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第九章 戦役
幕間 続・二つの動き
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アルンは、とある部隊が自分たちに近づいてきている事を、加護の力で捉えていた。
「数は僕たちの少し上です。恰好は少し変でしたね。何やら、冒険者みたいな人が含まれていましたし、シーレッド軍の基本装備とは異なった一団もいました。多分傭兵団だと思います」
アルン見た光景を副長の二人に伝えた。
「なるほど、大方痺れを切らした敵が、直接我々を叩こうとしだしたのでしょう。敵の部隊構成に関しては不明ですが、敵本陣にも戦奴部隊やら、傭兵団はかなりの数がいましたからな。その一部かもしれません」
「数にそれほどの差がなければ、相手をするのも良いか思いますが、アルン殿どうなされますか?」
老兵の言葉に、ヴァンパイアの男が続いた。
「……やりますか。どちらにしてもこちら側に来るのであれば、見過ごす事は出来ません。ドライデン子爵からの援軍は強兵ですし、大丈夫ですよね?」
「隊長の考え通りでいいと思いますぞ」
「同じく。アルン殿の思うように動かれるべきかと」
アルンは副長二人の同意の言葉を聞き頷くと、部隊を動かし始めた。
それからしばらくして、アルンの部隊とセラフィーナの部隊は、お互いを目視できる距離まで近づいていた。だが、周囲は平坦な草原だけではない。林や丘でたびたび姿は視界からはずれる。
その光景を見てセラフィーナは口を開いた。
「戦うには少し面倒な場所ですね……」
「えぇ、ですが、相手は逃げる気はなさそうですね。そろそろ戦いの準備を……セラフィーナ様、楽しいのですか?」
「あの男の弟をこれから八つ裂きに出ると思うと、自然と笑みが出てしまうのです。あぁ……私が味わった何分の一程度でしょうが、あの男に苦痛を与えられると思うと……あぁ……」
セラフィーナは美しい顔を醜く歪ませながら笑った。
彼女の近くに控えていたギルド長は、初めて見せたその顔に、危うさを感じながら言った。
「冒険者達にも用意をさせます故……私は後方に移動します……」
「分かりました。冒険者達には活躍次第で褒美を出すと言いなさい。団長も用意はいいのですか?」
「我が団員ならば、常に準備は整っております」
「そう……。ならば、突撃します。そうだわ、あれを生け捕ったら格別の褒美を出しましょう。私が直接手を下したいのです」
「そのように致しましょう。セラフィーナ様」
セラフィーナの言葉に傭兵団長は薄く笑い答える。その姿を見てギルド長は嘆息をしながら冒険者たちの下へと向かった。
ほどなくして二つの部隊は、正面から接近する形となった。お互い止まる事なく馬を走らせる。
セラフィーナはこれから始まる復讐に、心を燃やしていた。
だがそれは、突然進行方向を変えたアルンの部隊によって、裏切られた形となった。
「なっ! どこに行くのです!!」
思わぬ動きに、セラフィーナが声を荒げると、それに続いて兵士達も罵声を上げた。
進行方向を反転させたアルンの部隊は、セラフィーナの部隊に追われる形になる。
後方からの罵声を聞きながら、老兵の副長が笑みを浮かべながら口を開いた。
「若造どもが何か言っておりますな。それにしても、傭兵共は本当に荒い」
「まあ、その分蛮勇を奮うのが傭兵です。気を抜かずに行きましょう」
ヴァンパイアの副長はそう言うと、会話を聞いていたアルンに軽くうなずいて見せた。
双方の騎兵は、超距離を移動する事を前提としている。よって、共に軽装だ。
それ故に、馬の速度は同程度で、お互いの距離は縮まない。
アルンが叫んだ。
「あの林を右側から迂回します!」
副長の二人はそれに応じ指示を出す。既に何度も行っている作戦だ。兵達は即座に対応していた。
それを追うセラフィーナの部隊も後に続こうとした。だが、それには傭兵団長から声が掛かる。
「セラフィーナ様! 敵の伏兵にご注意を!」
傭兵団長は、左に広がる林の中や、迂回先に伏兵の存在がある事を予想していた。
「分かっていますわ! 左側に注意なさっ――盾ッ!」
セラフィーナが視線を林に向けると、そこには弓兵の姿が見えた。その直後、散発的に矢が降り注ぐ。
「くっ! あの盾さえあれば……」
セラフィーナは、自分の腕に【月下の円盾】がない事を、恨めしがりながら言った。
「セラフィーナ様、ご安心を。敵はどうやらそれほど多くの伏兵を用意できていないようです。飛来した矢は少数。ならば無視して良いでしょう」
「本当に小賢しい真似を……。追いますよ!」
探知スキルという物が存在するこの世界では、自分の周囲にいる存在を、レーダーのように捕捉する事が出来る。だが、スキルレベル3の探知でも、その有効範囲は精々百五十メートル程であり、馬の速度を考えると、伏兵に対応する事は容易ではなかった。
ましてや、今はアルン達を追っている。セラフィーナの側近にも探知スキル持ちはいたが、大して役には立っていなかった。
アルンを捉える事だけを考えるセラフィーナは追い続ける。途中に現れる林では、数度にわたり伏兵による攻撃を受けたが、どれもこれも大した事はなかった。
「一体何をしたいのです! 正々堂々戦いなさい!」
苛立ちを募らせたセラフィーナが叫ぶと、それをなだめるように傭兵団長が口を開いた。
「次の林ではこちらも手を打ちましょう。敵は段々と馬の速度が落ちて来ています。部隊を分けるか、それとも反対側を迂回するか、どのようにいたしましょう!」
「馬鹿正直に弓矢を受ける事はありません。次は反対側から迂回して、速度を上げて敵に全力でぶつかりに行きます! ですが、気付かれたくありません、先頭の兵だけは追わせなさい!」
セラフィーナはそう言うと、林を迂回し始めたアルンの後を追う事を止めて、林の反対側に進路を向けた。セラフィーナの見る限り、アルンが進んで行った方向は迂回をするのには距離がある。馬の速度も落ちているように見えたので、この林を迂回した先で捉えられると確信した。
だが、そんなセラフィーナの思惑とは裏腹に、アルンは伏せていた顔を上げると口を開いた。
「敵が部隊を分けました。少数が追って来ていますが、後方の部隊は、この林の反対側に回っています! 進行方向を林にっ! 抜けます!」
アルンは林を迂回する度に、上空から戦場を俯瞰していた。
数度の陽動作戦は功を奏し、敵は思惑通りの動きを見せていた。
「承知しました、アルン隊長! 貴様ら、林を抜けるぞ!」
アルンの言葉に、老兵の副長が反応を見せる。
すると、部隊はすぐさまそれに呼応して、進路を林に向け出した。
ヴァンパイアの副長が口を開く。
「それでは、我々は追ってきている敵を討ってまいります! すぐに戻りますので、林の中で合流しましょう」
彼はそう言うと、ヴァンパイアの部隊を引きつれて反転していった。
アルン達の部隊は、馬の速度を落としながら林へと入る。
この地に来てから何度か行っている作戦だ。兵達は慣れた物だった。
林の中頃に差し掛かると、老兵が口を開いた。
「アルン隊長は、真面目な性格とは違い、この手の作戦を躊躇なくやりますな」
「そうですね……。確かにズルいかもしれませんが、ゼン兄さんからは、戦争なんて物は、何でも使って、何をしても勝てと教わりましたから」
「ははは、あの御仁なら確かに言いそうですな」
老兵はアルンを落ち着かせるために話しかけていた。だが、それは不要な心配だった。アルンは冷静に返事をすると、加護の力を使い敵の動きを確かめ始めた。
「ヴァンパイア部隊がもうすぐ僕たちに追いつきます。それを待って速度を上げましょう。このままの進路で進めば、敵の将がいそうな場所に当たれます」
「まるで盤上の駒を動かすようですな」
老兵の副長はそう言うと、静かに部隊へ指示を出したのだった。
一方、セラフィーナの部隊は伏兵に注意しながらも、順調に林を迂回していた。
「林の先が見えてきました。そろそろ武器を準備なさい」
セラフィーナはそう言いながら、自身も【天槍雷鳴】を取り出した。
その直後、突然近くにいた側近の一人が声を荒げた。
「て、敵ですっ! 姫様っ!」
探知スキルを持つ彼女は、突如林の中からこちらに向かってくる一団を察知した。まだ少し距離はある。十分に林から離れる時間はあった。だが、周囲を走る馬で囲まれた状態では、それも叶わない。
状況を把握したセラフィーナが、部隊を動かすために命令を下そうとしたその時には、すでに林を抜けてきたアルンの部隊が見えていた。
「なっ! 林を抜けてきただと!」
セラフィーナの様子がおかしい事に気付き、自分の隊から少し離れた傭兵団長が、驚きの声を上げると同時に、アルンの部隊がセラフィーナの部隊を真横から二分した。
「なぜこれほど正確に、横を突けたのだ!」
目の前を通り抜けるアルンの部隊を見て、傭兵団長は声を荒げた。
寸分たがわぬ位置取りが出来たのは、もちろんアルンが持つ加護の力だ。
「セラフィーナ様をお助けするぞ! お前たち、このまま突っ込め!」
傭兵団長が慌てた様子で指示を出した。だが、その瞬間、彼の事を狙っていた水の槍が、正面から飛来して、馬ごと傭兵団長を貫いた。
