アーティファクトコレクター -異世界と転生とお宝と-

一星

文字の大きさ
上 下
122 / 196
第七章 風雲

九話 遊具の神のダンジョン

しおりを挟む

「久しぶりだな、ダンジョンは」
「前に経験があるのですか?」
「あぁ、領内に一つあるからな。だがな、水の中なのだ。多様な種がいる我が領地だが、水の中は難しい。よって、制限も何も掛けておらんのだが、誰一人攻略者は出ていないな」

 庭に出現したダンジョンを前に、アルンとシラールドが肩を並べて会話をしている。
 二人は俺を通して度々会う機会があり、シラールドはアルンをかなり気に入っていた。
 何やら勉強中のアルンを試したらしく、覚えの良いアルンはシラールドのお目にかなったらしい。
 それ以来、俺抜きでも会っているので、ちょっとジェラシーだ。

「ポッポちゃん大丈夫? 重くない?」

 俺の言葉を聞いて、ポッポちゃんは翼を動かして少し飛んだ。
 身に着けたアクセサリが動きを阻害しない事を確認すると「良いのよ! きれいきれいなのよ!」とクルゥと嬉しそうに鳴いている。

「よし、じゃあアルンたちもこれね」

 俺は指輪型のアクセサリを、アルンとシラールドに手渡した。

「ありがとうございます。これって、ゼン様が作ったやつですか?」
「おう、最近やっと成功率が上がってな。物理防御と魔法防御の両方を付加したのが出来た。以前から色々持ってたやつより、出来はいいと思う」
「はー、遂にマジックアイテムが作れるほどになったんですね。本当に何でもできますね」

 感心した様子のアルンは、指輪を興味深そうに眺めていた。
 俺はその指輪を一度取り戻し、アルンの薬指にはめようとしたのだが、腕を引いて逃げられた。

「……ゼン様は僕を狙っていたんですか!?」
「そうだ……ばれてしまったか……」
「僕にはナディーネさんがいます!」
「くっ、諦めないぞ!」

「何を気持ち悪い事をしているんだ……」

 一部始終を見ていたシラールドが、呆れたような声を上げた。
 あっ、遠くでこちらを見ていたナディーネが、すげえ顔してる……

「良いじゃないか、少しぐらい遊んだって。なあ、アルン」
「えっ、冗談だったのですか……?」
「やめろ」

 自分から仕掛けておいて何だが、あの国のアイツを思い出してしまった。
 不用意にこの手の冗談は止めよう……頬にあの感触が甦る。

「んじゃ、行こう。いきなり危ない事も無いだろうけど、一応気は抜くなよ」

 ダンジョンの入り口の前に立つ。
 短い芝生が生える庭のど真ん中に、白い石で造られた神殿を思わせる真四角の建造物がある。
 どこか前世の西洋風だ。
 美しい装飾が施され、人が並んで三人は入れる程の入り口がある。

 ちなみに、ルーンメタルのツルハシで、この建造物を削ろうとしてみたが、破壊不可の保護が掛けられているのか、全く歯が立たなかった。

 この距離まで近づくと、その入り口の先が見える。
 下へと向かう階段。地下ダンジョン形式だった。
 果たして本当の地下ダンジョンかは分からない。
 これを下りれば、他の場所に飛ばされている可能性もある。

 俺は『ライト』の魔法を使い階段を降り始めた。
 光で照らされると、すぐに階段の終わりがある事が分かる。
 思った以上に長くない。建物一階分程度だろうか。
 建物の屋根で太陽の光が防がれなければ、魔法を使わなくとも見通せるはずだ。
 ポッポちゃんが、慎重に下りた俺に続いて、ピョンピョンと降りていた。
 一段降りるごとに俺を見ては、「降りるのよ? 主人?」とクックと鳴いている。
 俺がそれにうなづくと、正面を見てまたピョンと降りた。
 そして俺の所に戻って来る視線、今日のポッポちゃんは少し凛々しいな。

