アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

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第九章 戦役

二話 再生の神のダンジョン 三

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「ねえ、アニアさん。あの人やっぱおかしいでしょ……?」
「う~ん、言いたい事は分かるのですが、あれがゼン様の普通なのです。それに、あの数ならシラールドさんとヴィート君も相手できますよ?」

 俺の背後からそんな声が聞こえてくる。
 真ポッポ亭の前に置かれた椅子に腰かけるラーレは、今日もパワーレベリングの光景に見入っているようだ。
 俺は無数に襲い掛かってくるスケルトンを【テンペスト】片手に屠っていく。
 流石にこの階層のスケルトンになると、頭部やアバラを上手く突かないと一撃を耐えてくる。
 強い分、経験値的には美味しいのだろうけど。

「そろそろ一度休憩するか。ヴィート、リッチをやるから手を貸せ!」
「おっ! 待ってました!」

 俺がそう声を張ると、地面に腰を掛けて待機いたヴィートが、こちらに向かって駆けてきた。
 事前にこの部屋のボスであるリッチを倒す時には、呼ぶと言ってあったので準備は万端みたいだ。
 ヴィートはスケルトンに囲まれている俺を飛び越えると、大剣を振り回して自分にスケルトンの攻撃を集中させる。
 俺へと迫るスケルトンが少なくなった頃合いを見て、助走を付けて【テンペスト】を投擲した。
 部屋の一番奥で、浮かびながらスケルトンを生成し続けていたリッチへと【テンペスト】が到達すると、その体を押しつぶしながら奥の壁へと串刺しにする。
 【テンペスト】の風刃が発生して、リッチの腹が爆ぜたが、まだ倒すには至っていない。
 俺は追加で【アイスブリンガー】を取り出して投擲をする。
 今度は額に突き刺さった【アイスブリンガー】が、その効果である氷結を発生させる。
 頭部を氷づけにされたリッチは、それでもまだ倒せず、更に追加で魔法を撃ちこみ、ようやくこの部屋の沸きを止める事ができた。

「んじゃ、飯でも食べようか。今日はアニアが作ってくれるんだろ?」

 俺は部屋の至る所に散らばった、ドロップ品を回収しながらアニアに向かって声を掛けた。

「はいっ! 今日はお肉がメインですから、楽しみにしていてください!」

 アニアは俺と目が合うと、にっこりとほほ笑み、楽しそうな表情を見せてくれた。
 この中で一番料理スキルが高いのは俺だが、アニアが作りたがるので任せている。
 俺と離れていた期間では率先して作っていたらしい。元から家事を手伝っていた事もあり、もう少しで俺と並んで料理スキルは3になりそうだ。

 食事の用意を手伝うとすぐにみんなが集まってきた。
 対面に腰を掛けたラーレは、優雅に食事を口にしながら、その合間を縫って話しかけてくる。

「一桁だったレベルが今じゃ30よ……。新兵になら勝てそうな気がして来たわ……」
「高いに越した事はないじゃないですか。それに、トゥース様も大分やる気になってますし」

 経験値の共有をラーレとトゥースにも行った結果、二人は大分レベルが上がってしまった。
 たしかに彼女が言う通り、新兵になら普通に殴り勝てそうだ。
 ラーレの隣にはトゥースが座っている。その様子は以前とは違い落ち着いてきている。
 それもレベルアップの結果なのだが、それ以前に俺が喝を入れた結果でもある。

「そうなんだー、トゥース君は剣術を上げたいんだね。がんばってね?」
「うん……僕頑張るよ。頑張るからね、ユスティーナ!」

 俺の隣に座るユスティーナが、対面にいるトゥースと会話をしている。
 今日もトゥースはユスティーナの気を引きたいらしい。
 この場所に戻ってきて数日経ったある日、ラーレから話があると言われた。
 何だと思い聞いてみると、ユスティーナを未来の后にどうだとか提案があった。
 どうやら、トゥースがいたくユスティーナを気に入ったらしい。
 その時はラーレを含め二人を説教したね。ラーレは理解していたが、それでも本人が一言も何も言わないのは舐めてるのかと、逃げようとするトゥースを捕まえてラーレと共に小一時間ほど説教だ。

「トゥース様、この後はシラールドに剣術を教わってください」
「はいっ! 頑張ります!」

 結果、トゥースは少し目覚めたようだ。ラーレももう甘やかす事がなくなっている。ちょっとだけ寂しそうな顔はしてるけど。

 説教をするだけは可愛そうなので、成人するまでに俺と一対一をして一撃を当てられたら認めると言ったのだが、果たして彼はそれを叶えられるのだろうか?
 まあ、ユスティーナ本人が否定したら、全て意味はないんだけどね。
 ユスティーナも好意を示されたのに、あっけらかんとしてるから良く分からん。

