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若返った父親
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ルイシーナの船、レインダックス号が任務の間に一時的に母港にしている港へ帰航を開始し、あと数日で港という頃。
「今回もどうにか任務を達成することが出来た…!」
ルイシーナは一息つこうと気に入っている葡萄酒を呷っていると、音もなく影もなく船長室の壁から父親の幽霊が出てきた。驚くから、やめて欲しい。
「なぁルイシーナ、お前もう少し剣の振り早くならねぇのか?そうしたらもっと上手そうに見えると思うがなぁ」
「んー、そんなに見た目って大事?戦えれば十分じゃないの」
レオカディオは生前使っていた勝手知ったる船長室を好きに彷徨い、目当ての空グラスを手にすると葡萄酒を注ぎ飲み始めた。
ようやくこの世にも落ち着いてきたようで、魔法使いでもあるルイシーナがレオカディオの指輪に魔力供給すると実体化でき、モノにも触れるようになったそうだ。しかも好きな時に実体化したりしなかったりとできるらしい。だからか、先程のようにドアや壁といった物理的障害を無視して物体をすり抜ける幽霊らしい所業が可能なのだとか。
これを聞いたルイシーナが、もっと早いタイミングで実体化できるようになれば任務遂行の戦力になったのに…!と落胆したのは許して欲しい。
「そりゃあ、戦えなきゃ意味ねぇけどな。お前はこの船の船長なんだ。船員の士気向上にはお前がどんだけ…カッコイイかにかかってるんだぞ?」
グラス片手につばの広い帽子を右手で持ち上げながら、口角を上げる父親。たぶん、自分ではそのポーズが格好いいと思っている。
「……まともに聞いたこっちが馬鹿だった。あほらし」
ルイシーナは目を半目にしてグラスに残っていた葡萄酒を一気に飲み干した。そうだった、この人の話は話半分で充分だった…。
「なんだよ!この生ける伝説の亡霊キャプテン・コフィーニ様がありがたーいアドバイスを新米船長のルイシーナにしてやってんだぞ!しかも本当なら幾らか金をもらいたいところを娘ってことで目をつぶってやってんだ。タダだぞタダ!ほれもっとありがたく思え!」
「はいはい。ありがたき幸せー」
「もっと誠意を込めろ!」
船長室から繋がる、絶対に幽霊が入ってこれないよう遮断魔法を駆使した私室に入り鍵を締めると、ルイシーナはつい愚痴がこぼれた。
「…母さん、早く帰ってきてくれ。あの人、全盛期に戻ったせいか生き生きとしてて…くそめんどくさい……」
「───フアナ・エル・レイ様は現在外出中です。帰宅予定は未定となっています」
そんなルイシーナの愚痴に返事があった。
ルイシーナがこの任務の少し前に試作品として作った魔導人工知能からの回答である。洗濯、掃除といった細々とした作業をルイシーナが苦手で代わりの人材として、それを補う人型魔導機械を作ったのだ。
本体の活動範囲は家の敷地内に限っているため、この船内ではベッドの横にある青白く光る正方形の箱から的確な音声で製作者のルイシーナと意思の疎通をしている。
「ありがとう、優秀だね…」
「───ありがとうございます。他に御用ございましたらお伝えくださいませ、我が主ルイシーナ・コフィーニ=エル・レイ様」
「マロイ。…毎回、私のフルネームを呼ぶのはやめよっか」
その人型魔導機械の名はマロイであるが…学習途中であるからか頭が固い。ルイシーナも同居している亡霊もこういった性質ではないのだが…。
「今回もどうにか任務を達成することが出来た…!」
ルイシーナは一息つこうと気に入っている葡萄酒を呷っていると、音もなく影もなく船長室の壁から父親の幽霊が出てきた。驚くから、やめて欲しい。
「なぁルイシーナ、お前もう少し剣の振り早くならねぇのか?そうしたらもっと上手そうに見えると思うがなぁ」
「んー、そんなに見た目って大事?戦えれば十分じゃないの」
レオカディオは生前使っていた勝手知ったる船長室を好きに彷徨い、目当ての空グラスを手にすると葡萄酒を注ぎ飲み始めた。
ようやくこの世にも落ち着いてきたようで、魔法使いでもあるルイシーナがレオカディオの指輪に魔力供給すると実体化でき、モノにも触れるようになったそうだ。しかも好きな時に実体化したりしなかったりとできるらしい。だからか、先程のようにドアや壁といった物理的障害を無視して物体をすり抜ける幽霊らしい所業が可能なのだとか。
これを聞いたルイシーナが、もっと早いタイミングで実体化できるようになれば任務遂行の戦力になったのに…!と落胆したのは許して欲しい。
「そりゃあ、戦えなきゃ意味ねぇけどな。お前はこの船の船長なんだ。船員の士気向上にはお前がどんだけ…カッコイイかにかかってるんだぞ?」
グラス片手につばの広い帽子を右手で持ち上げながら、口角を上げる父親。たぶん、自分ではそのポーズが格好いいと思っている。
「……まともに聞いたこっちが馬鹿だった。あほらし」
ルイシーナは目を半目にしてグラスに残っていた葡萄酒を一気に飲み干した。そうだった、この人の話は話半分で充分だった…。
「なんだよ!この生ける伝説の亡霊キャプテン・コフィーニ様がありがたーいアドバイスを新米船長のルイシーナにしてやってんだぞ!しかも本当なら幾らか金をもらいたいところを娘ってことで目をつぶってやってんだ。タダだぞタダ!ほれもっとありがたく思え!」
「はいはい。ありがたき幸せー」
「もっと誠意を込めろ!」
船長室から繋がる、絶対に幽霊が入ってこれないよう遮断魔法を駆使した私室に入り鍵を締めると、ルイシーナはつい愚痴がこぼれた。
「…母さん、早く帰ってきてくれ。あの人、全盛期に戻ったせいか生き生きとしてて…くそめんどくさい……」
「───フアナ・エル・レイ様は現在外出中です。帰宅予定は未定となっています」
そんなルイシーナの愚痴に返事があった。
ルイシーナがこの任務の少し前に試作品として作った魔導人工知能からの回答である。洗濯、掃除といった細々とした作業をルイシーナが苦手で代わりの人材として、それを補う人型魔導機械を作ったのだ。
本体の活動範囲は家の敷地内に限っているため、この船内ではベッドの横にある青白く光る正方形の箱から的確な音声で製作者のルイシーナと意思の疎通をしている。
「ありがとう、優秀だね…」
「───ありがとうございます。他に御用ございましたらお伝えくださいませ、我が主ルイシーナ・コフィーニ=エル・レイ様」
「マロイ。…毎回、私のフルネームを呼ぶのはやめよっか」
その人型魔導機械の名はマロイであるが…学習途中であるからか頭が固い。ルイシーナも同居している亡霊もこういった性質ではないのだが…。
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