「扉……ですよね?」

 階段が終わり、アルンが怪訝な表情を浮かべながら、通路の奥に視線を向かわせる。
 そこには、金属製の扉が通路を塞いでいるのが見えた。

「罠とかはどうだろう?」
「何も無さそうだが、儂が先に行こう」

 俺の言葉にシラールドが応じて前に出た。
 彼ならばある程度の怪我をしても、自動で回復する力がある。
 この街に来てからの話し合いで知らされたが、シラールドは俺との戦いの頃から、武器とは別のアーティファクトを所持していた。
 その名も【恢復かいふくのアンクレット】。
 彼の異常なまでの自己回復能力は、ヴァンパイアとしての能力に加え、このアーティファクトがあった故のものだった。
 腕を吹き飛ばしたのに、すぐに生え変わるなんて芸当は、ヴァンパイアロードとも言える存在の彼でも、普通は不可能らしい。
 もちろん限界はあるだろう。そうでなければ無敵のアーティファクトになる。
 試した事はないらしいが、半身ぐらいなら失っても大丈夫だとか。
 試しにハメてみたいと思ったが、無理だった。
 何故なら、【恢復かいふくのアンクレット】はシラールドの脚に根を生やすように食い込んでいたからだ。
 足がちぎれても、回復した足にアーティファクトは付いて来るらしい。
 多分、彼が死なない事には外れないだろう。

 シラールドが先へと進む。
 通路に大した距離は無い。十メートルも進めば扉へと手を掛ける事が出来た。

「空けるぞ、主」
「頼む」

 短い会話で事を済ます。
 それに合わせてアルンが、【天水の杖】を展開して、何時でも防御が出来る状態を作り出した。

 見た目は重量感があるが、不思議と軽い扉が開かれる。
 奥へと開いた扉の向こうからは、眩いほどの光が溢れてきた。

「こ、これは……」
「面妖な……」

 アルンとシラールドはその光景を見て絶句していた。

「駄目だろこれ……」

 俺も驚きでいっぱいだ。
 探知では何も反応がない事は分かっていた。
 だが、ダンジョンなので急に別空間が現れる可能性もあった。
 その為、かなり構えていたのだが、扉を開けて現れたその光景は、俺が良く知る雰囲気を持つ物だった。

「これ程の光を放てる魔道具か……流石神のダンジョンだな」
「どうやったらこんな色が出るのでしょう。明りの魔道具とは違うのですかね?」
「うむ、これは……遊具なのか? この白い石は? むっ、黒い石は動かないのか」
「あっ、これはトランプみたいですね。でも少し違うなあ」

 危険がないと分かったアルンとシラールドは、部屋の中に置かれた机の上にある物を物色し始めた。
 ポッポちゃんも遊具が置かれた机の上に乗り、積まれている花札を咥えて頭にハテナマークを浮かべている。
 しかし、絵は気に行ったのか「お花きれいなのよ! 見たことないやつなのよー」とご機嫌だった。

 一発でそれらが何か理解できた俺は、このダンジョンの意図が分かってしまい、気合を入れた自分が馬鹿らしくなってしまった。

「神様こんなパターンありですか……」

 遊具の神という名前から、少しはこの手の物があるとは予想していた。
 だが、それは例えば自分が将棋の駒となり戦う物や、カードゲームのキャラクターになったりするものだとばかり思っていた。
 こんな真正面から、前世であったゲームが置かれているなんて、想像するのが無理だろう。

「どうやら、この遊具を使い勝利をすれば、鍵となる物が手に入るらしいぞ。親切な事にあそこに書いてある」

 俺に近付いてきたシラールドが、指した方を見る。
 そこは入り口の正面で、壁には何かの窪みがある。
 更にその窪みの上には金属製のプレートがあった。

 『安心・安全・楽しいダンジョン! お子様からお年寄りまで幅広く遊べます。
 地域最大級の遊具が君を待つ! さあ、みんな集まれー!

 遊び方
 席に座ると自動的に遊戯が開始されます。
 勝利をすればダンジョンキーをプレゼント!
 全部集めてダンジョンを攻略しよう!』

 軽い、軽すぎる……
 この世界には数多くの神がいる。その中の一柱にこんな御方がいても、おかしくはないけどさ!

