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第九章 戦役
二十五話 講和
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シーレッド王国の国王であるシージハード・エステセクナは、突如王の間に駆け込んできた側近からの急報に体の震えが抑えられずにいた。
「は、敗北……だと……。ぜ、全将軍を、う、失ったと言うのか……?」
力なく王座に体を預けた彼は、震える手を押さえるために、もう片方の手でもって制するが、困惑の極みにいる彼は押さえようとした手自体も、制御できない震えを生んでいる事に唖然とした。
そんな王の様子を見て、側近は恐れ恐れ追加の報告をした。
「報告では、リース様は敵に捕縛され、メルレイン将軍は敵方へ裏切ったとの事です……」
「メルレ……カフベレの動乱を察知したのだろう……。あれは人質で抑え込んでいたからな……」
シージハードは手の平で目を覆いながら呟くようにそう言うと、突如思い出したかのように言葉を続けた。
「だから言ったのだ……! バイロンを殺した相手が敵にいたのだから、全員で当たれとっ!」
まず最初にレキウスが魔槍に敗れたと聞き、シージハードの頭の中では、自惚れた様子で魔槍に挑んだ赤盾を持つレキウスの姿が浮かんでいた。驚愕の後に訪れた怒りに、彼は何度も何度も腕を王座に叩きつけ、それをどうにか鎮めようとしていた。
その行動は、同じく報告を聞き動揺冷めやらぬ王座の間に存在する側近たちに静寂を生んだ。
ややあってシージハードは少し落ち着く事が出来た。彼は報告後もその場に立ち続けていた側近に向かい、大きくため息を吐き、落ち着いた様子を分からせた上で話しかけた。
「それで、息子は、ウィルバーと兵たちはどうなった……」
側近はその言葉を聞いて驚いた。内容にではない。その声が、覇気に満ちて自信あふれる王の物では完全になくなっていたからだ。側近はその事に一瞬言葉を失いそうになるが、すぐに気を取り戻すと、口を開いた。
「ウィルバー様は、無事に逃げおおせたようです。しかしながら、ラングネル公国が独立を宣言し、王都に戻るには大きく迂回する形となっています。戻られるにはまだ時間がかかる見込みです。兵は約半数以上を失ったとあります……。一体どれだけの兵が戻るかは、まだ不明です……」
シージハードは床を見つめながらその報告を聞き、今現在シーレッド王国が置かれている状況を整理した。その時間は数分だった。だが、この場にいる側近、警備兵、使用人の全員は永遠にも感じられる思いで王の次の言葉を待っていた。
そして、彼らの王は大きなため息を吐くと言った。
「…………和睦だ……」
「王っ!?」
「すぐにエゼルに使者を送れっ! 樹国にもだ!」
シーレッド側から始めた戦だ。当然、門前払いされる可能性は考えている。だが、今の段階で和議を申し込めば、まだそれは受け入れられる可能性はあると、シージハードは考えた。
「王……まだ早いのでは……」
王座近くで控えていた側近の一人、王都の兵を統括する男――リンチが、窺うように言葉を切り出す。多くの者が感じている、あまりにも早い幕引きに納得いかなかったのだ。
そんな言葉を聞いてシージハードの厳しい視線が彼を捉えた。
「将軍と勇者を失い、多くの兵も失った今、破竹の勢いを持つエゼルをどう止める? 物量で押せなくなった今、巧妙な策で確実に進軍してくる樹国をどう止める? 貴様にはその策があると言うのか……?」
口には出さなかったが、王都東南ではカフベレ国の復興が宣言され、更に西部ではラングネル公国の復興も始まっている事をシージハードもリンチも知っている。
一瞬うろたえたリンチだったが、すぐに視線に力を戻すと、シージハードへと強い視線を返した。
「そ、それは……。しかし、まだ戦えるだけの兵数は維持しています。ここで引けば、王の野望もそこまでではないですか!?」
「……何故分からん。貴様は魔槍の存在を知らんわけではないであろう! バイロンをっ! レキウスを容易に葬り去る相手が敵にいるのだぞ! それに古竜の存在も確認されているのは、貴様も分かっているはずだ! そんな存在がいて、尚且つエゼルは兵をほぼ失っていないのだ。確かにまだ戦える……。だが、このまま今戦いを維持すれば、すべてを失うのだ! 何故それが分らんのだ!」
突然のシージハードの剣幕に、リンチは言葉を失った。そして、同時にシージハードの言葉から、明らかに自分では力不足なのだと伝えられ、強い憤りを感じた。
「リンチよ、今は一度戦いを止め、祖父や父がそうしたように、シーレッドに力を残して後世に託す……」
シージハードはそう言うと、リンチには興味を失ったかのように、他の側近に視線を向けた。
「交渉では出来る限りこちらから譲渡をしろ……。ウィルバー以外であれば、誰でも差し出してよい……。もし、エゼルがセラフィーナの首を望むのであれば、そうしろ……。私はもう下がる……」
シージハードは力なくそう言うと、ゆっくりと王座から腰を上げ歩き出した。
近衛兵が付き添おうとするが、彼はそれを手で制する。
シージハードは自室へと戻ると、一人で座るには大きいソファーへと倒れ込むように腰を下ろした。
そして、誰に言うでもなく言葉を吐き出した。
「魔槍に聖女、それに獣姫か……。なるほど、神の加護はそれらに分け与えられていたのか……」
国内のダンジョンが次々と攻略されていた事は当然把握していた。そして、状況や目撃証言により、その犯人がゼン達である事は予想していた。今回、戦の様子が報告され、それは確信に変わった。
「もはや、覆らんか……」
シージハードは講和を宣言したが一度落ち着き、改めてここからの反撃を考えた。だが、その考えは一瞬にして泡のように消えた。何故なら、彼の戦略は必ずシーレッドの将軍たちの力を踏まえての発想だったからだ。
「元を正せば魔槍か……何故我が元にいない……。バイロンを……レキウスを圧倒する魔槍がいれば、この大陸の制覇など容易だったであろう……」
スキルや神から与えられし武具があるこの世界では、時に一国とも争える力を個人が持つことを、王家に蓄えられた知識を幼いころから学んでいるシージハードは知っていた。
それ故に、まだ会った事もないゼンを思いそう口にした。
彼は知らなかった。
かつて、ゼンがシーレッド王国を離れる事となった原因が、自国にあったという事は。
シージハードは強く瞼を閉じると、大きなため息を吐き、力なくソファーに体を預けたのだった。
◆
シヴァルの街を落とした後も、エゼルの戦いは快勝続きだった。
俺たちが戦場に出れば多くの味方を支援出来るので、有利に戦えたからだ。
やはり、加護持ちはこの世界の戦いに大きく影響を与えるな。
戦場では俺が単独で出る場面もあったが、今はエアや侯爵たちに止められている。何故なら、余りにも武功を立てすぎたからだ。
エゼル王であるエアの危機を救い、その後の戦いでも敵の主力を撃退し、更に俺の部下扱いになっているアニア、アルン、セシリャ、シラールド、ヴィートたちの活躍も、俺の武功と見なされている。それに、まだ大将軍達を撃退した褒美も保留中だからだ。
「ゼンはいきなり伯爵にでもなりたいのか?」と、この前レイコック様と話している時に言われた。って事は、まだ俺は聞いていないが、男爵ぐらいにはなれるって事かな?
