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第九章 戦役

八話 黒衣の少女

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 花のダンジョンを攻略した俺達は、一路進路を北へ向けた。
 先ほどまで、戦闘機のような高速飛行をしていたポッポちゃんは、今は俺の腕の中で休憩中だ。
 ポッポちゃんは周りをキョロキョロと見回すと、俺を見上げて「ここは知ってるところなのよ!」とクルゥと元気に鳴いている。

「そうだね。ここに来るのは……何年ぶりだ?」

 俺がそう言うと、隣にいたアニアも顎に手を当てて考えている。

「たしか、七年……なのです? あの時は私が十才か十一才だったから、それぐらいなのです」

 もうそんな経つのか……。でも、かなり濃厚な時間を過ごしているからか、思い出がやたらと頭の中を通り過ぎていく。感傷的な気分になるな。
 それはアニアも同じようで、俺と目が合うと優しく笑った。

 俺達は今、イヴリンの街に入る列に並んでいる。
 この街は、この世界に転生してから初めて訪れた大きな街で、奴隷となったナディーネを助けだし、その時に一緒の檻の中にいたアニア、アルンと出会った場所でもある。

「私より小さい時に、アニアママはパパと出会ったの?」

 アニアと手をつないでいるユスティーナが、アニアに質問をしている。

「そうなのです。奴隷だった私を、ゼン様が助けてくれたのです。あの時のゼン様は、まだ子供だったのに、それはそれは聡明だったのです!」
「へー、パパって子供の頃からこんな感じだったの?」
「そうなのです。……そう考えると、ゼン様って、外見は男の人になったけど、あまり雰囲気が変わりませんね?」

 アニアが不思議そうな顔をして俺を見た。
 ごめんよ、自分でも分かってる。中身が成長してないんだ……

 アニアの質問には愛想笑いで応え、俺達は街へ入る審査を受ける。
 戦時だからか、昔のように簡単には入れないようで、身体検査はないのだが、荷物のチェックだけはされた。マジックボックス持ちも、中身を一度出せと言われる始末で、ラーレと彼女に付いている奴隷の二人以外は、その中身を見せる事になった。
 一般的に出回っているマジックボックスは、一立方メートルがその容量になっている。
 警備兵に差し出された箱は、丁度その大きさで、その中を満たして審査に通れば、とりあえず入れてくれるらしい。

「あー、もうやんなっちゃう! 下着まで見られたよ……」

 セシリャがお怒りだ。彼女のマジックボックスは普通の物なので、アニアのように食べ物等で箱を満たす事が出来なかったんだ。
 それにしても、セシリャが一番審査の時間が掛かった。もしかして、可愛いからちょっかいを出されていたのか?

「次通る時は私のマジックボックスに入れておくのです。それにしても、セシリャさん、何時の間にあんな派手な下着を……」
「ちょっ! アニアちゃん、声が大きいから!」

 俺は見る事が出来なかったが、そんな派手な物を持っているのか……。何時使う気なんだよ。
 まあ、アニアにオシャレを教えたのはセシリャだ。そんな物を持っていてもおかしくはないか。
 アニアが常時良い香りを発しているのは、彼女のお陰な事を思いだし、今日の夕食は奮発してやろうと心に決めた。

 俺達はまずはまっすぐに宿を目指す。
 この宿は、以前も泊まった事のある風呂に入れる高級宿だ。そういえば、あの時はキャスと来たんだよな。
 そんな事を思い出しながら宿の前に着くと、警備の男がドアを開けてくれる。昔は靴を履いてなかったから、難癖を付けられたなと、また昔を思い出した。

「いらっしゃいませ。九人様で御座いますね?」

 俺達を出迎えたのは、以前と同じ支配人の男だった。たしか名前は……忘れたぞ……
 彼も俺の事は分からないみたいだし良いだろう。

 部屋に案内される事になった俺は、まずラーレの部屋を選択する事にした。

「良い部屋じゃない。ここでなら何日でも待っていられるわ」

 ラーレはそう言いながら、部屋に置かれた調度品などをチェックしている。
 彼女の部屋は四人部屋だ。ラーレの他にも二人の奴隷がいるので、大きめな部屋を割り当てる。
 この街に来た一番の理由は、彼女の居場所作りだ。
 まだダンジョンを攻略するので、当分の間この宿に籠もってもらう。

