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第九章 戦役
一話 再突入
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「おぉ、今回は結構迅速に動いてるな。前の襲撃で学んだのか?」
俺の視線の先では、爆発音に叩き起こされた兵士達が、武器を片手に門から飛び出していった。
王宮から再生の神のダンジョンへ戻ってきた俺達は、岩場の陰からその様子を確かめる。
「さあ、お二人とも参りましょう」
俺が手を差し伸べながら言うと、元カフベレ国ラーレ王女とトゥース王子の二人は、困惑の表情を浮かべていた。
「言う通りにするけど、大丈夫……なのよね?」
「えぇ、先ほど話しましたが、以前も同じように侵入していますから。経験者を信じてください」
今回、門にブレスを吐いたのはスノアだが、その違いは威力だけだ。
兵士達の反応は以前と同じく、逃げていったスノアを追っていっている。
スノアには戻って来ないで良いと指示を出している。
程よく撒いて、どこかで待機しているだろう。
「ポッポちゃんも行くよ。……その虫はペッしないさい」
岩場の影から出て、ラーレとそれに引っ付くトゥースを連れて歩く俺は、まだ地面を突いていたポッポちゃんに声を掛けた。
ポッポちゃんは何かを食べていたようで、顔を上げてこちらを向くと、そのくちばしにはムカデのような謎の虫を咥えていた。
ポッポちゃんの食事に文句を付ける気はないが、暴れるあれは食べるのに時間が掛かる。
悪いが食事は中止してもらおう。
俺を先頭に歩き続けると、再生のダンジョンを囲う壁に差し掛かった。
そこには以前開けた穴が、真新しい土で修理された跡が見える。
悪いがもう一度ここから侵入させてもらおう。
だが、その前に武器を取り出しておこう。
俺は全力とはいわないが、それなりの力を込めて土壁を蹴る。
俺の今の力であれば、この程度の土壁はどうって事はない。
二度三度と蹴りを食らわすと、人が通れるぐらいの隙間が簡単に出来あがった。
「まずは私が入りますので、呼んだら来てください」
俺はそう言いながら隙間を通過する。
「ハアァァァッ!」
「テエエィィィッ!」
隙間を抜けた瞬間、俺を挟むように二振りの剣が振り下ろされた。
俺は取り出していたルーンメタルの棍棒でそれを受け止めて、お返しに腹に一撃ずつ食らわせる。
俺に打たれた兵士は、胃の中身を吐き出しながら地面を転げ回った。
「案外真面目にやってるんだな」
「……同じ場所から侵入しおって、貴様なめてるのか!?」
今回も門を爆破されて、大量の兵士はその犯人を追っていった。
だが、流石に内部にも人を配置していたらしい。
壁を破壊した直後、数十人の気配が続々と集結しているのが、入る前から分かった。
ダンジョンから出る時に見られていたので、もう完全にバレずに入る事は諦めていた。
「面倒だけど、数百人を相手するよりはマシか」
今回はバレずに侵入する事は出来なかったが、基地内にいた兵士全員を相手する事は防げた。
スノアのブレスは無駄じゃなかったな。
俺はそんな事を考えながら、襲いかかってくる兵士を叩き潰していく。
潰してはいるが、それは腕や足などだ。
中には弓矢を放ってくる奴もいた。そいつには悪いがナイフを投げさせてもらう。
だが、急所は決して狙わない。
「大人しく入れてくれれば良いんだが、それは叶わないか?」
俺は指揮官であろう初老の男に声を掛けた。
「馬鹿な事を申すな! 貴様のような賊を通せるか!」
まあ、そうか。俺は賊か。
一瞬違うと言いかけたが、普通に考えれば、そう言われてもおかしくはない。
「ふーん、まあそれでも構わないが、怪我人が増えるだけだぞ」
俺は武器を振るいながらそう声を掛ける。
棍術スキルレベル4ならば、まず敵の攻撃が当たる事はない。