「ガハッ! な、何だこの魔法はっ!!」
傭兵団長は最期にそう叫び、崩れ落ちた馬ともに地面に転げたのだった。
アーティファクト【天水の杖】で水の槍を飛ばしたアルンは、その確かな手ごたえに、若干興奮した様子を見せながら叫んだ。
「敵将の一人をやれたと思います!」
「お見事! 貴様たち、気合を入れんと、アルン隊長に手柄を全て持って行かれるぞ!」
老兵の副長はそう答えると、周囲の兵達に檄を飛ばした。
セラフィーナの部隊の横っ腹を破ったアルンは、シーレッド王国軍の鎧を着ている一団に狙いを付け、包囲を開始した。
敵味方入り乱れ始めた戦いが始まり、主にヴァンパイア兵達がセラフィーナの私兵を相手する。その他はセラフィーナ部隊の後続にあたる、傭兵部隊を相手していた。
そんな中、ヴァンパイア兵と共に敵将を探すアルンは、その中に見覚えのある人物を見付けた。
「あれは、セラフィーナ姫!? 何でこんな所に!」
「何と! 街を襲ったあの小娘ですな!」
アルンの驚きの声に、老兵の副長が答えた。
「……あれは何としても討つか捕えるかしましょう」
アルンは少し考えた様子を見せると、力強くそう言った。
「ほう、隊長には余り欲がないと思っていたのですが、これは意外!」
老兵は笑いながら弓を番えると、矢を放ちながら言った。
「ここであの人を討てばゼン兄さんが褒めてくれるし、ゼン兄さんを押し上げる力になれますから!」
奴隷から解放されても、アルンの基本的な行動概念は変わっていない。
それは、如何にゼンに褒められ、そして役に立つかだ。
もちろん、妻になったナディーネという存在が一番だ。ゼンから何度もそうしろと言われている。
だが、そこに天秤は存在しない。どちらかを取るかという選択肢は、ゼンからは教わっていないからだ。
アルンの言葉を聞き、ヴァンパイアの副長は赤目をギラリと光らせ、牙を剥きだした。そして、部隊を鼓舞する。
「アルン殿は兄上が大層お好きなようですな! ならば、我々もシラールド様の主殿に貢献できるよう、奮闘いたしましょう! 誇り高き牙を持つ同志たちよ! 我々の力を見せつけてやれ!」
ヴァンパイア兵達が、獣じみた表情をし出すと、牙を剥きだしにして呼応する。
それに引きずられるように老兵の副長も、周囲にいる老兵達に向かって口を開く。
「ふはは、ならば我々も負けられませんな。お主達聞いたな!? 我らのアルン隊長が、あの小娘を所望だ! 手柄を取れば、孫娘を貰ってくれるやもしれんぞ!」
「ちょっ! 僕はナディーネさんだけを愛しますから無理です!」
アルンは戦場の興奮からか、普段は決して言わないであろう事を口走った。
一瞬気の抜けたアルンだったが、すぐに気を引き締めると水の槍を片手に、敵を討っていく。
個人の武でアルンに勝てる存在は、この戦場ではアーティファクトを持つセラフィーナぐらいだろう。
だが、彼女は混乱する戦場で周囲を敵に囲まれ、今はアルンを見つける余裕もなかった。
「よし、これなら!」
アルンが勝利を確信したその瞬間、遠方から何やら音が聞こえてきた。
「弦楽器の音……?」
音に気付いたアルンが一瞬周囲を俯瞰する。
すると、そこにはこちらに近付いてくる少数の部隊があった。
その速度は恐ろしく速い。通常の騎兵の倍はあるだろう。
急いで意識を戻したアルンは、慌てたように声を上げた。
「敵の援軍ですっ! 速いっ!」
敵の援軍は瞬く間にこちらに近付いてくる。
その姿は、全身黒く染め上げた統一された装備に身を包み、皆長槍と盾を手にしている。
騎乗している生物は、馬には見えない。
それは温暖な気候に生息する、騎乗動物としては、飛竜と並ぶと称される、騎竜だった。
その一団が弦楽器の音と共に、猛烈な速度で戦場に現れると、迷うことなくセラフィーナの下へと駆けつけた。
探知スキルを持つセラフィーナの側近が、自分達に近付いてくる部隊を捉えた。一瞬敵の援軍かと思い肝を冷やしたが、すぐにその姿形を見て喜びの表情を浮かべた。
「姫様! 援軍です! あれはメルレイン様!」
彼女が指を差す方向では、アルンの部隊を蹴散らしながら、真っ直ぐに進んでくるメルレインの騎竜隊があった。その勢いは凄まじく、猛烈な速度を維持したまま突き進んでいる。
彼等は全てイレケイ族で形成された部隊で、その一人一人が一部隊を率いて戦えるほどの力を持っている。それを、用兵家と呼ばれるメルレインが率いる事で、戦場では無類の力を見せていた。
僅か五十の小勢ながら、アルンの部隊を蹴散らして、ついにはセラフィーナの目の前まで現れた。