「ラーレ様、窮屈だと思いますが、少しの間我慢してください」
「別に構わないわよ。だって、私は数年あの宮殿に閉じ込められていたんですから。それに、ダンジョンの中に入るより全然いいわ。私は戦えないんだから、本当に怖い思いをしたのよ?」
「ははは、でも貴重な体験でしたでしょ?」
「貴方……全く反省してないでしょ……」

 旅の仲間になったからか、ラーレも結構気安くなってきた。いや、俺が気安いだけか。

 彼女はこれで宿に籠もる事になる。まあ、数日に一度は街に出る事は許可している。
 ラーレなら耳を隠せば日焼けをした巨乳美女だ。イレケイ族の事は門の審査をしていた警備兵も分からなかったみたいだから、問題ないだろう。
 あの場所まで馬車だと月単位の距離があるから、この街の警備兵は多分行った事はないし、大して知りもしないのだろう。


 まだエゼル王国軍は、西の方にいるのでこの周辺は戦場にはなっていない。
 だが、少しだけキャス達の事が気になったので、様子を見に行く事にした。
 ポッポちゃんならば、一時間も掛からない距離だからね。

 辿り着いた村の様子は、以前と変わらない。戦時とは思えぬ、のどかな風景が広がっていた。
 早速キャスに会いにいき話を聞いたが、募兵はあったが強制的な物ではなかったらしい。
 こんな開拓地で人手を奪ったら、立ち行かなくなるからだろう。
 キャスにお土産を渡しながらお茶を楽しむ。

「ゼン君は羽振り良いわね……。そんなに儲けてるの?」
「まあ、貧乏貴族よりかは稼いでるぐらいじゃない?」

 実際、自分が他と比例してどれほど稼げているかは分からない。
 だが、少なくとも男爵程度の財力はあるだろう。
 ただ、現段階では持っているマジックアイテムを現金化しないと、それは嘘になりそうだ。

「はぁ~……。だったら、ランドルが稼げなくなったら、彼を雇ってよ?」
「別に良いよ。ランドルさん元貴族だし読み書き余裕でしょ? 商売人にクラスチェンジしてもらうかな」
「本当に簡単に言うわね。もしかして私、あの時ゼン君を囲ってた方が良かったのかしら?」
「子供の世話しながら何言ってんだよ……」

 人妻になって、ちょっとおばちゃんが入ってきてるぞ!

 話も大分尽きてきた頃、俺はある事を思い出した。

「あぁ、そういえば、コリーンちゃんには会ってなかったんだよな。あの子元気?」
「えっ!? えぇ……ある意味、元気よ」
「前にも言いよどんでたけど、何か俺に言えない事でもあるの?」

 キャスの明らかに動揺した様子に俺が返すと、彼女は目を閉じて考え込んでしまった。

「う~ん、そうじゃないんだけどねえ。まだ日が高いんだから、直接会ってきたら? 村の中にはいるはずよ」
「何だか怖いんだけど……」
「自分の目で確かめてきて。私からは何とも言えないわ」

 何やらキャスの歯切れが悪い。
 そこまで悪い事は起きてはいないそうだが、もしかしてグレちゃったりしたのか?
 コリーンちゃんは確かミラベルと同い年だから、今は十二才ぐらいか?
 ちょっとまだ早そうだけど、どうだろうか……

 一抹の不安を抱えたまま、俺はキャスの家を出て村を少し回る事にした。
 とりあえず、まずはコリーンちゃんの家を訪ねてみる。
 そこは、以前と変わらぬ裁縫店。
 家の周りにある植物が伸びているので、少しだけ印象は変わっていた。
 軽くドアのノックしてから開けてみる。するとそこには、少し歳を重ねたコーリンちゃんの母親、フラニーの姿があった。

「いらっしゃ……あら? 村の人じゃないのね。んっ!? 貴方もしかしてゼン君?」
「お久しぶりです、フラニーさん。みんな俺だって分かるんですね」
「分かるわよー、もうやだわ、逞しくなちゃって。何その太い腕、昔はあんなに細かったのにね」

 彼女には昔俺の服を作ってもらった事があり、当時は身体のサイズを測られていた。だから、俺の変わりようが分かるのか、俺の腕を両手で掴んで笑っている。

「コリーンちゃんは元気ですか?」
「えぇ……まあ元気よ」

 コリーンちゃんの名前を出すと、フラニーは少し言いよどんだ。
 表情も一瞬曇ったところを見ると、キャスが気にしていたように、何かあるのだろう。

「……もしかして、コリーンちゃんグレちゃいました?」
「うーん……何というか……。あの子なら今は村の中にいるだろうから、ゼン君が直接会ってきて」

 また、これか。本当にコリーンちゃんに何が起こっているんだ……?