まあ、俺の事はともかく、今回の戦いがこのままでいくのであれば、かなり広大な領土が増える事になる。
そこを既存の諸侯に分け与える事になるのだが、それには武功という建前が必要だ。
多くの場合、飛び地になるので、実際には諸侯の子弟たちがそこを運営する事になるのだろう。
だから俺は自制を迫られているって訳だ。
まあ、危ないところには遠慮なく手を出すし、エアから直接の指示もある。ただ見学してるってだけではない。
少なくとも、アニアは常に戦場に出てるからね。俺は毎度おなじみの遊撃隊って感じだ。
今、ラングネル公国エンダーにある、王宮の大広間に置かれた大きな机の向こうには、ポッポちゃんを抱きかかえて微笑んでいるプルネラちゃんがいる。エルフの彼女はアニアが次々と提供しているお菓子に舌鼓を打っていた。
「アニア様はおいしい物をたくさん知っているのですね!?」
「色々な場所に行く機会があったからなのです。プルネラ様も今後はたくさん色々な場所に行って、おいしい物を食べられるのですよ?」
「そうなのですか……?」
「そうなのです。ゼン様がお救いしたのですから、それは絶対なのです。自由なのですから、いろいろな街に行けるのです」
アニアによる謎のよいしょが凄い。プルネラちゃんがこっちを見て微笑んだので、手を振ってあげると二人して手を振り返してくれた。
「ね、ねえ、ゼン殿。あ、あの子……プルネラ様を抱っこしたら怒られるよね……?」
俺の隣に座っているセシリャが挙動不審だ。視線がプルネラちゃんと俺に行ったり来たりしている。
「ユスティーナ禁断症状が出たのか……。これは重病……。幼い子を隔離しないとセシリャにイタズラされる……」
俺が少し目を細めながらそう言うと、セシリャは俺に反するように目を見開き、むき出しになっている自分の太ももを両手でぱちんと叩きながら言った。
「なっ! 何言ってんの!? ゼン殿酷いっ! 私は変な事してないから! ちょっと撫でるだけだよ!」
セシリャが必死の形相で訴えてきた。そんなに焦る方が怪しいと思うんだが……
「その慌てようが怪しいんだよ……。てか、触りたかったら触ってくればいいじゃん。アニアを見てみろよ、結構簡単に触ってんぞ」
アニアは先ほどからお菓子を渡す時に手を添えたり、時折肩に触れたりとコミュニケーションを取っている。
「アニアちゃんは緊張するって事がないの……? 恐ろしい子……」
何故かセシリャはゴクリと喉を鳴らせて驚愕した。
「あの程度の触れ合いに緊張も何もないと思うんだが……」
俺が呆れながらそう言うと、セシリャは厳しい顔をしながら唸っていた。
進軍を続けたエゼル王国軍は、ラングネル公国となったこの地までやってきた。
本来この地を通るのに、エゼル側からの挨拶など不要だと思うのだが、エアが今は亡き父親と知己である、大公には失礼があってはいけないと、自ら足を運ぶというので俺はその付き添いだ。
今応接間ではエアと大公が話をしている。俺は同席を許されたが、プルネラちゃんのお誘いがあったので、こちらにやってきたのだ。
エアにはシラールドとヴィンスを付けているので、警備に関しては全く問題ないだろう。
こんな休息を挟みつつも、エゼル王国軍は進軍を続けた。
勢い付いたエゼル王国軍は、全ての将軍を失い統制が取れなくなったシーレッド王国軍を相手に敗北とは無縁の軍団となっていた。
今日も街を制圧すると、その夜にエアに呼び出された。
呼び出し自体は特に珍しい事ではないので、俺は気楽に向かった。
だが、天幕に入ると、中には多くの諸侯の方々が既におり、その様子は普段とは少し異なる物だった。
「ゼン、来てくれたか。まずは座ってくれ」
エアに促されて椅子に座ると、グウィンさんがワインを持ってきてくれた。
俺がそれに頭を下げて礼をすると、エアが話を切り出した。
「では、皆にもう一度話をする。先ほどシーレッドから講和の話が来た。私はこれに応じるつもりだが、皆の意見を聞きたい」
おっ、シーレッドが敗北宣言したか!?
でも、思ってたより早いな。王都までまだ半分近く距離があるぞ?
俺のそんな疑問は諸侯たちも感じたのか、確か伯爵様だった人が口を開いた。
「早すぎるのでは……? 罠の可能性があります」
うむ、うむ。俺も同意見です。
俺が分った風に首を縦に振っていると、ブラド様が言った。
「その可能性はあります。ですが、シーレッドは五人の将軍を失い、王軍の四分の一も失いました。そして、今シーレッドに攻め込んでいるのは、我々だけでありません。樹国もかなり深い位置まで進軍していると、先日確認しました。であれば、この段階で講和に入り、これ以上傷口を広げないようにするのも当然だと思えます」
ほうほう、なるほどね。
また俺が分った風にしていると、それを見ていたレイコック様が口を開いた。
「ゼンはどうなのだ?」
「えっ!? 私ですか? えーっと……もし罠を心配するのであれば、先にシーレッドの王都に忍び込んで調べてきますけど……」
突然話を振られて、動揺した俺は変な返しをしてしまった。
「そういう事を聞いたのでは……まあ良い。講和であればまずは話し合いから始まる。そこで相手の出方を見てからでも遅くはないと思うのだが、諸君らはどう思うだろうか?」
どうやら先に三侯爵とエアは話し合いをしていたようだ。この四人が決めてるならば、もう決定しているに近いな。
俺の考えは間違っていないようで、段々と感付き始めた諸侯たちに、反対意見を言う人がいなくなった。民主主義のような話し合いをしてるけど、最近力で王座をもぎ取っただけあって、やっぱこうなるんだな。エアや侯爵様たちは信頼できるし、この国の仕組み的にこの方がいいんだろうけど。
その後、話し合いは終わり一度解散となったのだが、夜にはエアに夕食に誘われた。
天幕に設置するには質が良い机を挟んで、エアが笑みを浮かべながら話し出す。
「今更気付いたけど、ゼンのところは結構な大所帯になったな」
確かにアルンが戻り、ヴィンスとメルレインが加わって、その部下たちも俺の下についている。正直顔が分らない奴の方が多い。その辺の管理はすべて任せているから、俺が困る事はないのだが、いきなり知らない奴に敬礼をされたりするとビックリするんだよな。
「俺は何もする事がないから、あまり実感はしてないんだよ」
「ゼンは全く兵を率いる気がないんだな。一人の方が気楽だとでも思ってそうだけど」
「俺は一人で動いてる方が役に立てるだろ。まあ、その辺はアルンに任せるつもりだからさ」
「アルンがいるゼンが羨ましい……。一度本気でアルンを口説きたい……。子爵程度なら今すぐでも与えるのに!」
「どんだけだよ……。アニアにも兄様って呼ばせてるし……」
いつの間にかアニアもエアの事を「エア兄様」と呼ぶようになっていた。
まあ、それは構わないので、俺は気になっていた事を訊ねてみる事にした。
