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再会

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 相変わらず直球で物を言う男だ。
 スズはなんと言っていいか分からず、えっと、あの……と口をモゴモゴさせることしか出来ない。
 なんだ「愛しい」って。
 なぜそんなことを言えるんだ。
 散々勝手も言ったし、第一「助けてなんて言ってない」と堂々と嘘までついた。
 それなのに「愛しい」ってなんなんだ。
 意味が分からない。
 顔色ひとつ変えずにスズをここまで運んできて、それでいてスズが突如裏切ってもそのまま、スズと交わって。
 それで、手や、瞳が、やたら熱くて──。

 「うわぁぁぁぁ」
 「どうした」

 スズは居ても立ってもいられず奇声を上げて立ち上がった。
 心配するシンをよそに、ろくに拭いもせずに服を乱暴に着る。そのまま外に出ようとすると、シンが慌てて肩を掴んで止めた。

「どこに行くんだ。俺はなにか変なことを言ったか」
「うるさいっ。気持ち悪いこと言うなっ」

 言ってしまってから、しまったと思ったが後の祭りだ。肩を掴んでいた手が緩んだ隙に、そのまま駆けてその場を去った。
 どこへ行けばいいかなんか分からない。とにかく入り口の方へとひた走る。

 酷いことを言ってしまった。
 顔なんてろくに見られなかったけど、シンはせっかく優しい言葉をくれたのに。なんてことを言ってしまったんだろうか。
 そもそも「愛しい」なんて、小鳥を見て思うそれと同じ感情で言ったのかもしれないのに。こちらが勝手に動揺して暴言を吐いて。向こうからしたらいい迷惑だ。
 そうだ。
 そもそも、シンにとっては『卵を産む』ことが第一で「愛しい」なんて言ったのは、それに対する手段でしかない。
 スズがそうすれば「卵が出来る」なんて言ったから。だから。

「馬鹿みたいだ……」

 気付けば洞窟の入り口まで来ていた。走るのなんて初めてで、全身痛い。でも、一番痛いのは心臓だ。
 自分でも何にこんなに傷付いているのか分からない。むしろ酷いことを言ってシンを傷つけたのは自分なのに。
 スズは適当な岩に寄りかかって深い溜息をついた。

「せっかく外に出られたのに、なんでそんな浮かないお顔なんですか」
 
 そっと目を閉じて思考の渦に入り込もうとしたころで、突然、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ユーイッ」

 慌てて振り返ると、スズが寄りかかった岩の上にキジバトのユーイがちょこんと止まっているではないか。

「まさかここで会えるなんてっ」

 驚愕と喜びがいっきに押し寄せ、知らず知らず声が弾む。ユーイは得意そうにチュンと鳴いて答えた。

「あなたがあの地下室から出てから密かにつけてましたよ。気付かないなんて、抜けてますね」
「相変わらず口が悪いな。でも会えて嬉しいよ。それに、なんかこんなに近くでお前と話せるなんてなぁ」

 ユーイがスズの元に訪ねるときは、いつでも飛び立てるように格子に止まっていたので、こんなに至近距離でユーイの顔を見たのは初めてだった。改めて見るとなかなか可愛い顔をしている。ユーイにそれを言うと「当然です」と返された。
 いつも通りのユーイの態度が、なんだかとても心が休まる。

「私も近くで見られて喜ばしいですよ。あなたは思ったより更に綺麗ですね」

 そんな事言われたことない、と思ったがシンにも同じように言われたのを思い出した。なんだか急に容姿を褒められてムズムズする。もしかして地下室を出たときに、姿形も変わってしまったのかもしれないとさえ思ってしまう。
 なんと言っていいか分からず俯いていると、それで……とユーイが切り出した。

「いつまでここにいるつもりです?」
「どういうこと?」
「おや。ずっとここにいるおつもりで? 卵はまた無精卵だったのでしょう」

 なにもかもお見通しらしい。スズは嬉しい気分がどんどん萎んでいくのを感じながら、気のない返事をした。

「まあね」
「なら、あなたは殺されるか他国に売り渡されるかのどちらかでしょう。隙をみて、逃げ出すのがよろしいかと。なんでしたら、お手伝いしますよ」
「お前が? その小さな体で?」

 笑ったがユーイは笑わなかった。
 誤魔化せる雰囲気でもなく、スズは暫く考えて首を振る。

「──まだ、いいや」
「そうですか。早めがよろしいかと思いますけどね」
「でもさ……」

 言葉を続けようとした刹那、ユーイが突如大きな羽音を立て飛び立った。驚いて抗議の声を上げようとしたが、ハッと気付き洞窟の方を振り返る。すると、入り口にフォルが立ってじっとこちらを見ていた。
 しまった。見張りがいないわけないのに。ユーイに会えたことが嬉しくて、まわりを全く気にしていなかった。
 ずっと聞かれていたんだろうか。
 スズがなにも言えないでいると、フォルがゆっくりとこちらに近づいてきた。

 
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