黒い鎧の一団から、一人の男が前に出る。色は同じく黒だが、戦場にはそぐわない軽装に身を包み、手には楽器を持っている。濃い肌の色と、エルフのように長い耳は、まぎれもないイレケイ人の特徴だった。
だが、多くの雄々しいイレケイ人男性とは違い、彼の体付きが細く、顔付きも中性的だ。
その美男ぶりに、セラフィーナの側近達の中には、頬を染めた者もいた。
セラフィーナの表情も明るくなった。だがそれは、単純に使える援軍の登場を喜んだ物だった。
「良い所に来ました、メルレインッ! 今すぐ敵を討ちなさい!」
興奮した様子のセラフィーナを前にして、メルレインは至って冷静な口調で言う。
「セラフィーナ様、王からのご命令です。王都にお戻りください」
メルレインはそう言うと、手にしている弦楽器を打ち鳴らす。
リュートのような形をしたその楽器は、全体的に白く、弦の先頭部分には龍の頭部を象っている。
音が届くと、セラフィーナを中心として周囲の側近に至るまで、騎乗している馬も含めて淡い光に包まれた。
アーティファクト【戦王の龍琴】の力だ。その一端である、『韋駄天』が彼女たちを強化した。
「何を言っているのです! 敵が目の前にいるのに! あの憎い男の弟が目の前にいるのですよ!?」
「私が王より承った指令は、貴方を連れ戻す事です。暗部の件で話があると王から達し。一度本体へ合流し、すぐ王都へとお戻りください」
メルレインの有無を言わさぬ態度に、セラフィーナは表情を厳しくした。
彼はそれを見て、視線をセラフィーナの周囲にいる側近に向けた。
「お前たち、何をしている。王命だと言ったはずだ。セラフィーナ様を連れて王都へ戻りなさい。まさか、我々に手荒な事をさせるつもりなのですか?」
王命という言葉、そして将軍の一人であるメルレインの口から出た言葉に、セラフィーナの側近達が慌てた様子で動き出す。
「貴方達何を!? 離しなさい!」
「姫様、お願いでございます、ここはお引きください!」
「今引かねば、王に逆らったとみなされ、幾らセラフィーナ様でも処罰を受けます!」
暴れるセラフィーナを側近達が掴み、説得を始めた。
「姫様、傭兵団長は死に、ギルド長もどこかへ消えています。我々の部隊は敗北です……」
最後に、最も身近な側近の女がそう言うと、セラフィーナは硬い表情を見せた。
「貴方達が不甲斐ないから……ッ! 分かりましたっ、戻ります! メルレイン案内なさいっ!」
「はっ、引くぞ」
セラフィーナの言葉に、メルレインは短く答えると、騎竜の手綱を握り反転した。
その様子を少し離れた場所で、見ていたアルンが、まだ残る傭兵達を打ち倒しながら叫んだ。
「敵将が逃げます! みなさん追ってください!」
アルンは言い終わると同時に、騎乗するスレイプニールを嗾けて後を追う。
周りに合わせる事なく、全力で駆けるスレイプニールは、逃げるセラフィーナに追いつく勢いを見せていた。
メルレインは視線を後方に向け、アルンを確認すると口を開いた。
「進路をあの丘に向けなさい」
メルレインの示した方向には小高い丘がある。一団は迷う事なくその方向に進路を変えた。
丘を登りきるとメルレインは、後方の確認もせずに言う。
「撃て」
その短い一言で、メルレインの部隊達は矢を放つ。部隊は細かい命令など必要なく、メルレインの意図を汲み取っていたのだ。
「なっ! くっ!」
アルンは兆候もなしに放たれた矢に、驚きながらも水の壁を発生させて凌いだ。
その結果、スレイプニールの速度は落ちる。だが、放たれてきた矢は問題なく防げており、再度速度を上げる事が出来た。
しかし、一度落とした速度では、丘を駆けあがるのには時間がかかった。
そして、相手はすでに丘を下り、先ほどよりも距離があいていた。
それでもアルンは追いかける。だが、巧みな動きで対応され、何度も振り払われる。
これ以上の追跡は無意味だと判断したアルンは、追跡を諦める事にした。
その場に佇むアルンに追い付き、隣りに馬を寄せた老兵の副長が言った。
「うむー、何やら物凄い輩が出てきましたな」
それに答えたのは、ヴァンパイアの副長だった。
「えぇ、少数ながら凄まじい強さでした。我が一族が対応してよかった。辛うじて死なずに済む程度の消耗で済みました」
「……肩口からバッサリと切られていましたが、あれでもヴァンパイア族は死なないのですな」
「我が一族は頑丈ですから。まあ、数カ月は戦えないでしょうが。ん? アルン殿どうなされた?」
アルンは静かに二人の話を聞いていたのだが、その肩が段々と震えだしていた。
「あーっ! もう少しだったのに! 一気に形勢を変えられちゃったな。はぁ……まだまだ僕は駄目だなぁ……」
アルンはあと一歩でセラフィーナを逃した事に、悔しさを口に出した。
