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好きの理由
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ジャックの会話の内容が段々分からなくなってきたなぁ、と思いつつ、ふんふんと頷きながらルディもパンに手を伸ばした。実はここの料理はだいたい冷たくてあまり美味しいと感じたことはない。
そんなルディを見てジャックが仕方ない、というようにため息をつく。
「いいか。お前流に分かりやすく言うと『未来視』にはあらゆる可能性があるが、主なルートは三つだ。この世界の主人公リカってやつが、竜王の耳を持つ次期王候補の三人の誰と一番親しくなるかで決まる。第二王子パトリック・オブ・ロード。王国騎士団長も務めるマックス・シュタイナー。そして俺、悪役令息ジャック・エリティスというわけだ」
「ジャックが悪役令息⁉」」
そんなわけがない。公爵も家庭教師も下働きの者も、全員ジャックを理知的で包容力があると褒めていた。断固抗議する姿勢で目を吊りあげたルディにジャックが笑う。
「まあ、そういう『未来視』だったというわけだ。今の俺は、たゆまぬ努力でイケメン好青年令息になったわけだけども」
ジャックが決め顔でそういうのを、ルディは満面の笑みでウンウンと頷く。
「いや、ツッコんでくれよ。流石に恥じーよ」
「えっ。だって、そのとおりだと思って」
真顔で答えると、ジャックが頭を掻いた。心なしか頬が染まっている。
「あのよぉ、お前、なんでそんなに俺のこと、す、好きなの? 小さいころ一回しか会ってないじゃん。それも、俺すげぇ感じ悪かったろ?」
改めて何故かと言われると困ってしまう。だって、ジャックだから好きなのだ。理由なんて考えたことがない。
「えぇっと、本当の家族だから?」
「それを言うなら、俺の両親だってそうだろ」
そう言われてみると、そうだった。ただ、正直に言って公爵と公爵夫人に関しては家族という気持ちは全然湧いてこない。ジャックの親だから、嫌われたくないなぁ、くらいの認識でしかなかった。
「ええと、あと、ジャックの瞳の色が夜明けの空に似てて……」
「うん?」
「オレ、夜明けが好きだから」
ジャックの顔にありありと、がっかりと書いてある。この理由じゃだめらしい。
「ううんと、あと、やっぱり、顔が好きなぁ?」
考え込みながらそう言うと、ジャックはなんとも複雑そうな顔をした。しまった。やっぱりこれもだめか。ルディは慌てて付け足す。
「顔、だけど。顔を見れば人となりが分かるっているか、オレ、羊の顔みただけでその子の性格とか全部分かるっちゃよ」
「羊……に性格があるのか?」
「もちろんあるっちゃ。大人しい子、気が強い子、怖がりの子、たくさんいるっちゃ」
ジャックを初めて見た時、妖精と思うほど綺麗で。そして目の奥が優しくて、でも隠しきれてない孤独の影が痛いほど伝わってきた。彼のことを助けてあげたいと、心から思ったのだ。
「だから、ジャックの顔を見て。オレが本当の家族になりたいって思ったっちゃ。勿論ジャックは綺麗だけど、それだけじゃなくて。好きだなぁって思ったっちゃよ」
「あ、そう」
ジャックはぶっきら棒にそう言うと、窓の方に顔を反らしてしまった。
やはり怒らせてしまったのかと思ったが、よく見ると耳が赤い。もしかしてもしかしなくても、照れているのだろうか。
「まあ、俺も。キャラの顔みただけで、そいつのトラウマとか背負ってきた過去とかも何となく把握できたもんな」
「え?」
「いや、なんでもない。とにかく、まずは王道パトリックのルートを潰すのが最優先になる。ゲームが開始するのは、オレが十八の誕生日を迎えてからだから、まだ一年あるが出来ることは全てしておきたい。差し当たって、収穫祭で行動を起こす」
「収穫祭……」
村では大人たちがお酒を飲んだり、子どもたちに牛乳を固めたお菓子が配られたりしたが、ここでも同じような感じなのだろうか。