「それで、シーレッドを滅ぼさない理由を聞いても? 統治の問題とかそんな所だろう事は分かるけどさ」
「そうだな、幾ら国を滅ぼしたとしても、エゼルに従う気がない民は多くいるだろう。だから滅ぼさずに逃げ場を与えるんだ」
「要するに面倒ごとを押し付ける為に生かすって事か。確かにその方がいいな」
何も滅ぼすことが最善ではないって事だろう。これは統治の専門家である侯爵達が決めたことだろうから、俺が意見をする必要はなさそうだ。
「それでな、ゼンを呼んだのは一つ確認したい事があったんだ。セラフィーナ姫の事だが、向こう側から要求するなら引き渡すとあるぞ?」
「何でそれを俺に聞くんだよ……」
「いや、あれには思うところがあるんじゃないのか? だから向こうから提案してきたんだと思ってるんだが。俺としてはアニアの手首を飛ばした女はどうなっても良いんだが」
「怖い事を言うなよ。その件は、アニアが許してるからもういいんだ。それより、差し出すって事は講和を果たすためとはいえ、あの姫様は見捨てられたのか」
「そうだろうな。そして、それほどまでに講和を成功させたいんだろう。諸侯からは早過ぎるという声が上がってるけど、侯爵達は決断の早さにシーレッド王は油断が出来ないと言っていた」
確かに傷口が広がる前に塞ぎに来た感じはある。
俺がそう思ってると、エアは言葉を続けた。
「講和を受け入れる理由はそれだけじゃないんだ。このまま真っすぐ王都へ向かっても二か月はかかる。早く見積もって二か月だ。実際にはもっとかかるはずだ。勝ち戦だが、正直この辺で一度休戦をしないと、兵が持たない」
エアがエゼルの王都を出発してから、既に四か月近く経っている。連日の野営でも、世話人がいるエアや諸侯たちだから問題がないのだろうが、一般兵にそんな環境はない。勝利続きで士気は高いけど、やはり精神的な疲労は溜まっているはずだから、この辺で一度休むべきだという判断なのだろう。
「やたらと俺のことを気にするけど、エアたちが決めたんだから、俺が口を挟む気はないぞ」
「あぁ、ゼンならそう言うと思ったけど、一度話せと諸侯の一部がうるさくてな。俺にご機嫌取りさせるって、どれだけお前は恐れられてるんだよ……」
エアが呆れ顔でそう言うのを見て、俺はつい笑ってしまった。
「ははっ、まあいいじゃないか。エアを裏切れば俺が制裁するって分かってるって事だろ? それでエゼルが安泰なら良い事じゃないか」
「そう言うなら俺は何も言わないさ。よし、政治の話は取り合えず終わりにしよう。今日は二人で飲むぞ!」
笑顔のエアが銀のコップに注がれたワインを一気にあおった。
「酒を覚えたからって、飲みすぎるなよ……」
「今日は良い事があったんだから、良いじゃないか。ほら、ゼンも飲めって!」
上機嫌のエアに勧められ、俺もワインを飲み干すと、天幕の中に使用人が入ってきて、様々な料理が並べられた。まるで祝いの席だ。
「なあゼン、これは二人じゃ勿体ないな。アルンたちも呼ぶか」
「そうだな、どうせならドライデン子爵様も呼べよ。詳しい話を聞きたいから」
「何だよ……何を聞きたいんだよ……」
突然困惑の表情を浮かべたエアに苦笑しつつも、俺たちは会話を続けた。
これでとりあえずの戦争は終結しそうだ。
この戦のおかげで色々と手に入れられた物は多かった。死んでいったエゼルの人たちには申し訳ないが、俺にとっては有意義な戦となった。
エゼルにとっても、力を増やす結果となり、大局的に見ればプラスだろう。
今後は戦に勝利した王として、エアの地位も万全な物になっていくのだろう。
◆
城外に出ることを禁じられているセラフィーナにとって、中庭での散歩は数少ない楽しみにとなっていた。だが、その途中で側近の女から講和の話を聞く。
彼女は詳しい確認のため、自室へと戻った。
だが、その途中――王城の通路を銀色の髪をかき乱しながら荒れていた。
「忌々しいっ! 何なのですか、あの男は! それに父上も幕引きが早すぎます!」
その落ち着きのない様子を始めて見た城内の者たちは、一瞬異様な物を見るような視線をセラフィーナに送る。だが、すぐに自分が視線を向けている相手を思い出すと、我に返ったように自分たちの仕事へと戻っていた。
「姫様、他の者が見ています。落ち着きください」
側近の女がそう窘めると、セラフィーナは立ち止まる。唇を強く噛み、肩を大きく揺らして呼吸を整えた。最後に大きく息を吐き、歩き始めようとすると、前方から数人の人影がこちらに向かって来たことに気づいた。
お互いの距離が縮まると、その先頭をゆっくりと歩いていた老人――大魔導師マリウスが、曲がった腰をそのままに顔を上げると口を開いた。
「これは姫様……今日もお外でお遊びになられるのですかな?」
「いいえ、お父様に城から出るなと言われていますの」
マリウスが今、明らかに曖昧な状態にあることを、セラフィーナは短い会話の中で分かった。彼女は自分を少女のような扱いをするマリウスの会話を、優しく微笑みながら聞いていた。
マリウスの話が滞ると、セラフィーナは少しと呆けたような表情をして、自分から話を切り出した。
「ところで……ジョアンナとリースは大変な事になりましたわね」
「はて? ジョアンナは……ジョアンナ……? リース……?」
「あら、嫌ですわ。マリウス様の娘と孫ではありませんか」
「ほうほう、そうでしたな。年を取るとすぐに忘れてしまいます」
マリウスが困った顔で頭をさすった。すると、それを微笑みながら見ていたセラフィーナは、突然深刻そうな表情を浮かべると口を開いた。
「それにしても……あの二人がまさかエゼル王国に惨たらしく殺されるとは、お爺様もお可哀そうですわね……」
セラフィーナは顔を通路の窓の外に向けてそう言うと、視線だけをマリウスへ送った。
そこには、困惑の表情を浮かべる老人の姿があり、彼は曖昧な様子を見せながらも、同時にセラフィーナの言葉を反芻して内容の把握をしようとしていた。
「はぁ……ジョアンナが殺された? リース坊やが殺された? は……? 今なんと?」
「ですから、エゼルとの戦で殺されたと申しましたの。もしかして、ご存じではなかったのですか?」
「は、ははは、ジョアンナはまだ一三ですぞ? 戦場に出るなど……。リース坊や……? リース坊やはジョアンナの息子……? ジョアンナは……殺され……?」
セラフィーナがどうにかマリウスに話を理解させようと、次の言葉を続けようとした。だが、そこにマリウスの側に付いている侍女が割り込んだ。
「セラフィーナ様……貴方は一体……。マリウス様、お部屋に戻りましょう!」
王女と曖昧だとはいえ将軍との会話に割り込む事は、それなりの家柄だとはいえ、侍女に許される事ではない。本来であれば処罰の対象にもなり得る行為だったが、あまりの事につい口を出してしまった。
