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失恋
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突如、思ってもいない問いかけをされ頭が真っ白になった。仰天していると、フォルの方が「うわぁ!違うんだぁっ」と大騒ぎしている。よく分からないが、フォルの慌てっぷりにこちらの方が平静になった。
「気持ちよくないよ」
「そうなのかっ!?」
素直に答えると、フォルが物凄い勢いでこちらに迫ってきた。よほど知りたかったことなのだろう。ならばと思い、スズも真剣に答えることにした。
「銀との卵作りはいっつも辛くて。心と体がバラバラになった感じなんだ。それが気持ち悪い」
「……へ、へぇ~」
フォルがなんとも言えない顔で頷く。
「なんで、そんなこと気になるの?」
「え、いや。だって、気、になるだろ。そりゃ……そうか、気持ち悪いのか……」
ブツブツ口の中でなにか言っているフォルに首を傾げながら、でも、と言葉を続けた。
「でも、シンとの卵作りは少し違ったかも」
「……違った?」
「辛いって感じはしなかったかな。なんか、なんて言ったらいいか分からないんだけど、あったかい感じ」
「それは……気持ちいいってことか……」
「気持ちいい? うーん、そうか。オレ、気持ち良かったのかな」
そう言われてみると、そうなのかもしれない。シンはとても優しくて、それでいてとても熱くて。しかも終わったときに「愛しい」なんて言ってきて。
先程のことを思い返していると、なんだかまた頬が熱くなってきてしまった。
頬に両手を当て、首を振る。すると、フォルが暗鬱な顔でこちらを見ていることに気がついた。
「どうした。なんかあったか?」
「いや……」
問いかけても何も言わないままのフォルに、これ以上声を掛けることも出来ず気まずい時間が流れる。
「フォル、オレが駄目なこと言ったなら教えて。そういうの、よく分からないんだ」
流石に痺れを切らして訴えると、フォルがはっと顔を上げた。
「ごめん。そういうつもりじゃなかったんだ。スズは全然悪くない。なんていうかな、そう。さっき『シンに愛が足りない』って言ったのも、あれも嘘なのか」
「え、あ……あれは……半分嘘で半分本当」
「どういうことだ」
「その、昔、人に聞いたことがあるんだ。卵生は愛されて当然の生き物だから、愛が足りてない今の状態でオレが卵を産めないのは仕方ないって。でも、それが本当なのかオレを慰めての言葉なのかは分からない」
正しくは、人じゃなくてキジバトにだが。それを聞いたのも一度だけだし、だいぶ昔のことだ。いまユーイに聞いたら「なんのことですか?」と言われてもおかしくない。
「なるほど。じゃあ、本当に『愛』が卵を産むことに関係するのかもしれないわけだ」
「いや、どうかな。愛なんて、よく分からないし」
卵と愛の関係性なんて、ユーイ以外からは聞いたことがなかった。
世話係の世間話でも、もちろん銀からも。
そもそも愛なんて曖昧なものが、受精卵を産むことに必要だなんてとても思えない。咄嗟に言ったこととはいえ、突拍子もないことを言ったもんだ。族長はくそじじいではあるが、これをそのまま信じるところが、元来の人の良さが出ている気がする。
技芸の一族じたい、温厚な一族なのだろう。
「じゃあ、スズの方はどうなんだ」
「オレ?」
「スズは、シンを愛せるのか」
まさかそんなことを言われると思わず、目をパチクリさせてフォルを見返した。
「受精卵を産むのに愛が関係するなら、スズの気持ちも大事なんじゃないか。お前は、シンをどう思っているんだ」
突然、生きてきた中で一番の難問を突きつけられて、スズは頭が真っ白になった。
自分がシンをどう思っているか?
