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第八章 逆鱗
六話 思いもよらず深まる関係
しおりを挟む「ゼン殿、申し訳ないんだけど、少しお金を貸してくれないかな?」
みんなとの話も終わり解散の運びとなったのだが、残っていたセシリャが俺の側に来るとそう口を開いた。
「……もしかして、アニアとずっと一緒にいて稼げてなかった? そうだよな……あの国では基本的に奉仕活動だったんだよな……分かった。幾らだ?」
「あっ、それとはちょっと違くて……えっと、この街に戻ってきたら稼ごうと思っていたのと、ちょっと急に必要になっちゃってね……」
「歯切れが悪すぎるぞ。隠さないで言ってくれよ」
「あのね……お家焼けちゃってお金も一緒に失ったから、お母さんに少しお金あげないといけなくて……」
そうだった、セシリャはここが地元だ。多くの家に火を付けられていたんだから、セシリャの実家がそれに含まれていてもおかしくない。俺に声を掛けるという事は、今まで稼いでいた金も家に置いてあり失ったのだろう。自分の事で精一杯で考えが回っていなかったな。
「分かった、金は貸すのはもちろんだ。だが、さっきまでの話では、俺たちと一緒に来るって話になってたけど、本当にいいのか? 無理をするぐらいならこの街に残った方が良い」
「いやっ! それは大丈夫。お母さんもゼン殿を手伝えって言ってるぐらいだから」
「……ん? 俺を?」
「分からないけど、そう言ってるんだよね」
セシリャの親と直接あった事は一度もないはずだ。だが、侯爵様との繋がりは多少残っているはずなので、その方面から俺の事を聞いているのか?
「まあ、それはいいか。で、家が焼けたって今どこにいるんだよ」
「避難所だよ」
「なるほど……分かった。セシリャの親御さんはこの家に来てもらえ。家の半分は使えるんだし、離れも無傷だから部屋は余ってる。そうだな、俺も迎えにいこう」
「この家にっ!? 良いの?」
「駄目な理由がないだろ。今は他を探すのも難しい状況だしな。あぁ、そうだ、これは前から考えていたんだが、いい機会だな」
「何が?」
「セシリャ、俺に雇われないか? アニアに付いてくれてたのも、今回同行してくれるのも、セシリャの好意で行動してるのは分かってる。だが、それじゃあ困る事もあるだろ。正式に俺に雇われる形にしてくれ。仕事は……そうだな、家族の護衛任務とかにしとくか。アニアとユスティーナを守ってくれ」
俺の突然の提案に、セシリャは頭の上にある耳をピンッと立たせると、ぱぁっと笑顔が咲いた。
「うんっ! うんっ! そうする! あっ……でもゼン殿強いんだし、私じゃ意味ないかも……」
セシリャは喜びの顔から一転して、急に沈んだ表情を見せた。
「それは違うよ。今回の件で痛感した。俺だけで守ろうと考えるのは甘いんだって事をさ。だから、これはその一環だ。セシリャがあの子達の近くにいれば、俺はそれだけで安心できるんだ。だから頼む」
「そっかー、分かったよ。私もその方が助かるからね。身体を張って二人を守っちゃうよ!」
「うん、でも勘違いしないで欲しんだけど、だからといって盾になるような事はするなよ? それは、俺の仕事だ。そう言う意味じゃ、セシリャも俺が守るべき人だからな」
「そ、そうなんだ! あははは、はぁ~、そうなんだ!」
言ってから気付いた。何だか口説き文句じゃねえか……
この手の事に疎いセシリャも流石に気付いたらしく、初めて会った時のようにしどろもどろになっていた。だが、セシリャも俺にとっては大事な仲間だ。身体を張って守る気持ちには嘘はない。
