悪役令息に転生した従兄弟は、オレの死亡フラグ回避に必死だっちゃ!

二月こまじ

文字の大きさ
上 下
9 / 40

好きの理由

しおりを挟む
 ジャックの会話の内容が段々分からなくなってきたなぁ、と思いつつ、ふんふんと頷きながらルディもパンに手を伸ばした。実はここの料理はだいたい冷たくてあまり美味しいと感じたことはない。
 そんなルディを見てジャックが仕方ない、というようにため息をつく。

「いいか。お前流に分かりやすく言うと『未来視』にはあらゆる可能性があるが、主なルートは三つだ。この世界の主人公リカってやつが、竜王の耳を持つ次期王候補の三人の誰と一番親しくなるかで決まる。第二王子パトリック・オブ・ロード。王国騎士団長も務めるマックス・シュタイナー。そして俺、悪役令息ジャック・エリティスというわけだ」
「ジャックが悪役令息⁉」」

 そんなわけがない。公爵も家庭教師も下働きの者も、全員ジャックを理知的で包容力があると褒めていた。断固抗議する姿勢で目を吊りあげたルディにジャックが笑う。

「まあ、そういう『未来視』だったというわけだ。今の俺は、たゆまぬ努力でイケメン好青年令息になったわけだけども」

 ジャックが決め顔でそういうのを、ルディは満面の笑みでウンウンと頷く。

「いや、ツッコんでくれよ。流石に恥じーよ」
「えっ。だって、そのとおりだと思って」

 真顔で答えると、ジャックが頭を掻いた。心なしか頬が染まっている。

「あのよぉ、お前、なんでそんなに俺のこと、す、好きなの? 小さいころ一回しか会ってないじゃん。それも、俺すげぇ感じ悪かったろ?」

 改めて何故かと言われると困ってしまう。だって、ジャックだから好きなのだ。理由なんて考えたことがない。

「えぇっと、本当の家族だから?」
「それを言うなら、俺の両親だってそうだろ」

 そう言われてみると、そうだった。ただ、正直に言って公爵と公爵夫人に関しては家族という気持ちは全然湧いてこない。ジャックの親だから、嫌われたくないなぁ、くらいの認識でしかなかった。

「ええと、あと、ジャックの瞳の色が夜明けの空に似てて……」
「うん?」
「オレ、夜明けが好きだから」

 ジャックの顔にありありと、がっかりと書いてある。この理由じゃだめらしい。

「ううんと、あと、やっぱり、顔が好きなぁ?」

 考え込みながらそう言うと、ジャックはなんとも複雑そうな顔をした。しまった。やっぱりこれもだめか。ルディは慌てて付け足す。

「顔、だけど。顔を見れば人となりが分かるっているか、オレ、羊の顔みただけでその子の性格とか全部分かるっちゃよ」
「羊……に性格があるのか?」
「もちろんあるっちゃ。大人しい子、気が強い子、怖がりの子、たくさんいるっちゃ」

 ジャックを初めて見た時、妖精と思うほど綺麗で。そして目の奥が優しくて、でも隠しきれてない孤独の影が痛いほど伝わってきた。彼のことを助けてあげたいと、心から思ったのだ。

「だから、ジャックの顔を見て。オレが本当の家族になりたいって思ったっちゃ。勿論ジャックは綺麗だけど、それだけじゃなくて。好きだなぁって思ったっちゃよ」
「あ、そう」

 ジャックはぶっきら棒にそう言うと、窓の方に顔を反らしてしまった。
 やはり怒らせてしまったのかと思ったが、よく見ると耳が赤い。もしかしてもしかしなくても、照れているのだろうか。

「まあ、俺も。キャラの顔みただけで、そいつのトラウマとか背負ってきた過去とかも何となく把握できたもんな」
「え?」
「いや、なんでもない。とにかく、まずは王道パトリックのルートを潰すのが最優先になる。ゲームが開始するのは、オレが十八の誕生日を迎えてからだから、まだ一年あるが出来ることは全てしておきたい。差し当たって、収穫祭で行動を起こす」
「収穫祭……」

 村では大人たちがお酒を飲んだり、子どもたちに牛乳を固めたお菓子が配られたりしたが、ここでも同じような感じなのだろうか。

「正しくは収穫祭前日だ。ゲームが始まる前の年、パトリックと主人公は収穫祭前日に城の中庭で会う。ゲームでは回想のシーンだが、パトリックはここで主人公に好感を抱くんだ。他の攻略者に比べてパトリックだけ初めから馴れ馴れしいし」
「ジャックは、パトリック王子に会ったことあるっちゃ?」
「そりゃな。竜王の耳を持つ者同士だし、何回かある。王道王子って感じの男だよ。ただ、主人公は男爵の家に引き取られてきたばかりで面識はない」

 主人公リカも平民だったのに癒やしの力を発動したから男爵家に引き取られたらしい。癒やしの力を持つ者のみが入学を許される聖学校へ入学するのも同じ時期だし。なんだか他人事とは思えない。ジャックにそれを言ったらそりゃそうだろ、と簡単に肯定された。

「なんでだっちゃ?」
「ゲームでは主人公と攻略対象の敵役として、俺とお前のコンビになるわけだ。俺は悪役令息だけど、お前はどっちかというと主人公とスペックが似てるライバルみたいな感じだな。すぐ死ぬけど」
「オレと主人公さんが似てる……じゃあ、仲良くなれるっちゃね」

 ワクワクしながらルディがそう言うと、ジャックは呆れた顔でため息をついた。

「だと、いいけどな。ゲームだと仲良くどころか殺されまくるが。とにかくオレはその日、先に中庭に入り込んでリカと接触を試みる。お前は王子の方を見張ってろ」
「えええっ!?」

 それはかなり責任重大なのでは。焦るルディの鼻先にジャックがステーキを突き出した。ジャックはルディの前では貴族の振る舞いは完全に放棄している。もしかしてこれが家族だけに見せる姿かと思うと、ちょっとうれしい。と、言っても、ジャックは何故かルディだけには初めから口が悪かったが。
とりあえずこれを食べろってことかな、と思いあんぐりと口を開けると慌ててステーキを引っ込められた。
                                                 
 「ち、ちげーよ。馬鹿! いいか、落ち着けって言いたかったんだ。お前は下手なことしなくていいから、とにかく王子を影から見張るだけでいい。それで、中庭に来そうになったら急いで俺の所に来い。分かったな」

 見張るだけ。それならルディにも出来そうな気がする。

「分かったっちゃ! 任せておくっちゃ」

 胸を張ってみせたルディを見て、ジャックは若干心配そうな目を向けながらステーキをかじった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】だから俺は主人公じゃない!

美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。 しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!? でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。 そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。 主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱! だから、…俺は主人公じゃないんだってば!

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...