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その後の話
誠二の想い人②
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「何それ……意味わかんない。誠二の考えていることがわかんない!」
「それは俺もだよ。」
「え……?」
「俺は……体の自由よりココロの自由がずっと欲しかった。だから円花が怒っている意味がわかんない。」
「だって……もういい!!」
いつも家に帰れば電灯がついていてご飯を食べる仲だけど
それ以上でもなければそれ以下でもなくて
傷を舐めあっているような関係に見えるけど
傷さえ舐めあっていない。
だって私たちはお互いのこと
本当に何も知らないから。
傷を舐めることさえできない関係だった。
だけどその居心地がいい空間が
誠二が――いなくなったら寂しいよ。
誠二は何とも思っていなかったのが悔しかったんだよ。
「円花……」
「誠二……さっきは私っ…」
「本当は俺怖いよ、死ぬの。」
「え?」
「だけど大人の男がそんなこと言うのかっこ悪いしさ。」
「何言ってるの?死ぬって決まったわけじゃない。先生からも説明あったでしょ?」
「……円花の旦那さんのことも聞いた。」
「呼吸器をつければっ……」
「俺はつけない。」
「どうして……死ぬの怖いならつければいいじゃない。子供にだって会うべきよ!どうして皆つけてくれないのっ……」
「円花…それは円花が好きだからだよ。負担になりたくないからだよ。」
「それでも、そばにいてくれれば私はそれでっ……」
「俺円花の旦那さんの気持ちよくわかるよ。自分の介護だけで迷惑かけたくない。しかもいざっていうときに男として何も守ってやれないのが嫌だったんだと思う。こんな風に泣いている円花の涙をぬぐうことも手を握り締めることもできなく自分が辛かったんだと思う。」
「誠二……」
自分の手にそっと置かれた誠二の手は遥人と違って少しひんやりとして冷たいけど気持ちがよかった。
居心地がよかった私たちの生活が少しずつ狂っていく。
お互い人のぬくもりをただ感じるだけでよかった。
何も話さなくていい、ただ寂しさを埋めてくれればそれでいい。
一緒にいてほしいと願う人はお互いに側にいてくれないから
心の隙間を埋めることができるこの距離感がよかったのに
誠二の病気をきっかけに私たちはお互いの入ってはいけない領域に入っていく。
その分居心地は悪くなったけど
お互いの本音が見えて人間らしく感じた。
今までの私たちはロボットのようだったのかもしれない。
「俺、施設に行くよ。」
「え?」
「円花にも迷惑かけれないから。」
誠二が施設に行ったら、きっとこれが最後だと思った。
誠二は施設に行ったら二度と帰って来ない。
そのまま、一生を終える気だ。
誠二が心から思っている人や子供にも会わないまま……
私がしてあげれることって何だろう…?
遥人から学んだことは何だろう…?
介護の仕方ならわかってる、わかっているけど、そんなこと誠二は望んでなんかいない。
私は遥人に生きてほしいって伝えたかった。
たとえ遥人がそれでも呼吸器は嫌だという返事がきたとしても
自分の気持ちを伝えたかった。
遥人が生きているだけで私は幸せなんだってこと
もっと、もっと、伝えていたら
遥人の考えは変わったかもしれない。
「誠二…?寝たの?」
あれから誠二と何度も話し合ったけど
施設に行くと言ってきかない。
だからせめて施設に行くまでは私が家で面倒を見るといった。
無理矢理でも何とか説得したい。
誠二も、誠二が思っている人や子供にも
私のような後悔はさせたくない。
日本へ―ー会わせてあげたい。
“パサッ……”
誠二の膝からスケッチブックが落ちた。
年季がはいっているスケッチブック。
そういえば私は一度も中身を見たことがない。
「誠二ッ……」
落ちた時に開いたページを見ると
そこには何度も何度も消して書いたあとがあって
それでもまっすぐ線が引けなくて
ぐちゃぐちゃだけど――
笑顔の女性がそこにいた。
「み…お…さん?」
文字を習いたての子供が書いたような文字だけど
女性の隣に「みお」と書かれている。
パラパラとめくると女性の色んな表情が描かれていた。
泣いている姿、考えている姿、笑っている姿、寝ている姿……
もう10年会っていないはずなのに
こんなにもハッキリと写真もナシに描けるものなのだろうか。
「これ……」
美緒さんだけでなく、顔はないけど小さい男の子も描かれているページもあった。
顔はなくてもわかる、きっと誠二と美緒さんの子供だ。
まるで写真のアルバムを見ているみたいに
スケッチブックを遡れば
最初は美緒さんが妊娠していて、
子供を抱っこしている絵、ご飯を食べさせている絵、よちよち歩きの子供と歩いている絵など
