7 / 7
通夜会場にて
缶コーヒーを飲み終わるまで
しおりを挟む
助手席で高橋彩は、時折缶コーヒーを口にしながら、桧山に山本との思い出話を話した。
私生活の話、授業の話、休み時間の話。
お互いに好きな人が被ったとか、テスト勉強を一緒にやったけど高橋は全然点数が取れなかったとか。
覚醒剤の話とは全く繋がりはなかったが、高橋から人脈を広げ、手がかりを見つけるためには高橋と良好な関係を気づかなければならない。
女というのは話さえしっかり聞いておけば仲良くなれる。
春松がそう言っていたんだから間違いない。
「笑う時、泣く時ぜーんぶいっしょ。もう、こんな人には会えないんだろうなぁ」
そう言った高橋が缶コーヒーを一口飲んだかと思うと話さなくなった。
急に我に帰ったような無表情。
運転席で話を聞いていた桧山は、ようやくここで話を切り出すチャンスを見つけた。
「ところで君は何故、綾音ちゃんが自殺ではないと思ったのかな」
そう言った質問者の桧山を見ることなく、高橋は両手で握る缶コーヒーを見つめていた。
「それはね…次の日の朝に会おうね、って約束していたから」
気がつけば高橋から桧山に対する丁寧語はなくなっていた。
タメ口になったことに加えて、素直に答えるところも、桧山を信頼してくれているんだと感じる。
「それは前の日の別れの挨拶じゃなくて?」
「違う、違うの。話したいことがあるから、次の日の朝に体育倉庫に来てって。いつも会うんだからわざわざ言うことないのに」
高橋は思い出したようにブレザーのポケットからスマートフォンを出すと、桧山に見せた。
見せてきたのはメッセージアプリで、たしかに山本から会いたいという趣旨のメッセージが来ている。
「たしかに、自殺しようとしている人が送るには変だ」
「でしょ、そうでしょう。なのに皆こぞって…」
涙が再び溢れ出したのが、横顔からわかった。
「その缶コーヒーを飲み終えたら、泣くのもやめよう。いつまで泣いてたって、綾音ちゃんは喜ばない。君だってわかってるはずだ」
桧山が言うと、何度か高橋は頷いた。
「このコーヒー飲み終わったら私、行くね。先生、どうもありがとう」
そう言った高橋が桧山の車から降りたのは、40分後のことである。
私生活の話、授業の話、休み時間の話。
お互いに好きな人が被ったとか、テスト勉強を一緒にやったけど高橋は全然点数が取れなかったとか。
覚醒剤の話とは全く繋がりはなかったが、高橋から人脈を広げ、手がかりを見つけるためには高橋と良好な関係を気づかなければならない。
女というのは話さえしっかり聞いておけば仲良くなれる。
春松がそう言っていたんだから間違いない。
「笑う時、泣く時ぜーんぶいっしょ。もう、こんな人には会えないんだろうなぁ」
そう言った高橋が缶コーヒーを一口飲んだかと思うと話さなくなった。
急に我に帰ったような無表情。
運転席で話を聞いていた桧山は、ようやくここで話を切り出すチャンスを見つけた。
「ところで君は何故、綾音ちゃんが自殺ではないと思ったのかな」
そう言った質問者の桧山を見ることなく、高橋は両手で握る缶コーヒーを見つめていた。
「それはね…次の日の朝に会おうね、って約束していたから」
気がつけば高橋から桧山に対する丁寧語はなくなっていた。
タメ口になったことに加えて、素直に答えるところも、桧山を信頼してくれているんだと感じる。
「それは前の日の別れの挨拶じゃなくて?」
「違う、違うの。話したいことがあるから、次の日の朝に体育倉庫に来てって。いつも会うんだからわざわざ言うことないのに」
高橋は思い出したようにブレザーのポケットからスマートフォンを出すと、桧山に見せた。
見せてきたのはメッセージアプリで、たしかに山本から会いたいという趣旨のメッセージが来ている。
「たしかに、自殺しようとしている人が送るには変だ」
「でしょ、そうでしょう。なのに皆こぞって…」
涙が再び溢れ出したのが、横顔からわかった。
「その缶コーヒーを飲み終えたら、泣くのもやめよう。いつまで泣いてたって、綾音ちゃんは喜ばない。君だってわかってるはずだ」
桧山が言うと、何度か高橋は頷いた。
「このコーヒー飲み終わったら私、行くね。先生、どうもありがとう」
そう言った高橋が桧山の車から降りたのは、40分後のことである。
0
お気に入りに追加
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
四次元残響の檻(おり)
葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。
ロクさんの遠めがね ~我等口多美術館館長には不思議な力がある~
黒星★チーコ
ミステリー
近所のおせっかいおばあちゃんとして認知されているロクさん。
彼女には不思議な力がある。チラシや新聞紙を丸めて作った「遠めがね」で見ると、何でもわかってしまうのだ。
また今日も桜の木の下で出会った男におせっかいを焼くのだが……。
※基本ほのぼの進行。血など流れず全年齢対象のお話ですが、事件物ですので途中で少しだけ荒っぽいシーンがあります。
※主人公、ロクさんの名前と能力の原案者:海堂直也様(https://mypage.syosetu.com/2058863/)です。
影蝕の虚塔 - かげむしばみのきょとう -
葉羽
ミステリー
孤島に建つ天文台廃墟「虚塔」で相次ぐ怪死事件。被害者たちは皆一様に、存在しない「何か」に怯え、精神を蝕まれて死に至ったという。天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に島を訪れ、事件の謎に挑む。だが、彼らを待ち受けていたのは、常識を覆す恐るべき真実だった。歪んだ視界、錯綜する時間、そして影のように忍び寄る「異形」の恐怖。葉羽は、科学と論理を武器に、目に見えない迷宮からの脱出を試みる。果たして彼は、虚塔に潜む戦慄の謎を解き明かし、彩由美を守り抜くことができるのか? 真実の扉が開かれた時、予測不能のホラーが読者を襲う。
リモート刑事 笹本翔
雨垂 一滴
ミステリー
『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。
主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。
それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。
物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。
翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?
翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる