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第九章 戦役
二十九話 逃走
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見張りをしていた男のただならぬ様子に、起きていた者達がまだ寝ている者を叩き起こす。
見張りの男から状況を伝えられた村長は、まだ見えぬシーレッド軍へと視線を向けて言った。
「夜は危険だから止まったが、見誤ったか……」
村長の判断は間違っていなかっただろう。月明りだけが照らす道を進むには、今のこの地は危険なのだ。
戦争によって定期的に行われている亜人や魔獣の排除がお滞り、エゼルとの戦いで追いやられたシーレッド兵の多くが野盗へと落ちている。そのため、火を焚いて道を進むのは目立ちすぎるのだ。
昨日の野営もそれを注意しながら、ごく僅かな火だけを起こしていたぐらいだ。
村長は自らの間違いを悔いているが、早期段階で村を出た事は間違っていなかった。
そうでなければ、今頃はコーソック村の人たちの後方にいたのだから。
村長が苦悶の表情を浮かべていると、冒険者ランドルが駆け寄ってきた。
「村長っ、早く逃げないと! 皆さん、荷物は捨てて走るんです!」
若いながらゴールドランクにまで至った彼は、村人の中で抜きんでた冷静さと判断力を持っていた。
「そ、そうだなっ! すまないが、ランドルが皆を率いてくれ。ワシでは足手まといだ」
村長は年老いた自分では、村人を先導する事は出来ないと判断してランドルにそれを託そうとした。
「村長……僕はコーソック村の人たちの手助けをしてきます」
「何を言っている……? お前も逃げるんだ!」
「彼らからの連絡がなければ、僕たちは今頃どうなっていたか分かりません。僕には彼らを見殺しにする事は出来ません」
ランドルの力強い声とその理由に、村長は言葉を失ってしまった。
「ランドル……本当に行くの?」
いつの間にかランドルの背後にはキャスがいた。
彼女はランドルの発言に眉間にしわを寄せている。
「キャスさんはカーラさんとレイフを頼む。最悪、君たちだけでも林の中に逃げてやり過ごすんだ」
「何言ってるのよ! 体力だけだったらまだ私の方があるわ! 私も一緒に行くわ!」
「キャスッ! 頼むから僕の言う事を聞いてくれ!」
「ランドル……」
「僕はゴールドランクだよ? 別に死にに行く気はないんだから、ある程度助けたらすぐに追いかけるさ」
ランドルはそう言うと、キャスを一度抱きしめて、コーソック村の住人がいる方向へと駆けだした。
「……もうっ、変な時だけ強気なんだから!」
キャスは赤い顔をしながらそう言うと、周りにいる村人に声をかける。
「皆早く逃げるのよ! 誰か村長に肩を貸して!」
キャスはランドルの行動に奮起したようで、自ら率先して村人たちの先導を始めた。
逃げ始めた村人の中には、ランドルの行動を見て彼を追いかける者が現れた。
見る者からしたら、それはただの愚行なのかもしれない。
だが、当の本人たちからしたら、日ごろから交流のある顔見知りを見殺しには出来なかっただけなのだ。
そんな村人たちの様子を見つめていたコリーンは、自分の足が勝手にランドルの背中を追っていた事に、走り始めてしばらくしてから気付いた。
背後からは母親と父親の怒鳴り声がする。
だがコリーンは、それがまるで聞こえないように走り続けた。
「私だって何かの役に立つんだから……! 私なら出来るっ!」
その行動は誰の目からしても無謀だった。
だが、生まれて初めて感じる異質な空気にコリーンは当てられていた。普段から行っていた訓練も、自分に自信を付けていたのだ。
走り続けるコリーンをフラニーと父親のヘイストンは追おうとした。
しかし、それは周りの村人に止められ、彼らはキャスを先頭に移動を始めたのだった。
キャスたちがわき目も降らずに走り始めてからしばらくすると、村人の一人が声を張り上げた。
「キャスっ! 前から何か来るぞ!」
「えっ!? まさかラングネルの軍がきたの!?」
キャスが目を凝らすと、自分たちの逃げる方向から、数多くの何かがこちらに近付いてきていた。
村人の多くは方向的に考えて、来たのは味方の部隊だと考えた。
だがそれは、すぐに違う物だと分かる。
一人の村人が段々と近づいてくるその影を見て、思わず足を止めると言った。
「お、おい……あれは本当にラングネル軍なのか……?」
「なあ……人間の人影じゃないぞ……」
目の良い村人の中には、自分たちに向かってくる何者かの輪郭が見えてきた。
その姿の多くは四肢を持つ二足歩行だ。だが、そのサイズは様々だ。多く人種があるこの世界でも、あれほど多種多様な体躯はない。
「……亜人だ。あ、亜人だぞあれっ!」
村の中でも特に目の良い一人がそう声を上げると、村人達に一気に混乱が広がった。
「おいおい、これじゃあもう逃げ場がねえぞ!」
