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通夜会場にて
ひとりぼっちの女子生徒
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2日後、土曜日午後4時。
横浜市北部斎場。
東名高速道路の横浜町田インターチェンジを降りて10分ほど走ったところに横浜市北部斎場はある。
緑の多く残るこの地域は横浜市の端にあり、綾瀬市、座間市、更には東京都町田市の境にある。
北部斎場は市内最大規模の斎場で、式場と火葬場があり、建物自体も近代的なデザインだ。
桧山は地下駐車場に乗ってきた車を停めると、地上1階の通夜会場に向かった。
礼服のジャケットの下には、ショルダーホルスターを使ってP230拳銃が隠されている。
冬なので、礼服の上にロングコートも着込んでいる。
通夜会場にはもうすでに沢山の弔問客がいた。
桧山は御霊前と書かれている香典を受付で出し、桧山悠希と記名した。
どこの住職か知らないが、祭壇の前で坊さんがお経をよんでいる。
一度焼香をするための列に並んだが、携帯電話に着信がきたふりをして、列から外れて会場のそばで様子を伺う。
桧山は局長から調査任務を受けた後、情報部が出してきた情報を思い出すことにした。
山本綾音は、神奈川県立高城高校に通っていた高校2年生。
中学でソフトテニス部、高校では公式テニス部に入部し、横浜市内でも優秀な成績を残していた。
部活の合間を縫って塾にも通っており、勉学もかなりできたようだ。
高校入試の時にはテニスの強豪校からスカウトもあったようだが、高橋彩という友人と過ごす3年間を優先して高城高校に入学したらしい。
通夜会場の周りを見渡す。
弔問客は殆ど制服姿の高校生だった。
小学校、中学校の元同級生たちは、制服が違えど会えば話をしている。
ちょっとしたクラス会だ。
高城高校の制服を探してみるが、何せ人数が多い。
よっぽど顔の広い人物だったのだろう。
高城高校の制服の高校生たちはウンといたが、たった1人、通夜会場から少し離れたところでうずくまるようにしゃがんでいる女子生徒がいることに気がついた。
皆その女子生徒には近づかない。
べつに面識がないとか、嫌われているとかではない。
他の生徒たちの様子を見るに、敢えて、気遣って1人にしているように思えた。
皆がそっとしておこうと思うということには必ず意味がある。
桧山はその生徒のところまで行った。
「こんばんは」
桧山が彼女の横に立って呟いてみた。
女子生徒はちらりと桧山の足元に目をやったかと思うと、黙ったまま何も言わない。
泣いている。
「君にとって、綾音ちゃんはとっても大切な人だったんだね」
桧山の声を聞いているのかいないのか、彼女は反応はせず、ひたすらにシクシクと泣いている。
「無理もないよな。あんなニュースーー」
桧山が薬物乱用の話を出しかけたとき、女子生徒が通夜会場と反対の方へ走り出した。
誰もいない、明かりもはっきりしていないところへ走っていく。
桧山も後を追って走り出した。
エレベーターの前まで走り、彼女が下のボタンを押したところで振り返る。
綺麗な顔だ。
ただ、泣いていたせいで目の周りが真っ赤に腫れている。
寝てないのか、くまっぽいのもある。
「そんなわけない!ニュースなんて嘘!誰だか知らないけど、わかったように言わないで!」
彼女が怒鳴った。
桧山は真っ直ぐと彼女を見る。
エレベーターが到着し、彼女は涙を溢れさせてエレベーターに乗った。
閉まるボタンを連打して、ドアが閉まっていく。
桧山と彼女はドアが閉まるまで見つめ合っていた。
「かわいそうに、大切な人を亡くしたんだね」という桧山は情けで、彼女は桧山に対する怒りという感情で、きっと見つめ合うことになったんだろう。
桧山に両親はいない。
兄妹もいない。
人を亡くす悲しさは痛いほどわかる。