なら別に修正しなくても良いだろう。
俺だって自分の言葉でこんな反応を見せてくれるのは嬉しいんだから。
尻尾がぶんぶんと動いているのが目に入り、掴んでしまいたくなる衝動に駆られたが、それは俺の清き心で押さえつけ、具体的な内容を進めていく。
「じゃあ、基本給を支払うとして、ダンジョン攻略時には報酬の山分けな。アーティファクトは売る事はないだろうから、どれか一つを渡そう。加護の適正が合った物があれば、それも含めよう」
「もう攻略した気でいるの? ううん、しちゃうんだよね……知ってるもん私、ゼン殿凄いって」
「セシリャだって相当だろ? そうだ、俺に雇われるなら武器も新調しような。ルーンメタルを基礎として、オリハルコンを組み込もう。鎧はまだ大丈夫か……いや、素材が余ってるな。最近可愛い装備も良い物だと分かったから、セシリャのも改良……いや、新調しよう」
「オ、オリッ!? いやいやいやいや、勿体ないよ!」
「黙りなさい、もう俺の部下だ。支給した物はセシリャの物にして良いから、そうしよう」
セシリャは頭をプルプルと震わせて拒否をしていたが、俺の全く引く様子のない姿を見て諦めてくれた。そうだな、ダンジョンに潜る前に用意をして、何処でも色々できるようにしよう。
そんな事を考えながら、セシリャの案内で親御さんがいるという避難所までやってきた。
「まだここには来た事がないな」
「あー治療の訪問ね。アニアちゃんが一度来てるから、死ぬような怪我の人はいないよ。ゼン殿の回復薬も凄い助かった」
「スキル上げで大量に作ってたからな、役に立って嬉しいわ」
元は何かの倉庫だと思われる建物の中は、広さの割に人がいる訳でもなく、思った以上に明るい声が聞こえてくる。避難所という名前に余り良いイメージは持っていなかったが、この世界の人たちはこんな環境にも強いのだろう。
少し奥に入ると、建物の中頃には壁を背にして腰を下ろし、何かを編んでいる獣人の女性がいた。
「お母さん、何編んでるの?」
「ん? どうしたのセシリャ。貴方今日は予定があるって言ってなかった?」
「えっと……ゼ、ゼン殿お願い」
どうやらセシリャは俺に丸投げするらしい。俺がいきなり提案したんだし仕方ないだろう。
「はじめまして、ゼンと申します。セシリャさんとは仲良くさせて頂いております」
「まあ、貴方がゼンさんなのね? 色々とお話は聞いてます。セシリャがお世話になっているようで。私はマイテと言います」
俺が頭を下げながら自己紹介をすると、セシリャの母親であるマイテさんに、がっしりと手を掴まれ挨拶を返された。マイテさんはセシリャと同じく、狐系の獣人でとても優しそうなお母さんといった感じだ。
「セシリャさんからお話を聞きまして、宜しければ我が家に来て頂ければと思い、今日は参りました。我が家も火を放たれ半焼しましたが、まだ部屋が残っていますので是非にと思いまして」
「いえ……そこまでして頂く訳には……」
「いえいえ、実はセシリャさんは正式に私が雇用する事になりまして、その一環として住居の提供をしようと思っています。まだ街は落ち着いてませんので後になりますが、とりあえず我が家に住んで頂こうと思っていますので、お母さんも是非一緒に来てください」
雇用するなら住居の提供ぐらいはしよう。街は今荒れているので、家を失った人で取り合いだろうから、落ち着いたらになるだろうけど。
「そ、そうだよね……私もどこに住むか考えてなかった……」
セシリャは俺たちの会話を聞いて、改めて自分の置かれた環境に気付いたらしい。
ここにいる人たちには悪いが、風呂もなさそうなこの環境はセシリャには困る。だって、良い匂いして欲しいし!