「キャスっ! どこに逃げるんだ!?」
村人たちは自分たちの先頭を走っていたキャスに声をかけるが、彼女もまた混乱に陥っていた。
だが、彼女は村人たちに比べると分かは冷静だった。それは、過去に人の立ち入らぬ森の中で、魔獣に追いかけられた経験があったからだ。
「と、とにかく逃げるのよ! あっちの林に逃げ込んで!」
このまま進んでも、ただ亜人の群れに突っ込むだけだと判断したキャスは、近くにあった林を指さした。村人たちがそれを見て、一目散に駆けだしたのを見て、彼女も胸には息子のレイフを抱き、母親の手を握って走り出した。
息も絶え絶えになりながら林に入った村人たちは、少し入り込んだところで立ち止まった。
皆これまで走り続けている。また、多くの老人を連れているので、一度休憩が必要だったのだ。
元冒険者でありまだ余裕のあるキャスが、辺りの様子を窺おうと周囲を見渡すと、いきなり目の前に全身を黒い布で包んでいる細身のホブゴブリンと、手のひらに乘るほど小さいピクシーが現れた。
「っ! 母さん、レイフをお願い!」
キャスは素早くレイフを母親に渡すと、腰から下げていた美しい装飾の施された剣を抜いた。
しかし、対するホブゴブリンに動きはない。ホブゴブリンがゆっくりとピクシーに顔を寄せると、ピクシーが場違いなまでに明るい笑顔を見せて言った。
「キャス、ダナ。アンシン、シロ。ワレワレ、ハ、オマエタチ、ヲ、タスケニキタ」
「へっ……?」
突然自分の名前を呼ばれて間抜けな表情を見せたキャスに、ピクシーはさらに続けた。
「イダイナル、ダイオウ、ノ、タミデアル、ニンゲン、ヲ、スクウノダ」
「大王……? 民……?」
まだ口を開けて間の抜けた顔をするキャスに、ホブゴブリンは困った顔をしながら言った。
「ナンダ、ワスレタノカ。オマエ、ハ、モウヒトリ、ノ、ムスメト、モリニ、キタデハナイカ」
「まさか、貴方たち!!」
「ヤット、オモイダシタカ。キャス、タミヲツレテ、ツイテコイ。ニンゲン、ノ、グンニ、ヒキワタス」
そう言ったゼンに名前を与えられた数少ないゴブリンの一匹であるゴブシンが、ニヤリと口角を上げると数多くのゴブリンアサシンが、キャスたちの前に突如現れたのだった。
一方、コリーンはコーソック村の老人に肩を貸して走っていた。
老人は無理やり自分を支えて走り出したコリーンに言った。
「コリーンちゃん、ワシはいいから、あんたは逃げるんだよ」
「何いってるの! いいから走ってよ!」
自分の力を信じて駆けだしたコリーンだったが、彼女もそこまで愚かではなかった。敵に立ち向かうような事はせず、後方で遅れていた老人に手を貸したのだ。
「しかし……いいからワシを捨てていくんだ。お前も、若い娘が捕まればどうなるか分かっているだろう」
「くっ! で、でも……」
コリーンとて敵兵に捕まれば殺される前に何をされるかぐらいは分かる年ごろになっていた。
彼女は一瞬葛藤を見せるが、自分の指にある指輪が目に入ると、不思議と力が入った。
「そ、それでも、私だって何かが出来るんだから!」
今彼女の中にあるのは、決して思春期の少年少女に現れる特別な病気だけではない。
最近は自分の行動で周りの人間に迷惑を掛け少々孤立していた。それは自分も自覚している物であり、どうにかしようと考えていた。
コリーンとしたらそれを打開するいい機会だと考えていたのだ。
しかし、そんなやる気に満ちていたコリーンだが、現実は厳しかった。
老人と十二歳の少女の組み合わせの足取りは重い。
前方には小高い丘があり、多くの村人は既にその先へと進んで見えなくなっていた。
改めて後ろを振り返ると、いつの間にかコリーンたちの背後には誰もいなくなっていた。
自分の置かれた状況をにコリーンは怯えの声を上げた。
「う、嘘……」
コリーンの声に老人も釣られて後ろを見ると、そこにはもう大体の輪郭が分かるほど近付いているシーレッド軍の兵が見えた。
孤立した事実とこちらに迫る敵を見て、コリーンは頭が真っ白になった。だが、肩に感じる老人の重さを思い出し、彼女は前方を見て言った。
「お爺ちゃん、急ぐよ! みんなあの丘を越えて見えないけど、きっとその先には逃げ込める林とかがあるんだから!」
自分を励ますかのような声を上げたコリーンは、気合を入れて足を動かした。老人も最早コリーンが言う事を聞くとは考えなくなり、重い足を何とか動かしてそれに続いた。
ようやくコリーン達が丘を越えると、そこには信じられないような光景があった。
「えっ……? な、何で前から敵が!?」
「コリーンちゃん、あれは亜人だ!」
丘から辺りを見渡すと、前方からは数えきれないほどの亜人の群れが迫っていた。
挟まれた形となったコリーンはどう行動すればよいのか分からなくなり、丘の上で足を止めその場に立ち尽くしてしまった。
放心状態となったコリーンが唯一出来た事は、自分に迫る亜人達から目を離さない事だけだった。