 釈然としないまま、俺はコリーンちゃんを探すために村を回る事にした。
 ポッポちゃんがいれば村の上空から探せるのだが、今は美味しい物を探しに出かけている。
 もう少ししないと帰ってこないだろうから、俺は村を少し回ってみる事にした。

 村は本当にのどかな農村といった様子だ。
 日中なので、村の人達は主に村の外で畑仕事をしている。だからだろう、人の気配は少ない。

 さほど広くもない村なので、道を歩いているとすぐに七割方を歩いてしまった。
 村の外に出ているのかと思いながら歩いていると、ふと視線の先に黒い服を着た人影が見えた。
 黒い服は珍しい。ない訳ではないのだが、村の人達はもっと明るい色の服を着ている事がほとんどだ。明らかにその人物の服装は、村の様子からは浮いていた。

 俺が進む道を向こうも進んでくる。
 段々と近付いてくる人影は、今はもう表情も見られる距離にある。
 余りジロジロ見るのも何なので、ちらりとその顔を確認してみると、何となく見た事のある顔をしていた。
 まさかと思いながら、注意深く顔を見てみると、黒い服の人物は俺の探していたコリーンちゃんだった。俺はその意外な服装に、思わず声を上げてしまった。

「えっ!? コリーンちゃん!?」

 俺が驚いて声を上げると、大分近付いていたコリーンちゃんであろう人物が立ち止まった。
 その表情は明らかに警戒心を持っている。
 険しい瞳が俺を捉え、重心を後方に移し、何時でも逃げられる体勢と取っている。

「ちょっと待った! 俺の事覚えてない!? ゼンだよ、昔君を森から連れて帰ってきたゼン!」

 不審者扱いをされて、俺は焦って声を上げた。
 彼女は身体の姿勢を維持したまま、俺の顔を注意深く見ている。
 ややあって、彼女が口を開いた。

「……あの、昔私を助けてくれたゼンさん?」
「そうそう、君が小さかった時に会ってるよね? その後も会ってると思うんだけど、覚えてないかな?」

 彼女が俺を覚えていないのも無理もない。彼女に最後に会ったのは、何年も前だ。それも、すぐに帰ってしまった。
 当時も、フラニーさんが説明をしないと思い出さなかったのだ。
 俺だって前世では、生涯で数度しか会った事のないような遠縁の親戚は、ほとんど覚えていなかった。そんな感覚だろう。

「覚えてます……。その節は、どうもありがとうございました」
「いやー、大きくなったね。それに可愛くなった。その服も奇抜だけど似合ってる」

 まだ少し警戒心を感じるが、とりあえず覚えていてくれた事に胸を撫で下ろした。
 そして、俺はまだある警戒心を解くために、とにかく褒めろ作戦に出る事にした。

「……この服、変だと思わないんですか?」
「あまりこの辺では見ないけど、俺も黒いマントとか持ってるし、そのレースとか可愛いじゃん?」

 彼女の服装は所謂ゴスロリってやつに似ている。
 白いワンピースを下地に、その上に真っ黒の短いカーディガンを着込んだような形をしており、所々にレースが添えられている。胸の辺りは白い生地が見えており、そこでは黒い紐が交差していた。
 この手の服装では良くある傘は持っていないようだが、生憎とあれはかなり高いから、彼女には手に入れるには難しそうだ。
 とにかく、コリーンちゃんは普通の村娘がする格好をしていなかった。

「ゼンさんは、分かる方のようですね……」

 コリーンちゃんはそう言うと、俺の方へと綺麗な足取りで近付いてきた。

「うん……?」

 何が”分かる”なのかが分からない。
 だが、警戒心は解いてくれたようだ。
 コリーンちゃんは目の前に来ると、俺の格好を注意深く見つめ出した。

「素晴らしい装飾の腕輪ですね……。それに、この服の生地は高いのでは……?」

 今の俺は鎧を着ていない。
 それでも【ヘラルドグリーブ】や、マジックボックスなどのアクセサリ類は付けている。
 服に関しては、アニアが選んでくれた物だ。
 コリーンちゃんが言う通り、それなりに値が張る生地から作られている。
 だって、金はあるんだ。着心地が良いものを買うだろ。