「正しくは収穫祭前日だ。ゲームが始まる前の年、パトリックと主人公は収穫祭前日に城の中庭で会う。ゲームでは回想のシーンだが、パトリックはここで主人公に好感を抱くんだ。他の攻略者に比べてパトリックだけ初めから馴れ馴れしいし」
「ジャックは、パトリック王子に会ったことあるっちゃ?」
「そりゃな。竜王の耳を持つ者同士だし、何回かある。王道王子って感じの男だよ。ただ、主人公は男爵の家に引き取られてきたばかりで面識はない」
主人公リカも平民だったのに癒やしの力を発動したから男爵家に引き取られたらしい。癒やしの力を持つ者のみが入学を許される聖学校へ入学するのも同じ時期だし。なんだか他人事とは思えない。ジャックにそれを言ったらそりゃそうだろ、と簡単に肯定された。
「なんでだっちゃ?」
「ゲームでは主人公と攻略対象の敵役として、俺とお前のコンビになるわけだ。俺は悪役令息だけど、お前はどっちかというと主人公とスペックが似てるライバルみたいな感じだな。すぐ死ぬけど」
「オレと主人公さんが似てる……じゃあ、仲良くなれるっちゃね」
ワクワクしながらルディがそう言うと、ジャックは呆れた顔でため息をついた。
「だと、いいけどな。ゲームだと仲良くどころか殺されまくるが。とにかくオレはその日、先に中庭に入り込んでリカと接触を試みる。お前は王子の方を見張ってろ」
「えええっ!?」
それはかなり責任重大なのでは。焦るルディの鼻先にジャックがステーキを突き出した。ジャックはルディの前では貴族の振る舞いは完全に放棄している。もしかしてこれが家族だけに見せる姿かと思うと、ちょっとうれしい。と、言っても、ジャックは何故かルディだけには初めから口が悪かったが。
とりあえずこれを食べろってことかな、と思いあんぐりと口を開けると慌ててステーキを引っ込められた。
「ち、ちげーよ。馬鹿! いいか、落ち着けって言いたかったんだ。お前は下手なことしなくていいから、とにかく王子を影から見張るだけでいい。それで、中庭に来そうになったら急いで俺の所に来い。分かったな」
見張るだけ。それならルディにも出来そうな気がする。
「分かったっちゃ! 任せておくっちゃ」
胸を張ってみせたルディを見て、ジャックは若干心配そうな目を向けながらステーキをかじった。
そんなルディを見てジャックが仕方ない、というようにため息をつく。
「いいか。お前流に分かりやすく言うと『未来視』にはあらゆる可能性があるが、主なルートは三つだ。この世界の主人公リカってやつが、竜王の耳を持つ次期王候補の三人の誰と一番親しくなるかで決まる。第二王子パトリック・オブ・ロード。王国騎士団長も務めるマックス・シュタイナー。そして俺、悪役令息ジャック・エリティスというわけだ」
「ジャックが悪役令息⁉」」
そんなわけがない。公爵も家庭教師も下働きの者も、全員ジャックを理知的で包容力があると褒めていた。断固抗議する姿勢で目を吊りあげたルディにジャックが笑う。
「まあ、そういう『未来視』だったというわけだ。今の俺は、たゆまぬ努力でイケメン好青年令息になったわけだけども」
ジャックが決め顔でそういうのを、ルディは満面の笑みでウンウンと頷く。
「いや、ツッコんでくれよ。流石に恥じーよ」
「えっ。だって、そのとおりだと思って」
真顔で答えると、ジャックが頭を掻いた。心なしか頬が染まっている。
「あのよぉ、お前、なんでそんなに俺のこと、す、好きなの? 小さいころ一回しか会ってないじゃん。それも、俺すげぇ感じ悪かったろ?」
改めて何故かと言われると困ってしまう。だって、ジャックだから好きなのだ。理由なんて考えたことがない。
「えぇっと、本当の家族だから?」
「それを言うなら、俺の両親だってそうだろ」
そう言われてみると、そうだった。ただ、正直に言って公爵と公爵夫人に関しては家族という気持ちは全然湧いてこない。ジャックの親だから、嫌われたくないなぁ、くらいの認識でしかなかった。
「ええと、あと、ジャックの瞳の色が夜明けの空に似てて……」
「うん?」
「オレ、夜明けが好きだから」
ジャックの顔にありありと、がっかりと書いてある。この理由じゃだめらしい。