そんな彼女の視線には、群れの先頭から大型の狼にまたがったオーガのような亜人が、一騎群れから離れこちらに向かってくるのが見えた。
ぼーっとそれを見ていると、逃げ惑う村人に目もくれず一直線にこちらに向かっていた。
老人も同じ物を見ている。彼は立ち尽くすコリーンの肩を揺らしながら言った。
「コ、コリーンちゃん! もういいからお逃げ!」
老人が声をかけるとコリーンは我に返ったように目をパチクリさせた。
その瞳は最初は力ない物だったが、徐々に爛々とした輝きを持ち始める。
そして、覚悟を決めたかのような顔をすると、指輪をはめた手を突き出しながら言った。
「いいわ……っ! どうせ死ぬなら一発ぐらい食らわせてあげるんだから!」
コリーンはそう言うと、大股を開き、こちらに近付いてくる亜人に手のひらを向けて待った。
老人が隣で何か言っているが、彼女に耳にはもう届いていない。コリーンの瞳には前方の亜人しか見えていなかった。
やがて四、五メートルはあるかと思える大きな狼に跨った亜人が間近に迫った。
コリーンはそれを見てタイミングを計り、突き出した右手から【風牙の指輪】の力である風の牙を放った。
「食らいなさいっ!」
風の牙が一直線に亜人に向かう。
しかし、対する亜人はそれが見えていたはずだが、気付いた素振りも見せずにそのまま突っ込むと、腕を払って風の牙をかき消した。
「…………」
その光景にコリーンは言葉を失った。
あれで殺せるとはコリーンも思っていなかったが、それでも少しは勢いを止める事は出来ると思ったのだ。
腕を突き出したまま固まったコリーンの前に、ついに多くの亜人を引き連れてきたゴブ太が到着した。
ゴブ太はコリーンを一度見下ろすと、今度はその後ろに視線を送り、厳しい表情を見せた。
ゴブ太がギィ……と重く低い声を上げると、コリーンは自分の死を覚悟し目を閉じてしまった。
しかし、攻撃は一向にこない。
コリーンが目を開けるのを恐ろしく思いながらも、ゆっくりと開いていくと、いつの間にか目の前には羽を持つ小さな少女ピクシーが浮かんでいた。
「コリーン、ヒサシブリ、ダナ。テキハ、チカイ、マズハ、テッタイスルゾ」
ピクシーがそう言うと、ゴブ太は座り込んでいたコリーンの体を掴み上げ肩に担ぎ、それから傍らにいた老人を抱きかかえ狼に跨った。
「えっ? えっ? 何で名前を知ってるの!? はっ!? もしかして、私は選ばれたの……? 闇の眷属達が私を迎えに!? なるほど、このタイミングだったのね!」
そう叫んだコリーンの言葉は、ピクシーから訳されてゴブ太に届いた。ゴブ太は意味を理解できなかったが、ゼンの知人であるコリーンに対して、とりあえず頷いて返事をすると風狼を走らせ始めた。
「う、うふふふっ! やっぱり、私は持ってたのね! いいわ、行きなさい! 今は皆を連れて逃げるときよ!」
コリーンの病気は加速した。
◆
講和が行われた街から飛び出した俺は、既に一日近く空の移動をしていた。
「ポッポちゃん、俺の事は気にせずにもっと速度を出してくれ!」
俺がそう叫ぶと、ポッポちゃんが「はいはい、なのよ!」とクルゥと鳴いてさらに速度を上げた。
【浮遊の指輪】を身に着けてポッポちゃんに掴まる俺は、恐ろしいまでの速度に身をさらし、体が真っすぐ横に流れるほどだ。
早過ぎて風景なんて見る余裕がない。何もかもが一瞬で俺の下を通り抜けていく。
スノアと交互に運んでもらっているが、ポッポちゃんの速度はスノアの倍以上は出てるな。
俺は既にラングネル地域に入っていた。
今さっき通り過ぎた村は、ほぼ全てが焼き払われていた。
一瞬降り立った時に死体はなかったので、きっと村の人達は逃げたのだろう。
二つ目の村が見えてきた。俺は通り過ぎる前に、村に降りるよう指示を出した。
この村も全てが焼き払われており、ご丁寧な事に村を囲う木の壁まで崩れ落ちていた。
ここでも人間の死体はなかった。
ただ、人間の兵士が通った形跡が残っていたので、間違いなく報告にあったシーレッド兵が行った行為だろう。
「みんな逃げてくれたのか……。これはシェード達に感謝だな……」
まだこの先がどうなっているかは分からない。だが、思わず安堵の声が漏れてしまった。
「っと、こんな事をしてる場合じゃねえ。敵を追いかけねえと!」
俺が焦った声を上げると、ポッポちゃんは何も言わなくとも俺に足を突き出し、「しゅじん! 早くいくのよ!」と、お叱りの声をくれた。
「ごめん、ポッポちゃん! よし、次も敵が移動した方向を見極めてくれ!」
ポッポちゃんは地面の状態などで、上空からでも敵軍が進んだ方角が分かるらしい。
俺も何となくは分かるが、人や馬の足跡は広範囲に広がっており判断するのは難しい。
人間以上に目の良いポッポちゃんだから、出来る技なのだ。
それにしても、この足跡の量を見る限り、千や二千じゃきかなそうだ。一体どれほど数で行軍しているのか気になってしまう。
くそ、手前の街で聞き込みでもした方がよかったか!?
