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第五章 暗躍

三十六話 戦の後

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「街の様子はどうだ?」

 質素ながら質の良さそうな服に身を包んだエアが、客間の椅子に深くもたれ掛かりながら、用意された紅茶を啜る。

「まだ色々やることは残ってるけど、戦いが始まる前に戻ったみたいだな」

 俺も出された菓子を食べながら、街の様子を報告した。
 魔王との戦いから一週間、王都グラストラは落ち着きを取り戻し、既に以前のような賑わいを見せていた。

 魔王が最後に呼び出した悪魔たちは、王都全面に渡って呼び出されていた。
 しかし、一匹一匹が弱く、更には戦時で一般市民はまとまって避難しており、王都の至る所に制圧のための兵士がいた。誰も彼もが臨戦状態で、数千だろうがゴブリン程度の悪魔は直ぐに鎮圧されてしまい、魔王の目論見は大きく外れる結果になった。
 もう一度封印を解いたならば、指を差して笑ってやろうと思った。

「そうか、それは良かった。忙しすぎて全く外に出られないんだよ。何で戦ってた時より忙しいんだ?」

 エアは視線を、後ろに控えているリシャールに向けた。

「まだ、敵対する諸侯が立てこもっておりますし、隣国との関係改善を早めにお願い致します。また、今回の戦いに参加した者たちへの褒賞と領地の分配、並びに処罰などもまだまだ御座います」

 リシャールは至って冷静にエアをバッサリと切り捨てた。
 彼はそのまま宰相として執務を行うことになった。
 俺は最初、アーネストの部下として働いていた彼を、戦いが終わったら処分するのだと思っていのだが、話を聞いてみると、彼がいなければこの国の政治は立ちいかなくなっていた可能性があったと知った。

 この国で百年以上に渡り、内政面で働き続けてきたリシャールは、無理難題を言うアーネストやその息子などの要望を、出来る力を振るい、長きに渡り封じ込め、何とか国の維持に努めてきていた逸材だった。
 その難題というのも、この国の獣人などを売り払う案や、親王派以外の諸侯に対して、厳しい政策を行おうとするなど、やったらやったで国が荒れる内容や、シーレッド王国との貿易でエゼル王国側からはあまり益がないことを受け入れるなど、売国に近い行動もあったという。
 その全てを、時には金に物を言わせ、時には諸侯などを引っ張りだして抑えこみと、頑張っていたらしい。

 今はエアに付きっきりで、政務の補佐をしている。だが、彼の性質なのか知らないが、その本質は王に仕えていると言うよりは、この国に仕えているといったほうが良いだろう。

「まあ、まだ一週間だろ、もう少し頑張れよ。ローワン様なんて、この前部屋の前の廊下で寝てたんだぞ」

 当然今回参戦していた諸侯や、その代表格のローワン様も多忙の日々だ。ここでしっかりと国を掌握して、味方諸侯に納得の行く分配を行い、敵は更なる排除をしておかないと、後々困るだろう。

「まあ、もう大勢が死ぬことも無いから、何百倍も気分はマシだけどな」

 まだ、戦いは終わっていないのだが、王軍を動かせるようになり、抵抗する諸侯もその圧倒的数で押し切っているので、ほとんど被害がない。この国が平和になるのも時間の問題だろう。

「さて、このままゼンと話していたいが、時間が無い。褒賞の件は要望通り受け入れるぞ。……爵位は本当に良いんだな?」
「今のお前を見て、欲しいと思うほうがどうにかしてるぞ。まあ、それは冗談だとして、今それを貰ったら、身動きが取れなくなるじゃねえか」

 今回呼び出されたのは、褒賞に関してだ。名前が売れすぎるのも困ったもので、数々の活躍に対し一兵としては最大の名誉である、爵位を提案された。
 だが、エアに言った通り、貰ってしまえばこの国に縛られることになる。エアとジニーの国だし、良いかも知れないが、まだ少し早すぎる。でもあの時のリシャールさんはしつこかったな……。