「見た所危険はなさそうですから、試して見ても良いですか?」
「うん……多分負けても、何もペナルティーはないなこれ」

 こうして、思った以上に俺のヤル気が削がれる事となった、ダンジョン攻略が始まった。

 興味津々のアルンが、早速席に座る。

「わっ! 勝手に動き始めました。 五枚もらえましたが、これどうすれば……」

 アルンが座った所には、トランプが積まれていた。
 座ると同時にトランプが動きだし、空中でシャッフルされたトランプが配られる。
 アルンの手元に五枚、対面側に五枚だ。
 机の中央には残りのトランプが積まれている。
 多分これはポーカーだろう。

 机には五つのマスが横一列で書かれている。
 見た限りの予想しか出来ないが、三勝できれば攻略みたいだ。

「ぬうう! 何だ弾かれるぞ! む? この場所ならば置け……おぉ! 主見ろ、ひっくり返ったぞ!」

 シラールドも既に遊具で遊んでいた。
 彼が座ったのはどう見てもオセロの席だ。
 手元にある白い石を手に持って、悪戦苦闘の末ようやく一枚置く事が出来た。
 どうやら設置出来ない場所に置こうとすると、不思議な力で弾かれるらしい。

 二人を真似てポッポちゃんも椅子に乗った。
 「やるのよー、やるのよー」とご機嫌だ。
 一瞬遊具が戸惑ったような動きをしたが、自動的に動き出す。
 椅子に乗り、ピョンピョンと跳ねながら机の様子を覗いていたポッポちゃんは、面倒になったのか机の上に飛び乗った。
 準備が済み動きの止ったそれに向かって、ポッポちゃんは「やるのよ!」と鳴きながら、くちばしを伸ばす。
 駒の一つを咥えると、勢いよく取り出した。
 しかし、積まれていてた駒が崩壊する。
 その瞬間、ポッポちゃんの敗北は決まり、咥えていた駒が机の中央にある、盤の上へと飛んで戻って行った。

 いきなり駒を取り上げられ、ポッポちゃんは目を丸くしている。
 だが、獲物を取られたと判断したのか、ポッポちゃんのヤル気に火が付いた。
 クルックークルックーと戦いの鳴き声を上げながら、積まれた将棋の駒を、何度も何度も咥えては、その度に山を崩して敗北する。
 ガチャガチャと将棋の崩れる音と、ポッポちゃんの怒りの声だけが繰り返される、カオスな状態が生まれた。

 流石にこれにはアルンとシラールドも、動きを止めざるを得なかった。
 俺はバサバサと翼をはためかせ、頑張るポッポちゃんを抱きかかえる。
 しかし、興奮状態のポッポちゃんは、なかなかおさまらない。
 俺はマジックボックスから、ポッポちゃん専用ブレンド穀物を取り出して、口元へと運んだ。
 ポッポちゃんはそれを「あれはあたしのなのよ! おいしいのよ!」と怒りながら食べるという、器用な事をしていたが、段々と食べる方に集中してくると、自然と怒りも収まったようだ。

「ポッポちゃん、食べ終わったら遊び方を教えてあげるからね」

 俺がそう言うとポッポちゃんは、「うふふ、そうだったのよ。主人に教われば絶対なのよ!」とクゥゥと鳴いていた。
 その信頼は嬉しいが、果たしてポッポちゃんに静かに駒を抜く事が出来るかは、若干の疑問が残った。

 二人と一羽が遊んだのは、ポーカー、オセロ、将棋崩しと統一性のない構成だ。
 それ以外にも花札や、別のトランプゲームもあり、一つだけ存在した扉の向こうには小部屋があった。
 そこには一本の木製の棒と、自動的に球が飛んでくる設備がある。
 どう見てもバッティングセンターのあれだ。
 更には、どうやらマインスイーパーのような物もある。
 これに関しては机を触って動かすタッチパネル式だ。
 この世界にもいる技術者が見たら、涙を流して喜びそうな物だな。

 これらの遊具に使い方は書いていない。
 椅子に座ったり、定位置に付けば自動的に開始される。
 オセロに関してはやっていけばルールは分かりそうだが、ポーカーなどは頭の良いアルンでも、全く理解が出来ていない。

 もしかして、俺がいないと恐ろしく難易度の高いダンジョンなんじゃ?

