アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

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第九章 戦役

二十四話 戦いの後、次の戦い

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 メルレインを受け入れた翌日、天蓋の中で目を覚ますと、隣にはアニアの姿があった。昨夜は酒が入りそのまま一緒に寝た記憶はある。だが、記憶が正しければ何もしていない。毛布を少しめくってみても、衣服に乱れはないので記憶にない俺が悪さをした事もなさそうだ。
 俺はむにゃむにゃと言いながら抱き着いているアニアの腕をほどき、まだ朝日も出ていない天幕の外へと新鮮な空気を吸いに出た。

 昨日は再会を果たしたラーレとメルレインの映画のようなワンシーンがあり、その後はエアをはじめとした諸侯との謁見があった。
 メルレインは晴れてエゼル側の人間として受け入れられる事となった。しかし幾ら俺の部下になったからと言って、敵方の将軍が寝返った事を「はいそうですか」と受け入れる訳がない。しっかりと尋問のような問答を諸侯たちと繰り広げていた。
 その後はシーレッド王国軍を街の中まで押しやった事を祝い酒が振舞われた。
 俺と共に呼ばれていたアニア達も皆して飲む結果となった。前世の軍隊でやったら懲罰物だろうが、この世界ではトップが率先して飲んでるからな。

 昨日の戦いでは、アニア達の部隊は全くの無傷で帰ってきた。範囲回復魔法は効果範囲が広いため、前に出る必要がない。最前線の一歩手前を往復していただけだからだ。
 帰ってきたアニアは、本当に満足そうな表情を浮かべていた。俺を見つけるなり抱き着いてきて「ゼン様っ! これで名前負けしないのです! 本当によかったのです!」と喜んでいたからな。

 そんなアニアを抱き返していると、周りから物凄い量の視線を感じた。俺を知る人はほとんどが彼女と俺との関係を知っているのだが、今回アニアを初めて見た人たちの中には、淡い思いを抱いていた者がいたようだ。嫉妬の目がすごかった。アイドルを独占している気分は全く持ってよい。

 その他では、悠々と竜の姿で帰ってきたヴィートからヴォロディアの戦いの事も聞いた。
 彼は終始人の姿を取り剣を使って戦っていたらしい。戦いは結構苦戦したと言っていた。弓を放ちながら逃げるヴォロディアをヴィートが追う形となり、何度も弓矢を体に受けたんだとか。
 実際、竜の姿から人型になったヴィートの体には、無数の矢傷があった。竜の時は無傷に見えたが、小さかったので分からなかったみたいだ。
 落ち着いた様子で自分の戦いを語るヴィートに、何故ブレスを放ったのかと聞いてみた。
 すると、「片腕を切り落としたら、アイツ負けたって言ったんだ。だから、兄ちゃんに引き渡せば喜ぶと思ったのに、いきなりアイツ逃げたんだよ!? だから、俺ついかっとなって、逃げ込んだ林ごと吹き飛ばしちゃった……。分かってるよぉ……やりすぎた。でも、連れ帰れば兄ちゃんが喜ぶと思ってたからさ……」と、シュンとしてしまった。
 確かに生け捕りにすれば有効利用できた可能性はあった。それを理解して自分の憎い相手を俺に引き渡そうとしてくれたらしい。やった事はとんでもないが、何とも可愛らしい理由に、俺はヴィートの肩を抱き寄せて、頭を撫でてしまった。
 ヴィートの気持ちには、今後何かで答えないといけないな、

 そして、もう一人の将軍格であるシーレッドの勇者リースを相手していたフリッツも、諸侯が集まる場でその戦果を報告した。戦いの詳細はともかく、彼は母親の意見を聞かないと何も出来ないリースに腹を立てたらしく、首根っこを捕まえて連れて帰ってきた。
 フリッツは「勇者が女を盾にしやがって、こいつは当分、俺が根性を叩き直してやるっ!」と、俺の前では演技を止めて息巻いていた。当のリースは文句を言えばフリッツに殴られるので口を固く閉ざしてイエスマンと化し、その母親であるジョアンナという人は、エゼルの捕虜として拘束される事になった。
 考えたら、何だかんだでフリッツは仕事をこなしてくるな。

 朝の空気を十分吸い込んだので、天幕の中に戻ろうとすると、こちらに近付いてきた人影があった。

「朝帰りか、羨ましいな」
「……返す言葉がありません。私も思っていた以上にこらえの効かない男だったようです……」

 メルレインは少し気まずそうな顔をしている。って……これってあれか、やる事やってきたって事かよ!