それは、新兵が多いこの基地であれば尚更だった。
またたく間に襲いかかってきた数十人を地面に沈めた俺は、最後に残った司令官に近付いていく。
「失礼だが、貴方はタヒルに忠誠を尽くしているのか?」
俺は何の構えもなし歩きながら、剣を構える司令官に話しかけた。
「…………」
「返事がないのはどちらか分からないな。もし貴方がまだ王家に忠誠を持っているのであれば、俺を通すべきだ」
俺は一度立ち止まり、棍棒で肩を叩きながら返答を待った。
「タヒルに忠義などないわ。だが、逆らっても仕方あるまい」
司令官は渋い顔をしながら言った。
「ならば朗報だ。タヒルは死んだ」
「……それを信じるとでも?」
「そうだな。では証拠を見せたら通してくれるか? まあ、駄目と言われても押して通るのは変わりないけど」
「……証拠とは何だ」
司令官はキツく俺を睨みながらも、話には応じてくれるようだ。
まあ、もう勝てないのは分かってるからだろうけど。
俺はマジックボックスの中から【看破の淡光】を取り出した。
これを見せてこの司令官が反応するかは微妙だが、物は試しだ。
「ッ! 殿下達はどうなったのだ!?」
司令官は【看破の淡光】を見て一瞬でそれが何か判断したようだ。
武器を捨てると俺の下へと駆けてきた。
そして、物凄い剣幕で俺に迫る。
「無事だ。もう一度聞くぞ、貴方は王家にまだ忠誠を?」
「四十年以上だ……四十年以上王家に尽くしてきた。それは今でも変わっておらん!」
司令官の表情から物凄い熱量を感じる。
興奮をしているのか鼻息がとても荒い。
顔が近いから正直もっと離れて欲しいのだが、流石に空気を読んでおこう。
「それなら貴方に会わせよう。ラーレ様、トゥース様、入ってきても大丈夫ですよ」
俺がそう声を掛けると、ポッポちゃんを先頭に二人が入ってきた。
流石俺のポッポちゃん、護衛の仕事を完全にこなしてるな。
「何て事だ……」
そう口にした司令官は二人の姿を見ると、ボロボロと涙を流し始めた。
流石に泣くとは思っていなかったので、一瞬その様子に驚いてしまった。
ラーレ達はこの司令官を見た事があるらしい。
臣下の礼を取る司令官に手を差し伸べて、会話を始めていた。
熱く語り掛ける司令官に、ラーレは戸惑う姿勢を見せていたが、そこは王女として振る舞いを確りと見せている。
この様子ならば、この司令官の忠誠は本物だろう。
思った以上に、まだ王族を支持する人は多そうだな。
「だがしかし……」
何時までもここにいても仕方がないので、ラーレとトゥースにダンジョンに入る事を告げると、司令官に止められた。
何度かのやり取りでようやく納得してきたようだが、まだ渋っている。
まあ、その気持ちは分かるけどね。
「貴方の忠誠が本物だとしても、俺は貴方に二人を任せられません。ここは助け出した私を信用して、貴方は私達がここを出る時の助けをしてください」
「司令官、貴方の忠誠は嬉しいのですが、ここは彼に従ってください」
ラーレも俺と同じ考えを持ったのか、擁護に回ってくれた。
ダンジョンに入るより、ここに残される方が危険だと判断したのだろう。
若干トゥースはここに残りたがっているが、何も言わないので無視をする。
こいつはちょっとケツを叩いて、男にしてやらないと駄目だな。
結局俺らは通された。
司令官は本当に心配した様子だったので、懸念していたダンジョン攻略後の脱出は楽そうだ。
俺がぶっ叩いた人達を回復してもらうために、マジックボックスに入れてあるポーションを渡してダンジョンに入る。
意外な展開になったが殺さないで良かった。
ここにはラーレ達と同じイレケイ族が多いから、元から殺す事はしない方針だったけどね。
あそこで皆殺しにしていたら、多分あの司令官も口を聞いてくれなかっただろう。
「ダンジョン……」
ダンジョンに足を踏み入れた瞬間、ラーレがそう呟いた。
その表情は明らかに緊張の色を見せており、同時に怯えの色も滲ませていた。
