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第七章 風雲
十八話 暗転
しおりを挟む王都から帰ってきて数週間、この間にしていた事は、主にユスティーナの装備の新調だ。
高レベルとはいえ、ユスティーナの細い身体に強度があっても、重量のある装備は似合わない。
多くのスキルを習得できる彼女だが、最近は魔法にハマっているので、それを尊重して軽く、魔法の力を伸ばす装備を用意した。
まずは武器だ。
エルダーウィローを主な素材に、ダンジョンボスからドロップしたエーテル結晶体から作り上げた、魔力を向上させる魔石を組み込む。
流石ダンジョンボスのエーテル結晶体だけあって、店で売っている最高級の魔石も、石ころに見えてしまう。アーティファクトとはいかないが、魔法威力の向上やオマケに集中の補助を行ってくれるので、魔法使いなら喉から手が出る程欲しい逸品だろう。
杖の先端にはミスリルで作った鳩の羽を持ち、その間にサイズを圧縮した魔石が嵌められている。
細工はエルフであるオーレリーさんにお任せしたこの杖は、可愛らしい感じに出来上がった。
「うん、持ちやすいよ、パパ!」
続いてサブの武器として、ユスティーナの肘の辺りから生えている、自由に動かせる植物の蔓に合わせた刃物も用意した。
ムチのように動かせる蔓を振り回せば、俺でも近付くのを躊躇う程の防御を作り出せる。
これにはルーンメタルをふんだんに使い、武器の機能だけを持たせた無骨な物とした。
「これは余り好きじゃないかも。危ないもん!」
「斬るのは嫌いだったか?」
「ううん、自分に当たりそう……」
「じゃあ、俺が教えてやるよ! 最近俺は剣士としていけるって、シラールドに太鼓判をもらったからな」
「ヴィート君はもう竜で戦わないの?」
ユスティーナの蔦を掴んで、その先に付いている刃物をマジマジと見ていたヴィートに、ユスティーナは疑問の声を上げていた。
「いや、危なくなったら竜に戻るぞ。それは兄ちゃんとの約束だからな。でも、当分は剣の練習だ。この身体で剣を覚えると、竜に戻った時に爪が鋭く振るえるんだ」
そんな効果が出てたのかよ……言えよ!
身を守る物としては、軽鎧に該当する物を作る。
後方から攻撃をするスタイルだが、最低限の防具は必要だ。
急所を守る部位には、アダマンタイトを使い、装飾にミスリルを組み込んで、更に魔石を使えるように加工する。
アダマンタイトのままでも魔石は組み込めるが、やはりミスリルは魔力の伝導率が良く、少量でも全体に行き渡るように、装飾として組み込めば性能の向上が見られた。
基本的な知識は鍛冶スキル、錬金スキルなどで得られるのだが、街の職人さんの意見や、実際に作ってみると、本では得られない知識のような物が得られた。
俺は余り見た目にこだわるタイプではない。
むしろ、性能重視の傾向が強いのだが、女の子用なのでミニスカートを付けたりもした。
まあ、これも防御力を落とさず出来たのは、竜の革や希少な魔獣の素材が使えたので、成せた技でもある。
「凄いねこれ、軽い! 軽い!」
「色々魔石に付加を付けたからな。売ったら家が建つぞ」
「…………お菓子の家建てて」
「エリシュカが俺の言う事を聞いてれば、何時か建ててやるよ」
「…………ゼンが巣を作る宣言した。した……」
何時もは微睡みの中にあるエリシュカの瞳が、らんらんと輝いている。
何だよ……一体何なんだよっ!
両足、両腕にはミスリルから作り出したアクセサリを持たせる。
少しジャラジャラとするが、「対物理」「対魔法」「魔力増強」「身体能力向上」「防風 防水 防火 防土」「マジックボックス」と、無理やり色々詰め込んだ。
全てデザインは外注したので、熟練の細工師の自慢の一品でもあり、見栄えはとても良い。
俺でもスキルレベル的にできるんだけど、この手のはセンスがどうしてもなぁ……
最後に大銀虎の毛皮で小型のマントを作ってやり完成だ。
銀色をした毛皮が美しい。
かなりごてっとしているが、着せられている感じが可愛くて良い。
性能はシラールドが引くレベルだったので、どこに出しても恥ずかしくないだろう。
ポッポちゃんが、新しい装備に身を包んだユスティーナを中心に、ホバリングをしながらチェックを行っている。ポッポ先生のファッションチェックは果たして通過できるのだろうか……!?
と、思っていたのだが結果はあっさり「いいのよ! いいのよ! 主人はやっぱ凄いのよ!」と、俺をべた褒めにしてくれた。ポッポちゃんは俺に甘いから仕方がないな!
「…………それで、ゼンの装備は?」
「俺のは……また今度でいいや」
「…………ユスティーナのに、夢中になりすぎだから」
「良いだろ、あの子には今作れる最高の物を着させたいんだから」
「…………ヴィートにも剣を上げてた、私も何かちょうだい」
「そうだな、エリシュカに合いそうな物は……ミスリルで首飾りでも作るか? それなら、竜に戻っても効果がでるんだろ?」
「…………ッ! いい。すごい。お願いします。お願いします。今から作って」
急に反応を見せたエリシュカが、俺の腕を引き寄せて、こちらを見上げながらちょっとだけ必死な顔を見せていた。
「お菓子の時並に食い付いてきたな……お前さんの所で貰ったインゴットが、まだ余ってるから作ってやるよ。それにしても、クサヴェルさん迎えこないのな?」
「…………数年ぐらい放って置かれると思う。前も外に出た時そうだった」
「お前らの時間感覚忘れてたわ……」
これは迎えに来るのは、相当先の話な気がしてきたぞ。
いや、今は将棋を覚え始めてるから、迎えに来ても籠絡されるか、きっと……
俺の考えが読めたのか、エリシュカが腹黒そうな表情でニヤリと笑っている。
「普通に笑えよ。その方が可愛いぞ?」
「…………ゼ、ゼンはすぐそういう事をいう」
いっちょ前に照れやがって、顔は良いんだからもう少し素直な子になってほしいわ。
ユスティーナは新しい装備の着心地を試しながら、同じく俺が作った新しい剣を振るうヴィートと、何やら模擬戦を始めたので、俺に引っ付いて離れないエリシュカを引き剥がす為にも、自室に戻ってアクセサリ作りを始めることにした。
「…………ほうほう、ほうほう、はぁ~、なるほど」
出来上がった首飾りを渡してやると、エリシュカはそれを掲げながら眺めている。
「よく飽きずに二時間も付き合ったな」
「…………私の物ができるのは、いいことだと知った。これからも、見る」
「見るのは良いけど、くっ付くのはやめてくれ、集中ができなくなる」
「…………いや」
短くそう言ったエリシュカは、渡した首飾りを持ったまま、部屋から出ていってしまった。
大方、お披露目でもしてくるのだろう。
疲れた身体をベッドの上に寝転がり癒やしていると、部屋にヴィートがやってきた。
「兄ちゃん、この場所ちょっと変えたい。ねえ、良いでしょ?」
「お前もか……」
「あー、疲れてるなら良いよ? また今度でも」
「うぅ、お前は良い子だなあ。今すぐやってやる。さあ、鍛冶場に行くぞ!」
エリシュカが言う事を聞かないかと言われれば、それ程でもないのだが、ヴィートの俺を気遣う姿勢は、何だか昔のアルンを見るようで、どうしようもなく可愛く感じてしまう。
ヴィートの背中から覆いかぶさって一緒に歩き、鍛冶場へと向かって剣の調整をしてやった。
「うん、うん。振りやすくなった!」
ヴィートが自身を超える長さの剣を、片手で持って振り回している。
「おいっ! スッポ抜けたら危ないから、やめてくれよ!」
「えっ!? そんな事するはず……あっ!」
「うぉおおおおい!」
言ったそばから何とやらで、ヴィートの剣が炉の前に座る俺の方へと飛んできて、近くにあった金床を真っ二つに斬り裂き、石造りの床に突き刺さって止まった。
「お、お前は……」
「に、兄ちゃん、怪我ない!? ごめんなさい!」
「むう、仕方ないな。本当に気をつけてくれよ、俺なら突き刺さっても死なないだろうけど、他の人間は死ぬんだからな?」
「うん、この剣の切れ味をなめてたよ……オリハルコン凄い……父上の鱗も切れちゃいそう。……うわぁっ! ユスティーナに当たらなくて良かった!!」
今回ヴィートの剣には、オリハルコンを使用している。
ゴブリン集落での一件で、アーティファクトに匹敵する性能を求めていたので、調子に乗って作ってみた。まあ、少量だし今のスキル値でどこまでできるか知りたかったんだ。
使用したのは剣の刃に当たる部分だけにだが、切れ味は恐ろしく鋭い。
加工にはファイアエレメントと、ヴィートのブレスを合わせてようやく行う事ができた。
実はこの武器、鑑定での等級は「標準」だ。レア金属の最高位であるオリハルコンを使用すると、難易度が激増して「標準」以上の物は作れない。
単純に鍛冶スキルレベル4では、扱いきれる金属ではないのだろう。
人が作り出せる最高の等級と言われる「叙事詩級」への道は遠い。
予想ではもう一つスキルレベルが上がって「高品質」を作り出せるようになり、そこから運要素も絡んで「希少級」や「叙事詩級」が生まれると考えられる。これは、錬金での経験から推測される物だ。
まあ、それでもこの性能だ。
アーティファクトに匹敵しているかは分からないが、単純な武器性能で言えば、分厚い金床を切り裂いているので、人間程度なら一振りで真っ二つだろう。
俺でも両腕でガードして片腕ぐらいは切り落とされそうだ。まあ、感覚の話だから実際どうなるかは、分からないけどね。
「時間的に余裕を持って帰るから大丈夫だよ」
「そお? なら良いけど、ゼン君がいないと始まらないんだからね?」
「主役は俺じゃないんだが……」
夕食の時間では、ナディーネが心配そうな声を上げていた。
ゴブ太君との取り引きがあるので、また少しの間この家を空けるからだ。
「…………私に任せて、ご飯の恩は返すッ!」
珍しくエリシュカがナディーネに話しかけていた。
理由や動機はともかく、自然とこの家に馴染んでいる状態は好ましいな。
それに最近は気遣いもできてきている。もしかして、この生活はエリシュカの精神に結構な影響を与えているんだろうか?