侍女は言った後でそれを恐れたが、セラフィーナは一瞬厳しい視線を彼女に送るだけで歩き始めた。
「姫様、幾ら何でもあれは……」
「黙りなさい。父にもウィルバー兄様にも期待できなくなった今、私は可能性のある物全てに働き掛けているだけです」
セラフィーナのあまりの行為に、側近の女がため息混じりで言うと、セラフィーナは進行方向に視線を向けたまま言葉を返し、その後は終始無言のまま自室へと向かった。
自室に戻ると、元奴隷だった侍女たちが慌ただしい様子で、主人の世話を始めた。椅子に座ったセラフィーナはそれを受けながら、隣に立った側近の女に言った。
「……私財を処分した分で、どれだけの傭兵を雇えそうなのですか?」
「今は傭兵自体が少ないので、千が良いところかと」
「少ないですわね……。それで、講和に反対している者たちはどれだけいるのです?」
「突然の講和ですので、まだ納得していない者たちはそれなりにいると思います。ただ、それを率いてる者が……」
「……リンチね」
言葉尻をすぼめた側近の女に、セラフィーナが言葉を繋ぐと、二人は視線を合わさずに汚い物を見るかのような表情をした。
「はい、一度姫様に会いたいと言っていますが、本当にお会いになるつもりなのですか? あの方は……」
側近の女が言葉を濁す理由は簡単だ。リンチがセラフィーナへ欲情に塗れた視線を送っている事を、彼女たちは感じているからだ。それはまだ少女の頃から始まり、今でも変わっていない。当のリンチといえば自分の視線がバレている事を知らなかった。
「……使える物はなんでも使います。もしリンチが望むならば、私を褒美としてもいいでしょう。ですが、それはあの男を殺せたらです」
「姫様……」
二人に怪訝な表情を指せるリンチだが、彼は王都の近くに領地を持つ諸侯の出であり、家柄、能力、財力と悪いものではない。むしろ、戦場においては優秀な男だった。
ただ、リンチの顔は宜しくなかった。影ではカエルの生まれ変わりとも言われる程の顔だ。それだけが、女性から険しい表情を向けられる原因だった。
その後すぐにリンチはセラフィーナの部屋に通された。そして、部屋に入った直後に大きく深呼吸をした姿に、側近の女はリンチからは見えない位置で表情を崩した。
リンチは最初こそ疑われる行動をしたが、その後は終始真面目な表情でセラフィーナとの会話に臨んでいた。
「……姫、何度も言いますが、戦に勝つのは既に不可能でしょう」
期待を持ってリンチを呼んだセラフィーナだったが、今は彼から出た言葉を聞いて露骨に厳しい表情を見せていた。
「では何故私と話がしたいと言ったのですか? 私の望みは分かっているはず」
「それは勿論でございます。姫の事ならば……全て分かっております……」
リンチがニヤリと笑う。
それを見たセラフィーナは、一瞬厳しい表情を歪ませた。
しかし、リンチはそんな事など関係なく、むしろ微笑みながら言葉を続けた。
「姫は既に戦の勝敗でなく、ゼンと言う男に復讐が出来れば良いと考えているので?」
「私は……シーレッドの勝利を……。いえ、貴方の言う通り、あの男に復讐が出来ればよいのかもしれませんね」
「でしたら、事は簡単です。近い内に和睦の場が開かれるでしょう。その場には、きっとその男も来るはずです」
「……もしかして、その場で襲えと? あれは古竜も従える化け物ですよ? あれに勝とうなど、馬鹿げた考えです」
「いえ、大将軍を倒した彼を殺そうなんて恐ろしい事は、全く考えていませんよ」
「それでは?」
「あの男の話を聞く限り、ラングネル公国復興の立役者らしいではないですか。そこで、我々はかの地に赴き、あの地域の領民を殺して回ればよいのです。どうせ、我が国からは出ていくつもりの民ですから、問題ないでしょう。国の復興をわざわざ手伝うようなお人好しな男です。きっと悲しんでくれると思うのですよ」
「そ、それはっ……」
セラフィーナは一瞬否定の言葉を口にしそうだったが、それは何故か出てこなかった。むしろ、その一瞬でゼンの悔しがる顔が浮かんだ事に驚いた。
「それが上手くいけば、そのままエゼルに攻め込みましょう。ラングネルから西側の多くの街が抑えられていますが、それらを開放しながら進むのです。これはエゼル王国軍の位置が関係しますので、どこを狙うかはその時になってからですが。あぁ、攻め込むと言っても、守りを固めている街を落とすのではなく、小さな町や村を蹂躙するのです」
「……それは、私に無抵抗な民を殺せと言うのですか?」
リンチの話は、セラフィーナはまだ残っている王女としての誇りを刺激した。
「確かにそうですが……どうせこのまま王都にいても、処刑されるのを待つだけではないですか」
「……は?」
突然リンチから出た言葉に、セラフィーナは口を開けて間抜けな返答をしてしまった。
「姫、もしかして知らなかったのですか……?」
「処刑……とは……? お、お父様が……言ったのですか……!?」
「えぇ……まだ決定ではないでしょうが、もしエゼルが望めばと……」
傍から見れば、リンチは如何にもといった演技じみた態度を見せているのだが、セラフィーナはそれどころではなくなっており、気が付くことが出来なかった。
以前であれば、この程度で動揺などしなかったセラフィーナだが、戦況が芳しくないとの報を聞くたびに、もし敗北が迫れば、自分が差し出される可能性を考えていたからだ。
王の和睦宣言により、それはより明白な物になり、彼女は簡単に処刑宣言が事実だと受け入れてしまった。
そして、その話を知っている側近の女も訂正の言葉を出していない。それは、セラフィーナにとって決定的な事だった。
「ですから姫、我々と共に兵を率いましょう。ですが、これは秘密裏に行わなければなりません。我々は誰にも知られずに王都を脱出し、そして貴方の復讐を果たすのです」
今のセラフィーナにとってリンチの言葉は耐えることのできない魅力を持っていた。
「リンチ、何故貴方はそこまでするのですか?」
「これは異な事を……姫は知っているではなりませんか。私が姫を思う気持ちは……」
リンチはカエルの様な顔をして、まるで乙女のような恥じらう様子を見せた。
その様子を見たセラフィーナは、あまりにもおかしな姿に何故か笑みが出てしまった。そして、彼女の気持ちは決まった。
「ふ、ふふっ……分かりました。どうせ王都にいても部屋に籠っているだけ。それに、待っているだけではエゼルにこの体を差し出すだけみたいですね……。ならば、もう私の好きにしましょう。リンチ、用意をなさい」
「はっ! 姫の為ならば、この命幾らでもお使いください!」
こうしてセラフィーナは終わりへの道へ、また一歩進んだのだった。
「は、敗北……だと……。ぜ、全将軍を、う、失ったと言うのか……?」