ポッポちゃんに掴まり移動を続けていると、前方で煙が立ち上っているのが見えた。
「ポッポちゃんっ! あそこに向かってくれ!」
黒い煙の様子から、今現在も燃えている事が分かり、思わず声を荒げてしまった。
ほどなく姿を現した村には見覚えがあった。北部近くが森に接している地形を見て、一瞬キャスたちが住むブロベック村かと思ったが、位置関係を考えれば、あそこは過去に数日滞在した事のあるコーソック村だと思い出した。
「ナディーネ達の村か……。くそっ、こんな辺鄙なところまで手が及んでるのかよ!」
それにしても、この軍勢の狙いが読めない。シーレッド王も知らないと言っていたぐらいだから、直接聞いてみるしかなさそうだ。
進軍経路的には、エゼル王国軍を避けるため、シーレッド王国北部を西に進んでいるように見える。確かにエゼル王国軍は、主要な街がない北部には現在兵を置いていないから、それは正しいのかもしれない。
西に向かうって事はエゼルを狙ってるのか……?
敵の思惑を考えていると、眼下に村が見えた。
村からは黒い煙が所々から上がっており、ポッポちゃんは華麗にそれを避けながら飛んでくれている。
「……ん? ここは全部燃やされてないのか?」
村をよく見ると、煙を上げているのは村の南部側だけで、それも壁と壁から近い位置にある建物だけだった。村の中に入る事はせず、通りすがりに火矢でも放ったのか?
村を見下ろしながら状況を不思議に思ってると、ポッポちゃんが「しゅじん! あっちにいっぱいなのよ!!」クッ! と鋭く鳴いた。
俺は急いでポッポちゃんの視線を追うが、俺の目では敵の姿をとらえる事が出来なかった。
しかし、ポッポちゃんが言うのであれば、そこに必ず何かがいるのだろう。
「ポッポちゃん、その方向に飛んでくれ!」
俺の言葉を受けてポッポちゃんが急加速をした。またもや俺の体は横に流れるほどの速度で移動していく。
ほどなくすると、俺の目にもそれは見えてきた。
「……おいおい、こんな数がどこから湧いてきやがった!」
視線の先には大きく横に広がり進み続ける一軍の姿があった。これまでの経験をもとに数を予想すれば万近くはいるように思える。
「ポッポちゃん、あれを追い越してくれ!」
とにかく俺はあれがどこに向かっているのか気が気じゃなくなり、声を荒げてポッポちゃんに指示を出した。
段々と前を進むシーレッド兵の姿が見えてきた。そのほとんどが歩兵で、これだけの人数がいるからかその足並みは遅い。
やがて俺の目視でもシーレッド兵の装備が見える頃になると、彼らの後方に時折地面に転がる何かが見えてきた。
不審に思いポッポちゃんに指示を出してそれに近づいてみると、そこにあったのは、全身を切り刻まれたゴブリンの死体だった。
「この装備……あいつらがこの場所に来てるのか!」
一瞬人間の死体かと思ったその死体は、見覚えのある装備をしていた。
それは再生のダンジョンで大量に手に入れ、ゴブ太君達に託したダンジョン産の装備だ。
「ラングネルからの要請か? それともシェードか?」
そう呟くうちにまた死体を見つけた。
今度はシーレッド兵の物だ。剣が喉に突き刺さり絶命している。
死体はシーレッド兵に追いつくまでに百を超えていた。割合は人間が六割といったところで、ゴブリン側は殆どが未進化のゴブリンやコボルトなどだった。
シーレッド兵の最後列に追いつくと、前方の様子が見えてきた。しかし、死体の確認のために低空飛行をしていたのでまだ見づらい。
ポッポちゃんに頼んで少し高度を上げてもらうと、そこには後退しながら戦うゴブリン達の姿と、それを追いかけるシーレッド兵の姿があった。
「相当苦戦してやがるな……。ポッポちゃん、まずはゴブ太のところにいくぞ!」
俺は苦戦している様子を見て焦りながらポッポちゃんにそう言うと、右手に【草原の鐘】を取り出して、スノアの召喚を始めたのだった。
見張りの男から状況を伝えられた村長は、まだ見えぬシーレッド軍へと視線を向けて言った。
「夜は危険だから止まったが、見誤ったか……」
村長の判断は間違っていなかっただろう。月明りだけが照らす道を進むには、今のこの地は危険なのだ。
戦争によって定期的に行われている亜人や魔獣の排除がお滞り、エゼルとの戦いで追いやられたシーレッド兵の多くが野盗へと落ちている。そのため、火を焚いて道を進むのは目立ちすぎるのだ。
昨日の野営もそれを注意しながら、ごく僅かな火だけを起こしていたぐらいだ。
村長は自らの間違いを悔いているが、早期段階で村を出た事は間違っていなかった。