「なあ、エリシュカはここの生活は楽しいか?」
何げなく聞いた一言に、エリシュカは微睡む瞳を俺に向けると、口の中身を飲み込んだ。
「…………ここは、もう私の巣。だから楽しい」
「何時の間に乗っ取ったの?」
まあ、何でも楽しければいいか。
「じゃあ、山付近に薬になる草が生えてるのよ。それをお願いね?」
「分かった。俺が簡単にそれを取ってくる事で、古竜だと証明してやるよ」
「ふ~ん、余裕みたいな顔してるけど、怪我しないでよね」
ミラベルと椅子を並べるヴィートが、一見するといがみ合っていそうだが、楽しそうに会話をしている。
何か、ヴィートが良いように使われてる気もしないでもないが、放っておこう。
しかし、ヴィートの方は成長が遅いから、いつの間にかミラベルがお姉さんに見えるな。
お互い中身の問題なんだろうが、どうするんかねえ?
でも、この問題ユスティーナにも当てはまるんだよな。
まだ成長は止まっていないので、予想の範疇でしかないのだが、種族的にユスティーナは長寿になる事が分かっている。俺やポッポちゃんなどが先に死ぬのは良いとしても、取り残されるのはやはり可哀そうだ。
まあ、ポッポちゃんはその辺り考えていたようで「エリシュがいるのよ? 古竜はずっといきるのよ!」と、俺以上にその辺の事を考えていた。流石ポッポちゃんだわ、考えてないようで違うね。
装備の問題も一段落付いたので、そろそろゴブ太君の下へ行く事にしよう。
前回の訪問で話を進めていた取引を行うつもりだ。二週間ほどの滞在と考えていて、彼らの収穫に応じて王都やその道中で購入した品物を物々交換する予定だ。
この前行ってまたすぐの訪問なんだが、これには一つ理由がある。
実はゴブ太君たちの群れに新たに加わった亜人たちの話から、怪しい土地がある事が分かった。
簡単に話を聞いた限り、立ち入れない場所が幾つかあるらしい。
今回は攻略する気はないのだが、怪しい場所は早めに調べたい。
ジニーを娶る為にも、ジニーと一緒じゃないと駄目だと言うアニアの為にも、下準備を進める。
まあ、これに関しては正確な位置を誰も把握していないので、時間が掛かりそうではある。
それ程にこの森は広大な場所だし、入れない所なので亜人も大して記憶にしていないからだ。
「シラールドは来ないのかー、じゃあ兄ちゃんが剣術教えてね?」
「向こうでゴブリンたちと遊んでくれよ。あいつら進化して結構強くなってるぞ」
「おぉ、そうだね。俺、ゴブリンとかオーク舐めてたよ。人間からしたら結構強いよね?」
「そうだな、お前ら古竜が強すぎるだけなんだけどな」
空の旅行も終わる頃、スノアの尻尾にまたがっていたヴィートがこちらに来て、俺の肩に手を乗せながら話しかけてきた。
シラールドは大暴れできて満足してしまった為、今回はお休みだ。
レイコック様とまたオセロでもしてるのかもな。
「ねえ、パパ。アニアママ帰って来るんでしょ?」
「そうだよ、アルンの結婚式に間に合うように帰ってくるから、俺たちが家に戻った時にはいるだろうな」
「そっかー、じゃあセシリャお姉ちゃんも帰ってくるのかー」
エリシュカに抱かれているユスティーナが、体を後ろに倒して俺に話しかけてきた。
手を伸ばしてきたので、それを掴んで相手をしてやる。
俺とユスティーナに挟まれた形のエリシュカは、何やら小さな声で「お菓子先生」とか言っていた。何それ、凄い気になるんだけど……
アニアとセシリャは修行を終えて帰ってくる。
アルンの結婚式が良いタイミングになったようだ。
家に帰ったら会えるのだと思うと心が躍るし、これから毎日会えると思うと、どうやって可愛がろうかと今からワクワクが止まらない。離れていた間で発見した食材をふんだんに味あわせてやろう。
ゴブリン集落へと辿り着いた俺は、早速ゴブ太君と取引を行っていく。
それ程期間はなかったが、戦いがなくなり労働力が余っていたらしく、程よく物が集まっていた。