力なく王座に体を預けた彼は、震える手を押さえるために、もう片方の手でもって制するが、困惑の極みにいる彼は押さえようとした手自体も、制御できない震えを生んでいる事に唖然とした。
そんな王の様子を見て、側近は恐れ恐れ追加の報告をした。
「報告では、リース様は敵に捕縛され、メルレイン将軍は敵方へ裏切ったとの事です……」
「メルレ……カフベレの動乱を察知したのだろう……。あれは人質で抑え込んでいたからな……」
シージハードは手の平で目を覆いながら呟くようにそう言うと、突如思い出したかのように言葉を続けた。
「だから言ったのだ……! バイロンを殺した相手が敵にいたのだから、全員で当たれとっ!」
まず最初にレキウスが魔槍に敗れたと聞き、シージハードの頭の中では、自惚れた様子で魔槍に挑んだ赤盾を持つレキウスの姿が浮かんでいた。驚愕の後に訪れた怒りに、彼は何度も何度も腕を王座に叩きつけ、それをどうにか鎮めようとしていた。
その行動は、同じく報告を聞き動揺冷めやらぬ王座の間に存在する側近たちに静寂を生んだ。
ややあってシージハードは少し落ち着く事が出来た。彼は報告後もその場に立ち続けていた側近に向かい、大きくため息を吐き、落ち着いた様子を分からせた上で話しかけた。
「それで、息子は、ウィルバーと兵たちはどうなった……」
側近はその言葉を聞いて驚いた。内容にではない。その声が、覇気に満ちて自信あふれる王の物では完全になくなっていたからだ。側近はその事に一瞬言葉を失いそうになるが、すぐに気を取り戻すと、口を開いた。
「ウィルバー様は、無事に逃げおおせたようです。しかしながら、ラングネル公国が独立を宣言し、王都に戻るには大きく迂回する形となっています。戻られるにはまだ時間がかかる見込みです。兵は約半数以上を失ったとあります……。一体どれだけの兵が戻るかは、まだ不明です……」
シージハードは床を見つめながらその報告を聞き、今現在シーレッド王国が置かれている状況を整理した。その時間は数分だった。だが、この場にいる側近、警備兵、使用人の全員は永遠にも感じられる思いで王の次の言葉を待っていた。
そして、彼らの王は大きなため息を吐くと言った。
「…………和睦だ……」
「王っ!?」
「すぐにエゼルに使者を送れっ! 樹国にもだ!」
シーレッド側から始めた戦だ。当然、門前払いされる可能性は考えている。だが、今の段階で和議を申し込めば、まだそれは受け入れられる可能性はあると、シージハードは考えた。
「王……まだ早いのでは……」
王座近くで控えていた側近の一人、王都の兵を統括する男――リンチが、窺うように言葉を切り出す。多くの者が感じている、あまりにも早い幕引きに納得いかなかったのだ。
そんな言葉を聞いてシージハードの厳しい視線が彼を捉えた。
「将軍と勇者を失い、多くの兵も失った今、破竹の勢いを持つエゼルをどう止める? 物量で押せなくなった今、巧妙な策で確実に進軍してくる樹国をどう止める? 貴様にはその策があると言うのか……?」
口には出さなかったが、王都東南ではカフベレ国の復興が宣言され、更に西部ではラングネル公国の復興も始まっている事をシージハードもリンチも知っている。
一瞬うろたえたリンチだったが、すぐに視線に力を戻すと、シージハードへと強い視線を返した。
「そ、それは……。しかし、まだ戦えるだけの兵数は維持しています。ここで引けば、王の野望もそこまでではないですか!?」
「……何故分からん。貴様は魔槍の存在を知らんわけではないであろう! バイロンをっ! レキウスを容易に葬り去る相手が敵にいるのだぞ! それに古竜の存在も確認されているのは、貴様も分かっているはずだ! そんな存在がいて、尚且つエゼルは兵をほぼ失っていないのだ。確かにまだ戦える……。だが、このまま今戦いを維持すれば、すべてを失うのだ! 何故それが分らんのだ!」
突然のシージハードの剣幕に、リンチは言葉を失った。そして、同時にシージハードの言葉から、明らかに自分では力不足なのだと伝えられ、強い憤りを感じた。
「リンチよ、今は一度戦いを止め、祖父や父がそうしたように、シーレッドに力を残して後世に託す……」
シージハードはそう言うと、リンチには興味を失ったかのように、他の側近に視線を向けた。
「交渉では出来る限りこちらから譲渡をしろ……。ウィルバー以外であれば、誰でも差し出してよい……。もし、エゼルがセラフィーナの首を望むのであれば、そうしろ……。私はもう下がる……」
シージハードは力なくそう言うと、ゆっくりと王座から腰を上げ歩き出した。
近衛兵が付き添おうとするが、彼はそれを手で制する。
シージハードは自室へと戻ると、一人で座るには大きいソファーへと倒れ込むように腰を下ろした。
そして、誰に言うでもなく言葉を吐き出した。
「魔槍に聖女、それに獣姫か……。なるほど、神の加護はそれらに分け与えられていたのか……」
国内のダンジョンが次々と攻略されていた事は当然把握していた。そして、状況や目撃証言により、その犯人がゼン達である事は予想していた。今回、戦の様子が報告され、それは確信に変わった。
「もはや、覆らんか……」
シージハードは講和を宣言したが一度落ち着き、改めてここからの反撃を考えた。だが、その考えは一瞬にして泡のように消えた。何故なら、彼の戦略は必ずシーレッドの将軍たちの力を踏まえての発想だったからだ。
「元を正せば魔槍か……何故我が元にいない……。バイロンを……レキウスを圧倒する魔槍がいれば、この大陸の制覇など容易だったであろう……」
スキルや神から与えられし武具があるこの世界では、時に一国とも争える力を個人が持つことを、王家に蓄えられた知識を幼いころから学んでいるシージハードは知っていた。
それ故に、まだ会った事もないゼンを思いそう口にした。
彼は知らなかった。
かつて、ゼンがシーレッド王国を離れる事となった原因が、自国にあったという事は。
シージハードは強く瞼を閉じると、大きなため息を吐き、力なくソファーに体を預けたのだった。
◆
シヴァルの街を落とした後も、エゼルの戦いは快勝続きだった。
俺たちが戦場に出れば多くの味方を支援出来るので、有利に戦えたからだ。
やはり、加護持ちはこの世界の戦いに大きく影響を与えるな。
戦場では俺が単独で出る場面もあったが、今はエアや侯爵たちに止められている。何故なら、余りにも武功を立てすぎたからだ。
エゼル王であるエアの危機を救い、その後の戦いでも敵の主力を撃退し、更に俺の部下扱いになっているアニア、アルン、セシリャ、シラールド、ヴィートたちの活躍も、俺の武功と見なされている。それに、まだ大将軍達を撃退した褒美も保留中だからだ。
「ゼンはいきなり伯爵にでもなりたいのか?」と、この前レイコック様と話している時に言われた。って事は、まだ俺は聞いていないが、男爵ぐらいにはなれるって事かな?