その様子に、副長の二人は少し面を食らったが、年相応の姿を見て、微笑みながら慰めの言葉を紡いだのだった。
「数は僕たちの少し上です。恰好は少し変でしたね。何やら、冒険者みたいな人が含まれていましたし、シーレッド軍の基本装備とは異なった一団もいました。多分傭兵団だと思います」
アルン見た光景を副長の二人に伝えた。
「なるほど、大方痺れを切らした敵が、直接我々を叩こうとしだしたのでしょう。敵の部隊構成に関しては不明ですが、敵本陣にも戦奴部隊やら、傭兵団はかなりの数がいましたからな。その一部かもしれません」
「数にそれほどの差がなければ、相手をするのも良いか思いますが、アルン殿どうなされますか?」
老兵の言葉に、ヴァンパイアの男が続いた。
「……やりますか。どちらにしてもこちら側に来るのであれば、見過ごす事は出来ません。ドライデン子爵からの援軍は強兵ですし、大丈夫ですよね?」
「隊長の考え通りでいいと思いますぞ」
「同じく。アルン殿の思うように動かれるべきかと」
アルンは副長二人の同意の言葉を聞き頷くと、部隊を動かし始めた。
それからしばらくして、アルンの部隊とセラフィーナの部隊は、お互いを目視できる距離まで近づいていた。だが、周囲は平坦な草原だけではない。林や丘でたびたび姿は視界からはずれる。
その光景を見てセラフィーナは口を開いた。
「戦うには少し面倒な場所ですね……」
「えぇ、ですが、相手は逃げる気はなさそうですね。そろそろ戦いの準備を……セラフィーナ様、楽しいのですか?」
「あの男の弟をこれから八つ裂きに出ると思うと、自然と笑みが出てしまうのです。あぁ……私が味わった何分の一程度でしょうが、あの男に苦痛を与えられると思うと……あぁ……」
セラフィーナは美しい顔を醜く歪ませながら笑った。
彼女の近くに控えていたギルド長は、初めて見せたその顔に、危うさを感じながら言った。
「冒険者達にも用意をさせます故……私は後方に移動します……」
「分かりました。冒険者達には活躍次第で褒美を出すと言いなさい。団長も用意はいいのですか?」
「我が団員ならば、常に準備は整っております」
「そう……。ならば、突撃します。そうだわ、あれを生け捕ったら格別の褒美を出しましょう。私が直接手を下したいのです」
「そのように致しましょう。セラフィーナ様」
セラフィーナの言葉に傭兵団長は薄く笑い答える。その姿を見てギルド長は嘆息をしながら冒険者たちの下へと向かった。
ほどなくして二つの部隊は、正面から接近する形となった。お互い止まる事なく馬を走らせる。
セラフィーナはこれから始まる復讐に、心を燃やしていた。
だがそれは、突然進行方向を変えたアルンの部隊によって、裏切られた形となった。
「なっ! どこに行くのです!!」
思わぬ動きに、セラフィーナが声を荒げると、それに続いて兵士達も罵声を上げた。
進行方向を反転させたアルンの部隊は、セラフィーナの部隊に追われる形になる。
後方からの罵声を聞きながら、老兵の副長が笑みを浮かべながら口を開いた。
「若造どもが何か言っておりますな。それにしても、傭兵共は本当に荒い」
「まあ、その分蛮勇を奮うのが傭兵です。気を抜かずに行きましょう」
ヴァンパイアの副長はそう言うと、会話を聞いていたアルンに軽くうなずいて見せた。
双方の騎兵は、超距離を移動する事を前提としている。よって、共に軽装だ。
それ故に、馬の速度は同程度で、お互いの距離は縮まない。
アルンが叫んだ。
「あの林を右側から迂回します!」
副長の二人はそれに応じ指示を出す。既に何度も行っている作戦だ。兵達は即座に対応していた。
それを追うセラフィーナの部隊も後に続こうとした。だが、それには傭兵団長から声が掛かる。
「セラフィーナ様! 敵の伏兵にご注意を!」
傭兵団長は、左に広がる林の中や、迂回先に伏兵の存在がある事を予想していた。
「分かっていますわ! 左側に注意なさっ――盾ッ!」
セラフィーナが視線を林に向けると、そこには弓兵の姿が見えた。その直後、散発的に矢が降り注ぐ。
「くっ! あの盾さえあれば……」
セラフィーナは、自分の腕に【月下の円盾】がない事を、恨めしがりながら言った。
「セラフィーナ様、ご安心を。敵はどうやらそれほど多くの伏兵を用意できていないようです。飛来した矢は少数。ならば無視して良いでしょう」
「本当に小賢しい真似を……。追いますよ!」
探知スキルという物が存在するこの世界では、自分の周囲にいる存在を、レーダーのように捕捉する事が出来る。だが、スキルレベル3の探知でも、その有効範囲は精々百五十メートル程であり、馬の速度を考えると、伏兵に対応する事は容易ではなかった。