「ゼン様、今日の夜も私の魔法訓練お願いしますね」
「うん、喜んで頼まれよう」
「物凄い笑顔なのです……」

 夜の魔法技能訓練……良い言葉だ。
 この場所に戻ってきてからは、アニアとは毎日魔法技能の訓練を行っている。
 幼い頃から開始して、教国でも繰り返し訓練をしてきたアニアの魔法技能は、もう少し時間は掛かるがスキルレベル4に到達しようとしている。
 もちろん、これは俺が教える事によって、その成長速度が跳ね上がっているからだ。
 だが、それ以上に暇を見つけては、自分で購入したマジックグローブを使ったり、MPが切れるまで回復魔法を連発したりと、訓練を欠かさずに行っていた結果だろう。

 その大詰めの作業なのだが、これが素晴らしい。
 アニアを後ろから抱き締めながら、マジックグローブを操作する更なるコツを教えれば、その効率が上がってくれるのだ。
 俺も楽しいし、アニアもスキルが上がると、一石二鳥過ぎてニンマリ笑顔だ。

「仲良いわよね。羨ましいわ」
「アニアは私の恋人ですし、嫁にしますから当然です。ラーレ様も、私がメルレインを取り込んだら、好きなだけイチャイチャすればいいじゃないですか。幾らでも貸し出しますよ」
「貸し出すって……。でも、そうなったら良いわね。流石に人前ではしないけど」

 そう話したラーレの表情は穏やかだ。
 俺と出会った当時の厳しい表情は大分なりを潜めている。
 それに、この場所に辿り着いた時に見せていた、ジェットコースターに乗りすぎて泡を吹く寸前のような表情も消えている。
 やはり、希望が見えてくると、顔付きは変わるんだな。

 こんなやり取りをしながらも、俺らはこの場所でレベル上げを続ける。
 時にはスケルトンを倒しているこの部屋付近まで、他の部屋から大量の魔物をトレインして、経験値倍作戦をしたり、同じく引き連れてきた魔物を【英霊の杖】で呼び出した、サジやスケルトンに相手をさせて延々と戦わせてみたりと、工夫を凝らしていた。

 そんな事をしていると、ダンジョンに戻ってきて、約二十日が経過していた。

 今日はこの後俺がスケルトンを倒し続ける番なので、椅子に座って待機をする。
 その隣に同じく座るアニアがいた。俺と目が合うと、アニアが口を開いた。

「補助魔法と回復魔法は全てお任せを。ゼン様は攻撃に集中して下さい」
「アニアは本当に心強くなったな。何の心配もなく任せられる」
「私はこのためにゼン様から離れていたのです。凄い寂しかったけど、それも報われます!」

 俺の腕に手を添えながら、アニアが優しく微笑んだ。クソ……真ポッポ亭をもう一つ作っておけばよかった。そうすれば、隙を見てもっとイチャイチャできたのに……

 まあ、俺の欲望に満ちた思いはどうでも良いとして、俺が口にした言葉は決してお世辞ではない。
 このダンジョンに入ってから本格的に成長したアニアの動きを見たのだが、アニアは恐ろしく的確な行動を取り続けられるようになっていた。
 誰かが負傷すれば、すぐに遠距離回復魔法を発動させるし、補助魔法である『ブレス』などの効果が切れる前に、掛け直しをして継続させるなど、目を見張る動きを見せていた。
 この感じは将棋を指している時のアルンに似ている。やはり双子だけに、本質的な所は似ているのかな。

 セシリャの成長も著しい。
 以前は斧に振り回されていた所もあったのだが、今はそれも改善されている。
 むしろ、斧の重さを利用しているぐらいだ。
 後は対人スキル。いや、対話スキルか。それを磨いていけば立派な冒険者だ。
 まあ、もう俺が雇ったから、当分彼女は逃がす気はないけど。

 二人共スキル値的に言えば、それほどの変化はないはずだが、戦術とでもいうのだろうか、経験とかその辺りの成長が見られた。

 成長という面でいえば、ユスティーナとヴィートの成長も素晴らしい。
 ユスティーナは単純にレベルが上昇しまくった結果、身体的な強化がなされている。
 あまりにも身体の調子が良かったのか、肘から生えている蔦を使って、スケルトンの剣を受け止めようとしたぐらいだ。
 それには、一緒にスケルトンを倒していたヴィートが素早く反応して、阻止をしたらしい。
「ユスティーナがたまに怖い事するんだけど……」
と、寝起きの俺に報告してきた時は、ギョッとしたものだ。
「だって、ヴィート君がやってたから……」じゃないよ、全く。