「大丈夫ですよ。お二人は歩く必要もないので心配しないでください。あぁ、そうだ。これ着けてくださいね」
俺はそう言いながら二人に「共鳴の腕輪」を手渡した。
せっかくダンジョンに入り、これから突破するのだから、低いであろう二人のレベルを上げた方がお得だ。
俺はマジックボックスから【英霊の杖】を取り出して、その効果を発揮させる。
今回も出せるだけのスケルトンを生成だ。
「では、お二人はそのスケルトンに守られていてください。それ以外でも、我が相棒が守護します。安全は確実ですのでご安心を」
俺がそう言った直後、数体のスケルトンが動き出し、ラーレとトゥースをお姫様抱っこの形で抱え込んだ。
二人共悲鳴を上げて驚いているが、まあすぐに慣れてくれるだろう。
最後にポッポちゃんがトゥースの腹の上に乗ると、安心させるかのように頬に擦り寄っている。
凄い出来る女ポッポちゃん。
「んじゃ行くか」
俺は【テンペスト】を片手に先頭に立つ。
背後には抱えられたラーレとトゥース。
そして、それを守護する四十体のスケルトンにポッポちゃん。
準備は整った。早く戻ってアニアとユスティーナを抱きしめよう。
◆
とある一室では、一人の女性と複数の男たちが席を共にしていた。
「これほどの金を積まれれば動きますが、王女殿下は動いても大丈夫なのですか?」
精悍な顔付きをした男が口を開くと、王女と呼ばれたセラフィーナは、表情を一つも変えずに口を開いた。
「父からは兵を動かす事を禁じられましたが、私兵を動かす事は禁じられていません。貴方達は私が雇うのですから、私の私兵になるでしょ?」
そう言われたシーレッド王国王都の冒険者ギルド長は、隣に座る男の表情を窺った。
「大丈夫ですよ、我々も問題ないと判断して雇われたのです。セラフィーナ様の下で働けるとは光栄の極みですな! はははっ!」
傭兵団を率いる男はそう言って豪快に笑った。
彼の傭兵団は今回の戦争では、王軍と共に戦に参加するように依頼を受けていた。
だが、依頼料金がこちらの方が一回り上だったので、セラフィーナに付く事にした。
「これで元からの兵と合わせて、二千になりますね。セラフィーナ様には少ない兵数ですが、逆に小回りが効くので奇襲には向いています」
最後にセラフィーナに長く仕えている従者の女性が口を開いた。
その瞳は鋭く、セラフィーナの変化の全てを受けいれいている物だった。
「それでは十日後に出ます。暗部に探らせた情報は、移動しながらでも受け取れるのでしょ?」
「はい。アルンという少年がいる場所は、既に把握済みです。ですが、エゼル王の側から離れる様子がないのですが……」
今回の集兵はシーレッド王国内に進軍してきたエゼル王国に対抗する為の物だ。
その中でも、セラフィーナはゼンの弟として付き従っているアルンに狙いを絞っていた。
これらの情報は全て城に戻ってきてから得た情報だ。
溜めこんでいた宝石類などを売り払い、とにかく金を掛けて集めた情報でもあった。
「ならば、おびき出すだけ。幸いラーグノックからは、あの男の妻、ナディーネの首が届くでしょう。それを使えば簡単ではなくて?」
「……はい。その通りだと思います」
以前は武人としての誇りを口にしていたセラフィーナが、本当に考え方を変えてしまった事に、従者は理解をしても、どうしても言葉を詰まらせてしまった。
「次は文官達と話がありますので、私はこれで退席しますわ。団長とギルド長は十日後にまたお会いしましょう。行きますわよ」
「ハッ!」
部屋から出たセラフィーナは従者の女性を伴い廊下を歩く。
すれ違う全ての者が壁に寄り頭を下げる中、一人の老人は廊下の真ん中で立ち止まり、セラフィーナを見上げた。
「あ~…………」
「マリウス様。お元気で?」
セラフィーナと対面したのは、大魔道士マリウス。
シーレッド王国において、王の次に力を持っていた人物だ。