ましてや、今はアルン達を追っている。セラフィーナの側近にも探知スキル持ちはいたが、大して役には立っていなかった。
アルンを捉える事だけを考えるセラフィーナは追い続ける。途中に現れる林では、数度にわたり伏兵による攻撃を受けたが、どれもこれも大した事はなかった。
「一体何をしたいのです! 正々堂々戦いなさい!」
苛立ちを募らせたセラフィーナが叫ぶと、それをなだめるように傭兵団長が口を開いた。
「次の林ではこちらも手を打ちましょう。敵は段々と馬の速度が落ちて来ています。部隊を分けるか、それとも反対側を迂回するか、どのようにいたしましょう!」
「馬鹿正直に弓矢を受ける事はありません。次は反対側から迂回して、速度を上げて敵に全力でぶつかりに行きます! ですが、気付かれたくありません、先頭の兵だけは追わせなさい!」
セラフィーナはそう言うと、林を迂回し始めたアルンの後を追う事を止めて、林の反対側に進路を向けた。セラフィーナの見る限り、アルンが進んで行った方向は迂回をするのには距離がある。馬の速度も落ちているように見えたので、この林を迂回した先で捉えられると確信した。
だが、そんなセラフィーナの思惑とは裏腹に、アルンは伏せていた顔を上げると口を開いた。
「敵が部隊を分けました。少数が追って来ていますが、後方の部隊は、この林の反対側に回っています! 進行方向を林にっ! 抜けます!」
アルンは林を迂回する度に、上空から戦場を俯瞰していた。
数度の陽動作戦は功を奏し、敵は思惑通りの動きを見せていた。
「承知しました、アルン隊長! 貴様ら、林を抜けるぞ!」
アルンの言葉に、老兵の副長が反応を見せる。
すると、部隊はすぐさまそれに呼応して、進路を林に向け出した。
ヴァンパイアの副長が口を開く。
「それでは、我々は追ってきている敵を討ってまいります! すぐに戻りますので、林の中で合流しましょう」
彼はそう言うと、ヴァンパイアの部隊を引きつれて反転していった。
アルン達の部隊は、馬の速度を落としながら林へと入る。
この地に来てから何度か行っている作戦だ。兵達は慣れた物だった。
林の中頃に差し掛かると、老兵が口を開いた。
「アルン隊長は、真面目な性格とは違い、この手の作戦を躊躇なくやりますな」
「そうですね……。確かにズルいかもしれませんが、ゼン兄さんからは、戦争なんて物は、何でも使って、何をしても勝てと教わりましたから」
「ははは、あの御仁なら確かに言いそうですな」
老兵はアルンを落ち着かせるために話しかけていた。だが、それは不要な心配だった。アルンは冷静に返事をすると、加護の力を使い敵の動きを確かめ始めた。
「ヴァンパイア部隊がもうすぐ僕たちに追いつきます。それを待って速度を上げましょう。このままの進路で進めば、敵の将がいそうな場所に当たれます」
「まるで盤上の駒を動かすようですな」
老兵の副長はそう言うと、静かに部隊へ指示を出したのだった。
一方、セラフィーナの部隊は伏兵に注意しながらも、順調に林を迂回していた。
「林の先が見えてきました。そろそろ武器を準備なさい」
セラフィーナはそう言いながら、自身も【天槍雷鳴】を取り出した。
その直後、突然近くにいた側近の一人が声を荒げた。
「て、敵ですっ! 姫様っ!」
探知スキルを持つ彼女は、突如林の中からこちらに向かってくる一団を察知した。まだ少し距離はある。十分に林から離れる時間はあった。だが、周囲を走る馬で囲まれた状態では、それも叶わない。
状況を把握したセラフィーナが、部隊を動かすために命令を下そうとしたその時には、すでに林を抜けてきたアルンの部隊が見えていた。
「なっ! 林を抜けてきただと!」
セラフィーナの様子がおかしい事に気付き、自分の隊から少し離れた傭兵団長が、驚きの声を上げると同時に、アルンの部隊がセラフィーナの部隊を真横から二分した。
「なぜこれほど正確に、横を突けたのだ!」
目の前を通り抜けるアルンの部隊を見て、傭兵団長は声を荒げた。
寸分たがわぬ位置取りが出来たのは、もちろんアルンが持つ加護の力だ。
「セラフィーナ様をお助けするぞ! お前たち、このまま突っ込め!」
傭兵団長が慌てた様子で指示を出した。だが、その瞬間、彼の事を狙っていた水の槍が、正面から飛来して、馬ごと傭兵団長を貫いた。
「ガハッ! な、何だこの魔法はっ!!」
傭兵団長は最期にそう叫び、崩れ落ちた馬ともに地面に転げたのだった。
アーティファクト【天水の杖】で水の槍を飛ばしたアルンは、その確かな手ごたえに、若干興奮した様子を見せながら叫んだ。