まあ、俺の事はともかく、今回の戦いがこのままでいくのであれば、かなり広大な領土が増える事になる。
そこを既存の諸侯に分け与える事になるのだが、それには武功という建前が必要だ。
多くの場合、飛び地になるので、実際には諸侯の子弟たちがそこを運営する事になるのだろう。
だから俺は自制を迫られているって訳だ。
まあ、危ないところには遠慮なく手を出すし、エアから直接の指示もある。ただ見学してるってだけではない。
少なくとも、アニアは常に戦場に出てるからね。俺は毎度おなじみの遊撃隊って感じだ。
今、ラングネル公国エンダーにある、王宮の大広間に置かれた大きな机の向こうには、ポッポちゃんを抱きかかえて微笑んでいるプルネラちゃんがいる。エルフの彼女はアニアが次々と提供しているお菓子に舌鼓を打っていた。
「アニア様はおいしい物をたくさん知っているのですね!?」
「色々な場所に行く機会があったからなのです。プルネラ様も今後はたくさん色々な場所に行って、おいしい物を食べられるのですよ?」
「そうなのですか……?」
「そうなのです。ゼン様がお救いしたのですから、それは絶対なのです。自由なのですから、いろいろな街に行けるのです」
アニアによる謎のよいしょが凄い。プルネラちゃんがこっちを見て微笑んだので、手を振ってあげると二人して手を振り返してくれた。
「ね、ねえ、ゼン殿。あ、あの子……プルネラ様を抱っこしたら怒られるよね……?」
俺の隣に座っているセシリャが挙動不審だ。視線がプルネラちゃんと俺に行ったり来たりしている。
「ユスティーナ禁断症状が出たのか……。これは重病……。幼い子を隔離しないとセシリャにイタズラされる……」
俺が少し目を細めながらそう言うと、セシリャは俺に反するように目を見開き、むき出しになっている自分の太ももを両手でぱちんと叩きながら言った。
「なっ! 何言ってんの!? ゼン殿酷いっ! 私は変な事してないから! ちょっと撫でるだけだよ!」
セシリャが必死の形相で訴えてきた。そんなに焦る方が怪しいと思うんだが……
「その慌てようが怪しいんだよ……。てか、触りたかったら触ってくればいいじゃん。アニアを見てみろよ、結構簡単に触ってんぞ」
アニアは先ほどからお菓子を渡す時に手を添えたり、時折肩に触れたりとコミュニケーションを取っている。
「アニアちゃんは緊張するって事がないの……? 恐ろしい子……」
何故かセシリャはゴクリと喉を鳴らせて驚愕した。
「あの程度の触れ合いに緊張も何もないと思うんだが……」
俺が呆れながらそう言うと、セシリャは厳しい顔をしながら唸っていた。
進軍を続けたエゼル王国軍は、ラングネル公国となったこの地までやってきた。
本来この地を通るのに、エゼル側からの挨拶など不要だと思うのだが、エアが今は亡き父親と知己である、大公には失礼があってはいけないと、自ら足を運ぶというので俺はその付き添いだ。
今応接間ではエアと大公が話をしている。俺は同席を許されたが、プルネラちゃんのお誘いがあったので、こちらにやってきたのだ。
エアにはシラールドとヴィンスを付けているので、警備に関しては全く問題ないだろう。
こんな休息を挟みつつも、エゼル王国軍は進軍を続けた。
勢い付いたエゼル王国軍は、全ての将軍を失い統制が取れなくなったシーレッド王国軍を相手に敗北とは無縁の軍団となっていた。
今日も街を制圧すると、その夜にエアに呼び出された。
呼び出し自体は特に珍しい事ではないので、俺は気楽に向かった。
だが、天幕に入ると、中には多くの諸侯の方々が既におり、その様子は普段とは少し異なる物だった。
「ゼン、来てくれたか。まずは座ってくれ」
エアに促されて椅子に座ると、グウィンさんがワインを持ってきてくれた。
俺がそれに頭を下げて礼をすると、エアが話を切り出した。
「では、皆にもう一度話をする。先ほどシーレッドから講和の話が来た。私はこれに応じるつもりだが、皆の意見を聞きたい」
おっ、シーレッドが敗北宣言したか!?
でも、思ってたより早いな。王都までまだ半分近く距離があるぞ?
俺のそんな疑問は諸侯たちも感じたのか、確か伯爵様だった人が口を開いた。
「早すぎるのでは……? 罠の可能性があります」
うむ、うむ。俺も同意見です。
俺が分った風に首を縦に振っていると、ブラド様が言った。
「その可能性はあります。ですが、シーレッドは五人の将軍を失い、王軍の四分の一も失いました。そして、今シーレッドに攻め込んでいるのは、我々だけでありません。樹国もかなり深い位置まで進軍していると、先日確認しました。であれば、この段階で講和に入り、これ以上傷口を広げないようにするのも当然だと思えます」
ほうほう、なるほどね。
また俺が分った風にしていると、それを見ていたレイコック様が口を開いた。
「ゼンはどうなのだ?」
「えっ!? 私ですか? えーっと……もし罠を心配するのであれば、先にシーレッドの王都に忍び込んで調べてきますけど……」
突然話を振られて、動揺した俺は変な返しをしてしまった。
「そういう事を聞いたのでは……まあ良い。講和であればまずは話し合いから始まる。そこで相手の出方を見てからでも遅くはないと思うのだが、諸君らはどう思うだろうか?」
どうやら先に三侯爵とエアは話し合いをしていたようだ。この四人が決めてるならば、もう決定しているに近いな。
俺の考えは間違っていないようで、段々と感付き始めた諸侯たちに、反対意見を言う人がいなくなった。民主主義のような話し合いをしてるけど、最近力で王座をもぎ取っただけあって、やっぱこうなるんだな。エアや侯爵様たちは信頼できるし、この国の仕組み的にこの方がいいんだろうけど。
その後、話し合いは終わり一度解散となったのだが、夜にはエアに夕食に誘われた。
天幕に設置するには質が良い机を挟んで、エアが笑みを浮かべながら話し出す。
「今更気付いたけど、ゼンのところは結構な大所帯になったな」
確かにアルンが戻り、ヴィンスとメルレインが加わって、その部下たちも俺の下についている。正直顔が分らない奴の方が多い。その辺の管理はすべて任せているから、俺が困る事はないのだが、いきなり知らない奴に敬礼をされたりするとビックリするんだよな。
「俺は何もする事がないから、あまり実感はしてないんだよ」
「ゼンは全く兵を率いる気がないんだな。一人の方が気楽だとでも思ってそうだけど」
「俺は一人で動いてる方が役に立てるだろ。まあ、その辺はアルンに任せるつもりだからさ」
「アルンがいるゼンが羨ましい……。一度本気でアルンを口説きたい……。子爵程度なら今すぐでも与えるのに!」
「どんだけだよ……。アニアにも兄様って呼ばせてるし……」
いつの間にかアニアもエアの事を「エア兄様」と呼ぶようになっていた。
まあ、それは構わないので、俺は気になっていた事を訊ねてみる事にした。