「セシリャそうなの? お言葉に甘えていいの?」
「うん、ゼン殿がそう言ってくれてるんだから、良いんだよ。この人、そういう人だから」
そういうって言うのはどんな意味なのか聞きたくなるが、ここは抑えて笑顔をキープだ。
まあ、悪い意味じゃないのは分かるし流そう。
「それじゃあ、セシリャと一緒にお世話になります」
「はい、そうして下さい。では、ここを出る準備をして下さい。私はその間、ここにいる人の治療をしてますので、ゆっくりでいいですよ」
後の事はセシリャに任せ、俺は【霊樹の白蛇杖】を取り出して、避難所を歩き回る。
アニアが既に治療を施しているので、放っておいたら死ぬと言う人はいないのだが、身体の欠損や怪我の跡が見られる人はそれなりにいた。
大きな部位を失った人はいないので、用意している間に全員治してしまおう。
辛うじて持ち出したという荷物を、俺とセシリャが持ち三人で家に向かう。
その道中では、マイテさんが嬉しそうに話しかけてくれる。
「ゼンさんのお陰で、娘の人見知りも大分良くなったのよ。知ってると思うけど、酷かったでしょ? それがね、聖女様と一緒に声を掛けながら駆け回ってたの。私、泣きそうになったわ」
確かに初期のセシリャは酷かった。常にどもってた印象があるからな。
この会話はもちろんセシリャにも聞こえている。少しだけ居心地が悪そうだが、特に文句をいう事もなく付いてきていた。
「そんな昔のセシリャさんも可愛かったですけどね」
「そう言われるとそうね。でも、それなら姿は余り変わってないから、そこだけはゼンさんのお目に掛かるかしら?」
「お母さんっ!!」
マイテさんの言う通り、見た目の可愛らしさと性格の良さは十二分にその対象になり得る。
だが、それはアニアとジニーがいなければの話だ。
数年後行き遅れてたら……は、無いな。
酷い人見知りも大分治ってるセシリャなら、男が寄ってこない訳がない。
家に辿り着きご紹介となった。
誰にも相談していなかったので、何か言われるかと思っていたのだが、今更一人二人増えた所で、動揺するみんなではなく、むしろ歓迎をされていた。
部屋は母屋の一室をセシリャとマイテさんで使う事になった。
ベッドは一つしかないが、すぐに家の職人集団が作ってくれるので、明日にでもできるだろう。
その夜、俺が部屋でマジックアクセサリ作りをしてると、ドアがノックされた。
入っていいと声を掛けると、寝間着姿のセシリャがやってきた。
「ね、ねえ、ゼ、ゼ、ゼン殿」
「そんな興奮してどうした……」
部屋に入ってきたセシリャは、何故かモジモジとして赤い顔をしている。
「一緒に……寝ていいかな……?」
「……良いんじゃないか?」
「そうだよね!? これから毎日、ユスティーナと寝ていいって事だよね?」
「そうだな! ユスティーナだよな!」
突然の発言に、つい俺は良いと許可を出してしまった。だが、それは獣耳をピクピクとさせながら、赤面しているセシリャに見惚れたからじゃない。
そう、あれはユスティーナと寝たい事が分かっていたから許可を出したんだ。
「一応、親御さんの許可は必要かなって」
「好きにしてくれよ……でも高確率でエリシュカもいるぞ?」
「なっ!? あの古竜なのに可愛い子!?」
「そうだよ、何かその顔見てると凄い心配になるな……もしかして、幼い女の子に興奮する性癖でもあるのか?」
「ば、馬鹿! ちがう、私はちゃんと男の子が好きだから! ユスティーナは純粋に可愛いの!」
セシリャはかなり興奮した様子で弁解をしてる。軽くからかっただけなのに、良い反応を見せてくれるなあ。
「許可が欲しいなら出すから好きにしてよ。でも、余りかまって嫌われるなよ?」
「う、うん。うへへ、待っててねユスティーナ」
セシリャが笑いながら部屋から出ていった。ユスティーナが好かれているのは、俺としても嬉しいのだが、あの姿だけは心配になる。
いや~、しかし良かった。
俺と寝たいと言われたら、本当にどうしたらいいのか、分からなくなるよ。
あのセシリャにそれはないと分かっていても、男としてはちょっと期待しちゃうよな。
……って、おい。隣の部屋にアニアがいるのに何考えてんだよ。全く、俺はダメだなあ。
そんな事を考えていたら、いつの間に俺はアニアの部屋を訪問していて、後ろから抱きしめながら頭を撫でていた。