「敵将の一人をやれたと思います!」
「お見事! 貴様たち、気合を入れんと、アルン隊長に手柄を全て持って行かれるぞ!」
老兵の副長はそう答えると、周囲の兵達に檄を飛ばした。
セラフィーナの部隊の横っ腹を破ったアルンは、シーレッド王国軍の鎧を着ている一団に狙いを付け、包囲を開始した。
敵味方入り乱れ始めた戦いが始まり、主にヴァンパイア兵達がセラフィーナの私兵を相手する。その他はセラフィーナ部隊の後続にあたる、傭兵部隊を相手していた。
そんな中、ヴァンパイア兵と共に敵将を探すアルンは、その中に見覚えのある人物を見付けた。
「あれは、セラフィーナ姫!? 何でこんな所に!」
「何と! 街を襲ったあの小娘ですな!」
アルンの驚きの声に、老兵の副長が答えた。
「……あれは何としても討つか捕えるかしましょう」
アルンは少し考えた様子を見せると、力強くそう言った。
「ほう、隊長には余り欲がないと思っていたのですが、これは意外!」
老兵は笑いながら弓を番えると、矢を放ちながら言った。
「ここであの人を討てばゼン兄さんが褒めてくれるし、ゼン兄さんを押し上げる力になれますから!」
奴隷から解放されても、アルンの基本的な行動概念は変わっていない。
それは、如何にゼンに褒められ、そして役に立つかだ。
もちろん、妻になったナディーネという存在が一番だ。ゼンから何度もそうしろと言われている。
だが、そこに天秤は存在しない。どちらかを取るかという選択肢は、ゼンからは教わっていないからだ。
アルンの言葉を聞き、ヴァンパイアの副長は赤目をギラリと光らせ、牙を剥きだした。そして、部隊を鼓舞する。
「アルン殿は兄上が大層お好きなようですな! ならば、我々もシラールド様の主殿に貢献できるよう、奮闘いたしましょう! 誇り高き牙を持つ同志たちよ! 我々の力を見せつけてやれ!」
ヴァンパイア兵達が、獣じみた表情をし出すと、牙を剥きだしにして呼応する。
それに引きずられるように老兵の副長も、周囲にいる老兵達に向かって口を開く。
「ふはは、ならば我々も負けられませんな。お主達聞いたな!? 我らのアルン隊長が、あの小娘を所望だ! 手柄を取れば、孫娘を貰ってくれるやもしれんぞ!」
「ちょっ! 僕はナディーネさんだけを愛しますから無理です!」
アルンは戦場の興奮からか、普段は決して言わないであろう事を口走った。
一瞬気の抜けたアルンだったが、すぐに気を引き締めると水の槍を片手に、敵を討っていく。
個人の武でアルンに勝てる存在は、この戦場ではアーティファクトを持つセラフィーナぐらいだろう。
だが、彼女は混乱する戦場で周囲を敵に囲まれ、今はアルンを見つける余裕もなかった。
「よし、これなら!」
アルンが勝利を確信したその瞬間、遠方から何やら音が聞こえてきた。
「弦楽器の音……?」
音に気付いたアルンが一瞬周囲を俯瞰する。
すると、そこにはこちらに近付いてくる少数の部隊があった。
その速度は恐ろしく速い。通常の騎兵の倍はあるだろう。
急いで意識を戻したアルンは、慌てたように声を上げた。
「敵の援軍ですっ! 速いっ!」
敵の援軍は瞬く間にこちらに近付いてくる。
その姿は、全身黒く染め上げた統一された装備に身を包み、皆長槍と盾を手にしている。
騎乗している生物は、馬には見えない。
それは温暖な気候に生息する、騎乗動物としては、飛竜と並ぶと称される、騎竜だった。
その一団が弦楽器の音と共に、猛烈な速度で戦場に現れると、迷うことなくセラフィーナの下へと駆けつけた。
探知スキルを持つセラフィーナの側近が、自分達に近付いてくる部隊を捉えた。一瞬敵の援軍かと思い肝を冷やしたが、すぐにその姿形を見て喜びの表情を浮かべた。
「姫様! 援軍です! あれはメルレイン様!」
彼女が指を差す方向では、アルンの部隊を蹴散らしながら、真っ直ぐに進んでくるメルレインの騎竜隊があった。その勢いは凄まじく、猛烈な速度を維持したまま突き進んでいる。
彼等は全てイレケイ族で形成された部隊で、その一人一人が一部隊を率いて戦えるほどの力を持っている。それを、用兵家と呼ばれるメルレインが率いる事で、戦場では無類の力を見せていた。
僅か五十の小勢ながら、アルンの部隊を蹴散らして、ついにはセラフィーナの目の前まで現れた。
黒い鎧の一団から、一人の男が前に出る。色は同じく黒だが、戦場にはそぐわない軽装に身を包み、手には楽器を持っている。濃い肌の色と、エルフのように長い耳は、まぎれもないイレケイ人の特徴だった。
だが、多くの雄々しいイレケイ人男性とは違い、彼の体付きが細く、顔付きも中性的だ。