 まあ、俺に対する褒美らしいので、俺が攻略出来れば良いのだろう。
 だが、改めて神様からの贔屓は嬉しいが、同時にやり過ぎではないかと引いてしまう心があった。

 一通り見た後は、一度家に戻って報告をした。
 とりあえず、安全な事は分かったので、子供たちにも解禁だ。
 ルールに関してはアルンに全てを教えたので、後はやってくれるだろう。

 俺はポッポちゃんが将棋崩しに興じる横で、本当に久しぶりのブラックジャックに挑むだった。



 ダンジョンが現れて約一カ月が経った頃、ようやく遊具の一つが攻略された。

「カッキーン! おぉ!? おぉぉぉ? やったああ、兄ちゃん入った、全部入ったよ!」

 ヴィートが十球を打ち返し、その全てを指定されていた籠の中へと収めた。

「毎日の成果が実ったな!」
「うん。俺、何か閃いた。これが剣でも戦えそうな気がして来たよ! そうすれば兄ちゃんとダンジョンにも入れるかも!」

 ヴィートはトランプやオセロなどはルールを、聞いただけで嫌な顔をしていたが、このバッティングゲームだけは、連日やり続けていた。
 そのお蔭か分からないが、人の姿でも体の動かし方が上手くなってきている。
 一カ月の成果は、人間であれば剣術レベル2に相当する強さを手に入れており、古竜の力も相まって、スキルレベル以上の強さを感じる。

「うわっ! 何か飛んできたよ!」

 今までボールが飛び出ていた場所から、小さな光る物体が飛んできた。
 ヴィートが拾ったものを俺に手渡してくれる。

「ほうほう、これが攻略の証か。綺麗なコインだな。みんなに見せびらかした後で、台座にはめてこいよ」

 ダンジョンキーであろうコインは、どこか前世で見た事あるような感じがする物だった。
 流石地球生まれの神様だ。懐かしい演出をしてくれる。

 ヴィートは自らが獲得したコインを、遊ぶ子供らに見せびらかしている。
 特に最近、何かとぶつかっているミラベルには、念入りに行っていた。

「古竜なんだから、それぐらい当たり前でしょ!」
「へへーん、本当は悔しいんだろ!」

 このやり取り、何故か突っかかっているのはミラベルの方だ。
 エリシュカには文句は無いようだが、ヴィートに対しては古竜なんだから、しっかりしろと小言を言っている。
 一度探りを入れた時には「ヨゼフ様は威厳溢れる方だったのに、アイツは駄目だから古竜に幻滅しちゃう」と言っていた。
 ミラベルにも何か譲れないものがあるのだろう。
 子供同士の事なので、俺は放っておいている。

 遊具が置いてある部屋の窪みの中には、見事にコインがハマった。
 ぴったり過ぎて一度入れたら取れなくなった程だ。
 ヴィートは少し残念そうだったが、これでもうダンジョンに興味がなくなったのか、外で遊ぶようになってしまった。

 その後は次々と攻略が行われる。
 俺が運でブラックジャックに勝利すると、アルンはポーカーと花札を攻略した。
 アルンは、異なる二つのゲームを短期間で覚えた。
 これは教える俺の加護が、相当働いているのを感じたが、地の頭の良さが発揮された結果だろう。
 ちょっとスペックが高すぎるなと思っている昨今だ。

 オセロはシラールドが攻略した。
 厳つい顔をしたおっさんが、椅子に座ってオセロをしている姿は、実にシュールな物があった。
 本人は楽しそうにしてたから良いけどさ。

 残るマインスイーパーは、ナディーネとミラベルが交替しながら楽しんでいた。
 攻略した時は二人で知恵を出しあっていた。
 この形式だと後ろにいる者も意見を言えるので、ルールさえ分かれば実は難易度が低いと思う。

 最後の将棋崩しは、ポッポちゃんが飽きることなく行っていた。
 最初は、崩れた直後に癇癪を起していたポッポちゃんだったが、今ではルールも理解して、最少の動きで流れるように駒を取り除いている。
 基本的にこの将棋崩しは、相手側のミスが無い。
 攻略は最後まで音を立てずに、崩さずに行けば出来るはずだ。

「ママ、頑張ってー」

 ユスティーナが、振動を起こさないように、小さな声で応援している。
 その声を聞いて、心なしか気合の入ったポッポちゃんが、最後の駒をクチバシを器用に使い、盤に押さえつけながら移動させた。
 駒が音を立てずに取り除かれる。
 勝利を確信したポッポちゃんの、クルゥゥゥという勝利の雄たけびが響き渡った。

