16 / 40
舞踏会へ
しおりを挟む
あの収穫祭の日から、ジャックといるとどうにも意識してしまい、心臓がドキドキしてしまう。
ジャックと同じ空間にいるというだけで、自然と頬がカッカしてくるのだ。
ジャックはジャックでなんとなく挙動がおかしい気がする。やけに大声で話しかけてきたり、そうかと思えば、じっとルディの方を見てくるといった様子だ。なんとなく目線がルディの唇にむいている気がして、更に緊張は増すばかりだ。
ぎこちない、でも決して不快ではない甘さを含んだ空気の中。
ルディはジャックや家庭教師に勉学を教わりながら日々を過ごした。
乗馬やマナーは相変わらず怒られてばかりだが、歴史の勉強は意外に面白かった。
特に国の成り立ちは、物語のようで興味深い。
昔、この地では邪神クロノスが人々を苦しめていた。
そこで聖人エクリュスが竜王オピオンに邪神クロノスを倒してほしいと懇願すると、竜王オピオンはエクリュスが生贄となることを条件に承諾する。
オピオンは邪神クロノスを見事倒したものの、油断して負った怪我により瀕死状態となった。
その様子を見て、自身は生贄となると分かっているのに、エクリュスは癒やしの力を使ってオピオンを助けた。
オピオンはそれにいたく感銘を受け、竜王としての力を自分の瞳に封印し只人となって、エクリュスと番うことにした。
それが、この国オルベウスの始まりである。
「その力を封印した瞳っていうのが、ドラゴン・アイって宝石なんだっちゃね」
歴史の授業の時は話に熱中しているせいか、自然に質問が出来た。
ルディの前で歴史書を広げて座るジャックも、落ち着いた様子で頷く。
「そうだ。いかにもクソゲーらしい安易な名前だろう」
「その宝石って、まだ何処かに存在するっちゃ?」
首を傾げるルディに、ジャックは「かっ!」と叫んでから、咳払いして涼しい顔で答えた。
「する。王位継承権を持つもの以外には秘密となってるがな。実は王座の後ろに小さな仕掛け扉があって、そこに保管されてる」
「ええっ⁉︎ なんで知ってるっちゃ⁉︎ あ、それも未来視だっちゃ?」
「ああ。ゲームの終盤で主人公のリカと結ばれる奴は必ずそのドラゴン・アイを使って竜になるんだ」
「ほ、本物の竜に⁉︎」
「そうだ。竜王オピオンが竜王の力を封じ込めるときに、愛する人のため以外に使うことを自分で禁じたんだ。だから、真実の愛が芽生えた者だけが竜になれるとかうんとかかんとかって」
真実の愛という言葉に若干抵抗があるらしいジャックは、視線を泳がせながらごまかした。
「へえ~。そんな事も分かっちゃうなんて、未来視って凄いっちゃね」
「まあ、リカも知ってるだろうし。あと、王子も知ってるぞ多分。ゲームでは知ってたから。今の王はパトリックが王位を継ぐって信じきってるから子供の頃から教えてるはずだ」
改めて、未来視の力の凄さに感心する。こんなに凄い力を持っているなら、悪い人間だったら悪用してしまいそうだ。ジャックは真っ直ぐな人間で良かったと改めて思った。
「そういえば、その未来視で言ってたリカと結ばれる可能性がある、もうひとりの人には会わなくていいっちゃ?」
確か初めて一緒に朝食を食べたとき、リカの恋人候補は三人いると言っていたのを覚えている。
王子にも会ったし、主人公リカにも会った。ジャックは勿論ここにいるし、残りは一人ということになるけれど、その人に関しては今まで話題になったこともない。
「ああ、マックス・シュタイナーな。あいつに関しては恐らく心配ない」
「なんでだっちゃ?」
「ゲームであいつは、幼い頃に死んだ幼馴染の面影を、リカに重ねるところから恋愛フラグがたつんだよ。だから、俺が助けといた」
「助けたって」
「その幼馴染が患って死んだ同じ病気にリカがかかるイベントがあるんだ。オゾ山の山頂に生えてる薬草が特効薬だったってのが、そのイベントで分かってたからそれで幼馴染を助けといた。だから、リカとの恋愛フラグは恐らくつかない。ただなぁ……」
ジャックが珍しく眉を顰め、困ったようにため息を吐く。
「どうしたっちゃ?」
「まあ、そうだな。これも、早めに解決しておいた方がいいだろうな。よし」
今度は急に立ち上がり、何やら拳を握ってルディを見た。
「舞踏会に行くぞ」
「ええ!?」
「丁度、来月城での舞踏会がある。それにはマックスも、その幼馴染も来てるだろうからいい機会だ。そうと決まればお前の舞踏会用の服を仕立てよう。上等なコートもいるな。早速仕立て屋を呼ばなきゃな」
「ちょ、待つっちゃ。オレ、踊れないっちゃ」
慌てて止めようとしたが、それを聞いてジャックがなんともいえない顔になった。
眉は下がってるのに、口元が弛んでいるように見える。これはどういう顔だろうか。
「おおお、俺が、手取り足取り……腰取り、教えてやる」
心なしか声が上擦っている。
なんでジャックが変な顔をしているのか分からないが、とりあえずこれから特訓の日々が始まるのは間違いなかった。
ジャックと同じ空間にいるというだけで、自然と頬がカッカしてくるのだ。
ジャックはジャックでなんとなく挙動がおかしい気がする。やけに大声で話しかけてきたり、そうかと思えば、じっとルディの方を見てくるといった様子だ。なんとなく目線がルディの唇にむいている気がして、更に緊張は増すばかりだ。
ぎこちない、でも決して不快ではない甘さを含んだ空気の中。
ルディはジャックや家庭教師に勉学を教わりながら日々を過ごした。
乗馬やマナーは相変わらず怒られてばかりだが、歴史の勉強は意外に面白かった。
特に国の成り立ちは、物語のようで興味深い。
昔、この地では邪神クロノスが人々を苦しめていた。
