襲われた。
 足の裏と転んだ時の傷か……。アドレナリンが切れて痛みが出てきたのだろう。まあ、さっきの痛みに比べたら断然マシだな。
 ここはゲームによく似た世界だけど、まぎれもない現実だという事を、スライムに殺されかけて実感した。俺はこの危険なダンジョンを一人で生き延びて脱出しなくてはならないんだ。その為には今後もこういう危険があるだろうし、ぬるい事言ってられない状況もあるだろう。
 日本で会社勤めしていた頃とは違うんだ、覚悟を決めないとな……
 痛む箇所を見ると、派手に出血していた。それに、鎧もボロボロじゃねえか。
 革鎧は大部分が溶けたように崩れていて、触るとボロボロと地面に落ちていく。
 溶けて首にへばり付いている胴当てだった物体を引っ張ると、最後の支えを失ったのか、見事に残っていた鎧全てが体からずり落ちた。下に着ていた服も全て溶けていく。

「服だけ溶かすエロスライムかよ……実際は肌も溶かしていたんだろうけど」

 助かった安心感から軽口も出るが、自分の両手を見てある事に気付く。

「あっ、剣も盾も無いや」


 その後も俺は部屋の入口から顔だけを出して、スライムがいた方の通路を食い入るように、見つめ続けていた。
 一時間ぐらいたったか?
 流石にもう大丈夫だろう。それにしても、のどが渇いたな。
 痛む足の裏をかばって歩き、水の入った壺へと近付くと、柄杓を使って水を飲み干した。

「んっはぁ、うめぇ~」

 水をすくい、傷口にかけて汚れを落としていく。
 改めて体を確認すると、逃げた時に転んで出来た傷と、足の裏の傷はあるのだが、スライムに取り込まれた時に負ったであろう傷は体のどこにも見当たらない。
 きっと、救命の指輪のお蔭だよな。手の平を掲げて指輪があったはずの指を見るが、そこには何も無かった。
 汗と土で汚れた体も水で洗い落としていく。
 溶けた装備の残骸ざんがいも流れて行き、改めて衣服がない事に気付かされる。
 全裸というのも落ち着かないので、装備の入っていた袋を加工して着てみる事にした。
 みすぼらしい貫頭衣かんとういのようで、かなり悲しい思いをしたが、無いよりマシだ。あきらめるしかない。
 さて、今後の事を考えると不安しかないのだが、取りあえずは地面に置いたままにしていた道具や素材を整理していく。
 全てを片付け終わり、机の上に置いた紙束に目を通す。一番上には先ほど見た教本の紙があり、今ある素材を使って製作可能な物の説明が絵付きで書かれている。
 別の紙も読み進めると、教本とは様子が違う記述が出てきた。
 これは文字だけか。う~んと、スキルにステータスの説明? ……まんまゲームじゃねえか。
 ん~っと、ステータスは「ステータスオープン」を行えば表示される?

「ステータスオープン!」

 とりあえず、口に出してみた。


【名前】ゼン 【年齢】10 【種族】人族
【レベル】 1 【状態】ーー
【H P】 131/162 【M P】 22/22

【スキル】
 ・投擲とうてき術Lv1(0・0/100)
 ・格闘術Lv1(0・0/100)
 ・鑑定 Lv1(3・6/100)
 ・料理 Lv1(0・0/100)