今だから更に分かる希少価値の高い草や花、家具として武器防具として価値の高い木材が、倉庫となっている建物を中心に積み上げられている。
それらを回収して、食材と武器防具そして、大量の酒を代金として支払った。
この取引に儲けはほぼない。
この集落は俺の第二の故郷みたいな物だから、単純に彼らに物を提供したいだけだ。
今回の取引では今俺が一番欲している物は見つからなかった。
だが、必ず見つけてみせる。「フッサ草」はこの広大な森のどこかにあるはずだ!
次にゴルゴーンちゃんの下へ行き、彼女に服を与える。
だが、案内されて向かったその場所を見て、俺は目を疑った。
そこには人間に近い体を持つ亜人が多く集まっており、俺らに頭を下げて待っていたのだ。
この光景にはヴィートも少し戸惑っている。
分かるぞ、みんな俺らからみたら半裸だからな。
用意してきた服を全て配り、刺激の強い状態を緩和した。
彼女たちの中には、ユスティーナが植物操作の魔法を教わったと言うドリアードがいたり、小さな妖精みたいな子もいた。
その小さな妖精みたいな子なんだが、簡単な人の言葉を理解していた。
ピクシーと名乗った彼女らは、楽しそうに笑いながら片言の人間の言葉を喋り、同時に亜人たちとも会話している。
これはかなり貴重な存在なんじゃないだろうか。
彼女たちにはサイズ的に合うのか、何故かポッポちゃんが大人気だった。
大人の女のポッポちゃんは「トリノルッ!」とか「ジョウオウ! キネン!」と言いながら、絡んでくるピクシーたちに対して「遊んであげるのよ?」とクルゥと鳴いて、相手をしていた。
しかしここはまずいな、俺が一人で来たら色々と我慢が出来なそうだ。
今後来る時には必ず誰かを同伴させる事を決意して、俺はゴルゴーンちゃんを部屋呼び出した。
「ゴルゴーンちゃん、君にこれを預ける。ゴブ太君の力になってくれ」
俺が取り出したのは、北の勢力のボスが持っていたアーティファクト【天与調教師】だ。
このアーティファクトは手に入れたはいいのだが、ちょっと扱いに困っていた。
倒した獣の使役を行えるのだが、これが曲者で調教スキルのように意思の疎通は出来ないのだ。
俺にはそんな状態で強い力を持つ魔獣を連れ回す気が起きない。
スノアだって信頼できるのは会話が成立しているからだ。
人がいない場所ならまだいいが、街で生活している俺には使い勝手が悪すぎる。
誰かに使わせるにしても、それに該当する人物がいない。
ならば、余りその辺の事を考えなくても良い、この森の亜人に渡しても良いと思ったのだ。
この群れの支配下にありながら、何故か独立している彼女なら、幹部連中の中から一人選ぶよりいいだろう。いや、下心はないぞ。「嬉しいです大王様」とか言われながら巻き付かれてるけど、口元が緩んでいるのはこの群れが大きくなってきたなと喜んでいるだけだ。
ポッポちゃんが「卵なのよ?」とクルゥと鳴いて、謎な事を言ってるが放っておこう。
彼女にはアフターサービスとして、適当に探していたら攻撃してきた体長三メートルはある馬鹿でかいシカをプレゼントした。
立派に枝分かれした角に、シカとは思えない太い脚、黒い剛毛が鉄をも弾く硬度を持ち、更には多くの魔法を連発してくるキマイラよりも強いんじゃないかと思える魔獣だ。
みんな初めて見たらしく名前を知らないほどだったので、例によって毛を少し切り落として鑑定してみた結果「精霊鹿」という名前だと判明した。
格好良すぎて、思わず俺が連れて帰りたくなったが、ここは泣く泣く諦めた。
こんなデカいシカを連れて帰れないし、街に入れるのも断られそうだからだ。
本当に強力な魔獣を下さったと、頬にキスをしようとしてくれたゴルゴーンは、エリシュカに止められていた。
「おい、ゴルゴーンちゃんの邪魔をするんじゃない」
「…………そう、帰ったらアニアって子に言う」
「すいませんでしたエリシュカさん。お詫びにこれをお受け取りください」
「…………分かれば、いい。そんなにしたいなら私……」
「早く食べるんだ、さあ」