「領地運営は人に任せても良いんだぞ?」
「俺はこの後、色々な所を見たいんだけど、敵対者には容赦する気はないぞ? 例えば、この国の貴族が、どこかの国の重鎮をぶっ殺しても良いってなら貰おうかな?」
「うん、やっぱり辞退してくれ」

 別にそれほど物騒な事をするつもりはないが、もしもの場合は、今の俺の考え方と、この世界の悪は滅ぼすと言う考え方が合わさって、比較的簡単に排除をする考えが浮かんでしまう。今回の戦争を経験して、更にその傾向は高まっているし、それが容認されるので、自重しようという気にもならない。
 いや駄目だよな……、もう少し穏健な俺にしていこう。だって、俺の相棒は平和の象徴ポッポちゃんだから。

「それでは、こちらが褒賞の現金です。大金貨五百枚。並びに、今戦いで、ゼン殿が手に入れたアーティファクトの全てを、王家はゼン殿を正当な所有者と認めます。また、【蒼炎の剛斧】を取り戻して頂いた礼金が大金貨五十枚です」

 リシャールがドカンとドカンと机の上に、大金貨が入った袋を積み上げた。合計五百五十枚の大金貨。なんだかんだ言って、物を貰うよりかは、金のほうが色々と使い勝手が良い。

「それと、王都での商業許可も申請すれば、直ぐに降りるようにしておきます。また、許可から十年の納税は不要です。そして、国内のどの場所でも通行税が免除となる手形を渡します。これさえあれば、列に並ぶ必要もなくなるので、急を要する時は使って下さい」

 色々くれるなあ。このおじいちゃんがそっち方面に強いからかな?

「数々の褒賞、有難うございます」

 俺がそう言うと、リシャールは目を伏せ頭を下げた。魔王との戦いの一件から、俺に対する態度は大分変わっていて、エアとこんなしゃべり方をしているのに、全く咎める様子もない。

「俺としては王都の隣で、農地経営して欲しかったんだけどな……」
「それはもう少し歳いったらだな……」

 老後の盆栽じゃ無いんだから、それで余生を過ごす気はない。しかし、王様になる奴の話はでかすぎるだろ……。

「ジニーはもう動いてるんだよな?」
「あぁ、時間的にそろそろ向こうを出ているだろうな。今回はフェルニゲ国と樹国セフィの双方に、王が変わる知らせと、外交を兼ねて使者を出してる。それと一緒にジニーも戻ってくる手筈だ」

 この知らせは、王都を包囲した時点で、ローワン様が実行していた。早い気もするが、彼としてはあの時点で勝敗は決したと考えていたのだろう。
 もしかしたら、援軍の要請も含まれていたのだろうか?

「で、お前は一度帰るんだろ?」
「長い間空けてるから、一度家に戻るよ。ポッポちゃんがいるから、一週間もあれば戻れる。戴冠式前には戻るさ」
「ならこれを、ローワンさんから手紙を預かってる。レイコック卿へ渡してくれ」
「分かった、どうせ帰れば報告しない訳にはいかないからな、その時にでも渡すよ。アルンも氷竜に乗らせて戻すから、アニア達の事は任せたぞ」
「アニアは妹みたいなものだからな、心配しないで良いぞ。でも、その心配は要るのか? 変な取り巻きが出来てるぞ」

 俺はこの後一度、家に戻ることにしている。
 家は戦いが発生している場所ではないが、数ヶ月空けているので、少し心配だからだ。それに商売もある。ジニーが戻ってくるのに、数ヶ月は要するし、エアの戴冠式にも時間がある。その間はラーグノックの街で生活だ。
 アルンはスノアに乗って戻る。速度的に一緒にはならないが、そう遅れもしないだろう。本人は俺のお世話なんて言ってるが、その半分以上を占めるのは、早く帰ってナディーネに会いたいのだろう。誰が付いて来るかの話し合いでは、普段は見せない積極性を出していた。

 アニアたちはとりあえず王都に残る。ジニーを待つのが一番の理由だが、聖女として持ち上げられているので、神殿関係の人に治療師として捕まってしまったのだ。
 この戦争の負傷者はまだまだいるので、本人も頑張るらしいし、いい経験になるだろう。
 アニアには、セシリャとパティが護衛兼、王都を楽しむ部隊として付く。二人に任せれば安心だ。
 まあ、周囲からは、新王が目を掛け、魔槍と呼ばれた俺の配下と言う認識なので、バカ以外は手を出さないだろう。