【加護】・技能神の加護 ・*******


「おぉ……」

 いきなり情報が頭の中に流れ込んできたように感じる。
 目には見えていないのに、文字をなぞれるような初めての感覚で、若干の戸惑いを覚えた。
 え~っと、名前年齢は良いとして、種族欄があるって事は人族以外が存在してるって事か?
 最初のレベルってのは、肉体や精神の強さの段階を表す数値ってところか。敵を倒すと上がるのかな。後はHPが体力ヘルスポイントでMPが魔力マナポイントね。この程度なら説明がなくても分かるんだよね、主にゲームの知識だけど。それよりスキルだな。
 何故これらのスキルを所持しているのか理由を考えるが、確信は持てない。
 鑑定は神様から頂いたと考えて良いよな。別に前世で目利きが得意だったわけでもないし。
 投擲術は……高校で少しやっていた槍投げのお蔭か?
 紙にはスキルについての説明が簡単に書いてある。スキルを所持していると動きや知識の補助を受けられるとの事だが、今のところ全く実感が持てなかった。持っているスキルは全てスキルレベル1なので、今の段階では恩恵も少ないのかもしれない。
 ステータスにあるスキルに意識を集中すると、紙に書かれた物と同じような説明が頭に浮かんでくる。中々便利だ。
 ステータスに表示されるスキルの後には、数字が付いてる。これは多分スキルレベルの熟練度的なものか。鑑定が微妙に上がっているのは、先ほどから何度も使っている影響だろう。100貯まればスキルレベルが上がるって事で良いのだろうか?
 スキルレベルの上昇で、どれほどの恩恵が受けられるかは謎だが、能力の上昇が数値化されて目に見えるなら、俄然がぜんやる気が出てくる。
 最後に加護か。技能神の加護って何だ?

【技能神の加護】:加護の対象者に技能神より固有スキル【多才】を与えられる。【多才】を得た対象者は、固有スキル以外の全てのスキルを修得出来る可能性を与えられる。

 う~ん、これは凄いのか? 説明見てもマジで分からん。
 そもそも、人間努力すりゃ大体の事は出来るはずだ。たとえば料理にしても、それがどの程度まで行けるかは本人の努力と才能次第だが、少なくとも永遠にクソ不味まずい料理しか作れないって訳じゃないだろ。それとも、もしかしてこの世界では才能の芽みたいなのがないと、いくら努力してもスキルを得られないのか……? いやー、そんな世界は嫌すぎる。料理の才能がない嫁さんを貰ったら、永遠に飯マズ生活なんてありえない!
 それから、技能神の加護の下にある、隠されている何か「*******」も気になる。意識を集中して説明が出るか試してみるが、全く反応がなかった。何だろうなこれは。俺の頭がバグってるのか? まさか、邪神の呪いとかで隠されているんじゃないよな?
 まあいいか、分からん物は分からん。何にせよ貰えるものはありがたい。


 ステータスの説明を全て読み終えた俺は、教本を手に取り、どれを作ろうかと悩んでいた。
 一番簡単そうなのは木のヘラ作りだけど、ヘラなんて何に使うんだ? 何でこんな物を選んだんだ神様は……。それより、このナイフ作りだよな。炉の使い方も書いてあるし、何より今は武器が欲しい。
 そう思い、まずは炉が稼働するか確認する。
 教本によると、【初級魔力炉】は魔力を使って火をおこす装置らしい。炉の下部にあるペダルを踏み込むと体内のマナを炉に補充出来ると書いてある。
 ステータスを見る限り、俺にもちゃんとマナってのはあるみたいだけど、22で足りるかな?
 炉に近付きペダルを踏み込む。
 すると、体の力が抜けるような不思議な感覚がして、体から何かが吸い取られていくのが、明らかに分かった。あまり気分の良い物ではない。少しの時間でそれは収まり、これ以上は炉に入らないと感じた。肉体的にはそこまできつくはないけど、精神的に疲れるって感じで、なんか溜息がでそうだな。
 あっ、ステータス見てみるか。

「ステータスオープン」


【名前】ゼン 【年齢】10 【種族】人族
【レベル】 1 【状態】ーー
【H P】 131/162 【M P】 12/22

【スキル】
 ・投擲術 Lv1(0・0/100)
 ・格闘術 Lv1(0・0/100)
 ・鑑定  Lv1(3・6/100)
 ・料理  Lv1(0・0/100)
 ・魔法技能Lv0(0・2/50)

