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初恋
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「卵生は鳥と話せるのか?」
「え、いや。ずっと一人で鳥に愚痴ってただけだよ。地下室で、話し相手がいないから独り言に慣れちゃってさぁ、あはは」
「そうか」
一瞬だけどこか痛ましい顔したフォルはそれ以上なにも言ってこなかった。
もしかして、可哀想に思われたんだろうか。卵生と鳥が話せると知られれば、なにかと面倒なことになりかねない。出来れば知られないままいるに越したことはない。殺される以前に、また閉じ込められたりするのはもうごめんだった。
少しだけ良心が傷んだが、勘違いしてくれたなら有り難い。ホッと息を吐くと、ジトッとした目でフォルがこちらを睨んでいた。
「やっぱり何か隠してるよな」
「……別に隠してない」
「ふーん。受精卵が産めなければ、逃げられるなんて思ってるかもしれないが、そうはいかない
「どういう意味?」
「そのままの意味だ。卵生ってのは随分と呑気な性格をしているらしいが、外の世界はそんなに甘くないからな」
「オレを殺すの?」
「まさか、火の一族じゃあるまいし。俺たちはそんな野蛮じゃない」
心外だと言わんばかりの顔で否定された。では、とりあえず命の危険はないということだ。
「じゃあ、隣国にオレを売っぱらう気でいるってこと?」
「──誰に聞いた?」
「わかるよ。なんとなく。卵生を攫った時点で、この国には居場所がない。だとすれば、逃げるのは隣国だ。でも、そもそも隣国に入るために必要な金もないんだろう。だとしたらオレ自身を賄賂として渡すのが一番手っ取り早い。卵だけ産ませて、あとは隣国に渡してしまえば卵生を攫った証拠も残らないし」
「……卵生ってのは、馬鹿ではないみたいだな」
半ば関心したような言われる。逆に今までどんなに馬鹿だと思われていたんだろうか。
岩じいからは性交しているとき以外はずっと遊び呆けているようなことを聞いていたようだから、まあそう思っていたのだろう。
まぁ実際、ただユーイが教えてくれたことから推察しただけだし、別に特別賢いわけでもないのだけれど。
「ついでに言っておくと、族長さん達にオレがそれに気付いていること言わないでくれる? バレたらまた閉じ込められるだろうから嫌なんだ。オレは絶対逃げないから」
「逃げないなんて、口で言うのは簡単だ」
フォルは、ふんっと鼻で笑って相手にしてくれない。一度嘘を付かれた相手だ。簡単に信じてはくれないだろう。どうしたもんかと思ったが、別に隠しても仕方ないので本音で話すことにした。
「あんただから言っておくけど……オレは、いれるもんならずっとここにいたいんだ。たとえ逃げられたとしても、ここから出ていくつもりはない」
「──なぜ? 自由になりたいんじゃないのか」
意外そうにフォルが言う。本当は、あの地下室からスズが逃げたがっていた事をフォルは知っているので当然だ。
「あの地下に比べれば、ここは十分自由だし。それに」
シンの顔が頭に浮かんだが、首を振った。
「ここを出ていけば、オレはまたひとりだろう。オレ、誰かと会話すること自体、結構好きみたい。あんたとの会話も好きだよ。ここまでの道のりも、いっぱいお喋り出来て楽しかったんだ」
フォルがびっくりした顔でこちらを見た。そんなに驚くことだろうか。暫く無言の時間が続いたが、やがてフォルが諦めたようにため息をついた。
「……スズって人たらしなところがあるよな」
「人たらしって?」
「分からないならいい」
ここには桜は咲いていないのに、フォルの頬が少し薄紅色に染まっているように見えた。フォルの雰囲気からして悪口というわけでもなさそうなので、あえて問いただすのはやめた。
「なんで攫われたって嘘を付いたのか聞いていいか」
先ほどまでより雰囲気がぐっと和らいだフォルが尋ねてきた。
「……言わなきゃ駄目?」
「言ってくれないと、俺の中でお前を信用しきれないところはある」
それはそうだろうな、と思いつつも、真実を言ってしまえばスズが受精卵を産めないと教えることになる。
「言っておくが、本当のことさえ言ってくれれば、俺はお前の味方だからな」
まっすぐな瞳でそう言われて、胸がじわりと熱くなった。自分の味方。そう言ってくれる人がいるなんて、なんて凄いことだろう。少し悩んだ末、真実の中にほんの少しだけ嘘を混ぜることにした。
「だからその、受精卵はぶっちゃけて言うと、元々あんまり産めないんだ。体質的に」
あんまりどころが全く産めないのだが。
「でも、シンなら、ちょっと鈍感なところがあるからそれがバレないかなって思ったんだ。フォルは……賢そうだし岩じいに色々話を聞いてそうだから、すぐにバレるだろうなって思って。まあ、結局どちらにせよすぐバレたんだけど」
「ちょっと待ってくれ。じゃあ、受精卵じゃないとバレないようにするためだけに、嘘を付いてシンだけと卵作りすることにしたってのか」
「そうだよ」
「そんなことのためにっ」
悲痛に叫ぶフォルに向かって、ムッと口を尖らせた。
「そんなことって……大事なことだったんだよ。バレたら殺されるかもと思ってたし」
「だって、じゃあ……くそっ」
フォルの悪態に驚いて思わず身を竦ませる。フォルもそれに気付いて「いや、ごめん。別に怒ってるわけじゃないんだ」と首を振った。
「でも、受精卵が産めなきゃ、どちらにしても隣国に売られるぞ。その……産めそうなのか?」
「……」
どことなく疲れた感じのフォルの問いかけに無言で答えた。なにかを察したようで、フォルはそれ以上言うのをやめたようだ。
また暫く無言の時間が続いたが、フォルが突然自分の頭をわしゃわしゃと掻き出した。驚いていると、意を決したようにフォルがこちらを向く。
「あのさ」
「う、うん」
「その、例えばさ、俺が、その」
「うん?」
「だから、その、あれだ。卵を、あれをさ」
「卵?」
「あぁ、えっとぉ、そう。その、卵作りって気持ちいいのか!?」
「え、いや。ずっと一人で鳥に愚痴ってただけだよ。地下室で、話し相手がいないから独り言に慣れちゃってさぁ、あはは」
「そうか」
一瞬だけどこか痛ましい顔したフォルはそれ以上なにも言ってこなかった。
もしかして、可哀想に思われたんだろうか。卵生と鳥が話せると知られれば、なにかと面倒なことになりかねない。出来れば知られないままいるに越したことはない。殺される以前に、また閉じ込められたりするのはもうごめんだった。
少しだけ良心が傷んだが、勘違いしてくれたなら有り難い。ホッと息を吐くと、ジトッとした目でフォルがこちらを睨んでいた。
「やっぱり何か隠してるよな」
「……別に隠してない」
「ふーん。受精卵が産めなければ、逃げられるなんて思ってるかもしれないが、そうはいかない
「どういう意味?」
「そのままの意味だ。卵生ってのは随分と呑気な性格をしているらしいが、外の世界はそんなに甘くないからな」
「オレを殺すの?」
「まさか、火の一族じゃあるまいし。俺たちはそんな野蛮じゃない」
心外だと言わんばかりの顔で否定された。では、とりあえず命の危険はないということだ。
「じゃあ、隣国にオレを売っぱらう気でいるってこと?」
「──誰に聞いた?」
「わかるよ。なんとなく。卵生を攫った時点で、この国には居場所がない。だとすれば、逃げるのは隣国だ。でも、そもそも隣国に入るために必要な金もないんだろう。だとしたらオレ自身を賄賂として渡すのが一番手っ取り早い。卵だけ産ませて、あとは隣国に渡してしまえば卵生を攫った証拠も残らないし」
「……卵生ってのは、馬鹿ではないみたいだな」
半ば関心したような言われる。逆に今までどんなに馬鹿だと思われていたんだろうか。
岩じいからは性交しているとき以外はずっと遊び呆けているようなことを聞いていたようだから、まあそう思っていたのだろう。