 ヴィートに関しては、レベル的に言えば一つしか上がっていない。
 だが、古竜的にいえば、以前のシーレッド王国兵を喰らったのを含め、この短期間で相当上がった感覚らしい。
 余裕で千年以上生きる古竜が、そうポンポンレベルが上がっていたら、どんな化物が出来上がるんだって話だしね。
 そういえば、人間って魔物と比べるとレベルが低いから、経験値的にはマズイんだってね。
 古竜感覚だとここのスケルトンと、どっこいらしい。何かやだな。

 残念ながら、俺とシラールドはさほど変化をしていない。
 シラールドも長寿種だけあって、スキル成長速度が猛烈に遅い。
 割りと平坦な成長を見せる人族と比べると、ある地点から加速度的にスキルの上がり方やレベルの上がり方が悪くなるんだ。
 長寿種が人族や獣人族と同じ成長の仕方をしていたら、今頃のこの大陸に人族国家があったかさえも怪しいからバランスは取れているのだろう。



「それじゃあセシリャ、留守番頼んだよ」
「うん、任せてね!」

 これからこのダンジョンを攻略するに当たり、今回セシリャは留守番をしてもらう。ラーレとトゥースがいるからだ。
 流石に二人をボスがいる部屋に連れて行くのは俺も守れる自信がない。
 ここまで考えなしに連れてきたけど、これに関してはちょっと無謀だったな。
 まあ、この二人をこんなに上手く連れ出せると考えてなかったってのが大きい。
 俺はこの辺り、本当に考えないで行動してるんだよな……
 この三人は五階の階段付近で待機してもらう。
 今までの経験からいって、この場所は敵が来ない。
 シラールドの知識でも、ダンジョン内には安全地帯がある事は有名との事だ。

 レベル上げに使っていたリッチ部屋から、数個の部屋を攻略した先にその扉はあった。
 これまでとは一線を期す豪華さを見せる扉は、明らかにこの先が違う場所なのだと俺達に知らせているようだ。
 扉の感覚的にあの統治と軍事の神のダンジョンを思い出す。
 似てるからって、またミノタウロスがいたらちょっと笑うな。

 俺が軽く手を触れただけでそのドアは開き始めた。まるで自動ドアだ。
 俺は一歩下がり、ゆっくりと奥へと開いていく扉を見つめる。
 誰も言葉を発しない。 ただ、時間が流れる。その間もドアは勝手に開いていく。
 ドアが全て部屋の方へと消えていくと、そこには綺麗な長方形をした部屋の入り口が現れた。
 だが、ここからでは部屋の中は何も見る事ができなかった。
 完全に開け放たれた部屋の入り口の前に立っているというのにだ。

「真っ暗というか、霧のカーテン?」
「パパ、気配も何もないよね? ボスいない?」

 アニアとユスティーナが言ったように、開かれたドアの向こうは一切の闇だ。

「入らないと駄目なのか? 主どうする?」

 シラールドがそう言いながら、マジックボックスから取り出した銀貨を投げ込んだ。
 銀貨は闇のカーテンに何の抵抗もなしに飲み込まれていった。
 地面に落ちる音もしないのは、この先は別空間の可能性があるな。
 てか、何で銀貨なんだよ。銅貨でいいじゃん! 行動が完全に貴族様のそれだわ……

「反応ないね? もう突っ込もうよ」

 剣を片手にヴィートがそんな事を言っている。
 剣を使い始めてから、物凄い脳筋キャラになってきたな。
 ……違うか。俺と出会う前から、どこにでも突っ込んでいく奴だったわ。
 俺はヴィートと出会った切っ掛けを思い出し、そんな事を考える。
 横目でヴィートを見てみれば、剣で闇を突こうとしている。危ないからやめなさい。

 そうだ、こんな時はポッポちゃんにもご意見をいただこう。

「ポッポちゃん、どうする?」

 俺は足元に寄り添っていたポッポちゃんにそう声を掛ける。
 すると、ポッポちゃんは少しの間俺を見つめて「突撃なのよ!」とクルゥっと鳴いた。
 あっ、ポッポちゃんも結構脳筋だったかも。

 まあ、こんな場所で立ち尽くしていても仕方がない。
 闇の向こう側には気配を感じないので、多分別の場所に飛ばされるパターンだろう。
 俺は神様信じてますと心の中で唱えながら、先陣を斬って闇へと足を踏み入れた。