「……お勧めしてた俺が、とやかく言うのもおかしい気はするが、責任は取るつもりなんだろうから、頑張って働いてくれよ。約束通り当分は俺の部下として働いてもらうが、働きによっては色々考えるから」
「はっ! 主の為、身を粉にして努めます!」

 明確な目的が出来たからか、メルレインの返事が素晴らしく決まっている。朝もやが漂う風景には少し不相応な気がして、おかしく思ってしまった。
 メルレインを伴って天幕の中に戻ると、そこではすでに目を覚ましていたポッポちゃんがいた。寝床から地面に降り立ち、羽を広げて朝の体操をしている。バサバサという羽ばたく音が朝の来訪を告げ、天幕の中で寝ていたアルンやセシリャ、シラールドにヴィンスが起きだしてきた。

 その日の戦いは、朝から行われた。
 街で籠城を開始したシーレッド軍に対してエゼル全軍が街の周りを包囲している。
 街から少し離れた場所で、戦場を見下ろす俺の隣では、スレイプニールに騎乗しているアルンが
いた。そのまた隣では騎竜に乗るメルレインに、あれこれと細かく教えを受けている。

「アルン、シーレッドの籠城は間違いですが、それは何故でしょう?」
「まずは、食料の問題でしょうか。シーレッド王国軍は急いで逃げたために、多くの糧食を放棄しました。その事を兵士は分かっているでしょうから、士気はとても低く見えます。また、メルレイン師が戦線を離れた事を把握していたのに、戦いを維持している事だと思います。一番は……ゼン兄さんとヴィート君がいたら、あの壁の意味がないです」
「アルンは優秀ですね。最後の事に関しては、通常の戦闘ではありえない事ですから、あまり考えてはいけません。しかし、アルンの視点はこの地点だけで起きている戦闘のみを捉えています。良いですか? 現段階でシーレッド王国内では三か所で戦いが起きています。ここまで言えば、多くを語らずとも分かると思いますが、どうですか?」
「そうですね……あの城に籠ってしまうとシーレッド王国が保有する半数の兵力が封じ込められるという事ですか?」
「そうです。私がこの地を戦いの舞台に選んだのは、これ以上エゼル側に進ませる気がなかった事が大きいですが、あの街の防御力の高さを見据えてだったのです。あの街は互角の兵数であれば現在の食料でも一か月は耐えられるでしょう。その守りの硬さに対する自信が、逆にシーレッドの敗北を招く結果になるのですが、果たして彼らがそれに気付くかは微妙なところです。……まあ、私の案も、戦力が互角かそれ以下であればだったのですけどね。すべての将軍を失った状態では、エゼルの守りを破って反撃も叶わないでしょう」

 俺は二人が話している内容をうんうんと言いながら聞いていた。話の内容は分かりやすいので、ちゃんと理解出来てるよ?
 メルレインが今している説明は、すでに諸侯たちに伝わっている。今日も城攻めをしているのだが、本気の戦いは行っていない。各地の戦況情報を集めつつ、状況を把握してから動くべきだというのが、話し合いの結果だからだ。

「そのおかげで、城攻めの訓練が出来てるんだよな。スキルも上がりやすいし、いい機会だと思うよ」

 俺が分かった風に口を挟むと、二人が同時に俺を見た。

「ゼン兄さんって、戦の勉強を全くしていないのに、少し話を聞くと簡単に理解しますよね」
「私も意外に思いました。話をしていて感じましたが、考え方がやや諸侯や王寄りなのが何故なのか気になります」

 この世界にきて大分経つが、日本での教育はこんな感じで生きている。日本の一般教養があれば理解できちゃうからね。メルレインが言う、考え方が諸侯とか王ってのは、完全にゲームの影響だな。俺はその手のゲームとか結構やってたからね。何度も日本を統一したし、中国大陸も制覇したし!

