クロスな関係。

かのん

文字の大きさ
上 下
8 / 21

近いのに、遠い……②

しおりを挟む

「未亜、こっちよ!」



「お母さん、今日は仕事早く終わったんだね。」



「本当はまだ仕事あったんだけどね…あ、お父さんこっち!」



「おお、今日はみんな早いな。逆にいつも早い美月が遅いのか。」



お父さんもお母さんも学者でずっと研究ばかり…
小さい頃はそれが寂しくて寂しくて…でもお姉ちゃんがそばにいてくれたから、その寂しさを紛らわせてくれた。



「今日はお前も来るのが早いじゃないか。」



「本当はまだやらないといけないことあったんだけど…美月がどうしても今日は遅刻しないでって言うから。」



お姉ちゃんが予約していたお店はフレンチレストランで個室をとっていたようで案内された。




「すごい…こんなお店初めて。」



「ねぇ、あなた、これって…」



「そうだな…そうかもしれない。」



「お母さん?お父さん?」



「ふふ、未亜にはまだわからないかもしれないわね。」



「?」




「美月は誰かを俺たち家族に紹介したいんじゃないか?」



「え!?だってお姉ちゃんそんなこと一言も…」



「遅れてごめんなさい。」



「あ、お姉ちゃん……」



「お父さんもお母さんも、そして未亜も今日は来てくれてありがとう。」



椅子に座っている私たちの顔を一人ひとりじっくりと見つめながら、お姉ちゃんはゆっくりと話す。



「私ね…結婚することにしたの。」




「ほらね。」とお母さんが耳元で囁いてきた。
お父さんとお母さんの勘は当たっていた。
お姉ちゃんが一人暮らしをするようになってからは
実家によく来るとはいえ、さらにお姉ちゃんがどんな生活をしているかなんてわからなかったら、彼氏ができたっておかしくない話だ。



「未亜は驚くと思うけど…」



「え…?」



私はこの時のお姉ちゃんの言葉のあとの出来事は
全部スローモーションにしか見えていなかった。



嬉しそうに、幸せそうに笑っているお姉ちゃんの横に立っていたのは
知っているはずの人なのに
全く知らない人にみえた。



「五ヶ瀬礼人さん。未亜が通っていた高校で教師をしているんだよ。」



知ってる、知っているよ。
だって私の大好きな人だもん。
もう先生と生徒の関係ではなくなったのにーー



「婚約したの、私たち。」



今日の昼間の仕返しなのだろうか。
先生と生徒の時は約束された未来があって
必ず顔を合わせれた、あの時は幸せだったと思ってしまったからなのだろうか。



まさか、これから義兄としての未来が待っているなんて……




礼人さんの驚いた丸い目が忘れられない。
もし、今日ここで会わなかったら、
一週間後あの場所に来たのだろうか?
今まで……どんな思いで私に触れていたのだろうか?



お姉ちゃんが何か話しているけど
私の耳には何も入ってこない。
でもお父さんもお母さんもお姉ちゃんも嬉しそうな顔をしている。



「未亜?驚いちゃった?」



「……え?うん……」



驚いたし…ここにはもういたくない。
お姉ちゃんの幸せそうな声も顔も見れないし
礼人さんがお姉ちゃんの隣にいるのも…耐えられない。



「私…ちょっとお手洗いに。」



「やだ、ごめんなさいね、この子ったら…礼人さん、座ってください。」



「あ、ごめん…」



急に立ち上がった私の肩が礼人さんの腕にぶつかった。
ぶつかったといってもほんの少し触れただけ
触れるか触れないか程度で謝るほどじゃない。
だからこそ、この「ごめん」がどういう意味なのか……



「あ、未亜!ごめんね、礼人。」



「大丈夫。」



「きっと美月が結婚するから寂しいんじゃないかしら。あの子昔からお姉ちゃん子だったから。」



「そうだな、私達がいつも忙しかったから、未亜は美月にベッタリだったからな。さ、座って座って。」




これから私はどんな顔をして礼人さんと会えばいいんだろう。



「何で…どうしてっ……」



「何で」「どうして」
礼人さんに会ったら、出てくる言葉はこれら以外の言葉はない。



何で私にあんなことしたの?
どうして私を抱いてくれないの?




それはお姉ちゃんと結婚するためだったの…?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

シチュボ(女性向け)

身喰らう白蛇
恋愛
自発さえしなければ好きに使用してください。 アドリブ、改変、なんでもOKです。 他人を害することだけはお止め下さい。 使用報告は無しで商用でも練習でもなんでもOKです。 Twitterやコメント欄等にリアクションあるとむせながら喜びます✌︎︎(´ °∀︎°`)✌︎︎ゲホゴホ

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

男性向け(女声)シチュエーションボイス台本

しましまのしっぽ
恋愛
男性向け(女声)シチュエーションボイス台本です。 関西弁彼女の台本を標準語に変えたものもあります。ご了承ください ご自由にお使いください。 イラストはノーコピーライトガールさんからお借りしました

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...