そんなことを言われても、なんと返答していいか分からない。
シンは、無愛想で、でも優しくて。
初めてその姿を見たとき、太陽のようだと思ったけれど、まさにその通りの眩しいほどの光を放っている男だ。
「……分かんないよ。だって、会ったばっかりだもん」
結局、なんと返答したらいいか分からず、スズは首をすくめた。
「そうか……それじゃあ」
「ただ……」
フォルと会話のタイミングが被ってしまった。フォルが先に言え、と促すので仕方なく言葉を続ける。
「ただ、神様がいるなら、シンみたいな人なんじゃないかなって思う」
「え?」
「神様って、綺麗なんだってシンが言ってた。シンは、太陽の神様みたいだなって思う。それだけ。……それで、フォルもなにか言いかけたよね」
「あ、いや。なんでもない。なんでもないんだ」
フォルはまるで自分に言い聞かせるように、なんでもない、と繰り返した。
「じゃあ、そろそろ帰ってやれ。あいつは不器用な奴だから、今頃どうしたらいいか困ってるぞ」
そう言って、無理やり背中を押され、しぶしぶ洞窟の入口まで戻った。一緒に行くのかと思ったら、フォルはこのまま水汲み場まで行くから一人で帰れと言われる。
「スズ」
背中から声を掛けられ、振り返る。フォルの顔は逆光で見えなかった。
「人を愛するのって、案外簡単なことかもしれないぞ」
「どういうこと?」
「その人の幸せを心から祈れるのが、愛するってことなんじゃないか」
「幸せ……?」
フォルが頷く。相変わらず顔は見えない。
「幸せになれよ、スズ」
それだけ言うと、フォルはそのまま光の向こうへと消えていった。
「気持ちよくないよ」
「そうなのかっ!?」
素直に答えると、フォルが物凄い勢いでこちらに迫ってきた。よほど知りたかったことなのだろう。ならばと思い、スズも真剣に答えることにした。
「銀との卵作りはいっつも辛くて。心と体がバラバラになった感じなんだ。それが気持ち悪い」
「……へ、へぇ~」
フォルがなんとも言えない顔で頷く。
「なんで、そんなこと気になるの?」
「え、いや。だって、気、になるだろ。そりゃ……そうか、気持ち悪いのか……」
ブツブツ口の中でなにか言っているフォルに首を傾げながら、でも、と言葉を続けた。
「でも、シンとの卵作りは少し違ったかも」
「……違った?」
「辛いって感じはしなかったかな。なんか、なんて言ったらいいか分からないんだけど、あったかい感じ」
「それは……気持ちいいってことか……」
「気持ちいい? うーん、そうか。オレ、気持ち良かったのかな」
そう言われてみると、そうなのかもしれない。シンはとても優しくて、それでいてとても熱くて。しかも終わったときに「愛しい」なんて言ってきて。
先程のことを思い返していると、なんだかまた頬が熱くなってきてしまった。
頬に両手を当て、首を振る。すると、フォルが暗鬱な顔でこちらを見ていることに気がついた。
「どうした。なんかあったか?」
「いや……」
問いかけても何も言わないままのフォルに、これ以上声を掛けることも出来ず気まずい時間が流れる。
「フォル、オレが駄目なこと言ったなら教えて。そういうの、よく分からないんだ」
流石に痺れを切らして訴えると、フォルがはっと顔を上げた。
「ごめん。そういうつもりじゃなかったんだ。スズは全然悪くない。なんていうかな、そう。さっき『シンに愛が足りない』って言ったのも、あれも嘘なのか」
「え、あ……あれは……半分嘘で半分本当」
「どういうことだ」
「その、昔、人に聞いたことがあるんだ。卵生は愛されて当然の生き物だから、愛が足りてない今の状態でオレが卵を産めないのは仕方ないって。でも、それが本当なのかオレを慰めての言葉なのかは分からない」
正しくは、人じゃなくてキジバトにだが。それを聞いたのも一度だけだし、だいぶ昔のことだ。いまユーイに聞いたら「なんのことですか?」と言われてもおかしくない。
「なるほど。じゃあ、本当に『愛』が卵を産むことに関係するのかもしれないわけだ」
「いや、どうかな。愛なんて、よく分からないし」
卵と愛の関係性なんて、ユーイ以外からは聞いたことがなかった。
世話係の世間話でも、もちろん銀からも。
そもそも愛なんて曖昧なものが、受精卵を産むことに必要だなんてとても思えない。咄嗟に言ったこととはいえ、突拍子もないことを言ったもんだ。族長はくそじじいではあるが、これをそのまま信じるところが、元来の人の良さが出ている気がする。
技芸の一族じたい、温厚な一族なのだろう。
「じゃあ、スズの方はどうなんだ」
「オレ?」
「スズは、シンを愛せるのか」
まさかそんなことを言われると思わず、目をパチクリさせてフォルを見返した。
「受精卵を産むのに愛が関係するなら、スズの気持ちも大事なんじゃないか。お前は、シンをどう思っているんだ」
突然、生きてきた中で一番の難問を突きつけられて、スズは頭が真っ白になった。
自分がシンをどう思っているか?
そんなことを言われても、なんと返答していいか分からない。
シンは、無愛想で、でも優しくて。
初めてその姿を見たとき、太陽のようだと思ったけれど、まさにその通りの眩しいほどの光を放っている男だ。
「……分かんないよ。だって、会ったばっかりだもん」
結局、なんと返答したらいいか分からず、スズは首をすくめた。
「そうか……それじゃあ」
「ただ……」
フォルと会話のタイミングが被ってしまった。フォルが先に言え、と促すので仕方なく言葉を続ける。
「ただ、神様がいるなら、シンみたいな人なんじゃないかなって思う」
「え?」
「神様って、綺麗なんだってシンが言ってた。シンは、太陽の神様みたいだなって思う。それだけ。……それで、フォルもなにか言いかけたよね」
「あ、いや。なんでもない。なんでもないんだ」
フォルはまるで自分に言い聞かせるように、なんでもない、と繰り返した。
「じゃあ、そろそろ帰ってやれ。あいつは不器用な奴だから、今頃どうしたらいいか困ってるぞ」
そう言って、無理やり背中を押され、しぶしぶ洞窟の入口まで戻った。一緒に行くのかと思ったら、フォルはこのまま水汲み場まで行くから一人で帰れと言われる。
「スズ」
背中から声を掛けられ、振り返る。フォルの顔は逆光で見えなかった。
「人を愛するのって、案外簡単なことかもしれないぞ」
「どういうこと?」
「その人の幸せを心から祈れるのが、愛するってことなんじゃないか」
「幸せ……?」
フォルが頷く。相変わらず顔は見えない。
「幸せになれよ、スズ」
それだけ言うと、フォルはそのまま光の向こうへと消えていった。
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