そうでなければ、今頃はコーソック村の人たちの後方にいたのだから。
村長が苦悶の表情を浮かべていると、冒険者ランドルが駆け寄ってきた。
「村長っ、早く逃げないと! 皆さん、荷物は捨てて走るんです!」
若いながらゴールドランクにまで至った彼は、村人の中で抜きんでた冷静さと判断力を持っていた。
「そ、そうだなっ! すまないが、ランドルが皆を率いてくれ。ワシでは足手まといだ」
村長は年老いた自分では、村人を先導する事は出来ないと判断してランドルにそれを託そうとした。
「村長……僕はコーソック村の人たちの手助けをしてきます」
「何を言っている……? お前も逃げるんだ!」
「彼らからの連絡がなければ、僕たちは今頃どうなっていたか分かりません。僕には彼らを見殺しにする事は出来ません」
ランドルの力強い声とその理由に、村長は言葉を失ってしまった。
「ランドル……本当に行くの?」
いつの間にかランドルの背後にはキャスがいた。
彼女はランドルの発言に眉間にしわを寄せている。
「キャスさんはカーラさんとレイフを頼む。最悪、君たちだけでも林の中に逃げてやり過ごすんだ」
「何言ってるのよ! 体力だけだったらまだ私の方があるわ! 私も一緒に行くわ!」
「キャスッ! 頼むから僕の言う事を聞いてくれ!」
「ランドル……」
「僕はゴールドランクだよ? 別に死にに行く気はないんだから、ある程度助けたらすぐに追いかけるさ」
ランドルはそう言うと、キャスを一度抱きしめて、コーソック村の住人がいる方向へと駆けだした。
「……もうっ、変な時だけ強気なんだから!」
キャスは赤い顔をしながらそう言うと、周りにいる村人に声をかける。
「皆早く逃げるのよ! 誰か村長に肩を貸して!」
キャスはランドルの行動に奮起したようで、自ら率先して村人たちの先導を始めた。
逃げ始めた村人の中には、ランドルの行動を見て彼を追いかける者が現れた。
見る者からしたら、それはただの愚行なのかもしれない。
だが、当の本人たちからしたら、日ごろから交流のある顔見知りを見殺しには出来なかっただけなのだ。
そんな村人たちの様子を見つめていたコリーンは、自分の足が勝手にランドルの背中を追っていた事に、走り始めてしばらくしてから気付いた。
背後からは母親と父親の怒鳴り声がする。
だがコリーンは、それがまるで聞こえないように走り続けた。
「私だって何かの役に立つんだから……! 私なら出来るっ!」
その行動は誰の目からしても無謀だった。
だが、生まれて初めて感じる異質な空気にコリーンは当てられていた。普段から行っていた訓練も、自分に自信を付けていたのだ。
走り続けるコリーンをフラニーと父親のヘイストンは追おうとした。
しかし、それは周りの村人に止められ、彼らはキャスを先頭に移動を始めたのだった。
キャスたちがわき目も降らずに走り始めてからしばらくすると、村人の一人が声を張り上げた。
「キャスっ! 前から何か来るぞ!」
「えっ!? まさかラングネルの軍がきたの!?」
キャスが目を凝らすと、自分たちの逃げる方向から、数多くの何かがこちらに近付いてきていた。
村人の多くは方向的に考えて、来たのは味方の部隊だと考えた。
だがそれは、すぐに違う物だと分かる。
一人の村人が段々と近づいてくるその影を見て、思わず足を止めると言った。
「お、おい……あれは本当にラングネル軍なのか……?」
「なあ……人間の人影じゃないぞ……」
目の良い村人の中には、自分たちに向かってくる何者かの輪郭が見えてきた。
その姿の多くは四肢を持つ二足歩行だ。だが、そのサイズは様々だ。多く人種があるこの世界でも、あれほど多種多様な体躯はない。
「……亜人だ。あ、亜人だぞあれっ!」
村の中でも特に目の良い一人がそう声を上げると、村人達に一気に混乱が広がった。
「おいおい、これじゃあもう逃げ場がねえぞ!」
「キャスっ! どこに逃げるんだ!?」
村人たちは自分たちの先頭を走っていたキャスに声をかけるが、彼女もまた混乱に陥っていた。
だが、彼女は村人たちに比べると分かは冷静だった。それは、過去に人の立ち入らぬ森の中で、魔獣に追いかけられた経験があったからだ。
「と、とにかく逃げるのよ! あっちの林に逃げ込んで!」
このまま進んでも、ただ亜人の群れに突っ込むだけだと判断したキャスは、近くにあった林を指さした。村人たちがそれを見て、一目散に駆けだしたのを見て、彼女も胸には息子のレイフを抱き、母親の手を握って走り出した。
息も絶え絶えになりながら林に入った村人たちは、少し入り込んだところで立ち止まった。