 ファースの奴はなんと、数多くのオファーが来た。
 戦場で活躍し、指揮能力も見せ、更にはこの辺りでは珍しい竜人だからだろう。扱いは俺の奴隷なので、諸侯や王軍から、俺へと買い取り依頼が殺到して、けっこう大変だった。
 結局は本人の希望を尊重して、レイコック家に仕えることになった。何故か俺の近くにいれるからと、怖いことを言われたが、アイツは俺に勝ちたいだけだ。そうじゃないと困る……。
 手続きは俺が戻ってからになるだろうが、買い取りでも身分は奴隷から解放される。ファースに取ってはいい話だろう。
 それまではとりあえず、ローワン様の警護として働く事になった。

 最後に勇者だが、片腕がなくなり最初は落ち込んでいたが、ある事を切っ掛けに、隻腕の剣士とか言い出し、今ではその属性を楽しんでいる。それもこれも、俺が回復できると知ってからだ。
 腕がなくなった最初の頃は、演技はしていたがどこか荒く、素を見せていた。二人っきりになり、治療が出来ることを告げると、「ゼン本当かよ! かぁ~、これでまた二人を抱きしめて胸が揉めるぞ!」と、ぶん殴りたくなる理由で、落ち込んでいたと分かった。
 さて、治療をしようかとすると、帰ってきてからで良いと言われてしまう。こいつの事だ、片腕を失っても剣を振ろうとする勇者をやりたいのだろう。
 俺はもう理解した。フリッツは好きで勇者を演じているのだと。
 こいつの事は当分放っておく。治してくださいとお願いしに来るまで放置だ。

 ちなみに、三騎士は生きていた。アニアが後方で大活躍だったらしい。三騎士は何も出来なかったことを悔やんでいたが、最初にあれがなければ、エアもやばかった可能性があるので大金星だろう。

「最後に確認なんだが、生き残った王の子らを本当に追放するのか?」
「あぁ、国外に追放するから、二度とこの国の地は踏ませないさ」

 生き残ったアーネストの息子二人は、家族共々国外追放になった。正直甘いのだが、エアがそう決めたので、とりあえずはそれで話が進んでいる。明日にでも王都から出されるらしい。

「まあ、俺からは何も言わないさ。二度と見ることも無いなら、どうでも良いからな」

 うむ、エアが二度と見ないと思っているならばそれで良い。

 話は終わり席を立つ。エアは謝りながら急いで部屋から出ていった。予定の時間を大分過ぎていたようだ。
 さて、数日後の出発に備えて、帰り道では美味いものや、お土産を買っていこう。
 城を出て迎えに来てくれたポッポちゃんを撫でながら、俺は平和を取り戻した王都を満喫すべく、賑わいを見せる街へと飲み込まれていった。



「本当にあれほどの金額を出して、大丈夫だったのか? ゼンなら、話せば、待ってくれると思うんだが」
「……確かにあの金額は、一個人への褒美としては破格でしょう。侯爵家でもそう出せない額ですから。しかし、彼はそれに値する働きをしました。無理はしていますが、爵位を断った彼を引き止めるには、有効な手立てです」

 ゼンと別れ、通路を移動中のエリアスは、少し疑問に思った事を尋ねる。リシャールはそれに真剣な顔をして答えた。

「有効って……、アイツはそんな奴ではないぞ」
「魔王とほぼ互角に渡り合った彼を、絶対に敵にしてはいけません。厳しい時ですが少し国庫が減ろうと、優遇するべきです」

「魔王か、確かにあれは強かった。だが、初代様も封印出来たではないか。言うほどの快挙なのか?」

 エリアスは何故そこまでリシャールが、ゼンの事を気にするのか気になり始め尋ねた。

「私も当時を生きていません。資料と口伝ではありますが、当時は建国王様に加え、真なる勇者が二名に、他国の勇者が三名。それに、総勢一万の軍勢を揃え、更には古竜族の一団も加わっていたと言います。魔王が全てのしもべを呼び出していた当時とは違いますが、それほどの存在を、一人で抑えこんだ彼に、あの時は動揺していましたが、落ち着いて考えられる今は恐怖すら感じます」

