悪役令息に転生した従兄弟は、オレの死亡フラグ回避に必死だっちゃ!

二月こまじ

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 あの収穫祭の日から、ジャックといるとどうにも意識してしまい、心臓がドキドキしてしまう。
 ジャックと同じ空間にいるというだけで、自然と頬がカッカしてくるのだ。
 ジャックはジャックでなんとなく挙動がおかしい気がする。やけに大声で話しかけてきたり、そうかと思えば、じっとルディの方を見てくるといった様子だ。なんとなく目線がルディの唇にむいている気がして、更に緊張は増すばかりだ。
 ぎこちない、でも決して不快ではない甘さを含んだ空気の中。
 ルディはジャックや家庭教師に勉学を教わりながら日々を過ごした。

 乗馬やマナーは相変わらず怒られてばかりだが、歴史の勉強は意外に面白かった。
 特に国の成り立ちは、物語のようで興味深い。

 昔、この地では邪神クロノスが人々を苦しめていた。
 そこで聖人エクリュスが竜王オピオンに邪神クロノスを倒してほしいと懇願すると、竜王オピオンはエクリュスが生贄となることを条件に承諾する。
 オピオンは邪神クロノスを見事倒したものの、油断して負った怪我により瀕死状態となった。
 その様子を見て、自身は生贄となると分かっているのに、エクリュスは癒やしの力を使ってオピオンを助けた。
 オピオンはそれにいたく感銘を受け、竜王としての力を自分の瞳に封印し只人となって、エクリュスと番うことにした。
 それが、この国オルベウスの始まりである。
 
「その力を封印した瞳っていうのが、ドラゴン・アイって宝石なんだっちゃね」

 歴史の授業の時は話に熱中しているせいか、自然に質問が出来た。
 ルディの前で歴史書を広げて座るジャックも、落ち着いた様子で頷く。

「そうだ。いかにもクソゲーらしい安易な名前だろう」
「その宝石って、まだ何処かに存在するっちゃ?」
 
 首を傾げるルディに、ジャックは「かっ!」と叫んでから、咳払いして涼しい顔で答えた。

「する。王位継承権を持つもの以外には秘密となってるがな。実は王座の後ろに小さな仕掛け扉があって、そこに保管されてる」
「ええっ⁉︎ なんで知ってるっちゃ⁉︎ あ、それも未来視だっちゃ?」
「ああ。ゲームの終盤で主人公のリカと結ばれる奴は必ずそのドラゴン・アイを使って竜になるんだ」
「ほ、本物の竜に⁉︎」
「そうだ。竜王オピオンが竜王の力を封じ込めるときに、愛する人のため以外に使うことを自分で禁じたんだ。だから、真実の愛が芽生えた者だけが竜になれるとかうんとかかんとかって」

 真実の愛という言葉に若干抵抗があるらしいジャックは、視線を泳がせながらごまかした。

「へえ~。そんな事も分かっちゃうなんて、未来視って凄いっちゃね」
「まあ、リカも知ってるだろうし。あと、王子も知ってるぞ多分。ゲームでは知ってたから。今の王はパトリックが王位を継ぐって信じきってるから子供の頃から教えてるはずだ」

 改めて、未来視の力の凄さに感心する。こんなに凄い力を持っているなら、悪い人間だったら悪用してしまいそうだ。ジャックは真っ直ぐな人間で良かったと改めて思った。

「そういえば、その未来視で言ってたリカと結ばれる可能性がある、もうひとりの人には会わなくていいっちゃ?」

 確か初めて一緒に朝食を食べたとき、リカの恋人候補は三人いると言っていたのを覚えている。
 王子にも会ったし、主人公リカにも会った。ジャックは勿論ここにいるし、残りは一人ということになるけれど、その人に関しては今まで話題になったこともない。

「ああ、マックス・シュタイナーな。あいつに関しては恐らく心配ない」
「なんでだっちゃ?」
「ゲームであいつは、幼い頃に死んだ幼馴染の面影を、リカに重ねるところから恋愛フラグがたつんだよ。だから、俺が助けといた」
「助けたって」
「その幼馴染が患って死んだ同じ病気にリカがかかるイベントがあるんだ。オゾ山の山頂に生えてる薬草が特効薬だったってのが、そのイベントで分かってたからそれで幼馴染を助けといた。だから、リカとの恋愛フラグは恐らくつかない。ただなぁ……」

 ジャックが珍しく眉を顰め、困ったようにため息を吐く。

「どうしたっちゃ?」
「まあ、そうだな。これも、早めに解決しておいた方がいいだろうな。よし」

 今度は急に立ち上がり、何やら拳を握ってルディを見た。

「舞踏会に行くぞ」
「ええ!?」
「丁度、来月城での舞踏会がある。それにはマックスも、その幼馴染も来てるだろうからいい機会だ。そうと決まればお前の舞踏会用の服を仕立てよう。上等なコートもいるな。早速仕立て屋を呼ばなきゃな」
「ちょ、待つっちゃ。オレ、踊れないっちゃ」

 慌てて止めようとしたが、それを聞いてジャックがなんともいえない顔になった。
 眉は下がってるのに、口元が弛んでいるように見える。これはどういう顔だろうか。

「おおお、俺が、手取り足取り……腰取り、教えてやる」

 心なしか声が上擦っている。
 なんでジャックが変な顔をしているのか分からないが、とりあえずこれから特訓の日々が始まるのは間違いなかった。
 
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