皆これまで走り続けている。また、多くの老人を連れているので、一度休憩が必要だったのだ。
元冒険者でありまだ余裕のあるキャスが、辺りの様子を窺おうと周囲を見渡すと、いきなり目の前に全身を黒い布で包んでいる細身のホブゴブリンと、手のひらに乘るほど小さいピクシーが現れた。
「っ! 母さん、レイフをお願い!」
キャスは素早くレイフを母親に渡すと、腰から下げていた美しい装飾の施された剣を抜いた。
しかし、対するホブゴブリンに動きはない。ホブゴブリンがゆっくりとピクシーに顔を寄せると、ピクシーが場違いなまでに明るい笑顔を見せて言った。
「キャス、ダナ。アンシン、シロ。ワレワレ、ハ、オマエタチ、ヲ、タスケニキタ」
「へっ……?」
突然自分の名前を呼ばれて間抜けな表情を見せたキャスに、ピクシーはさらに続けた。
「イダイナル、ダイオウ、ノ、タミデアル、ニンゲン、ヲ、スクウノダ」
「大王……? 民……?」
まだ口を開けて間の抜けた顔をするキャスに、ホブゴブリンは困った顔をしながら言った。
「ナンダ、ワスレタノカ。オマエ、ハ、モウヒトリ、ノ、ムスメト、モリニ、キタデハナイカ」
「まさか、貴方たち!!」
「ヤット、オモイダシタカ。キャス、タミヲツレテ、ツイテコイ。ニンゲン、ノ、グンニ、ヒキワタス」
そう言ったゼンに名前を与えられた数少ないゴブリンの一匹であるゴブシンが、ニヤリと口角を上げると数多くのゴブリンアサシンが、キャスたちの前に突如現れたのだった。
一方、コリーンはコーソック村の老人に肩を貸して走っていた。
老人は無理やり自分を支えて走り出したコリーンに言った。
「コリーンちゃん、ワシはいいから、あんたは逃げるんだよ」
「何いってるの! いいから走ってよ!」
自分の力を信じて駆けだしたコリーンだったが、彼女もそこまで愚かではなかった。敵に立ち向かうような事はせず、後方で遅れていた老人に手を貸したのだ。
「しかし……いいからワシを捨てていくんだ。お前も、若い娘が捕まればどうなるか分かっているだろう」
「くっ! で、でも……」
コリーンとて敵兵に捕まれば殺される前に何をされるかぐらいは分かる年ごろになっていた。
彼女は一瞬葛藤を見せるが、自分の指にある指輪が目に入ると、不思議と力が入った。
「そ、それでも、私だって何かが出来るんだから!」
今彼女の中にあるのは、決して思春期の少年少女に現れる特別な病気だけではない。
最近は自分の行動で周りの人間に迷惑を掛け少々孤立していた。それは自分も自覚している物であり、どうにかしようと考えていた。
コリーンとしたらそれを打開するいい機会だと考えていたのだ。
しかし、そんなやる気に満ちていたコリーンだが、現実は厳しかった。
老人と十二歳の少女の組み合わせの足取りは重い。
前方には小高い丘があり、多くの村人は既にその先へと進んで見えなくなっていた。
改めて後ろを振り返ると、いつの間にかコリーンたちの背後には誰もいなくなっていた。
自分の置かれた状況をにコリーンは怯えの声を上げた。
「う、嘘……」
コリーンの声に老人も釣られて後ろを見ると、そこにはもう大体の輪郭が分かるほど近付いているシーレッド軍の兵が見えた。
孤立した事実とこちらに迫る敵を見て、コリーンは頭が真っ白になった。だが、肩に感じる老人の重さを思い出し、彼女は前方を見て言った。
「お爺ちゃん、急ぐよ! みんなあの丘を越えて見えないけど、きっとその先には逃げ込める林とかがあるんだから!」
自分を励ますかのような声を上げたコリーンは、気合を入れて足を動かした。老人も最早コリーンが言う事を聞くとは考えなくなり、重い足を何とか動かしてそれに続いた。
ようやくコリーン達が丘を越えると、そこには信じられないような光景があった。
「えっ……? な、何で前から敵が!?」
「コリーンちゃん、あれは亜人だ!」
丘から辺りを見渡すと、前方からは数えきれないほどの亜人の群れが迫っていた。
挟まれた形となったコリーンはどう行動すればよいのか分からなくなり、丘の上で足を止めその場に立ち尽くしてしまった。
放心状態となったコリーンが唯一出来た事は、自分に迫る亜人達から目を離さない事だけだった。
そんな彼女の視線には、群れの先頭から大型の狼にまたがったオーガのような亜人が、一騎群れから離れこちらに向かってくるのが見えた。
ぼーっとそれを見ていると、逃げ惑う村人に目もくれず一直線にこちらに向かっていた。
老人も同じ物を見ている。彼は立ち尽くすコリーンの肩を揺らしながら言った。
「コ、コリーンちゃん! もういいからお逃げ!」