その美男ぶりに、セラフィーナの側近達の中には、頬を染めた者もいた。
セラフィーナの表情も明るくなった。だがそれは、単純に使える援軍の登場を喜んだ物だった。
「良い所に来ました、メルレインッ! 今すぐ敵を討ちなさい!」
興奮した様子のセラフィーナを前にして、メルレインは至って冷静な口調で言う。
「セラフィーナ様、王からのご命令です。王都にお戻りください」
メルレインはそう言うと、手にしている弦楽器を打ち鳴らす。
リュートのような形をしたその楽器は、全体的に白く、弦の先頭部分には龍の頭部を象っている。
音が届くと、セラフィーナを中心として周囲の側近に至るまで、騎乗している馬も含めて淡い光に包まれた。
アーティファクト【戦王の龍琴】の力だ。その一端である、『韋駄天』が彼女たちを強化した。
「何を言っているのです! 敵が目の前にいるのに! あの憎い男の弟が目の前にいるのですよ!?」
「私が王より承った指令は、貴方を連れ戻す事です。暗部の件で話があると王から達し。一度本体へ合流し、すぐ王都へとお戻りください」
メルレインの有無を言わさぬ態度に、セラフィーナは表情を厳しくした。
彼はそれを見て、視線をセラフィーナの周囲にいる側近に向けた。
「お前たち、何をしている。王命だと言ったはずだ。セラフィーナ様を連れて王都へ戻りなさい。まさか、我々に手荒な事をさせるつもりなのですか?」
王命という言葉、そして将軍の一人であるメルレインの口から出た言葉に、セラフィーナの側近達が慌てた様子で動き出す。
「貴方達何を!? 離しなさい!」
「姫様、お願いでございます、ここはお引きください!」
「今引かねば、王に逆らったとみなされ、幾らセラフィーナ様でも処罰を受けます!」
暴れるセラフィーナを側近達が掴み、説得を始めた。
「姫様、傭兵団長は死に、ギルド長もどこかへ消えています。我々の部隊は敗北です……」
最後に、最も身近な側近の女がそう言うと、セラフィーナは硬い表情を見せた。
「貴方達が不甲斐ないから……ッ! 分かりましたっ、戻ります! メルレイン案内なさいっ!」
「はっ、引くぞ」
セラフィーナの言葉に、メルレインは短く答えると、騎竜の手綱を握り反転した。
その様子を少し離れた場所で、見ていたアルンが、まだ残る傭兵達を打ち倒しながら叫んだ。
「敵将が逃げます! みなさん追ってください!」
アルンは言い終わると同時に、騎乗するスレイプニールを嗾けて後を追う。
周りに合わせる事なく、全力で駆けるスレイプニールは、逃げるセラフィーナに追いつく勢いを見せていた。
メルレインは視線を後方に向け、アルンを確認すると口を開いた。
「進路をあの丘に向けなさい」
メルレインの示した方向には小高い丘がある。一団は迷う事なくその方向に進路を変えた。
丘を登りきるとメルレインは、後方の確認もせずに言う。
「撃て」
その短い一言で、メルレインの部隊達は矢を放つ。部隊は細かい命令など必要なく、メルレインの意図を汲み取っていたのだ。
「なっ! くっ!」
アルンは兆候もなしに放たれた矢に、驚きながらも水の壁を発生させて凌いだ。
その結果、スレイプニールの速度は落ちる。だが、放たれてきた矢は問題なく防げており、再度速度を上げる事が出来た。
しかし、一度落とした速度では、丘を駆けあがるのには時間がかかった。
そして、相手はすでに丘を下り、先ほどよりも距離があいていた。
それでもアルンは追いかける。だが、巧みな動きで対応され、何度も振り払われる。
これ以上の追跡は無意味だと判断したアルンは、追跡を諦める事にした。
その場に佇むアルンに追い付き、隣りに馬を寄せた老兵の副長が言った。
「うむー、何やら物凄い輩が出てきましたな」
それに答えたのは、ヴァンパイアの副長だった。
「えぇ、少数ながら凄まじい強さでした。我が一族が対応してよかった。辛うじて死なずに済む程度の消耗で済みました」
「……肩口からバッサリと切られていましたが、あれでもヴァンパイア族は死なないのですな」
「我が一族は頑丈ですから。まあ、数カ月は戦えないでしょうが。ん? アルン殿どうなされた?」
アルンは静かに二人の話を聞いていたのだが、その肩が段々と震えだしていた。
「あーっ! もう少しだったのに! 一気に形勢を変えられちゃったな。はぁ……まだまだ僕は駄目だなぁ……」
アルンはあと一歩でセラフィーナを逃した事に、悔しさを口に出した。
その様子に、副長の二人は少し面を食らったが、年相応の姿を見て、微笑みながら慰めの言葉を紡いだのだった。
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