子供の成長記録の絵もスケッチブックにはたくさん描かれていて
誠二の2人への愛の大きさが伝わって涙止まらなかった。
「それは俺もだよ。」
「え……?」
「俺は……体の自由よりココロの自由がずっと欲しかった。だから円花が怒っている意味がわかんない。」
「だって……もういい!!」
いつも家に帰れば電灯がついていてご飯を食べる仲だけど
それ以上でもなければそれ以下でもなくて
傷を舐めあっているような関係に見えるけど
傷さえ舐めあっていない。
だって私たちはお互いのこと
本当に何も知らないから。
傷を舐めることさえできない関係だった。
だけどその居心地がいい空間が
誠二が――いなくなったら寂しいよ。
誠二は何とも思っていなかったのが悔しかったんだよ。
「円花……」
「誠二……さっきは私っ…」
「本当は俺怖いよ、死ぬの。」
「え?」
「だけど大人の男がそんなこと言うのかっこ悪いしさ。」
「何言ってるの?死ぬって決まったわけじゃない。先生からも説明あったでしょ?」
「……円花の旦那さんのことも聞いた。」
「呼吸器をつければっ……」
「俺はつけない。」
「どうして……死ぬの怖いならつければいいじゃない。子供にだって会うべきよ!どうして皆つけてくれないのっ……」
「円花…それは円花が好きだからだよ。負担になりたくないからだよ。」
「それでも、そばにいてくれれば私はそれでっ……」
「俺円花の旦那さんの気持ちよくわかるよ。自分の介護だけで迷惑かけたくない。しかもいざっていうときに男として何も守ってやれないのが嫌だったんだと思う。こんな風に泣いている円花の涙をぬぐうことも手を握り締めることもできなく自分が辛かったんだと思う。」
「誠二……」
自分の手にそっと置かれた誠二の手は遥人と違って少しひんやりとして冷たいけど気持ちがよかった。
居心地がよかった私たちの生活が少しずつ狂っていく。
お互い人のぬくもりをただ感じるだけでよかった。
何も話さなくていい、ただ寂しさを埋めてくれればそれでいい。
一緒にいてほしいと願う人はお互いに側にいてくれないから
心の隙間を埋めることができるこの距離感がよかったのに
誠二の病気をきっかけに私たちはお互いの入ってはいけない領域に入っていく。
その分居心地は悪くなったけど
お互いの本音が見えて人間らしく感じた。
今までの私たちはロボットのようだったのかもしれない。
「俺、施設に行くよ。」
「え?」
「円花にも迷惑かけれないから。」
誠二が施設に行ったら、きっとこれが最後だと思った。
誠二は施設に行ったら二度と帰って来ない。
そのまま、一生を終える気だ。
誠二が心から思っている人や子供にも会わないまま……
私がしてあげれることって何だろう…?
遥人から学んだことは何だろう…?
介護の仕方ならわかってる、わかっているけど、そんなこと誠二は望んでなんかいない。
私は遥人に生きてほしいって伝えたかった。
たとえ遥人がそれでも呼吸器は嫌だという返事がきたとしても
自分の気持ちを伝えたかった。
遥人が生きているだけで私は幸せなんだってこと
もっと、もっと、伝えていたら
遥人の考えは変わったかもしれない。
「誠二…?寝たの?」
あれから誠二と何度も話し合ったけど
施設に行くと言ってきかない。
だからせめて施設に行くまでは私が家で面倒を見るといった。
無理矢理でも何とか説得したい。
誠二も、誠二が思っている人や子供にも
私のような後悔はさせたくない。
日本へ―ー会わせてあげたい。
“パサッ……”
誠二の膝からスケッチブックが落ちた。
年季がはいっているスケッチブック。
そういえば私は一度も中身を見たことがない。
「誠二ッ……」
落ちた時に開いたページを見ると
そこには何度も何度も消して書いたあとがあって
それでもまっすぐ線が引けなくて
ぐちゃぐちゃだけど――
笑顔の女性がそこにいた。
「み…お…さん?」
文字を習いたての子供が書いたような文字だけど
女性の隣に「みお」と書かれている。
パラパラとめくると女性の色んな表情が描かれていた。
泣いている姿、考えている姿、笑っている姿、寝ている姿……
もう10年会っていないはずなのに
こんなにもハッキリと写真もナシに描けるものなのだろうか。
「これ……」
美緒さんだけでなく、顔はないけど小さい男の子も描かれているページもあった。
顔はなくてもわかる、きっと誠二と美緒さんの子供だ。
まるで写真のアルバムを見ているみたいに
スケッチブックを遡れば
最初は美緒さんが妊娠していて、
子供を抱っこしている絵、ご飯を食べさせている絵、よちよち歩きの子供と歩いている絵など
子供の成長記録の絵もスケッチブックにはたくさん描かれていて
誠二の2人への愛の大きさが伝わって涙止まらなかった。
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