彼は人族として長く生き過ぎた。近年では殆どを曖昧な状態で過ごしている。
「お体に気を付けて下さいね」
セラフィーナは優しく微笑む。その様子は昔の姫と変わらないと、従者の女は感じていた。
歩き出したセラフィーナは、マリウスから少し離れると口を開いた。
「マリウス様がまた戻った時を見計らって、あの方が溜めこんでいるマジックアイテムを譲っていただきます。幸い五月蠅いあの女は前線に出るでしょう。貴方は機会を逃さないよう監視を付けなさい」
「……承知しました」
従者の女は先ほど感じた思いを殺し、返事をした。
一瞬遅れた返事に、セラフィーナは顔を向けたが何も口にはしなかった。
それは、セラフィーナ自身も、自分の行動が従者に無理を強いている事を理解しているからだ。
だが、彼女はもう止まれない。
セラフィーナは時間の許す限り、出来うることを全てして、自分の力を高めていた。
その歩みは破滅へと進んでいるとも知らずに、彼女は暗く微笑むのであった。
俺の視線の先では、爆発音に叩き起こされた兵士達が、武器を片手に門から飛び出していった。
王宮から再生の神のダンジョンへ戻ってきた俺達は、岩場の陰からその様子を確かめる。
「さあ、お二人とも参りましょう」
俺が手を差し伸べながら言うと、元カフベレ国ラーレ王女とトゥース王子の二人は、困惑の表情を浮かべていた。
「言う通りにするけど、大丈夫……なのよね?」
「えぇ、先ほど話しましたが、以前も同じように侵入していますから。経験者を信じてください」
今回、門にブレスを吐いたのはスノアだが、その違いは威力だけだ。
兵士達の反応は以前と同じく、逃げていったスノアを追っていっている。
スノアには戻って来ないで良いと指示を出している。
程よく撒いて、どこかで待機しているだろう。
「ポッポちゃんも行くよ。……その虫はペッしないさい」
岩場の影から出て、ラーレとそれに引っ付くトゥースを連れて歩く俺は、まだ地面を突いていたポッポちゃんに声を掛けた。
ポッポちゃんは何かを食べていたようで、顔を上げてこちらを向くと、そのくちばしにはムカデのような謎の虫を咥えていた。
ポッポちゃんの食事に文句を付ける気はないが、暴れるあれは食べるのに時間が掛かる。
悪いが食事は中止してもらおう。
俺を先頭に歩き続けると、再生のダンジョンを囲う壁に差し掛かった。
そこには以前開けた穴が、真新しい土で修理された跡が見える。
悪いがもう一度ここから侵入させてもらおう。
だが、その前に武器を取り出しておこう。
俺は全力とはいわないが、それなりの力を込めて土壁を蹴る。
俺の今の力であれば、この程度の土壁はどうって事はない。
二度三度と蹴りを食らわすと、人が通れるぐらいの隙間が簡単に出来あがった。
「まずは私が入りますので、呼んだら来てください」
俺はそう言いながら隙間を通過する。
「ハアァァァッ!」
「テエエィィィッ!」
隙間を抜けた瞬間、俺を挟むように二振りの剣が振り下ろされた。
俺は取り出していたルーンメタルの棍棒でそれを受け止めて、お返しに腹に一撃ずつ食らわせる。
俺に打たれた兵士は、胃の中身を吐き出しながら地面を転げ回った。
「案外真面目にやってるんだな」
「……同じ場所から侵入しおって、貴様なめてるのか!?」
今回も門を爆破されて、大量の兵士はその犯人を追っていった。
だが、流石に内部にも人を配置していたらしい。
壁を破壊した直後、数十人の気配が続々と集結しているのが、入る前から分かった。
ダンジョンから出る時に見られていたので、もう完全にバレずに入る事は諦めていた。
「面倒だけど、数百人を相手するよりはマシか」
今回はバレずに侵入する事は出来なかったが、基地内にいた兵士全員を相手する事は防げた。
スノアのブレスは無駄じゃなかったな。
俺はそんな事を考えながら、襲いかかってくる兵士を叩き潰していく。