まぁ実際、ただユーイが教えてくれたことから推察しただけだし、別に特別賢いわけでもないのだけれど。
「ついでに言っておくと、族長さん達にオレがそれに気付いていること言わないでくれる? バレたらまた閉じ込められるだろうから嫌なんだ。オレは絶対逃げないから」
「逃げないなんて、口で言うのは簡単だ」
フォルは、ふんっと鼻で笑って相手にしてくれない。一度嘘を付かれた相手だ。簡単に信じてはくれないだろう。どうしたもんかと思ったが、別に隠しても仕方ないので本音で話すことにした。
「あんただから言っておくけど……オレは、いれるもんならずっとここにいたいんだ。たとえ逃げられたとしても、ここから出ていくつもりはない」
「──なぜ? 自由になりたいんじゃないのか」
意外そうにフォルが言う。本当は、あの地下室からスズが逃げたがっていた事をフォルは知っているので当然だ。
「あの地下に比べれば、ここは十分自由だし。それに」
シンの顔が頭に浮かんだが、首を振った。
「ここを出ていけば、オレはまたひとりだろう。オレ、誰かと会話すること自体、結構好きみたい。あんたとの会話も好きだよ。ここまでの道のりも、いっぱいお喋り出来て楽しかったんだ」
フォルがびっくりした顔でこちらを見た。そんなに驚くことだろうか。暫く無言の時間が続いたが、やがてフォルが諦めたようにため息をついた。
「……スズって人たらしなところがあるよな」
「人たらしって?」
「分からないならいい」
ここには桜は咲いていないのに、フォルの頬が少し薄紅色に染まっているように見えた。フォルの雰囲気からして悪口というわけでもなさそうなので、あえて問いただすのはやめた。
「なんで攫われたって嘘を付いたのか聞いていいか」
先ほどまでより雰囲気がぐっと和らいだフォルが尋ねてきた。
「……言わなきゃ駄目?」
「言ってくれないと、俺の中でお前を信用しきれないところはある」
それはそうだろうな、と思いつつも、真実を言ってしまえばスズが受精卵を産めないと教えることになる。
「言っておくが、本当のことさえ言ってくれれば、俺はお前の味方だからな」
まっすぐな瞳でそう言われて、胸がじわりと熱くなった。自分の味方。そう言ってくれる人がいるなんて、なんて凄いことだろう。少し悩んだ末、真実の中にほんの少しだけ嘘を混ぜることにした。
「だからその、受精卵はぶっちゃけて言うと、元々あんまり産めないんだ。体質的に」
あんまりどころが全く産めないのだが。
「でも、シンなら、ちょっと鈍感なところがあるからそれがバレないかなって思ったんだ。フォルは……賢そうだし岩じいに色々話を聞いてそうだから、すぐにバレるだろうなって思って。まあ、結局どちらにせよすぐバレたんだけど」
「ちょっと待ってくれ。じゃあ、受精卵じゃないとバレないようにするためだけに、嘘を付いてシンだけと卵作りすることにしたってのか」
「そうだよ」
「そんなことのためにっ」
悲痛に叫ぶフォルに向かって、ムッと口を尖らせた。
「そんなことって……大事なことだったんだよ。バレたら殺されるかもと思ってたし」
「だって、じゃあ……くそっ」
フォルの悪態に驚いて思わず身を竦ませる。フォルもそれに気付いて「いや、ごめん。別に怒ってるわけじゃないんだ」と首を振った。
「でも、受精卵が産めなきゃ、どちらにしても隣国に売られるぞ。その……産めそうなのか?」
「……」
どことなく疲れた感じのフォルの問いかけに無言で答えた。なにかを察したようで、フォルはそれ以上言うのをやめたようだ。
また暫く無言の時間が続いたが、フォルが突然自分の頭をわしゃわしゃと掻き出した。驚いていると、意を決したようにフォルがこちらを向く。
「あのさ」
「う、うん」
「その、例えばさ、俺が、その」
「うん?」
「だから、その、あれだ。卵を、あれをさ」
「卵?」
「あぁ、えっとぉ、そう。その、卵作りって気持ちいいのか!?」
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