 満足そうなポッポちゃんが、将棋盤の上に現れたコインを、咥えて持ってきてくれた。
 「主人がいったとおりにしたら、できたのよ!」とご満悦だ。

「よくやってくれたポッポちゃん。今夜は寝るまでナデナデだ」

 寝るまでナデナデ、それはポッポちゃんが寝るまで俺が抱きかかえ、常に撫で続ける行為。
 最近は何かと人が多いので、コミュニケーション不足だと思い極たまにしていた。

「これで全部攻略できたな。みんなを呼んで来てくれ」

 これから現れるであろう、ダンジョンコアの姿は、普通はお目に掛かる事は出来ないだろう。
 俺はいい機会だと思い、家の皆を呼び寄せた。

「じゃあ、はめるぞ。……一応シラールドたちは防御態勢だけ取っておいて」

 大丈夫だと思っていても、子供たちの顔を見たら少し怖くなった。
 シラールドやアルンが動いたのを確認して、俺は最後の一枚を台座に収めた。
 すると、隙間一つ無かった壁が左右に開かれる。
 開かれた先には思っていた以上に広い部屋がある。
 そして、その先にあったのは、これで四度目になるダンジョンコアの姿だった。

「はぁ~、あれがコアなのね。ゼン君と一緒だと、本当に色々見れるわ」
「今日は御馳走ね。これが終わったらナディーネ買い物行って来てくれる?」

 口を開けて驚くナディーネと、その隣で呑気そうなマーシャさん。
 今夜は御馳走らしい。エリシュカの瞳が一瞬光ったぞ。

「俺がダンジョンキーを取ったから、ここ開いたんだ!」
「一つだけでしょ? 私だって取ったんだから自慢しないで!」

 またヴィートとミラベルがやり合っている。
 本当に飽きないな君たちは。

「…………ダンジョン攻略者……ゼンは勇者?」
「えっ!? パパって勇者様だったの? 勇者様は変な人なんでしょ? 後、男の人が好きな人」

 最近何時も一緒の二人が、そんな事を言っていた。
 俺はフリッツに関しては、謎の演技を続けている変な奴とだけ教えている。
 まあ、そこにアルンからの外見と内面があっていない人やら、ポッポちゃんからの俺の部下が加わり、更にはこの前であったエリオットの情報が追加されて、恐ろしい勇者像が出来上がってそうだ。

「この歳で初めてこれを見られるとはな、やはり主の下へきて正解だった。しかし……神に愛されてるのか、主は?」

 俺の隣りにきたシラールドが、腕を組みながらそう言った。

「良くはして貰ってるな。そう言えば大神様にもあった事あるし、あの方にはそう会えないんだろ?」
「それは……儂も文献でしか見た事のない話なんだがな……」

 なるほど、シラールドをもってしてもそのレベルか。

 ダンジョンコアの正面に立つ。
 巨大な水晶の中には何だか見慣れた物が入っている。
 俺が商売として売っているあれだ。
 このダンジョンの性質を考えれば、至極当然な気がしてきた。
 武器防具じゃなかったのは残念だが、こんな安全なダンジョンならば妥当な所だよな。

 さて、戦場の神の加護は……考えていた通りあいつに渡そう。

 俺は驚くみんなの様子を、微笑ましそうに見ているアルンの肩を抱く。
 そして、演技じみたワザとらしい言い方をして、何だと俺の顔を見たアルンに話しかけた。

「アルン、功労者であるお前に加護を与えよう!」
「……えっ? えっ!? いやいや、駄目ですって!」

 それを聞いたアルンは、言われた事は理解できたが、受け入れるのに時間が掛かったのか、慌てた様子を見せた。

「駄目って何だよ?」
「だってこれはゼン様が神様から貰ったダンジョンですよね? ならゼン様が加護を貰うべきです」
「だから、俺が貰った物をアルンに渡すって事だ。何もおかしくないだろ」
「……理屈はそうですけど、僕なんかがおこがましいですよ」

 常識っ子アルンならこうなる事は分かっていた。
 なので、俺は自分が思っている心の中を話す事にした。

「なあアルン、俺の役に立ってくれるんじゃなかったのか? それなら素直に受け取って活躍してほしい。お前は俺が真に信頼出来る、数少ない人間の一人だ。兄から弟へのプレゼントは遠慮なんてすべきじゃないぞ?」