潰してはいるが、それは腕や足などだ。
中には弓矢を放ってくる奴もいた。そいつには悪いがナイフを投げさせてもらう。
だが、急所は決して狙わない。
「大人しく入れてくれれば良いんだが、それは叶わないか?」
俺は指揮官であろう初老の男に声を掛けた。
「馬鹿な事を申すな! 貴様のような賊を通せるか!」
まあ、そうか。俺は賊か。
一瞬違うと言いかけたが、普通に考えれば、そう言われてもおかしくはない。
「ふーん、まあそれでも構わないが、怪我人が増えるだけだぞ」
俺は武器を振るいながらそう声を掛ける。
棍術スキルレベル4ならば、まず敵の攻撃が当たる事はない。
それは、新兵が多いこの基地であれば尚更だった。
またたく間に襲いかかってきた数十人を地面に沈めた俺は、最後に残った司令官に近付いていく。
「失礼だが、貴方はタヒルに忠誠を尽くしているのか?」
俺は何の構えもなし歩きながら、剣を構える司令官に話しかけた。
「…………」
「返事がないのはどちらか分からないな。もし貴方がまだ王家に忠誠を持っているのであれば、俺を通すべきだ」
俺は一度立ち止まり、棍棒で肩を叩きながら返答を待った。
「タヒルに忠義などないわ。だが、逆らっても仕方あるまい」
司令官は渋い顔をしながら言った。
「ならば朗報だ。タヒルは死んだ」
「……それを信じるとでも?」
「そうだな。では証拠を見せたら通してくれるか? まあ、駄目と言われても押して通るのは変わりないけど」
「……証拠とは何だ」
司令官はキツく俺を睨みながらも、話には応じてくれるようだ。
まあ、もう勝てないのは分かってるからだろうけど。
俺はマジックボックスの中から【看破の淡光】を取り出した。
これを見せてこの司令官が反応するかは微妙だが、物は試しだ。
「ッ! 殿下達はどうなったのだ!?」
司令官は【看破の淡光】を見て一瞬でそれが何か判断したようだ。
武器を捨てると俺の下へと駆けてきた。
そして、物凄い剣幕で俺に迫る。
「無事だ。もう一度聞くぞ、貴方は王家にまだ忠誠を?」
「四十年以上だ……四十年以上王家に尽くしてきた。それは今でも変わっておらん!」
司令官の表情から物凄い熱量を感じる。
興奮をしているのか鼻息がとても荒い。
顔が近いから正直もっと離れて欲しいのだが、流石に空気を読んでおこう。
「それなら貴方に会わせよう。ラーレ様、トゥース様、入ってきても大丈夫ですよ」
俺がそう声を掛けると、ポッポちゃんを先頭に二人が入ってきた。
流石俺のポッポちゃん、護衛の仕事を完全にこなしてるな。
「何て事だ……」
そう口にした司令官は二人の姿を見ると、ボロボロと涙を流し始めた。
流石に泣くとは思っていなかったので、一瞬その様子に驚いてしまった。
ラーレ達はこの司令官を見た事があるらしい。
臣下の礼を取る司令官に手を差し伸べて、会話を始めていた。
熱く語り掛ける司令官に、ラーレは戸惑う姿勢を見せていたが、そこは王女として振る舞いを確りと見せている。
この様子ならば、この司令官の忠誠は本物だろう。
思った以上に、まだ王族を支持する人は多そうだな。
「だがしかし……」
何時までもここにいても仕方がないので、ラーレとトゥースにダンジョンに入る事を告げると、司令官に止められた。
何度かのやり取りでようやく納得してきたようだが、まだ渋っている。
まあ、その気持ちは分かるけどね。
「貴方の忠誠が本物だとしても、俺は貴方に二人を任せられません。ここは助け出した私を信用して、貴方は私達がここを出る時の助けをしてください」
「司令官、貴方の忠誠は嬉しいのですが、ここは彼に従ってください」
ラーレも俺と同じ考えを持ったのか、擁護に回ってくれた。
ダンジョンに入るより、ここに残される方が危険だと判断したのだろう。
若干トゥースはここに残りたがっているが、何も言わないので無視をする。
こいつはちょっとケツを叩いて、男にしてやらないと駄目だな。