「ううんと、あと、やっぱり、顔が好きなぁ?」
考え込みながらそう言うと、ジャックはなんとも複雑そうな顔をした。しまった。やっぱりこれもだめか。ルディは慌てて付け足す。
「顔、だけど。顔を見れば人となりが分かるっているか、オレ、羊の顔みただけでその子の性格とか全部分かるっちゃよ」
「羊……に性格があるのか?」
「もちろんあるっちゃ。大人しい子、気が強い子、怖がりの子、たくさんいるっちゃ」
ジャックを初めて見た時、妖精と思うほど綺麗で。そして目の奥が優しくて、でも隠しきれてない孤独の影が痛いほど伝わってきた。彼のことを助けてあげたいと、心から思ったのだ。
「だから、ジャックの顔を見て。オレが本当の家族になりたいって思ったっちゃ。勿論ジャックは綺麗だけど、それだけじゃなくて。好きだなぁって思ったっちゃよ」
「あ、そう」
ジャックはぶっきら棒にそう言うと、窓の方に顔を反らしてしまった。
やはり怒らせてしまったのかと思ったが、よく見ると耳が赤い。もしかしてもしかしなくても、照れているのだろうか。
「まあ、俺も。キャラの顔みただけで、そいつのトラウマとか背負ってきた過去とかも何となく把握できたもんな」
「え?」
「いや、なんでもない。とにかく、まずは王道パトリックのルートを潰すのが最優先になる。ゲームが開始するのは、オレが十八の誕生日を迎えてからだから、まだ一年あるが出来ることは全てしておきたい。差し当たって、収穫祭で行動を起こす」
「収穫祭……」
村では大人たちがお酒を飲んだり、子どもたちに牛乳を固めたお菓子が配られたりしたが、ここでも同じような感じなのだろうか。
「正しくは収穫祭前日だ。ゲームが始まる前の年、パトリックと主人公は収穫祭前日に城の中庭で会う。ゲームでは回想のシーンだが、パトリックはここで主人公に好感を抱くんだ。他の攻略者に比べてパトリックだけ初めから馴れ馴れしいし」
「ジャックは、パトリック王子に会ったことあるっちゃ?」
「そりゃな。竜王の耳を持つ者同士だし、何回かある。王道王子って感じの男だよ。ただ、主人公は男爵の家に引き取られてきたばかりで面識はない」
主人公リカも平民だったのに癒やしの力を発動したから男爵家に引き取られたらしい。癒やしの力を持つ者のみが入学を許される聖学校へ入学するのも同じ時期だし。なんだか他人事とは思えない。ジャックにそれを言ったらそりゃそうだろ、と簡単に肯定された。
「なんでだっちゃ?」
「ゲームでは主人公と攻略対象の敵役として、俺とお前のコンビになるわけだ。俺は悪役令息だけど、お前はどっちかというと主人公とスペックが似てるライバルみたいな感じだな。すぐ死ぬけど」
「オレと主人公さんが似てる……じゃあ、仲良くなれるっちゃね」
ワクワクしながらルディがそう言うと、ジャックは呆れた顔でため息をついた。
「だと、いいけどな。ゲームだと仲良くどころか殺されまくるが。とにかくオレはその日、先に中庭に入り込んでリカと接触を試みる。お前は王子の方を見張ってろ」
「えええっ!?」
それはかなり責任重大なのでは。焦るルディの鼻先にジャックがステーキを突き出した。ジャックはルディの前では貴族の振る舞いは完全に放棄している。もしかしてこれが家族だけに見せる姿かと思うと、ちょっとうれしい。と、言っても、ジャックは何故かルディだけには初めから口が悪かったが。
とりあえずこれを食べろってことかな、と思いあんぐりと口を開けると慌ててステーキを引っ込められた。
「ち、ちげーよ。馬鹿! いいか、落ち着けって言いたかったんだ。お前は下手なことしなくていいから、とにかく王子を影から見張るだけでいい。それで、中庭に来そうになったら急いで俺の所に来い。分かったな」
見張るだけ。それならルディにも出来そうな気がする。
「分かったっちゃ! 任せておくっちゃ」
胸を張ってみせたルディを見て、ジャックは若干心配そうな目を向けながらステーキをかじった。
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