そこで聖人エクリュスが竜王オピオンに邪神クロノスを倒してほしいと懇願すると、竜王オピオンはエクリュスが生贄となることを条件に承諾する。
オピオンは邪神クロノスを見事倒したものの、油断して負った怪我により瀕死状態となった。
その様子を見て、自身は生贄となると分かっているのに、エクリュスは癒やしの力を使ってオピオンを助けた。
オピオンはそれにいたく感銘を受け、竜王としての力を自分の瞳に封印し只人となって、エクリュスと番うことにした。
それが、この国オルベウスの始まりである。
「その力を封印した瞳っていうのが、ドラゴン・アイって宝石なんだっちゃね」
歴史の授業の時は話に熱中しているせいか、自然に質問が出来た。
ルディの前で歴史書を広げて座るジャックも、落ち着いた様子で頷く。
「そうだ。いかにもクソゲーらしい安易な名前だろう」
「その宝石って、まだ何処かに存在するっちゃ?」
首を傾げるルディに、ジャックは「かっ!」と叫んでから、咳払いして涼しい顔で答えた。
「する。王位継承権を持つもの以外には秘密となってるがな。実は王座の後ろに小さな仕掛け扉があって、そこに保管されてる」
「ええっ⁉︎ なんで知ってるっちゃ⁉︎ あ、それも未来視だっちゃ?」
「ああ。ゲームの終盤で主人公のリカと結ばれる奴は必ずそのドラゴン・アイを使って竜になるんだ」
「ほ、本物の竜に⁉︎」
「そうだ。竜王オピオンが竜王の力を封じ込めるときに、愛する人のため以外に使うことを自分で禁じたんだ。だから、真実の愛が芽生えた者だけが竜になれるとかうんとかかんとかって」
真実の愛という言葉に若干抵抗があるらしいジャックは、視線を泳がせながらごまかした。
「へえ~。そんな事も分かっちゃうなんて、未来視って凄いっちゃね」
「まあ、リカも知ってるだろうし。あと、王子も知ってるぞ多分。ゲームでは知ってたから。今の王はパトリックが王位を継ぐって信じきってるから子供の頃から教えてるはずだ」
改めて、未来視の力の凄さに感心する。こんなに凄い力を持っているなら、悪い人間だったら悪用してしまいそうだ。ジャックは真っ直ぐな人間で良かったと改めて思った。
「そういえば、その未来視で言ってたリカと結ばれる可能性がある、もうひとりの人には会わなくていいっちゃ?」
確か初めて一緒に朝食を食べたとき、リカの恋人候補は三人いると言っていたのを覚えている。
王子にも会ったし、主人公リカにも会った。ジャックは勿論ここにいるし、残りは一人ということになるけれど、その人に関しては今まで話題になったこともない。
「ああ、マックス・シュタイナーな。あいつに関しては恐らく心配ない」
「なんでだっちゃ?」
「ゲームであいつは、幼い頃に死んだ幼馴染の面影を、リカに重ねるところから恋愛フラグがたつんだよ。だから、俺が助けといた」
「助けたって」
「その幼馴染が患って死んだ同じ病気にリカがかかるイベントがあるんだ。オゾ山の山頂に生えてる薬草が特効薬だったってのが、そのイベントで分かってたからそれで幼馴染を助けといた。だから、リカとの恋愛フラグは恐らくつかない。ただなぁ……」
ジャックが珍しく眉を顰め、困ったようにため息を吐く。
「どうしたっちゃ?」
「まあ、そうだな。これも、早めに解決しておいた方がいいだろうな。よし」
今度は急に立ち上がり、何やら拳を握ってルディを見た。
「舞踏会に行くぞ」
「ええ!?」
「丁度、来月城での舞踏会がある。それにはマックスも、その幼馴染も来てるだろうからいい機会だ。そうと決まればお前の舞踏会用の服を仕立てよう。上等なコートもいるな。早速仕立て屋を呼ばなきゃな」
「ちょ、待つっちゃ。オレ、踊れないっちゃ」
慌てて止めようとしたが、それを聞いてジャックがなんともいえない顔になった。
眉は下がってるのに、口元が弛んでいるように見える。これはどういう顔だろうか。
「おおお、俺が、手取り足取り……腰取り、教えてやる」
心なしか声が上擦っている。
なんでジャックが変な顔をしているのか分からないが、とりあえずこれから特訓の日々が始まるのは間違いなかった。
1
お気に入りに追加
88
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!
美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』
そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。
目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。
なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。
元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。
ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。
いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。
なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。
このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。
悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。
ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる