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作戦決行

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「どういうことだっ、よ」

 いまにもルディに噛みつきそうなヨハンを見かねて、マックスが無理やり引っ張ってどこかに連れていった。
 ルディは二人になったところで、気まずそうにしているジャックを問い詰める。

「ここがBLゲームの世界なのを忘れていて……助けたらまさか自分に惚れるなんて思わないだろう? いや、すまん。俺のミスだ」

 じろりと睨みあげると、ジャックが素直に頭下げた。

「別に、なんでオレに謝るっ、の。怒ってませんけど」
「いや、めちゃくちゃ怒ってるだろ」

 別に怒っているわけではない。
 ジャックのことを好きになってしまうのは仕方ないと思う。優しいし、格好いいし。むしろ好きにならない方がおかしだろう。
 でも命を助けたのは子供の頃のハズなので、それからずっとあの状態というわけだ。もっと前に、対策をとっておけなかったのだろうか。子供の頃から、多分ヨハンはさっきの様子でずっとジャックにベタべタベタベタ……。
 思い出してまた苛々してきたルディに、ジャックが咳払いして言った。

「まあ、それも。今日までだ」
「え?」
「俺がヨハンを助けて惚れさせてしまったのなら、要は、今度はマックスがヨハンを助ければいいわけだ」
「うーん、まぁ」

 だかそんなに簡単にいくものだろうか?

「上手くいく。まぁ見てろ。それに、確かに昔は俺に惚れてた気がするけど、今はどっちかというと……来たぞ」

 ジャックが言った方を向くと、ヨハンとマックスが肩を並べてこちらに再びやってきた。だが、ヨハンはまだルディを睨んでいる。

「ごめんね。ヨハンにはちゃんと大人しくするように言っておいたから。よかったら上の部屋でお茶でも飲んで休憩しないか」
「それは頂戴いいな。行こう」

 マックスの言葉にジャックが頷く。マックスによほど何か言われたのだろうか、ヨハンは無言のままだ。どうせなら、目もつぶっておくようにと言っておいて欲しかった。

「まだダンスをしてないのに、休憩していいんですか?」

 素朴な疑問をぶつけると、マックスが首を傾げた。

「ダンス? ダンスなんて舞踏会でしたことないなぁ」
「えっ、うそ。だって舞踏会ってダンスをする会でしょう?」
「そうだけど。少なくとも俺はしたことないよ。ジャック達もそうなんじゃないかな」

 マックスの言葉に、ジャックが涼しい顔で頷いた。

「実はそうだ」
「ええ!? じゃあ、なんでオレは……っ」

 舞踏会までの間、毎日のようにクルクルとジャックと踊り続けた。足にマメが出来た時は、感覚だけ覚えておいたほうがいいと抱っこされてまでクルクル回ったのに。

「あれは、囁かな俺へのご褒美だ」
「なんだっ、それ!?」
「BLゲームの世界だからな。攻略者は令嬢とダンスするなんてことにはならないんだよ。ただ、お前が確実にそうなるかは分からなかったから念の為にな。すまなかった。俺とのダンスは嫌だったか?」
「別に……嫌じゃなかったっ」

 けど…と口の中でもごもご言うと、ジャックが口の端だけ笑みを浮かべ「じゃあ、良かった」とルディの頭を撫でた。
 いちいち格好良くて狡いと思っていると、横から刺すような視線を感じる。顔を上げて見れば、ヨハンがまた凄い目でこちらを睨んでいた。

(大丈夫かなぁ……)

 一抹の不安を覚えながら皆んなで二階へと上がる。ニ階には休憩室のような部屋が何個か用意されていて、そのうちのひとつに四人で入った。まだ舞踏会が始まったばかりのせいか、貸切状態だ。

 気まずい空気の中、マックスが笑顔で口火を切る。

「ルディ君は噂だと癒しの力の持ち主なんだって? 凄いね」
「そんな、大した力じゃないんです。えっと、ヨハンさんは魔法学院の主席顧問なんですよね。凄いです。どういった事をされるんですか」

 絶えず睨まれているのに耐えれなくて、ヨハンに話題を振った。ヨハンは一瞬不意を突かれた顔をしたが、決まりが悪そうに口を開く。

「別に新しい魔法を作ったりしてるだけ。髪の色変えたり、空を飛んだりする」
「空を飛べるんだっ、すか!?」
「ふふん。絶対無理だって言われてたけどね。疾風魔法に火魔法をゼロ負荷で交互に混ぜ合う事でジャンプの滞空時間を少し延ばせるんだ。今はまだ少しだけだけど、ゆくゆくは空を飛んで移動出来るようにするのを目標としてる」
「凄いっ」

  感激して声を上げると、自慢げに語っていたヨハンがハッと動きを止めた。
 気まずそうな顔で「別に」と呟き、そこで話題は中断してしまう。
 無言の時間が続き、ジャックがルディに目配せした。ルディは頷き、思い切って立ち上がる。

「お、お菓子取ってきますね。ヨ、ヨハンさんも一緒にどうかな」
「はぁ?」

 壁一面に並んだ茶菓子や軽食を取りにいくのだ。実はこれこそ今日の計画だった。先程ジャックに指示されたのだ。
 お菓子をとりにヨハンと壁際に行き、そこでルディだけその場を離れる。その瞬間、壁に飾ってある大きな絵画をジャックが魔法で倒す。
 それをマックスが助ける、といった計画だ。

 そんなに上手くいくのかなぁとルディは思うが、ジャックには自信があるらしい。

 とにかく言われたとおりに何とかヨハンを誘わなくてはいけない。

「ヨハンさんと、二人で行きたいなぁ」
「……ふーん。そういうつもり? いいけど」

 どういうつもりだと思われたかは分からないが、ヨハンが攻撃的な目で頷いた。
 マックスに心配そうな顔で見守られながら、二人で壁際にいっぱい積まれた茶菓子を取りに行く。その中には色とりどりの宝石のようなクッキーもあった。

「クッキーだっちゃ!」

 とうとう我慢できずに思わず訛りが出てしまったルディを、ヨハンが信じられないものを見るような目で見た。

「ウソ。あんた本当に田舎もんじゃん。ねぇ、よくそんなんでジャックの横にいて恥ずかしくないよね」
「それは……」

 言い淀むルディに、ヨハンが畳み掛ける。

「ジャックはさ、王位継承権を持つかもしれない国で一、ニを争う高貴な人間なんだよ。竜王の耳を持つ人間の隣に立つってことは、それなりに相応しい人じゃなきゃいけない。そういうの、分かってんのあんた?」

 本当にそうだ。
 自分はまだまだ、ジャックの隣に立つには相応しくない。前の自分だったら、こんな事を言われてしまったら泣きながら田舎に帰ったかもしれない。でも今は違う。

「でも、ジャックはオレが隣にいる事を選んでくれたんだっちゃ」






 
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