「君たち……それは、俺が知恵者だからだ……」

 俺が謙遜のけの字もない態度でそう返すと、アルンは笑顔で首を縦に振ってくれた。だが、メルレインの反応はいまいちだ。

「メルレイン君、何か?」
「正直に言いますが、まだ主を図りかねていますので」

 メルレインが真面目な顔でそう言った。おいおい、硬い奴だな!

「では、信頼を得るためにも、俺はアニアを助けてくる。アルンとメルレインはこの後、兵の調整に入るんだろ?」
「はい、戦奴だった人たちが全員解放されるのは、まだ時間がかかりそうです。今日中に終わればいいんですけどね……ヴィート君が飽きないか心配です」

 ヴィートがヴォロディアを殺した事で、多くの戦奴の所有権が移っていた。通常の奴隷では相手を殺しても所有権は移らないが、戦奴は戦場の神の名のもとで契約をされているので、この現象が起きるのだ。
 これは完全にリアルタイムで判定されてる。まあ、神様だから何でもありなんだろうけど、改めて俺を見守ってるって言っていた神様の言葉を思い出して、エゼル兵に保護されてた戦奴を見ていたら、つい空を見上げちゃったよ。

 解放された戦奴は今後、アルンの部隊として組み込まれる。本当なら解放したならば、すぐに国元である樹国に返してあげたいのだが、今はそんな余裕はない。戦奴だった彼らもそれを分かっているし、ただ飯食らいになるつもりはないらしく、恨みを晴らせるとあって、喜んで戦いに加わる事になったんだ。
 今頃ヴィートは一人一人の奴隷契約解除に忙しいはずだ。

 あぁ、そうそう。ヴォロディアが持っていたアーティファクトは、ヴィートのブレスを受けてどこかに行ってしまった。アーティファクトだから古竜のブレスにも耐えるだろうが、爆心地は土壌がひっくり返るほどの爆発だったから、多分どこかに埋まってるんだと思う。今は戦奴にしたシーレッド兵をこき使って掘り起こさせてるけど、見つかるのは何時になる事やら……

「じゃあ、行ってくる。ポッポちゃん頼む」

 俺は二人に軽く挨拶をする。
 そして、周囲をくまなく歩きまわり、何かを捕食していたポッポちゃんに、戦場で戦うアニアのもとへと移動をお願いしたのだった。


 籠城戦開始から三日ほど経った。
 依然として籠城を続けるシーレッドに対して、エゼルは散発的な攻撃を繰り返しているだけだ。
 それを見て、こちらが攻めあぐねているとでも思ったのか、敵の士気が高まっており、時折こちらを小馬鹿にした様子も見せている。
 まあ、その程度はどうでも良いのだが、エアを馬鹿にしたり、アニアを侮辱した奴に関しては、直接乗り込んでこの手で始末してきた。その所為か、今日は敵の罵倒が直接的な物ではなくなっている。

 今日はエアや諸侯が集まる陣幕内で、戦況の話し合いに参加している。今も兵士は戦っているのだが、本気で攻める気がないので、戦いは諸侯の子弟などに任せていて、その中にはアルンとメルレインも参戦している。

 現在我々が探っているシーレッド国内で行われている戦いの把握は、まだ日数を要する。今できる話は主にこの戦場の事で、昨日もそれなりの時間話し合いをしていたので、話題が尽きてしまった。
 そんな中、エアが俺に顔を向けると話を切り出した。

「ところで、ゼン。敵の街に乗り込んだら駄目ではないか?」

 どうやら、自分たちが手加減をして攻めているのに、敵のど真ん中に突っ込んで目的の人物だけを殺してきた事を突っ込みたいらしい。

「それは、王と聖女を侮辱した者がいた故です。私が王と聖女を思う気持ちが強いために……申し訳ありません」

 エアからは怒っているという雰囲気を感じない。だから少し演技めいて返してみた。

「そうか……その気持ちは嬉しいが、昨日からゼン一人が乗り込めば勝てるのではないかと、噂が立っているぞ?」
「まさか、そんな事は不可能ですよ。数百程度であれば相手出来るでしょうが……」

