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第七章 風雲

七話 襲撃のお子様

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 教国から帰ってきて一ヶ月ほど経った頃だろうか。
 旅の間はできなかった鍛冶を集中的に行って、ようやくスキルレベル4に到達した頃だ。

 部屋で生産スキルを上げていると、探知に来客がかかった。
 正門で警備をしていた奴隷の一人が、来客を連れて母屋に来ると、ナディーネが対応して俺の部屋にやってきた。

「ゼン君、兵士の人が来たわよ。人を確認して欲しいとか言ってるけど、お願いできる?」
「うん、勿論だけど。何だろう?」
「さあ、私もよく分からないけど、迷子? とか言ってたわ」
「うーん、ますます分からないな」

 ナディーネもよく分かっていないので、とにかく話を聞くために玄関に向かうと、そこには街の兵士さんが待っていた。

「ご足労をおかけして申し訳ありません!」

 教育の行き届いた兵士さんが、ガシャリと鎧から音をさせ、敬礼を見せる。

「ご苦労さまです。ご用件はなんでしょう?」
「それが、ゼン殿を訪ねて回っていた者を発見いたしました。探知を持つ者がおかしな事を言っているので、案内をしたのですが一応確認をと思いまして」
「なるほど、それでその人は……あの外にいる子らですか?」
「えぇ、ご存知ですか」

 探知を伸ばすまでもなく、正門の下で待機する警備の奴隷と、二人の人物が目に入った。
 男の子と女の子の二人組だ。並んでいるのを見ると、男の子の方が背が低い。歳の頃十二歳と言った所かな。
 女の子には見覚えがある。と言うか、何でこんな場所にいるのだと、少し呆れてしまった。

「ご迷惑をお掛けしました。知り合いなのでこちらで対処します。もし、彼女らに関して何かあれば、レイコック様には問題ないとお伝えください」
「承知いたしました。それでは失礼します」

 態度の悪い兵士はこの街では見たことはないが、真面目に仕事している彼は好感触だ。
 侯爵様は先日帰ってきている、今度会ったら……って、あの兵士さんの名前を知らないな。

 兵士さんの背中を見守りながら、そんなことを考えつつ、俺の顔を見上げる二人に声をかけた。

「いらっしゃい。もしかして二人で来たの?」
「…………そう」
「俺だけで来ようとしたのに、ついてきたんだよ!」
「…………うるさい。私が先に着いた」
「姉ちゃんは街に入れなくて、座ってたじゃん!」
「…………人間の街は仕組みが変」
「やっぱ入り方知らないんじゃん!」

 余り久しぶりな気はしないが、正門の前にいたのは将棋を配達した時に会った、古竜のエリシュカと、以前治療をしたこれまた古竜の白竜だ。
 白竜の人の姿を見たのは初めてだが、探知で分かった。

「まあ、とりあえず中に入ろうか。あっ、警備ご苦労様、探知伸ばしとくから、少し休んでいいよ」

 警備の奴隷に声を掛け、まだ言い合いを続けている二人の背中を押しながら、家の中へと案内した。

 興味津々に家の中を見学している白竜と、余り視線を動かさず正面を見つめるエリシュカを、リビングへと連れて行く。
 ソファーに座るように促すと、エリシュカは白竜と並んで座ると思ったのだが、俺の隣へちょこんと座り、ずっと俺のことを見つめている。
 俺は右腕をエリシュカの顔の前に差し出して、とりあえず保存してあるクッキーを口の中に出してやった。凄い食べてる……
 皿を用意して白竜にもやろうとしたのだが、動かした腕をエリシュカに掴まれる。流石古竜だけあってその力は人間の女の子の物ではない。両手でガッチリと掴まれてしまい、俺の指を咥え始めている。
 噛まれそうでちょっと怖い。

「エリシュカさん、出してあげるから、もう少しお行儀よくしようか」
「…………エリシュカでいい。だから、はやく、はやく」

 どんだけ食い意地が張ってるんだと言いたくなったが、この方法で食わせると俺の調教スキルが上がる。
 効率もかなりというか、とんでもない感じなので是非やりたいのだが、目の前にいる白竜が抗議の声を上げた。

「姉ちゃんだけずるい! 兄ちゃん、俺も!」

 この二匹、確実に俺より年齢が上なのに、行動が思いっきり子供だ。
 仕方がないので、エリシュカの口にクッキーを流し込んだ瞬間に、もう片方の手から白竜の皿へとお菓子を出してやる。
 だが、その瞬間エリシュカに物凄い力で腕を抱きかかえられ、体制を崩して少し床にこぼしてしまった。

「……おい、良い子にしないと二度とやらねえぞ?」

 食べ物を粗末に扱うのは、古竜だろうが魔王だろうが許さねえ。
 床に落としたぐらいじゃ、クッキーなので幾らでも食べられるけどさ。
 俺の少し本気の入った怒りは、俺の手を離さずにいたエリシュカへ通じたらしく、目を伏せてゆっくりと俺の腕を開放してくれた。

「ちゃんとしていればあげるから、落ち着こうな?」
「…………お腹がすいてたから」
「ごめんなさいは?」
「…………ごめんなさい」
「よし、じゃあ皿に盛ってあげるから、落ちついて一つずつ食べよう」

 小さくうなずいたエリシュカの頭を一撫でしてやり、皿の上にこれでもかとクッキーを盛ってやる。
 余り表情に変化は見られないが、沈んだ顔から笑顔に戻ったように感じられた。

「あはははっ! 姉ちゃん怒られてんの!」

 それを見ながら、自分に用意されたクッキーを食べ、エリシュカを指差して笑う白竜。容赦ねえな君は……

「それで二人は遊びに来たの?」
「そうそう、前に兄ちゃんが遊びに来てもいいって、言ってたでしょ。お礼もしたかったから来た! 兄ちゃん、治してくれて、本当にありがとう!」
「元気になったみたいでよかったよ。もう無茶なことはするなよ」

「…………私は将棋の大会が終わったから……来た」

 そういえばヨゼフさんが開くといった将棋の大会があったな。古竜が集まると言っていたから、エリシュカや白竜も連れて行かれたのだろう。

「ヨゼフさんとか、クサヴェルさんは?」
「…………しらない」
「俺はちゃんと言ったよ! ねえちゃんは逃げてきたみたいだけど」
「…………何で言う」
「何で言っちゃいけないんだよ! 俺知ってるもんね、ねえちゃんは絶対に怒られるんだー!」

 からかい気味に挑発をする白竜を、エリシュカがジーッと睨んだ。
 若干腕が震えているのが見える。暴れだしそうで怖い。
 力的に言えば十分対処できる相手だが、この家が持つ気がしない。
 エリシュカがどう動くかわからない。やられる前にやるを信条としている俺なので、とりあえずエリシュカの両腕を掴み、その動きを抑えて見た。

「…………がまんする。だから、おかし」

 なるほど、賢いな。

 意図したわけではないだろうが、結果エリシュカは更なるお菓子を手に入れた。
 これには白竜は少し面白くないのか、またずるいを連発していると、ナディーネが飲み物を持ってやってきた。

「果実のジュースで良いわよね?」
「ありがとう。二人は夕飯食べてくの?」
「…………たべる」
「肉がいいな!」
「ナディーネさん、今日の夕食は肉で、五人前ぐらい増やしてくれる?」
「他にもお客さんくるの?」
「いや、この子が食べるから」

 会話の最中も俺の隣で、目の前のクッキーから一切視線を外さなかったエリシュカを、目で指し示すとナディーネは不思議そうな顔をした。
 だが、それに対して質問などはないらしく、ジュースを乗せてきたお盆を持って、台所へと戻っていた。

 今日は何時までいるのかと思い、それを訪ねようとした。
 しかし、今度は外で奴隷の子どもたちと遊んでいたユスティーナが、家の中へと入ってきて、俺たちのいるリビングへと一直線に駆けてきた。

「ユスティーナ、家の中は走らない」
「あっ、そうだった! ごめんなさい! ねえパパ、ユスティーナまだ良い子?」
「謝れたから良い子だな」
「よかったー!」

 以前約束した、一年良い子にしていたらご褒美の話を聞いてから、常に守ろうとしているらしく、事あるごとに確認をしてくるユスティーナ。
 そして、ユスティーナの頭の上で「いつも良い子なのよー」と、クルゥと鳴くポッポちゃん。
 可愛い一人と一羽が、俺の座るソファーの後ろへとやってきた。

「お客さん?」
「あぁ、こっちおいで。この子がエリシュカと……名前聞いてないよな?」
「俺はヴィートだよ。よろしくなユスティーナ」

 白竜改めヴィートが少年らしい笑顔を見せている。

「…………パパ?」
「そうだよ、色々あって一応パパだな」
「…………複雑な家庭事情?」
「う~ん、そう言われると、そうかもしれないぞ……」

 エリシュカが不思議そうな顔をしている。
 考えてみれば結婚もしていないのに娘ができている。
 しかも俺はまだ厳密に言えば童貞じゃん……

 ユスティーナが加わり、更に精神年齢が低くなった空間は、とにかくエリシュカが食べるので、それに引きずられてお菓子が消費されまくる。
 俺のストックもかなり減ってきた所で、様子を見に来たナディーネに、夕食が食えなくなるから止めなさいと怒られた。
 分かってはいたが、みんな良い顔をして楽しそうにしてるから、止める気が起きなかったんだ!