「よく分からないのですが、得をしたのです!」
俺の中に生まれた悪魔は、聖女様の清い笑顔に祓われ、奥に引っ込んでいったのだった。
◆
エルターラングの街をドラゴンの巣にしてから、半月ほど経った頃の事だった。
「やはり、来ましたか……」
「理由は分かっているな?」
「はい……ある程度は覚悟してますよ」
家のリビングには、この家を久し振りに訪れたヨゼフさんと、初めて来たクサヴェルさんが並んで座っている。その表情は穏やかで、ナディーネが用意してくれた紅茶に口を付けていた。
「そうか、なら三日は付き合ってもらおうか」
「一体、何をさせられるのですか……」
「開祖殿にはその間、一緒に将棋の相手をしてもらう。これは嫌とは言わせませんぞ」
ヨゼフさんに続いて、クサヴェルさんが口を開いた。
「あれ? もっとこう、勝手にドラゴンを動かしおって! とかないんですか?」
「そこまではない。あの子らも自分の意志で動いた事は、ここに来る前に確認している」
「ただ、今後は開祖殿でも、あの量の群れを動かすのは辞めて頂きたい。これ以上、竜の群れを出すと人間の警戒心が強くなり、本来討たれる理由のない竜にも、人間は討伐依頼をだしかねん」
なるほど、確かにそう言われるとそうか。ドラゴンが群れをなして襲ってくるとか、どこの世紀末だよって感じだしな。今はそんな依頼が出なくても、数年後にドラゴンを見付けたから殺しておこうって考えになる人も出るかもしれない。
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「それは、竜の印象を悪くしたからだ!」
「聞きましたぞ。百を超える竜種が、数万の人間を蹂躙したとか? 竜の強さを広める良い機会だが、いささかやり過ぎた」
ヨゼフさんは少し怒っているが、クサヴェルさんはそれ程でもないようだ。
宣伝になったならいいじゃないか……
それほど叱られる事もなさそうで、ホッとしているとヨゼフさんに睨まれた。
「今回は、三日ほど滞在して巣に帰る。エリシュカもヴィートも連れて帰るからそのつもりでな」
「えぇ~、俺帰らないよ? 兄ちゃんと一緒にダンジョン攻略するんだから」
「…………私は、ゼンの巣を守るから帰らない」
俺の両隣に座り、黙って話を聞いていたヴィートとエリシュカが、当然のように帰らないと言い出した。
「……懐かれているのだな」
「エリシュカ……そうなのか?」
ハッキリと拒否の声を上げた二人に、ヨゼフさんとクサヴェルさんは少し驚いたようだ。一瞬表情が変わった事が分かった。
「だからと言って、このまま置いておくわけにもいかん。ゼンにも迷惑が掛かる」
「大丈夫、兄ちゃんは良いって言ってるから」
「…………そう、ゼンは良いって言った。ゼン、頑張って」
エリシュカからの華麗なパスが飛んできた。彼女とは約束をしている以上、ここは俺が頑張るべきだろう。
「二人を連れて帰るとの事ですが、もう少し預かる事はできませんか? この国はシーレッドと開戦しました。その中には以前ヴィートの手足を切り落としてくれた奴もいます。正直に言いますが、ヴィートを戦場に出して、そいつらをやらせるつもりです。本人の希望でもありますから」
竜滅隊とやらは俺が簡単に殺してしまったが、あれの半数はまだ生きているらしい。それに、古竜であるヴィートの手足を切り落としたのは、シーレッド王国の三人の将軍なので、自分で決着を付けなければならない相手はまだいるのだ。
「……ならば、エリシュカは帰らせよう。戦には出んのだろ?」
「この街の守備をお願いするつもりです」
「それは儂が他の者を手配しよう。問題あるまい」
ヨゼフさんの言葉には強い意志は感じられないが、考えを曲げる気は感じられない。
そうだ、ユスティーナの近くに置くからと説得するか? ヨゼフさんは原初樹人であるユスティーナからは、目が離せない様子を見せていたはずだ。
いや……それは駄目だ。俺がエリシュカを近くに置いておきたいと言わないと、彼女を裏切る事になる。
「エリシュカも俺には必要です。せめて後数年は一緒にいられないですか?」
「…………巣を守るから」
俺が口を開くとエリシュカがそれに続いた。
……マジ何なのそれ?