 服装チェックを続けるコリーンちゃんの瞳が、俺が身に着ける装飾品に留まる。
 特に、アーティファクトである指輪の【魔道士の盾】や、マジックボックスを注目している。

「これがそんなに気になるの?」
「マジックアイテムですよね? 力を感じます……」

 なかなかの観察眼だ。
 その目を讃えて、俺は【魔道士の盾】を展開してみせた。

「ッ! こ、これは……!」

 コリーンちゃんは身体を引くほど驚くと、魔道士の盾が生み出した障壁に目を注ぐ。
 そして、口をワナワナとさせながら言った。

「光神の盾!? いえ……あれは失われたはず……」
「いや、これは魔道士の盾って名前だけど」
「分かっていますっ! 名前を隠さないとならないのですね?」

 今まで笑みを見せなかったコリーンちゃんが、ニヤリと笑って見せた。
 成長して可愛く育っているコリーンちゃんだが、その笑顔は何だか含みがあり、素直に可愛いとは言えなかった。
 だが、再会してから初めて見せてくれた笑顔だ。俺は少し気を良くして、口を開いた。

「……そんなに喜んでくれるなら、こんなのは好き?」

 俺はマジックボックスから、ダンジョンドロップ品を取り出す。再生の神のダンジョンで手に入れた、小さな水晶の玉だ。
 台座に取り付けられていて、魔力を込めると明かりが付く単純な魔道具で、アンデットが落としたからか、デザインはちょっと禍々しい。
 だが、鑑定の結果では光る以外の効果はない事は確認済みだ。

「不死王の……秘宝……ですか?」
「いや、単なる明かりみたいだよ」
「なるほど、今はその力を溜めている状態なのですね」

 またコリーンちゃんが笑った。
 今度はちょっと息が荒くなってきている。

 次に取り出したのは、大空の神のダンジョンで手に入れた【風牙の指輪】という物だ。
 名前の通り、着けると風の牙とやらを撃てる。
 まあ、魔法技能レベル1の魔法と同程度の攻撃力だから、俺らには不要な物だった。

 これならそれほど危険もないので、本人に身に着けさせて撃たせてみた。

「は、あはは。力っ! これが私に秘められた力っ!」

 コリーンちゃんはとても興奮した様子で風牙を撃っている。とても楽しそうだ。

 最後に花のダンジョンでドロップした、【バラのバレッタ】を見せてみた。
 これもそれほど大した物ではない。MPの上限を20ほど増やす程度だ。

「は、早く着けてください!」
「わ、分かったから落ち着いてな?」

 彼女は俺への警戒心が全くなくなったのか、俺を胸倉を掴んでは、見上げる形で早く着けろとせがんできた。鼻息が荒い……。まじでどんだけ興奮してんだよ。

 ひとしきり魔道具を楽しんだコリーンちゃんが、名残惜しそうに返却をしてきた。

「ゼンお兄様が、これほどまでの魔道具をお持ちとは……」

 いつの間にか俺の呼び名が変わっていた。何だろう、このむず痒さは。

「それにしても、ここまでマジックアイテムに興味があるとはね。服装もそうだけど、職人にでもなる気?」

 何となくあの病気の匂いもするが、まだ許容範囲だろう。
 家は服飾業だし、服装や装飾への興味やこだわりがあってもおかしくはない。
 俺がそんな事を思いながら返答を待っていると、コリーンちゃんがおもむろに口を開いた。

「実は、とある竜侯爵から依頼を受けていまして、魔竜生命体との戦いを備え、その為の武器を探しているのです」
「魔竜生命体……?」
「ゼンお兄様、知らないのですか? 魔竜生命体を……”レギオン”……そう、この世界は今……その”レギオン”に狙われているの……」