老人が声をかけるとコリーンは我に返ったように目をパチクリさせた。
その瞳は最初は力ない物だったが、徐々に爛々とした輝きを持ち始める。
そして、覚悟を決めたかのような顔をすると、指輪をはめた手を突き出しながら言った。
「いいわ……っ! どうせ死ぬなら一発ぐらい食らわせてあげるんだから!」
コリーンはそう言うと、大股を開き、こちらに近付いてくる亜人に手のひらを向けて待った。
老人が隣で何か言っているが、彼女に耳にはもう届いていない。コリーンの瞳には前方の亜人しか見えていなかった。
やがて四、五メートルはあるかと思える大きな狼に跨った亜人が間近に迫った。
コリーンはそれを見てタイミングを計り、突き出した右手から【風牙の指輪】の力である風の牙を放った。
「食らいなさいっ!」
風の牙が一直線に亜人に向かう。
しかし、対する亜人はそれが見えていたはずだが、気付いた素振りも見せずにそのまま突っ込むと、腕を払って風の牙をかき消した。
「…………」
その光景にコリーンは言葉を失った。
あれで殺せるとはコリーンも思っていなかったが、それでも少しは勢いを止める事は出来ると思ったのだ。
腕を突き出したまま固まったコリーンの前に、ついに多くの亜人を引き連れてきたゴブ太が到着した。
ゴブ太はコリーンを一度見下ろすと、今度はその後ろに視線を送り、厳しい表情を見せた。
ゴブ太がギィ……と重く低い声を上げると、コリーンは自分の死を覚悟し目を閉じてしまった。
しかし、攻撃は一向にこない。
コリーンが目を開けるのを恐ろしく思いながらも、ゆっくりと開いていくと、いつの間にか目の前には羽を持つ小さな少女ピクシーが浮かんでいた。
「コリーン、ヒサシブリ、ダナ。テキハ、チカイ、マズハ、テッタイスルゾ」
ピクシーがそう言うと、ゴブ太は座り込んでいたコリーンの体を掴み上げ肩に担ぎ、それから傍らにいた老人を抱きかかえ狼に跨った。
「えっ? えっ? 何で名前を知ってるの!? はっ!? もしかして、私は選ばれたの……? 闇の眷属達が私を迎えに!? なるほど、このタイミングだったのね!」
そう叫んだコリーンの言葉は、ピクシーから訳されてゴブ太に届いた。ゴブ太は意味を理解できなかったが、ゼンの知人であるコリーンに対して、とりあえず頷いて返事をすると風狼を走らせ始めた。
「う、うふふふっ! やっぱり、私は持ってたのね! いいわ、行きなさい! 今は皆を連れて逃げるときよ!」
コリーンの病気は加速した。
◆
講和が行われた街から飛び出した俺は、既に一日近く空の移動をしていた。
「ポッポちゃん、俺の事は気にせずにもっと速度を出してくれ!」
俺がそう叫ぶと、ポッポちゃんが「はいはい、なのよ!」とクルゥと鳴いてさらに速度を上げた。
【浮遊の指輪】を身に着けてポッポちゃんに掴まる俺は、恐ろしいまでの速度に身をさらし、体が真っすぐ横に流れるほどだ。
早過ぎて風景なんて見る余裕がない。何もかもが一瞬で俺の下を通り抜けていく。
スノアと交互に運んでもらっているが、ポッポちゃんの速度はスノアの倍以上は出てるな。
俺は既にラングネル地域に入っていた。
今さっき通り過ぎた村は、ほぼ全てが焼き払われていた。
一瞬降り立った時に死体はなかったので、きっと村の人達は逃げたのだろう。
二つ目の村が見えてきた。俺は通り過ぎる前に、村に降りるよう指示を出した。
この村も全てが焼き払われており、ご丁寧な事に村を囲う木の壁まで崩れ落ちていた。
ここでも人間の死体はなかった。
ただ、人間の兵士が通った形跡が残っていたので、間違いなく報告にあったシーレッド兵が行った行為だろう。
「みんな逃げてくれたのか……。これはシェード達に感謝だな……」
まだこの先がどうなっているかは分からない。だが、思わず安堵の声が漏れてしまった。
「っと、こんな事をしてる場合じゃねえ。敵を追いかけねえと!」
俺が焦った声を上げると、ポッポちゃんは何も言わなくとも俺に足を突き出し、「しゅじん! 早くいくのよ!」と、お叱りの声をくれた。
「ごめん、ポッポちゃん! よし、次も敵が移動した方向を見極めてくれ!」
ポッポちゃんは地面の状態などで、上空からでも敵軍が進んだ方角が分かるらしい。
俺も何となくは分かるが、人や馬の足跡は広範囲に広がっており判断するのは難しい。
人間以上に目の良いポッポちゃんだから、出来る技なのだ。
それにしても、この足跡の量を見る限り、千や二千じゃきかなそうだ。一体どれほど数で行軍しているのか気になってしまう。
くそ、手前の街で聞き込みでもした方がよかったか!?