【加護】・技能神の加護 ・*******


 MPは10減ったのか。結構使っている気がするけど、スキルレベル1だし、消費量としてはそんなに多くもないのかもしれない。
 おっ、何かスキルが増えてるじゃん。ほうほう、魔法技能か。MP使う行動を取ったからかな?
 スキルレベルは0からスタートするのか。今0・2って事は、あと二百五十回で上がる計算になる。先長すぎるだろ……スキルレベルアップまでの遠い道のりに、少し気持ちがえそうだ。
 気を取り直して炉の操作を続ける。
 火は見えないが炉の内部全体から熱が出ているようだ。炉が放つ熱を頬に感じる。
 炉の稼働は確認出来たので一度火を止める。すると、余熱もなく瞬く間に温度が下がったようで、炉からの熱を全く感じなくなった。とても単純な事ながら、改めてこの炉が魔法の道具だと思い知らされる。
 教本に載っている炉の説明には、一度の魔力補充で目盛りのⅡなら一時間は稼働すると書いてあった。ちょっと疲れるくらいの魔力消費なのに……燃費の良さに度肝どぎもを抜かれる。
 また、この魔力炉には鍛冶スキルが低い場合に補助してくれる機能もあるようだ。当然、俺は今まで鍛冶仕事なんかやった事ないし、まだスキルも持っていないが、炉の恩恵でナイフくらいなら作れてしまうらしい。
 ナイフや剣などの原形はスキルを使用すれば自動的に基本的な形に成形されるようなのだが、ちょっと想像出来ないな。
 加えて、鉄鉱石などの製錬もこれ一台で行えるらしい。何か、すげえな!
 実際に設備が動くのを見ると、やる気が出てくる。早速ナイフの製作にとりかかる為に、まずは大きな木の桶に水を張る事にした。
 部屋に設置されている水壺を傾けて、桶に水を満たしていく。傾けた壺を元に戻すと、おかしな事に気付いた。結構な量の水を桶に移したはずなのだが、壺の水が減っているように見えないのだ。
 そういえば、この大小の壺は鑑定をしていなかった!

 名称:【水龍の水差し】

 どうやらこれも魔法の道具らしい。無限に取り出せるパンといい、きちんとライフラインが備わっているのだろう。

 名称:【消臭の壺】

 ……消臭? あぁそうか、こっちはトイレか!? ゲームじゃないもんな。食ったらそりゃ出るわな。
 壺の正体も分かったところで、水の入った桶を引きずって炉の近くまで運ぶ。道具箱も持って来て、鍛冶道具を取り出して作業台に並べる。これで準備は整った。
 インゴットを中に入れて炉に火をつける。
 少しするとインゴットが赤熱せきねつし始め、加工が出来る温度になったように見えた。
 鍛冶道具の中からペンチのような形をした平箸を手に取り、炉に近付けてナイフの形をイメージする。教本によると、手を動かすのではなく、頭でイメージする事で鍛冶スキルが発動して原形が作れるらしい。意識を集中して作りたい物を考えると、まるで頭の中にリストがあるような感覚で、様々な武器の形が浮かんでくる。
 炉の中にある鉄を素材にしたいと意識して選択すると、熱せられたインゴットの一部がけて粘度のある液体のように動きだし、平箸に向かい伸びていく。自然に鉄が動き出すなんて、これもスキルの力なのか。
 伸びた鉄の液体を平箸で掴み、更に成形したい形のイメージを込めると、頭に浮かんでいたナイフとそっくりの形に変形し、炉の底に残っているインゴットの塊から離れた。まるで3Dプリンターのようで、思わずうなってしまう。

「うぉ~、凄まじい。この世界怖えよ」

 出来上がったナイフの原型を、金床に載せてハンマーで叩いていく。冷えたら炉に戻して温度を上げる。何度かそれを繰り返し、イメージ通りの形が出来たので、水桶の中にナイフを沈めた。

「後は研ぐだけか……」

 長さ二十五センチ、幅は七~八センチほどの、肉厚で重量感がある頑丈そうな刃になった。
 次は、ナイフの柄を作る為に作業台へと向かい、道具と素材になる木材を用意する。
 細かい細工は考えず、握りやすい形をイメージしながら作っていく。教本では柄を留めるびょうは木材で作ると書いてあったのだが、鍛冶スキルの検証を兼ねて、金属の鋲を作ってみる。教本にはない物が作れるかのテストだ。
 結果はイメージ通りの物が出来上がった。他にもいくつか試験的に部品を作ってみるが、バネのような難しい物は出来なかった。これはスキルが足りないからだろうか?
 出来上がった鋲は冷やしておき、砥石といしでナイフを研ぐ。そして、最後にそれらを組み合わせた。
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