「それで、シーレッドを滅ぼさない理由を聞いても? 統治の問題とかそんな所だろう事は分かるけどさ」
「そうだな、幾ら国を滅ぼしたとしても、エゼルに従う気がない民は多くいるだろう。だから滅ぼさずに逃げ場を与えるんだ」
「要するに面倒ごとを押し付ける為に生かすって事か。確かにその方がいいな」
何も滅ぼすことが最善ではないって事だろう。これは統治の専門家である侯爵達が決めたことだろうから、俺が意見をする必要はなさそうだ。
「それでな、ゼンを呼んだのは一つ確認したい事があったんだ。セラフィーナ姫の事だが、向こう側から要求するなら引き渡すとあるぞ?」
「何でそれを俺に聞くんだよ……」
「いや、あれには思うところがあるんじゃないのか? だから向こうから提案してきたんだと思ってるんだが。俺としてはアニアの手首を飛ばした女はどうなっても良いんだが」
「怖い事を言うなよ。その件は、アニアが許してるからもういいんだ。それより、差し出すって事は講和を果たすためとはいえ、あの姫様は見捨てられたのか」
「そうだろうな。そして、それほどまでに講和を成功させたいんだろう。諸侯からは早過ぎるという声が上がってるけど、侯爵達は決断の早さにシーレッド王は油断が出来ないと言っていた」
確かに傷口が広がる前に塞ぎに来た感じはある。
俺がそう思ってると、エアは言葉を続けた。
「講和を受け入れる理由はそれだけじゃないんだ。このまま真っすぐ王都へ向かっても二か月はかかる。早く見積もって二か月だ。実際にはもっとかかるはずだ。勝ち戦だが、正直この辺で一度休戦をしないと、兵が持たない」
エアがエゼルの王都を出発してから、既に四か月近く経っている。連日の野営でも、世話人がいるエアや諸侯たちだから問題がないのだろうが、一般兵にそんな環境はない。勝利続きで士気は高いけど、やはり精神的な疲労は溜まっているはずだから、この辺で一度休むべきだという判断なのだろう。
「やたらと俺のことを気にするけど、エアたちが決めたんだから、俺が口を挟む気はないぞ」
「あぁ、ゼンならそう言うと思ったけど、一度話せと諸侯の一部がうるさくてな。俺にご機嫌取りさせるって、どれだけお前は恐れられてるんだよ……」
エアが呆れ顔でそう言うのを見て、俺はつい笑ってしまった。
「ははっ、まあいいじゃないか。エアを裏切れば俺が制裁するって分かってるって事だろ? それでエゼルが安泰なら良い事じゃないか」
「そう言うなら俺は何も言わないさ。よし、政治の話は取り合えず終わりにしよう。今日は二人で飲むぞ!」
笑顔のエアが銀のコップに注がれたワインを一気にあおった。
「酒を覚えたからって、飲みすぎるなよ……」
「今日は良い事があったんだから、良いじゃないか。ほら、ゼンも飲めって!」
上機嫌のエアに勧められ、俺もワインを飲み干すと、天幕の中に使用人が入ってきて、様々な料理が並べられた。まるで祝いの席だ。
「なあゼン、これは二人じゃ勿体ないな。アルンたちも呼ぶか」
「そうだな、どうせならドライデン子爵様も呼べよ。詳しい話を聞きたいから」
「何だよ……何を聞きたいんだよ……」
突然困惑の表情を浮かべたエアに苦笑しつつも、俺たちは会話を続けた。
これでとりあえずの戦争は終結しそうだ。
この戦のおかげで色々と手に入れられた物は多かった。死んでいったエゼルの人たちには申し訳ないが、俺にとっては有意義な戦となった。
エゼルにとっても、力を増やす結果となり、大局的に見ればプラスだろう。
今後は戦に勝利した王として、エアの地位も万全な物になっていくのだろう。
◆
城外に出ることを禁じられているセラフィーナにとって、中庭での散歩は数少ない楽しみにとなっていた。だが、その途中で側近の女から講和の話を聞く。
彼女は詳しい確認のため、自室へと戻った。
だが、その途中――王城の通路を銀色の髪をかき乱しながら荒れていた。
「忌々しいっ! 何なのですか、あの男は! それに父上も幕引きが早すぎます!」
その落ち着きのない様子を始めて見た城内の者たちは、一瞬異様な物を見るような視線をセラフィーナに送る。だが、すぐに自分が視線を向けている相手を思い出すと、我に返ったように自分たちの仕事へと戻っていた。
「姫様、他の者が見ています。落ち着きください」
側近の女がそう窘めると、セラフィーナは立ち止まる。唇を強く噛み、肩を大きく揺らして呼吸を整えた。最後に大きく息を吐き、歩き始めようとすると、前方から数人の人影がこちらに向かって来たことに気づいた。
お互いの距離が縮まると、その先頭をゆっくりと歩いていた老人――大魔導師マリウスが、曲がった腰をそのままに顔を上げると口を開いた。
「これは姫様……今日もお外でお遊びになられるのですかな?」
「いいえ、お父様に城から出るなと言われていますの」
マリウスが今、明らかに曖昧な状態にあることを、セラフィーナは短い会話の中で分かった。彼女は自分を少女のような扱いをするマリウスの会話を、優しく微笑みながら聞いていた。
マリウスの話が滞ると、セラフィーナは少しと呆けたような表情をして、自分から話を切り出した。
「ところで……ジョアンナとリースは大変な事になりましたわね」
「はて? ジョアンナは……ジョアンナ……? リース……?」
「あら、嫌ですわ。マリウス様の娘と孫ではありませんか」
「ほうほう、そうでしたな。年を取るとすぐに忘れてしまいます」
マリウスが困った顔で頭をさすった。すると、それを微笑みながら見ていたセラフィーナは、突然深刻そうな表情を浮かべると口を開いた。
「それにしても……あの二人がまさかエゼル王国に惨たらしく殺されるとは、お爺様もお可哀そうですわね……」
セラフィーナは顔を通路の窓の外に向けてそう言うと、視線だけをマリウスへ送った。
そこには、困惑の表情を浮かべる老人の姿があり、彼は曖昧な様子を見せながらも、同時にセラフィーナの言葉を反芻して内容の把握をしようとしていた。
「はぁ……ジョアンナが殺された? リース坊やが殺された? は……? 今なんと?」
「ですから、エゼルとの戦で殺されたと申しましたの。もしかして、ご存じではなかったのですか?」
「は、ははは、ジョアンナはまだ一三ですぞ? 戦場に出るなど……。リース坊や……? リース坊やはジョアンナの息子……? ジョアンナは……殺され……?」
セラフィーナがどうにかマリウスに話を理解させようと、次の言葉を続けようとした。だが、そこにマリウスの側に付いている侍女が割り込んだ。
「セラフィーナ様……貴方は一体……。マリウス様、お部屋に戻りましょう!」
王女と曖昧だとはいえ将軍との会話に割り込む事は、それなりの家柄だとはいえ、侍女に許される事ではない。本来であれば処罰の対象にもなり得る行為だったが、あまりの事につい口を出してしまった。
