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俺は幻の魔石を手に入れたい
ただ一つの事実
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「……。ま、待ってください」
「ああ」
オリヴィエは硬直から戻ると、手にしていたカップをテーブルに置き、頭を抱えた。エドモンドは真面目くさった顔をして薬草茶を飲んでいる。
事実確認をさせてほしい。
「ダートル家の当主は蒼の君ですよね?」
「そうだな。我らがこの国の王家としてあり続ける限り、国王が当主となるだろう」
そうだ、ダートル王国はダートル家、ダートル王家が国主を務めている。ダートル家の当主はダートル王国国王。
当代はダートル王国第10代国王エドモンド・マグワイア・リル・ダートル。
オリヴィエが蒼の君と呼んでいる人のことだ。
それは分かる。
「それは分かります。で、想い人は…?」
「──俺の想い人は君だ、オリヴィエ」
それって…。有り得ないと思うけど…。
「……もしかしてすごく遠回しに告白されてますか?」
「そうだな。ただ、遠回しどころか直接的だと思うが」
オリヴィエは半ばぼう然としながら、目の前にいる奇妙に不遜な態度の国王を見つめた。
どこが直接的だ?
あとひとつ、念の為に確認しておきたい。
「…想い人って?」
「恋愛的に愛おしく思っている人のことだ」
「誰が?」
「この場合は、俺だろう」
そう言ってエドモンドは口角を上げた。
「……あなたが私のことを恋愛的に愛おしく思っている、んですか?」
「そうだ」
「へぇ……」
オリヴィエは幻の魔石の真相より、エドモンドに好かれているという事実に驚きを隠せなかった。つい他人事のように返事をしてしまう。
理解がまだ追いつかない…。
「──まあ、それは後々。詳しく話そう」
オリヴィエの動揺はよそにエドモンドはひと息つき話を区切ると、本題であった幻の魔石について語る。
「問題の"幻の魔石"はどういう仕組みか不明だが、歴代のダートル家の当主の体内に宿る。ただ宿るだけでは何の影響もないのだが…発動してしまえば別だ。発動する条件も不明な箇所が多く、判明している範囲では当主が誰よりも愛おしく思っている最愛の人が危機に陥ったときが多い。過去の記録を遡っても、王妃が暗殺されかけた時であったり、恋人が病魔によって死の淵に立たされた時とかな」
「……最愛の人」
エドモンドのオリヴィエに対する告白を本人によって、あっさり流されたことにオリヴィエは目を白黒させつつも、次々出てくる真実について行くのに必死だった。
「君は1度体験しているだろう?オリヴィエ」
「あの、戦時…私は」
「危機に陥っていただろう?魔術の暴走だ。そうでなくとも周囲を敵に囲まれ危険だった」
確かにあの戦時、オリヴィエは生きるか死ぬかの瀬戸際にいたと言っても過言ではなかった。
──それを救ったのは蒼の君…の青い光。
「あの青い光は…幻の魔石が発動した光ってこと?」
「その通り。俺も初めて発動であの時は驚いたんだが…。前国王から話は聞いていたし、すぐに自分の中で理解した」
エドモンドは両手を開き肩をすくめる。
不明な部分ばかりだが、自らの体内に幻の魔石が在ることや発動したという感覚は本能的に理解出来たのだ。
歴代の国王たちはこの感覚と共に生きてきたということをあの瞬間に理解し、
そして──。
「信じられないよ、蒼の君…」
オリヴィエは腹をくくったのではあったが、事実が大きすぎて尚且つ考えもしていなかったことまで判明し、混乱してしまい眉を下げてテーブルに両手をついた。
そして項垂れるように下を向いた。
「──オリヴィエは信じなくていいさ。俺さえ信じていれば。俺にとって幻の魔石の発動はそんなに喜ばしいことではなかったが…、嬉しい誤算は自分の気持ちに気がつけたことだ」
エドモンドはいつにない優しげな声で、オリヴィエの狼狽える頭を撫でた。
きっとオリヴィエは狼狽えるであろうことが分かっていた。
でも、エドモンドは伝えたかったのだ。
出来るだけ早く。
「ただ…欲を言えば君にも信じて欲しい。──俺が君のことを愛している、というただ一つの事実を」
俺が君を愛しているということを。
「ああ」
オリヴィエは硬直から戻ると、手にしていたカップをテーブルに置き、頭を抱えた。エドモンドは真面目くさった顔をして薬草茶を飲んでいる。
事実確認をさせてほしい。
「ダートル家の当主は蒼の君ですよね?」
「そうだな。我らがこの国の王家としてあり続ける限り、国王が当主となるだろう」
そうだ、ダートル王国はダートル家、ダートル王家が国主を務めている。ダートル家の当主はダートル王国国王。
当代はダートル王国第10代国王エドモンド・マグワイア・リル・ダートル。
オリヴィエが蒼の君と呼んでいる人のことだ。
それは分かる。
「それは分かります。で、想い人は…?」
「──俺の想い人は君だ、オリヴィエ」
それって…。有り得ないと思うけど…。
「……もしかしてすごく遠回しに告白されてますか?」
「そうだな。ただ、遠回しどころか直接的だと思うが」
オリヴィエは半ばぼう然としながら、目の前にいる奇妙に不遜な態度の国王を見つめた。
どこが直接的だ?
あとひとつ、念の為に確認しておきたい。
「…想い人って?」
「恋愛的に愛おしく思っている人のことだ」
「誰が?」
「この場合は、俺だろう」
そう言ってエドモンドは口角を上げた。
「……あなたが私のことを恋愛的に愛おしく思っている、んですか?」
「そうだ」
「へぇ……」
オリヴィエは幻の魔石の真相より、エドモンドに好かれているという事実に驚きを隠せなかった。つい他人事のように返事をしてしまう。
理解がまだ追いつかない…。
「──まあ、それは後々。詳しく話そう」
オリヴィエの動揺はよそにエドモンドはひと息つき話を区切ると、本題であった幻の魔石について語る。
「問題の"幻の魔石"はどういう仕組みか不明だが、歴代のダートル家の当主の体内に宿る。ただ宿るだけでは何の影響もないのだが…発動してしまえば別だ。発動する条件も不明な箇所が多く、判明している範囲では当主が誰よりも愛おしく思っている最愛の人が危機に陥ったときが多い。過去の記録を遡っても、王妃が暗殺されかけた時であったり、恋人が病魔によって死の淵に立たされた時とかな」
「……最愛の人」
エドモンドのオリヴィエに対する告白を本人によって、あっさり流されたことにオリヴィエは目を白黒させつつも、次々出てくる真実について行くのに必死だった。
「君は1度体験しているだろう?オリヴィエ」
「あの、戦時…私は」
「危機に陥っていただろう?魔術の暴走だ。そうでなくとも周囲を敵に囲まれ危険だった」
確かにあの戦時、オリヴィエは生きるか死ぬかの瀬戸際にいたと言っても過言ではなかった。
──それを救ったのは蒼の君…の青い光。
「あの青い光は…幻の魔石が発動した光ってこと?」
「その通り。俺も初めて発動であの時は驚いたんだが…。前国王から話は聞いていたし、すぐに自分の中で理解した」
エドモンドは両手を開き肩をすくめる。
不明な部分ばかりだが、自らの体内に幻の魔石が在ることや発動したという感覚は本能的に理解出来たのだ。
歴代の国王たちはこの感覚と共に生きてきたということをあの瞬間に理解し、
そして──。
「信じられないよ、蒼の君…」
オリヴィエは腹をくくったのではあったが、事実が大きすぎて尚且つ考えもしていなかったことまで判明し、混乱してしまい眉を下げてテーブルに両手をついた。
そして項垂れるように下を向いた。
「──オリヴィエは信じなくていいさ。俺さえ信じていれば。俺にとって幻の魔石の発動はそんなに喜ばしいことではなかったが…、嬉しい誤算は自分の気持ちに気がつけたことだ」
エドモンドはいつにない優しげな声で、オリヴィエの狼狽える頭を撫でた。
きっとオリヴィエは狼狽えるであろうことが分かっていた。
でも、エドモンドは伝えたかったのだ。
出来るだけ早く。
「ただ…欲を言えば君にも信じて欲しい。──俺が君のことを愛している、というただ一つの事実を」
俺が君を愛しているということを。
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