 今の俺なら普通の人なら千人いても死ぬ気はないけど、疲れるからやりたくない。
 俺とエアがそんなやり取りをしていると、一人の諸侯が口を開いた。

「いやいや、ご謙遜を! ゼン殿の戦力であれば、数千……いや、数万の相手をしても勝つとの噂ですぞ! 今や三千を超える兵を従え、シーレッドの二人の将軍も部下に置いておられる。さらに、聖女や獣姫、そしてシラールド殿もいるではないですか。極め付けに古竜殿もおる! それらを率いるゼン殿ならば、一人でもシーレッドと立ち向かえるのではと申す者もおるのですよ!?」

 嫌に興奮した様子を見せているのは、イングロット伯爵だ。この戦場で初めて顔を合わせた人物だ。
 これまであまり伯爵以下の諸侯は発言しなかったが、戦況も大分良くなっているので、比較的言葉を出しやすい雰囲気になっていた。

「いえいえ、私なんてそんな……」
「ゼン殿は本当に謙虚な方だ……素晴らしい! 我が娘エレクトラの命を救って頂いた事、まだ礼が出来ていないと聞いています。是非とも今夜にでも娘をそちらにやりますので、一献酌ませてください!」

 伯爵ともあろう人が、俺に対してペコペコと頭を下げている。あまりにもその卑屈な様子に、周りは蔑む事も出来ず、ただただ呆れている様子だ。
 俺がどうしたらいいのかと迷っていると、俺の見知った伯爵様であるシューカー伯爵が言った。

「ふんっ! いささかほめ過ぎではないのか? 確かに力を持っているが、本来であればこの話し合いの場に入れる身分ではないのだぞ?」

 いいね、今はその辛辣な言葉が心地よいよ。

「しかしだ、功績は認めざるを得ん。マルティナは覚えているな? あれが会いたがっていた。この戦いの後は必ず我が領内に来るように」

 シューカー伯爵はそういい終わると、ふんっと息を吐き両腕を組んで俺から目をそらした。
 なんか微妙にデレてんだけど……。そういえば、この人はジニーに口説き落とされて俺を養子にとかって話を飲んだんだっけ? おいおい、おっさんのデレはいらねえんだよ!
 てか、こんなの政治に疎い俺でも分かるわ。どう考えても娘を売り出してんじゃねえか。二人は俺とジニーの事は知らないんだろうな……。エアが笑ってやがる……あいつめ……

 俺が対応に困っていると、ブラド様がおもむろに口を開いた。

「ゼン殿には聖女という良い相手がいるのですから無駄ですよ。私もフラムスティード殿も振られているのですから、お二方も皆さんも自重しましょう」

 おぉ、何という神対処。

「しかし、もし聖女以外の娘にも興味があるのであれば、まずは私の娘に会っていただきます。良いですねゼン殿?」
「むっ! 待たれよ、ブラド殿。それはズルいのではないか? それならこちらにも権利があるはず!」

 ブラド様の言葉にフラムスティード侯爵様が反応して声を上げた。
 全然神対処じゃなかったわ……むしろ、面倒な方向にいってるじゃん!
 俺だって、こんな話を持ち掛けられるほどの力を持っている自覚はある。貴族のこんな動きも理解できる。そして、そんな話が来るこの状態が快くもある! だけど無理なんだよ……。俺はアニアとジニーの二人が怖いからな!
 今回の話も、エアの一言で収まったが、エレクトラの親であるイングロット伯爵からは、まだ熱い視線を感じている。あの人は確か、以前の戦ではエアと敵対していた側の人だ。関係強化に色々と大変なんだろう事は分かるんだけどねえ。

 戦いが動いたのは、シーレッドが籠城を開始してから十日ほど経った頃だった。
 ようやく各地の情報が集まり、エゼルとしての方針が決まったのだ。
 諸侯があつまる場では、白熱した話し合いが繰り広げられている。主にはどう攻め落とすかの話し合いだ。三侯爵とエアは大人しく聞いていたが、ややあってエアが片手上げ、諸侯の発言が止まるのを待った。

「諸侯らの作戦は素晴らしいものばかりだ。どれを取っても成功するだろう。しかし、ここは一つ私に任せてもらえないだろうか? 諸侯らも知っているだろうが、我々にはエゼルの王都グラストラの城壁を打ち破った男がいる。彼の力を借りて、兵の損傷をせずに壁を破ろうと思っている。ゼン、いいな?」
「はっ、お任せください」

