幻の魔石

高瀬コウ

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幻の魔石は君だ

通りすがりの人間

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「この国の王は他国にこぞって恨まれでもしてるのか?戦を仕掛けられすぎだろう」
「資源が目当てなんだ。そう怒ってやるな」

「へぇ。それらしい理由くっつけちゃって。……って、どなたです?」
 オリヴィエの独り言に、誰もいないと思っていた空間から返事が来た。
 誰かいる。思わず反応してしまったが、誰だ。魔術師であってもオリヴィエは剣術の心得もあるため、気配にも聡いはずだが…人がいたことに全く気づかなかった。

「はは、通りすがりの宮殿の人間さ。怪しい者じゃない」
「……」
 オリヴィエはそう言われて「はいそうですか」と頷けるほど腑抜けでもないし、すぐさま「怪しい!」と指を指すほど無神経ではない。
 そんなオリヴィエの不審を感じたのか、しばらくすると木の陰からその声の持ち主が姿を現した。

 金髪に青い目が印象的な随分と体格の良い男だった。養父並みに背が高いようだ。金髪が少し長めだからか、日の光に反射して少々眩しい。いや結構眩しい。
 この宮殿の人間はほぼ全員が服装のどこかに所属、身分、階級を示す色や形を身に着けるものだがこの男はそれが一切なく、そこらにいる冒険家や民が着ていそうな平均的な服装をしていた。
 だが、とてもじゃないがこの男、一般人ではないぞ、と本能的にオリヴィエは感じた。

「…まあ、そうでしょうね。魔力も強そうだし頭もキレそう。きっと私より遥か上の人だ。でも、敢えて名乗らないってことは私はあなたについて何も知らない。だから畏まらなくても不敬者!と言われることもない。──それでいいよね?」
「…ああ。そうしてくれると嬉しい。俺の言いたいことを全て言われてしまった」
 男は苦笑して肩をすくめるが、オリヴィエは苦虫を潰したような気分だ。
「だって、通りすがりとか言う人間は得てして正体隠したがってるもんだし?」
 オリヴィエは先手を打ち、相手の素性を詮索したくないことを明かした。
 いかにもめんどくさそうな身分の人間だと判断したからだ。師匠ライドールに言われた通り、オリヴィエはこの上ないめんどくさがりなのである。

「詮索してくれるなよ」
「もちろん!そんなめんどくさいことに首突っ込みたくありませんから」
 あ、しまったつい本音が漏れた。
「…君のような人に会えるとはね」
 男が小さく笑う。オリヴィエの本音に呆れたのか。

「えっと、それで?あ、座ります?さっきの話を詳しく教えていただけると嬉しいのですが?」
 平穏を愛するオリヴィエにとって関わりたくない人種だったが、先ほどの自分の呟きに対する返答が気になった。
 背に腹は代えられない。
 オリヴィエは大のめんどくさがりでありながら、知識欲は人の数倍もある。そんなオリヴィエ自身がめんどくさい人間であった。

「──資源と言ったろう。その資源とは一括りにしても色々あるだろ?」
 男は勧めに従い、そこそこ大きい樹の根本に座るオリヴィエの横に胡座をかき説明を続けた。
「ええ、まあ…穀物、鉱物、様々ありますね」
「その通りだ。でだな、我が国の資源は魔石になる」
「魔石?それは魔術師が作ることのできるただの魔石ではなく、あの"幻の魔石"のことですかね?」
 オリヴィエは眉間に皺を寄せた。
 あるかどうかも分からない幻の魔石が戦の火種だと?
「さすが魔省験マショウケンで首席を取っただけはあるな。良く知っている」
「褒めていただいて何より。──あれは実在するということですか」
 魔省験とは魔術省入省試験のことである。オリヴィエは気になる単語を聞き流すことにした。
 この男は、どうしてオリヴィエが魔術省入省試験で首席を取ったことを知っているのだろうか。男とは今日が初対面のはず。だが、そんなことよりもオリヴィエにとって気になるのは"幻の魔石"の存在だった。さわらぬ神になんとやらだ。特別、触れはしない。

「実在する。…ただ、それがどういったカタチで存在するかはトップしか知らないがな」
 男は目にかかる長い前髪を一房掴み、親指と人差し指でこする。すると、その持っていた部分の金髪がきらきらと金の粒子になり落ちていった。長さを調節したらしい。
「トップというと、国王ですか」
「…そうだ」
「ふぅん。オカルト紛いに魔術師の間で長年噂されている"幻の魔石"が実在してる、ねぇ。急に言われても信じられませんよ」
 人一倍知識欲があるオリヴィエは魔術を学ぶ際に、魔術師の間で長らく噂されている"幻の魔石"というものがあることを知った。
 ただの"魔石"なら魔術師が一定の期間、魔力を込めると生成できる。魔力の弱い者や、ない者はこの魔石があれば魔法の行使が可能になる。だが"幻の魔石"はこの国の建国当初から存在する"持ち主の願いを必ず叶える魔石"なのだという。どうしてもオリヴィエにはオカルト紛いにしか思えなかったが、そんなものがもしも存在していたら世界中の誰もが欲しいと願うに決まっている。

「それはごもっともだ。通りすがりの人間の言うことだしな」
 オリヴィエの素直な言葉に男は笑った。
 なんとも胡散臭い笑みだった。
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