女子高生と白い粉【JSS.01】

通夜会場にて

親友・高橋彩

地下駐車場。

走ってきた桧山は、エレベーターのドアが開く前に、エレベーターの前に立った。

ドアが開くと、彼女が驚きの表情で桧山を見た。

「勘違いしてほしくないから言っておく。俺も、彼女が覚醒剤を使っていたなんて信じちゃいない。自殺のこともだ。彼女が死を選ぶとは思えない」

桧山が迫真の演技で女子生徒に語りかける。

女子生徒は桧山の言葉を聞いて、睨む表情が少し緩んだ。

「…」

女子生徒はエレベーターから降りて来ず、かと言ってドアを閉めようともせず、桧山をじっと見ていた。

女子生徒から何か発するまで、桧山も黙っておこうと決めていた。

「…」
「…」

たった数秒がとても長く感じる。

「…あなたは誰？」

女子生徒が声を発した。

「桧山悠希。綾音ちゃんが通ってた塾で先生をやってる。専門は社会科」

よろしく、と桧山が右手を差し出す。

彼女は差し出された手と桧山の顔を交互に見て、握手しようか悩んでいるようだった。

『上へ参ります』

エレベーターがアナウンスする。

誰かが上でボタンを押したのだろう。

ドアがゆっくり閉まり始める。

女子生徒が降りて来ないでそのまま上に行ったら、一度諦めようと桧山は思った。

高城高校の生徒なんてまだたくさん上にいるから、情報収集のチャンスなんてまだ沢山ある。

そうは考えているが、桧山は最後まで優しい目つきで女子生徒を見つめていた。

「…信じていいのかわかんないけど」

彼女がそう言ったかと思うと、ピョンとエレベーターから飛び出してきて、桧山の右手を握った。

誰も乗っていないエレベーターは上に行ってしまう。

「君の名前は」

小さな白い右手を握ったまま桧山が尋ねる。

「私は高橋彩」

そう言った彼女は次の瞬間、急に力が抜けてその場で倒れてしまった。