結局俺らは通された。
司令官は本当に心配した様子だったので、懸念していたダンジョン攻略後の脱出は楽そうだ。
俺がぶっ叩いた人達を回復してもらうために、マジックボックスに入れてあるポーションを渡してダンジョンに入る。
意外な展開になったが殺さないで良かった。
ここにはラーレ達と同じイレケイ族が多いから、元から殺す事はしない方針だったけどね。
あそこで皆殺しにしていたら、多分あの司令官も口を聞いてくれなかっただろう。
「ダンジョン……」
ダンジョンに足を踏み入れた瞬間、ラーレがそう呟いた。
その表情は明らかに緊張の色を見せており、同時に怯えの色も滲ませていた。
「大丈夫ですよ。お二人は歩く必要もないので心配しないでください。あぁ、そうだ。これ着けてくださいね」
俺はそう言いながら二人に「共鳴の腕輪」を手渡した。
せっかくダンジョンに入り、これから突破するのだから、低いであろう二人のレベルを上げた方がお得だ。
俺はマジックボックスから【英霊の杖】を取り出して、その効果を発揮させる。
今回も出せるだけのスケルトンを生成だ。
「では、お二人はそのスケルトンに守られていてください。それ以外でも、我が相棒が守護します。安全は確実ですのでご安心を」
俺がそう言った直後、数体のスケルトンが動き出し、ラーレとトゥースをお姫様抱っこの形で抱え込んだ。
二人共悲鳴を上げて驚いているが、まあすぐに慣れてくれるだろう。
最後にポッポちゃんがトゥースの腹の上に乗ると、安心させるかのように頬に擦り寄っている。
凄い出来る女ポッポちゃん。
「んじゃ行くか」
俺は【テンペスト】を片手に先頭に立つ。
背後には抱えられたラーレとトゥース。
そして、それを守護する四十体のスケルトンにポッポちゃん。
準備は整った。早く戻ってアニアとユスティーナを抱きしめよう。
◆
とある一室では、一人の女性と複数の男たちが席を共にしていた。
「これほどの金を積まれれば動きますが、王女殿下は動いても大丈夫なのですか?」
精悍な顔付きをした男が口を開くと、王女と呼ばれたセラフィーナは、表情を一つも変えずに口を開いた。
「父からは兵を動かす事を禁じられましたが、私兵を動かす事は禁じられていません。貴方達は私が雇うのですから、私の私兵になるでしょ?」
そう言われたシーレッド王国王都の冒険者ギルド長は、隣に座る男の表情を窺った。
「大丈夫ですよ、我々も問題ないと判断して雇われたのです。セラフィーナ様の下で働けるとは光栄の極みですな! はははっ!」
傭兵団を率いる男はそう言って豪快に笑った。
彼の傭兵団は今回の戦争では、王軍と共に戦に参加するように依頼を受けていた。
だが、依頼料金がこちらの方が一回り上だったので、セラフィーナに付く事にした。
「これで元からの兵と合わせて、二千になりますね。セラフィーナ様には少ない兵数ですが、逆に小回りが効くので奇襲には向いています」
最後にセラフィーナに長く仕えている従者の女性が口を開いた。
その瞳は鋭く、セラフィーナの変化の全てを受けいれいている物だった。
「それでは十日後に出ます。暗部に探らせた情報は、移動しながらでも受け取れるのでしょ?」
「はい。アルンという少年がいる場所は、既に把握済みです。ですが、エゼル王の側から離れる様子がないのですが……」
今回の集兵はシーレッド王国内に進軍してきたエゼル王国に対抗する為の物だ。
その中でも、セラフィーナはゼンの弟として付き従っているアルンに狙いを絞っていた。
これらの情報は全て城に戻ってきてから得た情報だ。
溜めこんでいた宝石類などを売り払い、とにかく金を掛けて集めた情報でもあった。
「ならば、おびき出すだけ。幸いラーグノックからは、あの男の妻、ナディーネの首が届くでしょう。それを使えば簡単ではなくて?」
「……はい。その通りだと思います」
以前は武人としての誇りを口にしていたセラフィーナが、本当に考え方を変えてしまった事に、従者は理解をしても、どうしても言葉を詰まらせてしまった。
「次は文官達と話がありますので、私はこれで退席しますわ。団長とギルド長は十日後にまたお会いしましょう。行きますわよ」
「ハッ!」
部屋から出たセラフィーナは従者の女性を伴い廊下を歩く。
すれ違う全ての者が壁に寄り頭を下げる中、一人の老人は廊下の真ん中で立ち止まり、セラフィーナを見上げた。
「あ~…………」
「マリウス様。お元気で?」
セラフィーナと対面したのは、大魔道士マリウス。
シーレッド王国において、王の次に力を持っていた人物だ。
彼は人族として長く生き過ぎた。近年では殆どを曖昧な状態で過ごしている。
「お体に気を付けて下さいね」
セラフィーナは優しく微笑む。その様子は昔の姫と変わらないと、従者の女は感じていた。
歩き出したセラフィーナは、マリウスから少し離れると口を開いた。
「マリウス様がまた戻った時を見計らって、あの方が溜めこんでいるマジックアイテムを譲っていただきます。幸い五月蠅いあの女は前線に出るでしょう。貴方は機会を逃さないよう監視を付けなさい」
「……承知しました」
従者の女は先ほど感じた思いを殺し、返事をした。
一瞬遅れた返事に、セラフィーナは顔を向けたが何も口にはしなかった。
それは、セラフィーナ自身も、自分の行動が従者に無理を強いている事を理解しているからだ。
だが、彼女はもう止まれない。
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【完結】神様と呼ばれた医師の異世界転生物語 ~胸を張って彼女と再会するために自分磨きの旅へ!~
川原源明
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秋津直人、85歳。
50年前に彼女の進藤茜を亡くして以来ずっと独身を貫いてきた。彼の傍らには彼女がなくなった日に出会った白い小さな子犬?の、ちび助がいた。
嘗ては、救命救急センターや外科で医師として活動し、多くの命を救って来た直人、人々に神様と呼ばれるようになっていたが、定年を迎えると同時に山を買いプライベートキャンプ場をつくり余生はほとんどここで過ごしていた。
彼女がなくなって50年目の命日の夜ちび助とキャンプを楽しんでいると意識が遠のき、気づけば辺りが真っ白な空間にいた。
白い空間では、創造神を名乗るネアという女性と、今までずっとそばに居たちび助が人の子の姿で土下座していた。ちび助の不注意で茜君が命を落とし、謝罪の意味を込めて、創造神ネアの創る世界に、茜君がすでに転移していることを教えてくれた。そして自分もその世界に転生させてもらえることになった。
胸を張って彼女と再会できるようにと、彼女が降り立つより30年前に転生するように創造神ネアに願った。
そして転生した直人は、新しい家庭でナットという名前を与えられ、ネア様と、阿修羅様から貰った加護と学生時代からやっていた格闘技や、仕事にしていた医術、そして趣味の物作りやサバイバル技術を活かし冒険者兼医師として旅にでるのであった。
まずは最強の称号を得よう!
地球では神様と呼ばれた医師の異世界転生物語
※元ヤンナース異世界生活 ヒロイン茜ちゃんの彼氏編
※医療現場の恋物語 馴れ初め編
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
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この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
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