「おぉ……こりゃまた凄い場所だな……」

 俺は自然と頭に浮かんだ言葉を抑える事ができなかった。

 闇のカーテンを超えた瞬間に身体が何処かに移動したと思うと、目の前には一面真っ赤な空が広がっていた。
 明るさと熱さを感じる。急いで辺りを見回せば、足元はゴツゴツとした岩場。それが半径五メートルほどの円形を作り出している。
 視線の先には長く伸びる岩の橋があり、その先には広い円形の岩が見えた。
 それ以外の地面は、……全て溶岩だ。
 入った当初感じた明るさは、この溶岩が放つ光だった。

 背後を振り返れば、そこには出口として機能するのであろう、闇のカーテンが直立した一枚の薄い布のように存在してる。

「わっー、何ここ! 熱いのです!」
「ひゃー! ママッ! ここ全然違う場所!」

 俺の後ろからアニアとユスティーナの声が聞こえてきた。
 ポッポちゃんも一緒に入ってきたようで、熱いと言ったアニアの言葉に反応したのか、風を送ってあげている。

「これがダンジョンボスの部屋か……」
「おぉっ! 何だか住みやすそうな場所だな!」

 続いてシラールドとヴィートの声も聞こえてくる。
 シラールドは感無量といった表情だ。
 ヴィートは笑顔を見せている。そういえば、初めて会ったのは火山だったな。

「主、これは先に進めという事だな?」
「それ以外になさそうだけど、あの先に行ったら橋が落ちて帰れなくなるとか勘弁だぞ」

 これまでの経験から言えば、ボスの部屋から帰れなくなった事は一度だけだ。
 この場所は出口があるので戻れそうだが、あの橋が落ちる可能性は消せないな。
 まあ、そんな事を考えていても仕方がない。
 戦う用意は出来ているので、俺達は一塊になって溶岩の上に掛けられた岩の橋を渡り始めた。

 ポッポちゃんがピョンピョンと先頭を歩き、何度もこちらを振り向いている。
 ユスティーナがその後を追い、ヴィートがその動きに目を配る。何だかもう目の離せない妹感覚みたいだな。
 俺とアニアが汗ばむぐらいで、何事もなく岩の橋を渡り切った。
 みんなが岩の橋を降りたが、崩壊するような事もなかった。

「おかしいな……敵の気配がないんだけど」
「主の探知でもか。もう少し探してみるしかないようだ」

 俺が誰に言うでもなく口を開くと、シラールドが答えた。
 今までの経験で言えば、ボスの部屋に入ったらその場に鎮座していたので、少し戸惑う。

 俺の緊張する様子は他にも伝わったようだ。
 アニアやユスティーナを守るように、ヴィートが周囲を注意深く警戒している。

 入ってきた場所と変わらぬ、冷えた溶岩と思われる広場の中心に向かって俺達は進んでいく。
 その中心に差し掛かると、突然俺の探知が強大な存在を捉えた。

「出たぞ! 気を付けろ溶岩の中だ!」

 反応は俺らの背後、溶岩の中から現れた。
 それは角度的に深い場所にあったのだが、現れると同時に上昇を始めた。
 俺の視線の先をみんなが追う。
 その直後、気配は溶岩の海から打ち上がり、通ってきた岩の橋を破壊しながら上空へと舞った。

「……また鳥か。……俺は鳥に好かれる要素でもあるのか?」

 溶岩を滴らせながらゆっくりと羽ばたくその姿は、全身を燃やしながら飛ぶ鳥だった。
 大きさは嵐の神のダンジョンボスよりは、遥かに小さい。
 それでも、直径三メートルはあり、羽を広げればその大きさはもっと大きく見えそうだ。

「鳥って……兄ちゃんあれフェニックスじゃん! あれ? でも、青いな?」

 どうやらヴィートはあれを知っているようだ。しかし、同時に疑問の声を上げている。
 俺もその名前が出てきた。でも、全身を青く燃え上がらすあれを、一目でそう思えなかったんだ。
 羽ばたく度に火の粉を散らし、熱風がこちらにゆっくりと届いて来る。
 良く見ると、羽を形取っているのは炎のようだ。
 いや、クチバシから瞳まで、全てが微かに揺らいで見える。
 もしかしたら、全身が炎で作られているのか?

 横目でポッポちゃんを見てみると、敵に対する威嚇の姿勢を見せている。だが、ハーピーなどに見せていた狂ったような敵対心はない。どうやらあのフェニックスは雄らしい。

 ふと地面を見ると、何やら光が浮かび上がっている。
 周りが明るいので気付かなかったが、この場所に降り立った時にはなかったはずだ。
 という事は、フェニックスが現れてから出現したのか?
 まあいい。出口は塞がれたんだ、俺達はあれを倒すしかない。
 俺はマジックボックスから一振りの剣を取り出したのだった。
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