 アニアを嫁にする気の俺だから、アルンは当然弟だよな。
 しかし、言い終えてみると、ちょっと恥ずかしい。
 だが今はそれを顔には出さない。
 真剣な表情でアルンを見つめていると、いきなりアルンが下を向き鼻をすすった。

「お、おいッ! 泣くなって……」
「泣いて……ないですよ……」

 どう見ても半泣きじゃねか……

 俺はみんなに気付かれないようにする為に、アルンの肩を抱いたまま、ダンジョンコアの目の前に連れて行った。
 ちらっと後ろを見てみると、みんなの視線はアルンに注がれている。
 ばれない様にしたのだが、流石にちょっと無理だったか。

「僕はゼン様とアニアのような関係にはなれないから、少しだけ不安でした。でも、ゼン様が僕の事を信じているんだって、本当に感じました。あ、あの、ゼン兄様……」
「それなら兄さんで良いだろ。遅かれ早かれそうなるんだから、そうしてくれよお願いだから」
「分かりました……ゼン兄さん。はは、何か恥ずかしいですね。よーし、それじゃあ、触ります」

 泣いたのも一瞬の事で、回復したアルンは普段の調子を取戻し、ダンジョンコアに手を伸ばす。
 その瞬間、アルンはビクリと肩を震わせた。
 神様の声が聞こえたのだろう。
 そして、ダンジョンコアが崩れ落ちる。
 綺麗な破片となったダンジョンコアがあった場所には、一つの将棋盤が浮かんでいた。

「これって……やはり将棋の盤ですよね?」
「そうだな、このダンジョンには合ってるよな」

 一瞬、囲碁の可能性を考えたが、あの線の数は紛れもない将棋の物だ。
 近づいて手を触れると、ずっしりとした重さを感じた。
 しかし、盤だけか。いや、これも何か仕掛けがありそうだな。

「で、加護はどうだった?」
「はい、戦場の神の加護はこんな感じです」

 アルンの説明では、身体的な能力を向上させるものではなく、何やら戦場を俯瞰出来るとか言っている。
 以前、レイコック様に見せてもらったアーティファクトに、覗くと上空からの視点を得られる物があった。
 多分、あんな感じの効果を、個人で得られたのだろう。
 そう考えると、アーティファクト分の加護が体の中に入ってるのか。
 アルン超人かよ。

「んじゃ出ようか。みんな一列に並べよ」

 ダンジョンコアが崩壊したならば、みんながここから出ればダンジョンは消えるだろう。
 出口は走ってすぐの場所だが、ご丁寧にダンジョンクリスタルの破片で作られた出口がある。
 どうせならみんなでこれを通って脱出しよう。

 きゃっきゃと喜ぶ子供たちに、少し不安気な表情を浮かべる大人たち。
 アルンを先頭にみんなが脱出したのを確認して、俺は最後に出口をくぐった。

 出口の先は、俺の家の庭だ。
 そこではみんなが体験した事を口にしていた。

 それから程なくして、ダンジョンの建物に変化が出始めた。
 なんと、四角い建物が段々と縮んで行ったのだ。
 異世界といえ、この光景は見た事がない。
 それは、みんなも同様らしく、目を丸くして見つめていた。

 暫くすると、それは収まった。
 庭を独占していたダンジョンは、跡形もなく消えてしまった。

 その様子に少し呆然としていると、ポッポちゃんが突然飛び上がり、ダンジョンのあった場所に降り立った。
 そして、地面を突くと何かを咥えて戻ってきた。
 その口にあったのは、先ほどのダンジョンがミニチュアのように小さくなった、模型だった。

 名称‥【神のダンジョン(No.1)】
 素材‥【神造石】
 等級‥【神話級】
 性能‥【破壊不可】
 詳細‥【戦場の神が造形したダンジョンの模型】

 こ、これは……
 幾ら神様でも、遊びが過ぎるよ!
************************************************
書き溜めが消えてきたので、もしかしたら14話ぐらいから三日以上の間隔があくかもしれません。
その時は申し訳ありませんがご了承ください。
しおりを挟む
感想 515

あなたにおすすめの小説

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。