 俺が恭しく頭を下げると、エアは一つ頷いて話を続けた。

「頼もしい言葉だ。今回は更にヴィート殿の力も借りられる事となった。ヴィート殿のブレスであれば、あの程度の城壁は砂糖菓子のような物らしい。お力を借りても良いですな、ヴィート殿?」
「おう、任せてくれよ!」

 俺の隣でヴィートがエアに向かって握った拳を見せた。
 事前に三侯爵を交えたエアとの話し合いで、今回の城壁破りには俺が出る事になった。攻城兵器に余裕はあるのだが、俺なら一発で城壁を崩せるので、その方が物資的にも兵士的にも消費もせずに済み、良いだろうとの判断だ。
 壁破りに関してはシーレッドが籠城した時から予想出来ていたので、この十日間の間で昔作って貰った爆発槍を自作してある。ダンジョンボスから得られるかなり貴重なエーテル結晶体を使用するが、その代金は後々エゼルの国庫から支払われる約束になっているので問題ない。むしろ、色を付けてくれた事に喜んでしまった。

「では、作戦はレイコック卿から頼む」

 エアが隣に座るレイコック様に声を掛けると、彼はすくりと立ち上がり視線を諸侯へ向けた。

「諸君らよ、作戦は簡単だ。ゼンとヴィート殿が南北に別れ、二か所の壁を破壊する。我々は穴が空き次第、一気に兵を街へ雪崩れ込ませる。だが、諸君らには一つ厳命がある。それは、この戦いでシーレッド兵を根絶やしにする事は禁ずるという事だ」

 レイコック様の言葉に、天幕内にいる諸侯がざわ付きはじめた。

「言いたい事は分かる。今ここでシーレッド兵を全て倒せば今後の戦いは楽になるだろう。だが、それは一時的な物。長い目で見れば、今この地でシーレッド兵を皆殺しにしてしまえば、必ず消える事のない禍根を生み出すことになる。それが、今後の戦いを長引かせ、統治を難しくさせる事は、諸君らならば容易に理解出来るはずだ」

 ここにいる殆どの人が領地を持つ統治のスペシャリスト達だ。そんな彼らだから、レイコック様の言葉を簡単に飲み込んで理解していた。

「何、諸君らは心配する必要ない。敵の半数にはこの地で散ってもらうつもりだ。諸君らの手柄は幾らでも転がっている。むしろ、頑張らんと取りこぼしするほどだろう」

 皆殺しはしないが、それでも半分程度はこの地で死んでもらう。そうじゃないと、今まで戦った意味が薄れるからね。
 まだ作戦の詳細は伝え終わっていないので、話を戻すと思っていると、レイコック様はこう続けた。

「……これはワシを含めてだが、先日の戦いから少し我々は浮かれている。諸君らは分かっていると思うが、今この戦いがエゼルに傾いているのは、すべて彼らが参戦したからだ」

 レイコック様が俺に視線を送った。

「我々は忘れてはならん。敵の将軍があれほど強力だと、予想できなかった事に落ち度があるとはいえ、一度は王に手が掛かろうとしたのだ。気を引き締め直して事に当たってほしい」

 レイコック様が真剣な表情で俺を見つめて頷いた。言葉にはしていないが、そこには感謝の気持ちと今後も頼むという思いが感じられた。
 この場に他の諸侯たちがいなければ、「まっかせてください、報酬分は頑張りますよ!」ぐらいの冗談を言いたいが、真面目な空気が流れるこの場では難しいな。エアに敬語使ってるぐらいだし。

 その後、レイコック様からは追加で作戦内容が伝えられた。
 今回の作戦では、俺とヴィートが攻める北南に諸侯軍が配置され、エアが率いる王軍は西側を抑える事になっている。レイコック様の言葉にあった通り、シーレッド兵を皆殺しにはしないので、開けた東側からお帰りいただくのだ。
 方角的にもシーレッドの王都方向なので、敵は逃げやすいはずだ。
 まあ、この地から東側はラングネル公国が再興してるから、簡単には帰れないだろうけどね。

 とにかく今日は本格的な城攻めだ。
 さっさと終わらせて、エゼル軍をラングネルまで早く進めてもらおう。
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