 食べ過ぎたならと、少し腹を減らすためにも庭で遊ぶことにした。
 成長著しいユスティーナが、自らの肉体である蔓をうごめかせ、俺へと向かって一直線に伸ばしてくる。
 俺はそれを避けたのだが、手首をクンッと動かして蔓を操作することで、俺の腕へと巻き付けてきた。

「また上手くなったんじゃないか?」
「へへ、ママと練習したからね!」

 更にそこへ動きの拘束された俺へと、ヴィートが飛びかかってくる。

「うおおおおお!」

 掛け声だけは勇ましいが、何の変哲もない突進だ。
 だが、普通の子供ではない。
 俺は少し腰を降ろし地面を踏みしめ、開いている片腕を広げて受け止めた。

「ぐぉっ! 人の姿でこれかよ!」

 古竜は人の姿になると、大分力が落ちると聞いていた。
 力が落ちるのは、身体の大きさに相応すると思っていたので、俺を後退させるほどとは思わなかった。

「…………とどめ」

 そして最後にエリシュカが、普段の無気力な様子とは異なり、素早く動いて地面を蹴り、手足を広げて俺へと飛びかかってきた。

 ユスティーナとヴィートに拘束されていた俺は、突っ込んでくるエリシュカを回避することができず、そのまま押し倒される。
 エリシュカの飛んだ高さや体勢から分かっていたが、倒れた俺の頭は、エリシュカのスカートの中に突っ込むこととなった。
 って、履いてねえのかよ!

「早く退こうか!?」
「…………なんで?」
「何でじゃないんだよ! このままじゃ色々不味いから!」
「…………んっ……動かないで……」

 古竜とはいえ、女の子を乱暴に退けるのは気が引けていたが、これは非常に不味い。
 何が不味いってこの体勢だが、それ以上に俺の鼻の先にあるものが不味い!
 完全に周りが見えないので、どうなっているかは分からないが、とにかく脱出をしないことには、ポッポちゃんの頭皮への攻撃が開始されてしまう!

 俺は両腕を伸ばし、エリシュカの腰を掴んで力いっぱい持ち上げる。
 よし、何とか顔をスカートの中から出すことに成功したぞ!

「ゼン君……その子まだ子供じゃない……」

 背後から掛けられた声に振り返ると、そこにはナディーネが口元を押さえて、俺のことを信じられないといった表情で見つめている姿があった。

「ち、違うんだ。エリシュカが突っ込んできたんだ!」
「そ、そうなの? エリシュカちゃん?」
「…………分からない……責任とって……」
「待て待て、それは洒落にならん」

 ナディーネの目が更に険しくなった。そんな目で見られたのは初めてだよ!
 結局は全てを見ていた、ユスティーナとヴィートが説明をしてくれて事なきを得た。

「もう、本当にビックリしたわよ。アニアとジニーちゃんがいないから、ゼン君が暴走したかと思ったわ」
「暴走するとしても、発散する場所と相手はもう少し考えるよ……」
「…………ムッ」
「何で不服そうな顔なんだよ。本当に勘弁してくれ」

 エリシュカは表情は薄いが、口元だけを器用に膨らませている。
 先ほどのお返しにと、指で突いて潰してやろうと思ったが、急に顔の向きを変えて口を大きく開くと、俺の指へと噛み付こうとしてきた。

「あっぶねえ。何気に凶暴だな!」
「…………負けを認めたなら、おかし」
「負けってなんだよ……それに、さっきアレだけ食べて、まだ食うのかよ!」
「…………おかしは無限だから」
「俺から無限にお菓子は、沸かないんだけどね!」

 エリシュカの口に残りのクッキーを流し込む。
 ユスティーナにもいるかと聞いてみたのだが、食べ過ぎたのか気持ち悪そうな顔をしていた。
 そんな会話をしていると、ふと視線を感じたので振り向くと、俺とエリシュカが会話をしている姿を、ヴィートが不思議そうな顔をして眺めていた。