エリシュカの虚ろな瞳が俺を見ている。思わずその意味を尋ねてしまいそうになっていると、クサヴェルさんが唸っていた。
「う~む、ヨゼフ。もう良いではないか、儂は許す。エリシュカの意志も固いようだからな。開祖殿、よろしく頼みますぞ」
「……クサヴェル、お前はもしかしてゼンの所に置いておけば、良い思いができるとでも考えていないか?」
「な、何を言う! 可愛い孫の思いを叶えてやっておるのだ!」
何だかクサヴェルさんが怪しい。なぜあれほど動揺してるんだ……
「それでな開祖殿。実は新しく一組作ろうと――」
「やはり、そうではないか!」
この人達、将棋の事になるとどんだけダメになるんだよ。最強種族古竜にはとても見えない。
まあいいや……もう二人を置いてくれそうだし、物で交渉するのも何だけど、試しにこれを見せてみるか。
「あの、俺の所に二人を正式に置いてくれるなら、これを試してもらっても良いですよ?」
俺はマジックボックスから、遊具の神のアーティファクトである【八一戦場】を取り出した。
見た目は普通の将棋盤なので、二人は怪訝な表情を浮かべたが、手を伸ばして鑑定をすると目を見開き固まった。
「こ、これは……だが、古竜では使用が……いや、替わりに指す者を用意すれば……」
「は、覇武名人とは何者なのだ……どれほどの強さなのだ!?」
お爺ちゃん二人が凄いわなわなしている。ちょっと面白い。
「エリシュカ、やってしまいなさい」
俺がエリシュカの肩に手を掛けてそう言うと、大きくうなずいたエリシュカが、将棋盤を自分の前に置いた。その瞬間、自動で駒がセットされ難易度選択を選択する文字が将棋盤の上に浮かび上がった。
「なん……と、古竜でも扱えるアーティファクトだと言うのか!?」
難易度「初級」を選択し、平手でエリシュカが将棋を始めた。なるほど……いきなり角交換をするのか。
「エ、エリシュカ……? お前、将棋が指せるように……?」
クサヴェルさんが激しく狼狽えている。そんなに驚く事なのか?
俺達が将棋盤を見つめる中、エリシュカは駒を取るのは良いのだが、その後は意味の解らない位置に突っ込ませ、その全てを奪われていた。
だが、その表情は変わらない。何なんだその玉砕アタックだけの手は……
「これは、戦争が起こる。世界の地形が変わるぞ……」
「黒と赤に知られたら、何が起こるか分からん……いや、知らせない方がまずいのか……」
「えっ……そんな事になります!?」
いきなりヨゼフさんとクサヴェルさんは真顔になると、恐ろしい事を言い出した。
「うむ……だから、儂らがこのアーティファクトは守護しよう。なあ、クサヴェル」
「そうだ、開祖殿に迷惑を掛けるわけにはいかん! この街に屋敷を一つこしらえよう」
完全に目線が【八一戦場】に釘付けだ。ジャンキーの目をしてやがる……
しかも、言ってる事が無茶苦茶だ。完全にやられてやがるぞ……
あのアーティファクトからは古竜を狂わす匂いでも出ているのか?
「それで、ヴィートとエリシュカの件は……?」
「それはもう解決した。ゼンの好きにするが良い」
ヨゼフさんが俺の事を一切見ないままそう答えた。どんだけやりたいんだよ……
何か、最後は完全に物で押し切った気がするが、結果が良ければ全てよしか?
「それでな開祖殿。エリシュカは100年ほどは置いておくから、そのつもりでな」
「なっ!」
「だってそうだろ、巣を守ると言ったのだ。それを、開祖殿は否定しておらん。なら当然だ」
あれってそれほどの事だったのか……?
「……つかぬ事をお聞きしますが、巣を守るって何ですか?」
「メスが巣を守ると言ったのだ、それは当然オスは食べ物を取ってくるという意味。その意味は分かるのではないか?」
「エリシュカはまだ子供じゃないですか!」
「後十数年もすれば身体も成長しますぞ」
「…………」
俺だって何となくの意味は分かっていたさ。
でも、それを肯定するとヤバい気がしていたから目を背けていたんだ……
「…………ゼン、100年よろしくね?」
「俺そんなに生きないと思うけど……」
エリシュカがピースマークを俺に向けている。ユスティーナに教わったのか……
エリシュカの件に関しては……目を瞑ろう。少なくともあと十年は時があるはずだ。
そう……時が解決してくれるのを待とう……
こうして、ヴィートとエリシュカは、公認を得て一緒にいられるようになった。
何故か古竜が増えたけど、それはもう俺には関係ないとこだと思おう。
「…………」
話が終わったと判断したヴィートが席を立ち、無言で俺を見た。
「ヴィート、何か言えよ!」
「がんばってね?」
笑顔のヴィートから声援らしきものをもらえた。
クソッ! 傍観してやがって!
「ちょっ! 兄ちゃん何!?」
俺はそんなヴィートを捕まえて、ミラベルの下へは向かわせないように、全力で阻止をしたのだった。
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