怪しい事を言い出しそうだったので、口にお菓子を突っ込んでおいた。
そんなこんなで二週間近く滞在し、前回は時間がなくて治し切れなかったみんなの身体を治療していると、段々大王さまから神とか言われ出してきた。
本物の神様を知っている身としては全力で止めさせざるを得ない。
あんな全ての権現のような方々と同じ地位には、俺は絶対になる事は出来ないからだ。
帰り間際になると、偵察から戻ってきた一団がやってきた。
「遠いな……これは気軽にはいけないぞ」
彼らは周辺に散った東の勢力と、北の勢力の残党狩りついでに、ダンジョンを探してくれていたのだが、彼らが調べてきた場所はどれもここから距離がある。
単純に数日かけないとたどり着けない場所なので、今回は諦めよう。
「じゃあ、また来るね。ゴブ太君も支配もあっちの方も頑張ってね」
他の群れを吸収して更に大きくなった集団だったが、それと同時にゴブ太君のハーレムも大きくなっていた。今では数匹の子供がいるし、更に増やすらしい。もう普通に走り回っている子もいるので、本当にゴブリンは成長が早いのだと感じさせられる。
ゴブ太君は人数が増えた分だけ大変だと嘆いていて、俺に数人連れていけとか言っていたが、それは丁重にお断りしておいた。
呼び寄せたスノアに乗って帰路につく。安全な空の旅もあと数時間で終わりだ。
俺の横に座り剣を磨いているヴィートと、軽く会話をしながら進んでいると、エリシュカの前に座っているユスティーナが声を上げた。
「ママ、どうしたの?」
先程までクルゥクルゥとユスティーナと楽しそうに話をしていたポッポちゃんだったが、突然鳴くのを止めて真剣に先を見つめている。
「どうしたんだ一体?」
俺のその質問にエリシュカもヴィートも視線を先へと向かわせた。
「…………ゼン、たいへんかも」
「兄ちゃん! 壁崩れてる! 兵士もいっぱいだよ!」
俺にはまだ見えないラーグノックの様子が、俺とユスティーナ以外には見えているのだろう。
無言で先を見つめるポッポちゃんと、慌てた様子のエリシュカとヴィートが、街の様子を教えてくれた。
「パパ……」
俺らの話を聞いて不安げな表情を浮かべたユスティーナを、エリシュカら受け取って抱きしめる。
「大丈夫だ、何も悪い事は起きていない。だけど、何がいるか分からないから、ユスティーナはちょっと待ってような?」
頭を撫でながら抱きしめて安心させてやる。
まだ何も分からないがこうするしかない。
それはポッポちゃんも同じらしく、ユスティーナの肩に飛び乗って体を寄せていた。
「エリシュカ、頼む」
「…………わかった。ユスティーナ、竜になるから私に乗る」
「えっ!? 私もいくよ!?」
「…………ユスティーナ、言う事を聞きなさい。ゼンを困らせたいの?」
エリシュカの普段は見せない諭すような口調に、ユスティーナは余程の真剣さを感じたのか、大きくうなずくと竜に戻ったエリシュカに飛び乗った。
「安心しろ、みんな無事だ。エリシュカ、後で誰かをよこす。それまで待っていてくれ」
俺の言葉を聞くと、エリシュカはその場で速度を落とした。この場で待機をするようだ。
その姿を見届けて、段々と大きくなっていく街の姿を何一つ見落とさないように目を開く。
溢れ出る不安がぬぐえない。
一体何が起こっているのか分からないのが恐怖だ。
俺の頭の中には家のみんなの顔が浮かぶ。
そうだ、今はアニアもいるはずだ。
その事実が俺の心を更に不安にさせた。
「クソッ! スノア速度を上げろ! 待ってろ、すぐに行くぞ!」
俺は自分の中の恐怖心を掻き消す為叫んだ。
こうして俺は、城壁が崩れ、多くの兵士がいるラーグノックの街へと戻ってきたのだった。
************************************************
七章はこれで終わります。
八章に関しては夜にでも活動報告に載せます。
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