「どうしたの?」
「ねえちゃんが、そこまで会話する相手も珍しいなって」
「うーん、餌付けの結果かな?」

 俺も懐かれているのは分かる。だがそれは、食い気九割だろう。スキルも上がるし、美少女が近くにいるのは目の保養なので良いことだ。

 その後もユスティーナのスキル上げを兼ねて、遊び続ける。
 普段は奴隷の子供たちとも、簡易的な訓練のようなことはしているのを見ていたが、種族的なものや育成方向が違うので、ユスティーナの相手にはなっていなかった。
 まあ、奴隷の子供たちもその内鍛えても良いのだが、基本は職人候補だからね。

 その点、エリシュカとヴィートには遠慮が全くいらない。鞭術レベル2程度の攻撃は、エリシュカには当たらないし、ヴィートは当たっても笑っている。
 人間形態をとっていても、基礎的な強さが違うみたいだ。

 ユスティーナも負けていない。
 エリシュカの反撃に速度はあるがそこまで力がないので、ユスティーナの蔓でのガードを崩せない。
 同じく、ヴィートの攻撃も力はあるが全て大ぶりなので避けられている。
 竜形態であれば違うのだろうが、人間形態ではこれが限界みたいだ。
 そんな三人をポッポちゃんが「もっと、シュッシュッなのよ!」とパタパタと翼を羽ばたかせながら応援していた。

 訓練だが遊びだか、よく分からない状態のユスティーナたちを眺めていると、敷地内にまた来客が現れた。

「邪魔をする。客がきてるのか?」
「あぁ、あの子ら何だと思う?」
「何だ、か……あの少年は竜人か? だが、尻尾が見えんな。少女は……髪が人族の色ではないな。あれも……竜人か、主」

 正門からやってきたシラールドが、俺の問いかけに腕を組みながら考えている。

「あの子ら二人古竜だよ。前に言っただろ、知り合いに古竜がいるって。そしたら信じないとか何とか言ったよね?」
「……記憶にないな。しかし、古竜か。子供とは珍しい」

 シラールドはレイコック様と一緒にこの街に来た。
 親しい間柄ではなかったが、どうせなら護衛も増えて良いだろうとの判断だとか。
 実年齢はともかく、外見的にはお互いおっさんなので、気が合ったらしい。
 シラールドはレイコック様の計らいで、街の中心地に屋敷を借りて住みだした。
 一応俺のことを主だと周囲に言っている。
 それなのに、俺よりいい場所に住んでいるのは、おかしいと思わないのだろうか?
 まあ、別に文句がある訳じゃないけどさ。
 ちなみに彼は領地から使用人を連れてきている。
 本人は一人で来るつもりだったらしいが、息子や娘に押し切られたと言っていた。
 その風貌から威厳のある頑固親父だと思っていたが、意外にも家族に逆らえない親父らしい。

 それと同時にシェードたちもやってきた。
 今も家の敷地外では彼らの気配を感じる。
 一人ぐらい家の中に入れるかと提案したのだが、それには及ばないと断られた。
 彼らのやり方があるならば、それを尊重するつもりなので、余程のことがない限り、干渉はしないつもりだ。

 この街に来たシェードだが、着いて早々良い知らせを運んでくれた。
 何と、エアに子供ができたとか。
 まだ公式には発表していないらしいが、安定期を迎えれば公表するらしい。
 久しぶりに会ったレイコック様も、顔が崩れるんじゃないかと思うほど、その話で喜んでいた。

 シェードたちには俺が今後を考えて知りたい事をまとめさせる。
 また、それとは別に一つ提案をして動き出した案件がある。
 これは成果が出るまで俺も報告待ちなんだ。

 シラールドが歩いていき、ユスティーナたちの訓練に参加しだした。
 いきなり筋肉ダルマが現れたが、ヴィートとエリシュカは驚く様子もない。
 シラールドは三方向から集中攻撃を受けているが、笑いながらいなしていた。

 夕食の時間になった。
 何時もの食卓にヴィートとエリシュカが加わっている。
 エリシュカの目の前には、これでもかと食材が積まれてあり、無気力そうな顔をしているが、口からはよだれが垂れていた。
 先程から何度も俺の顔を見ては、まだなのかと無言の圧力を掛けてくるが、俺はそれを無視をして、用意が終わり全員が席に着いてから、食べる許可を出した。

