6 / 6
軍人さんは病気になる
しおりを挟む
廃墟の外で次々と運び出される、火器や書類などをジェーンは眺めていた。
これが終われば今回の全ての問題は終わる。
「ジェーン」
ジェーンはとたんに奈落の底に落とされた気分を覚えた。
ああ、ダンバートがいたんだった。
「何だ」
「そっけないね。随分と長い間、一緒の部屋に住んでいたのに」
ダンバートはジェーンの隣に歩いてくると、ジェーンの顔を覗き込んだ。
「いちいち顔を近づけるな」
ジェ-ンはダンバートから離れた。
ダンバートの言う通り、長い間を過ごし、ジェーンにとってダンバートは過去ほど嫌な奴でなくなっていた。その新しい感覚に、理論的な頭がついて行けなかったのだ。
「あっ、だめだめ。ガラスの破片が散乱してるから」
「はっ!?こ、こら!何をする!下ろせ!」
しかし、歩き出したジェーンはダンバートに抱え上げられてしまった。
それもいわゆる、お姫様抱っこ。
「裸足なんだから、怪我するよ」
「ガラスの破片で怪我するほどやわな体ではない!」
ジェーンは周囲の部下の視線と、至近距離のダンバートに慌てた。
何をする…っ!
「嫌だよ。ジェーンは少将閣下である前に、俺の好きな子だから。怪我してほしくない」
「好き、な子…?」
ジェーンはいつもの軽口とは違う響きを感じ取り、疑問を抱いた。
「良し、動かないでね。明るいところに行くから」
「ちょっと待て。…ダンバート、お前…私が好きなのか?」
ジェーンは訳が分からないうちに馬鹿みたいなことを、よりによって口に出してしまっていた。
ダンバートは動きを止めると、沈黙した後に苦笑した。
「……。おかしいなぁ、ずっと言ってるつもりだったのに。――ジェーンが好きだよ」
「ほ、本気か!?いや嘘だろ!ずっと、ただの冗談だと…」
「あのね、いくら俺が百歩譲ってペテン師だとしても。好きでもない奴のために、スパイじみたことなんてやらないって。ジェーンだからやってるの」
ジェーンは絶句した。
この時にはもう、周囲の視線や自分の現状のことは頭になかった。
そうして、クーデター未遂事件から一ヶ月が過ぎた頃。
ジェーンは宮廷の回廊を歩いていた。数ヶ月前と何一つ変わらない毎日…は到底過ごせず、悩みを抱えていた。
これも全てあいつが告白とかいうものをしたせいだ。
「ジェーン?」
「っ!…ダンバートか」
「どうかした?調子でも悪いの?危うく柱にぶつかりそうだったよ」
ジェーンが見上げれば目の前に柱があった。それに気づかないほど考え込んでいたようだ。
「ダンバート」
「何かな?」
ダンバートは首を傾げた。
「私は、お前に呪われるほどのことをしたか?…あの日から、お前を見かけると、動悸息切れや体温が上昇したり、夢にまでお前が出てくるんだ!何の恨みだ!」
「へ…?」
「ほら見ろ、頬まで熱くなる!」
そう一気にまくし立てて、ジェーンはダンバートに背を向けた。
なぜだかとても恥ずかしく、後悔が募ってくる。
「――こっち向いてよ、ジェーン」
「黙れ!お前を見ると息切れが激しくなって倒れてしまう」
「倒れたら俺が介抱するよ」
「尚更嫌だっ」
「はは、仕方ないな」
「わっ…!」
ジェーンはいきなり体を回転させられ、ダンバートへ向かされてしまった。
「本当に可愛いよね、ジェーンって」
「なっ…」
ジェーンは瞳を見開いた。可愛い!?
「それね、病気なの。――俺に恋しちゃった病気」
「こ、い!?私がお前に恋!?有り得ない!」
「認めちゃいなよ。ほら、俺が近づくと動悸が激しくなるでしょ?」
ダンバートは胡散臭い笑みを浮かべ、ジェーンに歩み寄る。
「……っく!」
図星だった。
動悸はおさまるどころか増すばかり。
「俺は初めて会った時からジェーンのこと好きだよ?」
この時初めて、ダンバートの悪のない本物の笑顔を見た気がした。
誰かが言った。
――「信じてもらえなくても、諦めないで本当のことを言い続ければ信じてもらえるかもね」
これが終われば今回の全ての問題は終わる。
「ジェーン」
ジェーンはとたんに奈落の底に落とされた気分を覚えた。
ああ、ダンバートがいたんだった。
「何だ」
「そっけないね。随分と長い間、一緒の部屋に住んでいたのに」
ダンバートはジェーンの隣に歩いてくると、ジェーンの顔を覗き込んだ。
「いちいち顔を近づけるな」
ジェ-ンはダンバートから離れた。
ダンバートの言う通り、長い間を過ごし、ジェーンにとってダンバートは過去ほど嫌な奴でなくなっていた。その新しい感覚に、理論的な頭がついて行けなかったのだ。
「あっ、だめだめ。ガラスの破片が散乱してるから」
「はっ!?こ、こら!何をする!下ろせ!」
しかし、歩き出したジェーンはダンバートに抱え上げられてしまった。
それもいわゆる、お姫様抱っこ。
「裸足なんだから、怪我するよ」
「ガラスの破片で怪我するほどやわな体ではない!」
ジェーンは周囲の部下の視線と、至近距離のダンバートに慌てた。
何をする…っ!