 めちゃめちゃレギオンを強調するな……
 それに、魔竜生命体って何だよ。一度も聞いた事のない名前だぞ。

「その、魔竜生命体ってのはどんなやつなの?」
「それは竜侯爵様しか、まだ知りません」
「じゃあ、竜侯爵ってのはどこにいるの?」
「竜侯爵様は永い眠りに就いてしまったために、会う事は難しいのです」

 なるほど、俺と別れた後はコリーンちゃんもハードな人生を歩んできたんだな。

「その竜侯爵ってのは古竜なの? それなら知り合いに古竜がいるから詳しく話を聞いてみるけど」
「……えっ!? 古竜に知り合い……?」
「うん、俺の家に住み着いてるのがいるから、その子らに聞けば何となくは分かると思うんだよね。それに、長老みたいな人とも伝手があるから、そこからも話が聞けると思うんだ」
「そ、そうですかっ! それは……」

 コリーンちゃんが動揺し始めた。
 初めの段階で分かっていたさ……
 これ思いっきりフリッツ病じゃねえか!!

 激しい動揺を見せ始めたコリーンちゃんは、先ほどまでは自信満々に俺を見つめていた瞳を、キョロキョロとさせている。
 どう考えても、今までの発言は病気によるものだろう。
 だが「それはお前の妄想だろ」と突っ込むのが可愛そうだ。仕方ない、乗ってやるか。

「でもあれか、俺も知らないってなると、この周辺の竜じゃないのかもね。もしかしたら、別大陸の可能性もあるのか……」
「そ、そうなのっ! 別大陸から来たって言ってたかも!」

 うんうん、ホッと胸を撫で下ろして可愛いねえ。
 てか、キャスとフラニーさんが言いよどんでいたのは、これのせいかよ……
 グレちゃったのかと心配して損したわ。

 まあ、ここまで付き合ったんだ、もう少しサービスしてやるか。

「……コリーン。君は合格だよ……」

 俺は目を瞑り、少しうつむき加減で拍手をしながらそう言った。

「ゼンお兄様……?」
「俺は合格だと言った」
「ッ! まさか、私を試していたのですか!?」
「あぁ、君が何処まで”理解”しているか、試したかったんだ」

 目を開けてコリーンちゃんの瞳を覗くと、彼女の瞳に若干の潤いが見えた。

「この世界の”真実”……を、ですね……」
「そうだ。合格した君には、先程のマジックアイテムを授けよう。来たる日に備えてほしい」

 マジックボックスから、先程見せた三点の魔道具を取り出すと、コリーンちゃんが喉を鳴らす。
 彼女の期待をはらんだ瞳は、魔道具に熱く注がれていた。
 コリーンちゃんの手を取り、魔道具を持たせてやる。
 すると、コリーンちゃんは俺を見上げて言った。

「ッ! ゼンお兄様! 私やります!」
「そうか……。コリーン、次に会う時はその魔道具を使いこなしている事を期待するぞ。だが、一つだけ約束をして貰おう」

 俺の言葉に、コリーンちゃんが唾をゴクリンコと飲み込むと、口を開いた。

「……なんでしょう」
「何時か、自分の力を試したくなり、森へと導かれるだろう……。だが、その時は必ずランドルを頼れ。奴もまた我が”組織”の一員だ。北の森……暗黒樹海は、甘くないと知れ。それが約束できないのであれば、魔道具は返却をしてもらおう」

 俺がそう言うと、コリーンちゃんの表情が疑わしい物を見る目になった。

「あの人、キャス姉に尻に敷かれているのに……?」
「……それは関係ない」

 最後に暴走されても困るから、予防だけはしようと思ったのだが、この村におけるランドルの位置的な物が見えてしまった。何だか悲しいな。

「それでは俺はゆく……」

 俺はそう言い残し、踵を返して村の門へと向かった。
 背中にはコリーンちゃんの俺の名前を呼ぶ声を聞きながら。

 てな感じで、村訪問は終わりを見せた。
 コリーンちゃんが、予想以上に面白かった。
 うーん、次に来た時には、マジックバッグでもあげようかな。
 一番小さいやつはどうせ余ってるし。

 何だか更に病気を加速させそうな感じになってしまったが、まあ元からだし、大丈夫だよな……? フラニーさんもそこまで深刻そうには見えなかったし、大丈夫だ!

 しかし、これは一度奴を連れてきた方が良いのだろうか?
 中二病と中二病の邂逅とか、胸が熱過ぎる。
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