侍女は言った後でそれを恐れたが、セラフィーナは一瞬厳しい視線を彼女に送るだけで歩き始めた。
「姫様、幾ら何でもあれは……」
「黙りなさい。父にもウィルバー兄様にも期待できなくなった今、私は可能性のある物全てに働き掛けているだけです」
セラフィーナのあまりの行為に、側近の女がため息混じりで言うと、セラフィーナは進行方向に視線を向けたまま言葉を返し、その後は終始無言のまま自室へと向かった。
自室に戻ると、元奴隷だった侍女たちが慌ただしい様子で、主人の世話を始めた。椅子に座ったセラフィーナはそれを受けながら、隣に立った側近の女に言った。
「……私財を処分した分で、どれだけの傭兵を雇えそうなのですか?」
「今は傭兵自体が少ないので、千が良いところかと」
「少ないですわね……。それで、講和に反対している者たちはどれだけいるのです?」
「突然の講和ですので、まだ納得していない者たちはそれなりにいると思います。ただ、それを率いてる者が……」
「……リンチね」
言葉尻をすぼめた側近の女に、セラフィーナが言葉を繋ぐと、二人は視線を合わさずに汚い物を見るかのような表情をした。
「はい、一度姫様に会いたいと言っていますが、本当にお会いになるつもりなのですか? あの方は……」
側近の女が言葉を濁す理由は簡単だ。リンチがセラフィーナへ欲情に塗れた視線を送っている事を、彼女たちは感じているからだ。それはまだ少女の頃から始まり、今でも変わっていない。当のリンチといえば自分の視線がバレている事を知らなかった。
「……使える物はなんでも使います。もしリンチが望むならば、私を褒美としてもいいでしょう。ですが、それはあの男を殺せたらです」
「姫様……」
二人に怪訝な表情を指せるリンチだが、彼は王都の近くに領地を持つ諸侯の出であり、家柄、能力、財力と悪いものではない。むしろ、戦場においては優秀な男だった。
ただ、リンチの顔は宜しくなかった。影ではカエルの生まれ変わりとも言われる程の顔だ。それだけが、女性から険しい表情を向けられる原因だった。
その後すぐにリンチはセラフィーナの部屋に通された。そして、部屋に入った直後に大きく深呼吸をした姿に、側近の女はリンチからは見えない位置で表情を崩した。
リンチは最初こそ疑われる行動をしたが、その後は終始真面目な表情でセラフィーナとの会話に臨んでいた。
「……姫、何度も言いますが、戦に勝つのは既に不可能でしょう」
期待を持ってリンチを呼んだセラフィーナだったが、今は彼から出た言葉を聞いて露骨に厳しい表情を見せていた。
「では何故私と話がしたいと言ったのですか? 私の望みは分かっているはず」
「それは勿論でございます。姫の事ならば……全て分かっております……」
リンチがニヤリと笑う。
それを見たセラフィーナは、一瞬厳しい表情を歪ませた。
しかし、リンチはそんな事など関係なく、むしろ微笑みながら言葉を続けた。
「姫は既に戦の勝敗でなく、ゼンと言う男に復讐が出来れば良いと考えているので?」
「私は……シーレッドの勝利を……。いえ、貴方の言う通り、あの男に復讐が出来ればよいのかもしれませんね」
「でしたら、事は簡単です。近い内に和睦の場が開かれるでしょう。その場には、きっとその男も来るはずです」
「……もしかして、その場で襲えと? あれは古竜も従える化け物ですよ? あれに勝とうなど、馬鹿げた考えです」
「いえ、大将軍を倒した彼を殺そうなんて恐ろしい事は、全く考えていませんよ」
「それでは?」
「あの男の話を聞く限り、ラングネル公国復興の立役者らしいではないですか。そこで、我々はかの地に赴き、あの地域の領民を殺して回ればよいのです。どうせ、我が国からは出ていくつもりの民ですから、問題ないでしょう。国の復興をわざわざ手伝うようなお人好しな男です。きっと悲しんでくれると思うのですよ」
「そ、それはっ……」
セラフィーナは一瞬否定の言葉を口にしそうだったが、それは何故か出てこなかった。むしろ、その一瞬でゼンの悔しがる顔が浮かんだ事に驚いた。
「それが上手くいけば、そのままエゼルに攻め込みましょう。ラングネルから西側の多くの街が抑えられていますが、それらを開放しながら進むのです。これはエゼル王国軍の位置が関係しますので、どこを狙うかはその時になってからですが。あぁ、攻め込むと言っても、守りを固めている街を落とすのではなく、小さな町や村を蹂躙するのです」
「……それは、私に無抵抗な民を殺せと言うのですか?」
リンチの話は、セラフィーナはまだ残っている王女としての誇りを刺激した。
「確かにそうですが……どうせこのまま王都にいても、処刑されるのを待つだけではないですか」
「……は?」
突然リンチから出た言葉に、セラフィーナは口を開けて間抜けな返答をしてしまった。
「姫、もしかして知らなかったのですか……?」
「処刑……とは……? お、お父様が……言ったのですか……!?」
「えぇ……まだ決定ではないでしょうが、もしエゼルが望めばと……」
傍から見れば、リンチは如何にもといった演技じみた態度を見せているのだが、セラフィーナはそれどころではなくなっており、気が付くことが出来なかった。
以前であれば、この程度で動揺などしなかったセラフィーナだが、戦況が芳しくないとの報を聞くたびに、もし敗北が迫れば、自分が差し出される可能性を考えていたからだ。
王の和睦宣言により、それはより明白な物になり、彼女は簡単に処刑宣言が事実だと受け入れてしまった。
そして、その話を知っている側近の女も訂正の言葉を出していない。それは、セラフィーナにとって決定的な事だった。
「ですから姫、我々と共に兵を率いましょう。ですが、これは秘密裏に行わなければなりません。我々は誰にも知られずに王都を脱出し、そして貴方の復讐を果たすのです」
今のセラフィーナにとってリンチの言葉は耐えることのできない魅力を持っていた。
「リンチ、何故貴方はそこまでするのですか?」
「これは異な事を……姫は知っているではなりませんか。私が姫を思う気持ちは……」
リンチはカエルの様な顔をして、まるで乙女のような恥じらう様子を見せた。
その様子を見たセラフィーナは、あまりにもおかしな姿に何故か笑みが出てしまった。そして、彼女の気持ちは決まった。
「ふ、ふふっ……分かりました。どうせ王都にいても部屋に籠っているだけ。それに、待っているだけではエゼルにこの体を差し出すだけみたいですね……。ならば、もう私の好きにしましょう。リンチ、用意をなさい」
「はっ! 姫の為ならば、この命幾らでもお使いください!」
こうしてセラフィーナは終わりへの道へ、また一歩進んだのだった。
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