「嫌だよ。ジェーンは少将閣下である前に、俺の好きな子だから。怪我してほしくない」
「好き、な子…?」
ジェーンはいつもの軽口とは違う響きを感じ取り、疑問を抱いた。
「良し、動かないでね。明るいところに行くから」
「ちょっと待て。…ダンバート、お前…私が好きなのか?」
ジェーンは訳が分からないうちに馬鹿みたいなことを、よりによって口に出してしまっていた。
ダンバートは動きを止めると、沈黙した後に苦笑した。
「……。おかしいなぁ、ずっと言ってるつもりだったのに。――ジェーンが好きだよ」
「ほ、本気か!?いや嘘だろ!ずっと、ただの冗談だと…」
「あのね、いくら俺が百歩譲ってペテン師だとしても。好きでもない奴のために、スパイじみたことなんてやらないって。ジェーンだからやってるの」
ジェーンは絶句した。
この時にはもう、周囲の視線や自分の現状のことは頭になかった。
そうして、クーデター未遂事件から一ヶ月が過ぎた頃。
ジェーンは宮廷の回廊を歩いていた。数ヶ月前と何一つ変わらない毎日…は到底過ごせず、悩みを抱えていた。
これも全てあいつが告白とかいうものをしたせいだ。
「ジェーン?」
「っ!…ダンバートか」
「どうかした?調子でも悪いの?危うく柱にぶつかりそうだったよ」
ジェーンが見上げれば目の前に柱があった。それに気づかないほど考え込んでいたようだ。
「ダンバート」
「何かな?」
ダンバートは首を傾げた。
「私は、お前に呪われるほどのことをしたか?…あの日から、お前を見かけると、動悸息切れや体温が上昇したり、夢にまでお前が出てくるんだ!何の恨みだ!」
「へ…?」
「ほら見ろ、頬まで熱くなる!」
そう一気にまくし立てて、ジェーンはダンバートに背を向けた。
なぜだかとても恥ずかしく、後悔が募ってくる。
「――こっち向いてよ、ジェーン」
「黙れ!お前を見ると息切れが激しくなって倒れてしまう」
「倒れたら俺が介抱するよ」
「尚更嫌だっ」
「はは、仕方ないな」
「わっ…!」
ジェーンはいきなり体を回転させられ、ダンバートへ向かされてしまった。
「本当に可愛いよね、ジェーンって」
「なっ…」
ジェーンは瞳を見開いた。可愛い!?
「それね、病気なの。――俺に恋しちゃった病気」
「こ、い!?私がお前に恋!?有り得ない!」
「認めちゃいなよ。ほら、俺が近づくと動悸が激しくなるでしょ?」
ダンバートは胡散臭い笑みを浮かべ、ジェーンに歩み寄る。
「……っく!」
図星だった。
動悸はおさまるどころか増すばかり。
「俺は初めて会った時からジェーンのこと好きだよ?」
この時初めて、ダンバートの悪のない本物の笑顔を見た気がした。
誰かが言った。
――「信じてもらえなくても、諦めないで本当のことを言い続ければ信じてもらえるかもね」
0
お気に入りに追加
25
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】
清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。
そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。
「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」
こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。
けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。
「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」
夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。
「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」
彼女には、まったく通用しなかった。
「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」
「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」
「い、いや。そうではなく……」
呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。
──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ!
と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。
※他サイトにも掲載中。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
拝啓、私を追い出した皆様 いかがお過ごしですか?私はとても幸せです。
香木あかり
恋愛
拝啓、懐かしのお父様、お母様、妹のアニー
私を追い出してから、一年が経ちましたね。いかがお過ごしでしょうか。私は元気です。
治癒の能力を持つローザは、家業に全く役に立たないという理由で家族に疎まれていた。妹アニーの占いで、ローザを追い出せば家業が上手くいくという結果が出たため、家族に家から追い出されてしまう。
隣国で暮らし始めたローザは、実家の商売敵であるフランツの病気を治癒し、それがきっかけで結婚する。フランツに溺愛されながら幸せに暮らすローザは、実家にある手紙を送るのだった。
※複数サイトにて掲載中です
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
たとえこの想いが届かなくても
白雲八鈴
恋愛
恋に落ちるというのはこういう事なのでしょうか。ああ、でもそれは駄目なこと、目の前の人物は隣国の王で、私はこの国の王太子妃。報われぬ恋。たとえこの想いが届かなくても・・・。
王太子は愛妾を愛し、自分はお飾りの王太子妃。しかし、自分の立場ではこの思いを言葉にすることはできないと恋心を己の中に押し込めていく。そんな彼女の生き様とは。
*いつもどおり誤字脱字はほどほどにあります。
*主人公に少々問題があるかもしれません。(これもいつもどおり?)
【完結】帰れると聞いたのに……
ウミ
恋愛
聖女の役割が終わり、いざ帰ろうとしていた主人公がまさかの聖獣にパクリと食べられて帰り損ねたお話し。
※登場人物※
・ゆかり:黒目黒髪の和風美人
・ラグ:聖獣。ヒト化すると銀髪金眼の細マッチョ
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる