軍人さんと魔法使い

高瀬コウ

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軍人さんと魔法使いは活躍する

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「ただいま、シャロン」
「お帰りなさい、ダンバート!怪我してない?」
「大丈夫だよ、俺がどれだけ強いのか知ってるでしょ?」
「で、でも…」


「はぁ…」
「あれ、どうしたの。氷の女帝の異名が泣くよ」
 ジェーンは組織への潜入を開始してからここ数日間、部屋へ戻るとソファーに崩れ落ちていた。
 ”シャロン”はジェーンと正反対の性格をしているのだ。そんな役を毎日演じるのは辛い。
「黙れ。慣れないことをしているから疲れているだけだ。その異名はどうでもいい」
「そうだね、俺も表情豊かなジェーンが好きだよ。特に笑った顔」
「知ったことか」
 ジェーンは奇妙な感覚を感じていた。これまでダンバートは軽薄最低最悪ペテン師で無作法軽薄魔法使いという認識だった。
 もちろんその認識は変えるつもりはない。しかし、ダンバートがふとした拍子に紳士に見える瞬間があるのだ。
 ジェーンにとっては、それが奇妙な感覚だった。

「ジェーン、どう?」
「こちらが合図をすればいつでも対応が可能な手はずになっている」
 ダンバートとジェーンは別行動をとっていた。
 ダンバートが情報を集め、ジェーンが軍と鎮圧方法を練るという具合だ。ダンバートが”恋愛馬鹿の魔法使い”を演じていることは、その効果が発揮されていた。思惑通り、クーデターに興味をない振る舞いをしていたため、相手側がこちらを警戒することなく多くの情報の近くに行くことが出来ている。

「君なら失敗はないだろうけど、何かあったら俺を呼ぶんだよ」
「…誰が呼ぶものか。そのような失態はしない」
 ジェーンは眉を寄せた。こいつに心配されることは始めての経験だ。
「可愛くないねぇ。でも、ジェーンちゃんも女の子なんだよ?」
「軽薄な口を閉じろ。私はこの国に仕える軍人だ。性別は関係ない」

「俺の言いたいことは…そうじゃないんだけどね」
 そう言ってダンバートが肩をすくめたことにジェーンは気づかなかった。


 騒がしい廃墟の夜。
 だが今夜は静かだった。
 なぜなら今夜は、クーデター蜂起の日。
 皆が蜂起し、この廃墟に残るのはシャロンのみ。…のはずだった。

「今日だ…」
 まさに今クーデターを蜂起しようとしていた彼らに、思いがけないことがおきた。

 大きな破裂音や破壊音と共に、大勢の武装した軍人が乗り込んで来たのだ。
 その軍勢を率いてきた先頭の人物は声高らか…ではないが、緊張感の感じられない良く通る声で宣言した。
「――国王専属魔術師ダンバートの名によって、ここにいる皆さんを国家反逆罪で捕縛しまーす」

「お、お前!ダンバート!!裏切ったのか!」
 リーダーの切羽詰った声が響く。威厳も何もない。他の仲間たちも同様に目を見開いていた。
「裏切った?違うよ。俺は最初っから”こっち”の人。聞いたことない?」
 ダンバートは普段の浮浪者のような姿ではなく、宮廷の役人が身を包む刺繍の美しい制服を着込んでいた。
 そのせいか、元々の魅力が洗練されたように感じられた。
「な、何!?」
「あれ、知らなかった?だから俺を仲間に誘ったのか」
 ダンバートがそう、一人で納得しているとリーダーは蒼白な顔で周囲を見回した。四方八方囲まれている。逃げ場がない。
 リーダーは仲間の中へ行くと、一人の女性を引きずり出した。その首筋には短刀が当てられている。背水の陣とはまさにこのことだろう。
「こいつはいいんだな!?」
「きゃっ」
 その女性は”シャロン”を演じているジェーンだった。
 ジェーンの顔を見た瞬間、多くの屈強な軍人たちにかすかな緊張が走った。皆、ジェーンの部下なのだ。

 ダンバートは無様に足掻くリーダーに嫌そうな視線を向けた後、ジェーンに笑いかけた。
「いつまで猫かぶってるつもり?――ジェーン・シェフィールド少将閣下」

「……黙れ」
 その声は怒りに満ちた声だった。
 ジェーンは予定外の行動をしたダンバートにも、自分を雑に扱ったリーダーにも苛立っていた。…こいつら。
 ジェーンは目にも止まらないほどの俊敏な動きで、リーダーの短刀を持つ手を捻り上げると、石の床へ向けて投げ飛ばした。
「――私に指図するな。ダンバートごときが」

「ひゅう。かっこいい」
「――この者たちを全員残らず捕縛しろ。逃がすなよ」
 ジェーンは茶化すダンバートの言葉を無視し、部下に命令を下した。
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