ポッポちゃんに掴まり移動を続けていると、前方で煙が立ち上っているのが見えた。
「ポッポちゃんっ! あそこに向かってくれ!」
黒い煙の様子から、今現在も燃えている事が分かり、思わず声を荒げてしまった。
ほどなく姿を現した村には見覚えがあった。北部近くが森に接している地形を見て、一瞬キャスたちが住むブロベック村かと思ったが、位置関係を考えれば、あそこは過去に数日滞在した事のあるコーソック村だと思い出した。
「ナディーネ達の村か……。くそっ、こんな辺鄙なところまで手が及んでるのかよ!」
それにしても、この軍勢の狙いが読めない。シーレッド王も知らないと言っていたぐらいだから、直接聞いてみるしかなさそうだ。
進軍経路的には、エゼル王国軍を避けるため、シーレッド王国北部を西に進んでいるように見える。確かにエゼル王国軍は、主要な街がない北部には現在兵を置いていないから、それは正しいのかもしれない。
西に向かうって事はエゼルを狙ってるのか……?
敵の思惑を考えていると、眼下に村が見えた。
村からは黒い煙が所々から上がっており、ポッポちゃんは華麗にそれを避けながら飛んでくれている。
「……ん? ここは全部燃やされてないのか?」
村をよく見ると、煙を上げているのは村の南部側だけで、それも壁と壁から近い位置にある建物だけだった。村の中に入る事はせず、通りすがりに火矢でも放ったのか?
村を見下ろしながら状況を不思議に思ってると、ポッポちゃんが「しゅじん! あっちにいっぱいなのよ!!」クッ! と鋭く鳴いた。
俺は急いでポッポちゃんの視線を追うが、俺の目では敵の姿をとらえる事が出来なかった。
しかし、ポッポちゃんが言うのであれば、そこに必ず何かがいるのだろう。
「ポッポちゃん、その方向に飛んでくれ!」
俺の言葉を受けてポッポちゃんが急加速をした。またもや俺の体は横に流れるほどの速度で移動していく。
ほどなくすると、俺の目にもそれは見えてきた。
「……おいおい、こんな数がどこから湧いてきやがった!」
視線の先には大きく横に広がり進み続ける一軍の姿があった。これまでの経験をもとに数を予想すれば万近くはいるように思える。
「ポッポちゃん、あれを追い越してくれ!」
とにかく俺はあれがどこに向かっているのか気が気じゃなくなり、声を荒げてポッポちゃんに指示を出した。
段々と前を進むシーレッド兵の姿が見えてきた。そのほとんどが歩兵で、これだけの人数がいるからかその足並みは遅い。
やがて俺の目視でもシーレッド兵の装備が見える頃になると、彼らの後方に時折地面に転がる何かが見えてきた。
不審に思いポッポちゃんに指示を出してそれに近づいてみると、そこにあったのは、全身を切り刻まれたゴブリンの死体だった。
「この装備……あいつらがこの場所に来てるのか!」
一瞬人間の死体かと思ったその死体は、見覚えのある装備をしていた。
それは再生のダンジョンで大量に手に入れ、ゴブ太君達に託したダンジョン産の装備だ。
「ラングネルからの要請か? それともシェードか?」
そう呟くうちにまた死体を見つけた。
今度はシーレッド兵の物だ。剣が喉に突き刺さり絶命している。
死体はシーレッド兵に追いつくまでに百を超えていた。割合は人間が六割といったところで、ゴブリン側は殆どが未進化のゴブリンやコボルトなどだった。
シーレッド兵の最後列に追いつくと、前方の様子が見えてきた。しかし、死体の確認のために低空飛行をしていたのでまだ見づらい。
ポッポちゃんに頼んで少し高度を上げてもらうと、そこには後退しながら戦うゴブリン達の姿と、それを追いかけるシーレッド兵の姿があった。
「相当苦戦してやがるな……。ポッポちゃん、まずはゴブ太のところにいくぞ!」
俺は苦戦している様子を見て焦りながらポッポちゃんにそう言うと、右手に【草原の鐘】を取り出して、スノアの召喚を始めたのだった。
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