「ねえちゃん、俺恥ずかしい」
「…………うるさい。なら帰って」
「何でだよ! ねえちゃんが帰れよ!」
「…………だまって。今はパンが大事」

 食事をしながらも喧嘩をする二人を見て、ミラベルが不思議そうな顔をしながら俺に話しかけてきた。

「本当に古竜なの? ヨゼフさんは威厳があったけど、この子たちは全くないよ?」
「竜の姿も見てるから本物だよ。威厳は……子供だしね?」

 古竜だから威厳がある訳じゃないだろう。中身の問題のはずだ。
 そう考えないと、あの二人、いや二匹が古竜だと思えなくなる……

「パティ、来週になったから準備しておいてね。足りないものがあれば絶対に遠慮しないでくれよ。これは命令だからね」
「はい、準備は既に整っています。後は……気持ちだけですね」

 教国から帰ってきて、パティには離れに部屋を一つ与えた。
 特にやることもなかったので、商売の雑用をしている。
 その合間でパティは見合いの準備などを行っていた。

 来週にはレイコック様経由で、独身騎士たちを紹介してもらう。
 呼び出す形になったのだが、俺との一戦ができると聞いて一団がやってくる事になった。いい感じに俺がエサになれて、ついにやけてしまった。
 これでパティのいい人が見つかればいいな。

 ちなみにパティは既に奴隷から解放している。
 だが、奴隷購入時の料金だけは、旦那になる人物から回収するつもりだ。
 今となれば正直どうでも良い金額だけど、他の奴隷に示しがつかないので、これだけは譲れない。
 まあ、後で祝い金としてパティに持たせるのは、みんなには秘密だ。

 奴隷解放と言えば、猫獣人のレイレも解放してある。
 彼女に関しては今後も俺の下で働くことを条件とした。
 今後は給料も出るし、まかないも住まいもタダなので、かなり破格な条件だと本人も納得してくれている。
 一応五年契約だが、結婚すれば産休もありだけど、本人にまだその気配がないんだよね。

 同じく初期の奴隷であるエルフのオーレリーさんは、後数年はこのままが良いらしい。
 本人曰く、環境がいいので当分これで過ごしたいらしい。
 はっきり言って俺には分からないのだが、寿命の長いエルフだし、感覚が違うのかもしれない。
 いや、あの人が特殊なだけか……

 余り変化は見られないが、一つだけ変わったことがある。
 それは呼び名が変わった。
 いい加減成人して、若様はないだろうとなり、オーレリーさんらからは旦那様と呼ばれ出した。
 結構むず痒いのだが、慣れれば気にならなくなるだろう。
 最年長奴隷のマートさんだけは、坊ちゃんだけどね。

「それで、今日は泊まっていくか?」

 美味しそうに食事を食べている、ヴィートとエリシュカにこの後のことを聞いてみた。
 中身は古竜だ。その辺に放っても竜の姿をしていれば、亜人の群れが来たところで簡単に撃退するだろう。
 けど、今の外見を見てしまうと、保護をしなくてはいけないと感じちゃうんだよね。

「ちょっとの間、この辺にいようと思ってたんだ! だから泊る!」
「…………じゆう、まんきつ」
「もしかして、最初からそのつもりだったのか?」
「駄目なら近くに住んで、遊びに来るつもりだったよ」

 本人たちは泊る気満々だったらしい。
 考えてみるとここ最近、結構古竜が近くにいる気がするな。
 部屋は余っているので適当に見繕う。個室を与えたら喜んでいた。
 泊るのは結構だが、就寝前に彼女らとは約束をしておかないといけないな。

「さて、泊めるのはいいが人間のルールは守ってくれよ。もし破れば、ことの次第によっては敵対するからな」

 厳しいようだが、俺はこの街の人間であり、基本的には人間側だ、ヨゼフさんのような成熟した存在なら気にしないが、この二人は少し幼い。
 これだけは最初に言っておかないといけないだろう。

「大丈夫だよ。ちゃんと俺は人の街の入り方を知ってたし」
「…………ゼンが一緒にいれば……いいと思う」

 まあ、大丈夫だろう。何か行動するならば、エリシュカの言う通り一緒にいてやればいい。
 ちょっとの間と言っているのだし、ユスティーナの良い遊び相手になるだろう。

 でも、エリシュカはお迎えが来る方が、早そうな気がするな!
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