 そう言うリシャールの顔は真剣そのものだが、エリアスはそれを聞いてつい笑ってしまった。

「ふ、ふははは、だからどうしたんだ。アイツは俺の友だぞ。そんな心配するだけ意味が無い。アイツはこの帰り道で、美味いものでも探しながら帰る、そんな男だぞ」
「はぁ……付き合いが長いから、そう思えるのでしょうかね」

 ケラケラと笑うエリアスに、リシャールはとんでもない度量を持つ人物が王になるのかと考えた。考えてみれば、エリアスはダンジョンを制覇した人物であり、先の魔王にも立ち向かった程だ。
 リシャールは若く聡明な様子を見せるエリアスに、この国の未来を感じた。

「さて、次の仕事だな。あっ、リシャールの言うとおり、ゼンの取り込みはしたいよな……。まあ、手段が無い訳じゃないけど、それはジニーが帰ってきてからだな」

 笑顔を見せながらそういうエリアスは、自分の執務室へと戻っていく。ドアを開いて見えた、机の上に積まれた書類を見て、悲鳴を上げているが、それでも今までとは違い、楽しそうな様子を見せていると、リシャールは思った。

「よしっ、今日中に終わらせて、ゼンの宿屋に突撃するぞ!」

 王になる男が、いきなり現れるという、いたずらを思いついたエリアスは、次々と書類を片付ける。

「おっ、凄い効率が良いぞ。リシャール次だ」

 こうしてエリアスは、今日の仕事を処理をして、遂に街に繰り出しゼンを驚かせようとした。だがそれは、ポッポちゃんに発見されたことで失敗した。













◇◆◇

「全く、兄上も父上も情けない! お前もそう思うだろ!?」
「はっ! アラディン様の仰る通りでございます」

 暗闇が支配する草原を進む一台の馬車の中で、醜悪なまでに肥えた男が、鼻息荒く同席している男に話しかけている。話を聞く男は長くアラディンと呼ばれた男に仕える従者、幼い頃からアラディンの全ての世話をしてきた男だ。

「しかし、まさか俺を解放するとはな……、エリアスの奴は間抜けとしか思えないぞ」
「あれはまだ若いですので、アラディン様の力を見極められなかったのでしょう」

 従者の男は本心では、殺す価値も無い故に解放された事を知っていた。だが、それを言えばアラディンは所構わず暴れ出す事は分かっている。だが、そんな無能なアラディンを、幼い頃から世話をしている従者の男は可愛いとまで思っていた。

「このままシーレッド王国に入って、婚姻を進めるぞ。一族にさえ加われば幾らでも兵は借りられるだろ?」
「アーネスト陛下は、後は姫が来るだけの状態だと仰っておりました。なればこちらから伺えば話は簡単でしょう」

 従者の男はアラディンの意見に肯定の意を示すが、これは一種の賭けだと思っている。婚姻の話自体は本当だが、状況が変わり過ぎているからだ。果たしてシーレッド王国が、アラディンにどれだけの価値を見出すかは不明だ。

 しかし、ある意味この方がシーレッド王国にとっては、都合が良い可能性もある。アラディンであれば自分たちの好きに動かす事が出来、尚且つエゼル王国に攻め入る正統性を得られるからだ。
 エリアスが起こした戦いと同じかたき討ち。
 アラディンが国外追放を命じられてから、従者の男はその可能性を一番に考えていた。

「今日も野宿か……。全てを失ったな……。だが、必ず復讐を遂げてやるぞ……」

 一人呟くアラディンの目には、従者の男がこれまで見た事の無い、力強さが浮かび上がっている。狂気さえも感じさせるその瞳に従者の男は、遂に自分の主が覚醒した事を感じた。

「おぉ、アラディン様……。私は必ずやアラディン様のおちッぐいいいッぃいぃいぃッぃぁああぁ」
「ひっぃぃいぃぃ!!」

 アラディンは突如起こった事に、恐怖の悲鳴を上げた。
 従者の男頭上から、突如、何かが馬車の天井を破り、従者の男を串刺しにしたからだ。

「な、何者ッ」
「ぎゃっ!」
「ひぃっ! 何だっ!?」

 馬車の周囲から護衛たちの叫び声が聞こえると、急に馬車の動きが止まる。
 アラディンは狭い馬車の中で立ち上がり、何が起こったのか理解が出来ず、ただ恐怖に駆られ外から聞こえてくる物音の全てに反応をして怯えた。

 程なくすると辺りは静かになる。
 先程まで聞こえていた、長年仕えていた男達の悲鳴も、ぱったりと止んでしまった。

「ッ――」

 恐怖のあまり声が出ない。
 アラディンは身動きする事が出来ず、眼球だけを忙しなく動かし、辺りの様子を伺っていた。

 すると何の前置きも無く、馬車の扉が開く。
 何時もは何も感じない、ギィと言う扉の軋む音が、恐怖の使者の訪れを知らせるベルに聞こえた。
 開かれる扉から目を離せず、じっと見つめたままでいると、開かれた扉の外には、黒いローブを纏い、顔には何の表情を持たない、黒塗りの仮面を付けた人物がそこにはいた。

「お、俺を誰だか分かっているのかっ!?」
「そりゃ、分かっているさ、アラディンだろ?」

 仮面の男は、恰好からは想像が出来ない、軽い調子で返事をする。
 その声から男だと分かるが、同時に若さも感じさせた。

「エリアスの手の者かっ! あいつめ、解放すると言ったのは嘘だったのかああああ!!」

 アラディンが恐怖を拭う様に声を荒げた。

「いや、アイツは本当に解放する気だったぞ? だが俺はそれを許さない。アイツが自分で乗り越えるべき障害物なら、後は勝手に越えて貰うが、どう転がるか分からない、お前のような石ころは要らないんだよ。まあ、お前らは復讐するつもりだったんだろ? じゃあ、駄目だって分かるよな?」

 アラディンの表情が固まる。
 何かを言おうと口を開くが、相手の目的が分かった以上は、何を言うのが正解なのか分からなくなったからだ。

「まあいい、やる事は一つだけだ。何、お前がどんな野郎でも、痛みは感じさせず逝かせてやる。さあ、死ね」
「ギッ」

 仮面の男のどこからか取り出した槍が、アラディンの首を刎ねた。
 アラディンの最後に見た景色は、回転する世界と自分の一番の従者の死に顔だった。

「ふぅ……、慣れてはいるが、心は荒むなあ。でもこれで最後だ、後は諸侯のみなさんにおまかせだな」

 仮面の男は外に散らばる死体を集め、金目の物は全て回収してから、馬車に死体を詰めていく。最後の一体を入れた事を確認し、馬車の扉を閉じた。

「ほら、野生にお帰り」

 馬車を引いていた馬を逃がした仮面の男が、ただの置物となった馬車に手をかざすと、一瞬で馬車の姿は消える。マジックボックスへの収納なのだが、これ程の大容量の収納を見て、それと分かる者は数少ないだろう。

「うん、そうだね。帰ってお風呂に入ろうか? 一緒に入るの? よし、今日は体全体マッサージしてあげるぞ」

 仮面の男は、空から下りてきた白い鳥を腕に乗せると、会話を始める。カラス程度の大きさのその鳥は、仮面の男の言葉に合わせるかの様に鳴いて返している。

「んじゃ、お願いね」

 男が指に何かを付けると、腕に乗せていた白い鳥がその場で羽ばたき空中で止まる。男がその鳥の足を掴むと、一瞬で真っ暗な空へと上がっていた。

 馬車があった場所に残されたのは、地面に染み込んだ赤い血だけ。
 そして、その匂いに集まって来たウルフ達の声と、虫たちの鳴く声だけが聞こえてくる、草原へと戻ったのだった。

 のちに現場に駆け付けた、アラディンを監視していた兵はこう言った。
 あれは闇に飲まれたのだと。
************************************************
とりあえずこれで、5章は終わりです。
今後のことは活動報告に書きます。
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