ドアが閉まりきってすぐ、隣の非常階段を走って降りた。
下にはB1・地下駐車場しかない。
横浜市北部斎場。
東名高速道路の横浜町田インターチェンジを降りて10分ほど走ったところに横浜市北部斎場はある。
緑の多く残るこの地域は横浜市の端にあり、綾瀬市、座間市、更には東京都町田市の境にある。
北部斎場は市内最大規模の斎場で、式場と火葬場があり、建物自体も近代的なデザインだ。
桧山は地下駐車場に乗ってきた車を停めると、地上1階の通夜会場に向かった。
礼服のジャケットの下には、ショルダーホルスターを使ってP230拳銃が隠されている。
冬なので、礼服の上にロングコートも着込んでいる。
通夜会場にはもうすでに沢山の弔問客がいた。
桧山は御霊前と書かれている香典を受付で出し、桧山悠希と記名した。
どこの住職か知らないが、祭壇の前で坊さんがお経をよんでいる。
一度焼香をするための列に並んだが、携帯電話に着信がきたふりをして、列から外れて会場のそばで様子を伺う。
桧山は局長から調査任務を受けた後、情報部が出してきた情報を思い出すことにした。
山本綾音は、神奈川県立高城高校に通っていた高校2年生。
中学でソフトテニス部、高校では公式テニス部に入部し、横浜市内でも優秀な成績を残していた。
部活の合間を縫って塾にも通っており、勉学もかなりできたようだ。
高校入試の時にはテニスの強豪校からスカウトもあったようだが、高橋彩という友人と過ごす3年間を優先して高城高校に入学したらしい。
通夜会場の周りを見渡す。
弔問客は殆ど制服姿の高校生だった。
小学校、中学校の元同級生たちは、制服が違えど会えば話をしている。
ちょっとしたクラス会だ。
高城高校の制服を探してみるが、何せ人数が多い。
よっぽど顔の広い人物だったのだろう。
高城高校の制服の高校生たちはウンといたが、たった1人、通夜会場から少し離れたところでうずくまるようにしゃがんでいる女子生徒がいることに気がついた。
皆その女子生徒には近づかない。
べつに面識がないとか、嫌われているとかではない。
他の生徒たちの様子を見るに、敢えて、気遣って1人にしているように思えた。
皆がそっとしておこうと思うということには必ず意味がある。
桧山はその生徒のところまで行った。
「こんばんは」
桧山が彼女の横に立って呟いてみた。
女子生徒はちらりと桧山の足元に目をやったかと思うと、黙ったまま何も言わない。
泣いている。
「君にとって、綾音ちゃんはとっても大切な人だったんだね」
桧山の声を聞いているのかいないのか、彼女は反応はせず、ひたすらにシクシクと泣いている。
「無理もないよな。あんなニュースーー」
桧山が薬物乱用の話を出しかけたとき、女子生徒が通夜会場と反対の方へ走り出した。
誰もいない、明かりもはっきりしていないところへ走っていく。
桧山も後を追って走り出した。
エレベーターの前まで走り、彼女が下のボタンを押したところで振り返る。
綺麗な顔だ。
ただ、泣いていたせいで目の周りが真っ赤に腫れている。
寝てないのか、くまっぽいのもある。
「そんなわけない!ニュースなんて嘘!誰だか知らないけど、わかったように言わないで!」
彼女が怒鳴った。
桧山は真っ直ぐと彼女を見る。
エレベーターが到着し、彼女は涙を溢れさせてエレベーターに乗った。
閉まるボタンを連打して、ドアが閉まっていく。
桧山と彼女はドアが閉まるまで見つめ合っていた。
「かわいそうに、大切な人を亡くしたんだね」という桧山は情けで、彼女は桧山に対する怒りという感情で、きっと見つめ合うことになったんだろう。
桧山に両親はいない。
兄妹もいない。
人を亡くす悲しさは痛いほどわかる。
ドアが閉まりきってすぐ、隣の非常階段を走って降りた。
下にはB1・地下駐車場しかない。
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