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スケッチブックの秘密。
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「誠二!!!」
「誠一さん……」
「誠二は…?」
大きな個室にいるのは
私と円花さんと、いつも永一を診てくださるお医者様と
ベッドで眠る誠二さん
そこに誠一さんとお義母さまが飛び込んできた。
「出血も抑えられたし大丈夫だよ。」
お医者さまの一言で円花さん以外のみんながホッと胸をなでおろした。
「峰行さん、本当に誠二は大丈夫なの!?」
「慶子さん、今日の傷は大丈夫だよ。」
このとき、お医者さまがそっとお義母様の肩に手をおいて支えている姿をみてすぐわかった。
誠二さんの父親はきっと峰行さんだ。
思えばずっとこの家の専属のお医者様は峰行さんだから――
「今日の傷は大したことないんだ。ただ――」
「峰行さん…?」
「誠二君は――」
「ここから先は私が説明してもいいですか?」
「え?いや、しかし――」
「私は誠二の専属看護師なので。」
「専属看護師…?どういうことなの?あなた誠二の婚約者じゃないの?」
「お義母さん、ごめんなさい。私は婚約者ではありません。」
「え……?じゃあ……専属看護師って…どこか悪いの誠二は?」
「本当は口止めされていました。でももう限界だと思います。誠二も私も、そして美緒さんも――」
「美緒さんもってどういうこと…?」
「誠二さん……きっと…っ」
「美緒さん……スケッチブック見たんですね。」
コクリと頷いて誠二さんのスケッチブックを誠二さんとお義母さまにも見せた。
最初はペラペラと不思議そうにめくっていたけど
あるページで手が止まった。
「これは……」
最初のページはプロではないかというぐらい上手に描写されていたのが
少しづつ荒くなってきて
小学生から幼稚園、最後は1歳児が描くようなレベルの絵になっていた。
「少しづつ右手の動かなくなってきています。まだ初期の症状とはいえ日によってつらいようです。もう絵が描けない、だから部屋にあった絵を捨てたんです。あの頃にはもう戻れないから…」
「誠二は…ALSなんだよ、母さん」
「ALSって、筋肉が少しづつ動けなくなる」
「そうです……最近は日本でもこの病気は知られるようになったみたいですね。」
「誠二を…助ける方法はないの?」
「これからどんどん手足の筋肉は動かなくなります。そして呼吸が…自分でできなくなります。」
「そんな……」
「呼吸器をつければ長く生きれるかもしれない。だけどきっと誠二君は…」
「はい、拒否しています。」
「どうして誠二は拒否しているの!?お金ならあるわ!!」
「お金の問題じゃありません!!!」
いつも笑顔の円花さんが怒りいっぱいの声を荒げて
周りにいた私たちは驚いたけど
円花さんの気持ちわかる…これはお金の問題じゃない。
「小さいころからほったらかしでしたよね?誠二から聞きました…初恋の人はお兄さんと結婚して自殺、二番目に好きなった人とは跡取りのために……でも好きになっちゃって、子供と美緒さんの幸せを願っているから会えないって…ずっと一人で我慢していたんです。」
誠二さん…あなたはいつもそうだよね。
自分を犠牲にしてまで私や永一の幸せを願ってくれている。
私は置いて行かれたのかもと思ったこともあったのに――
本当にごめんなさい。
「呼吸器をつけたら、介護の負担が増えます。誠二は、私でさえ介護されるのを嫌がっていました。だけど日本に帰りたいっていうので無理やり今回ついてきたんです。婚約者と名乗って――」
「誠二さん……」
今はよく眠っている誠二さんの顔を見れるだけでも幸せなんだと実感する。
いつまでこの顔をみることができるの…?
「あとは美緒さんです。」
「私…?」
「病気を公にしたら美緒さんは誠二の介護をするっていうかもしれないって…美緒さんは誠一さんと家庭があるし、子供もいるから負担になりたくないし、自分と同じ経験をさせたくないって……」
「同じ経験って…?」
「愛する人を亡くす経験です。愛する人を亡くした悲しみを抱えて生きるのはつらい時もたくさんあります。私も……パートナーをASLで亡くしました。」
「円花さんが……」
「誠二は呼吸器をつけることを望んでいません。誠二は最後に美緒さんと子供に会ったら、自分を諦めるようにしてアメリカへまた帰る予定でした。だけど――」
「私がいけないの…私がっ――」
「慶子さん…?」
「誠一さん……」
「誠二は…?」
大きな個室にいるのは
私と円花さんと、いつも永一を診てくださるお医者様と
ベッドで眠る誠二さん
そこに誠一さんとお義母さまが飛び込んできた。
「出血も抑えられたし大丈夫だよ。」
お医者さまの一言で円花さん以外のみんながホッと胸をなでおろした。
「峰行さん、本当に誠二は大丈夫なの!?」
「慶子さん、今日の傷は大丈夫だよ。」
このとき、お医者さまがそっとお義母様の肩に手をおいて支えている姿をみてすぐわかった。
誠二さんの父親はきっと峰行さんだ。
思えばずっとこの家の専属のお医者様は峰行さんだから――
「今日の傷は大したことないんだ。ただ――」
「峰行さん…?」
「誠二君は――」
「ここから先は私が説明してもいいですか?」
「え?いや、しかし――」
「私は誠二の専属看護師なので。」
「専属看護師…?どういうことなの?あなた誠二の婚約者じゃないの?」
「お義母さん、ごめんなさい。私は婚約者ではありません。」
「え……?じゃあ……専属看護師って…どこか悪いの誠二は?」
「本当は口止めされていました。でももう限界だと思います。誠二も私も、そして美緒さんも――」
「美緒さんもってどういうこと…?」
「誠二さん……きっと…っ」
「美緒さん……スケッチブック見たんですね。」
コクリと頷いて誠二さんのスケッチブックを誠二さんとお義母さまにも見せた。
最初はペラペラと不思議そうにめくっていたけど
あるページで手が止まった。
「これは……」
最初のページはプロではないかというぐらい上手に描写されていたのが
少しづつ荒くなってきて
小学生から幼稚園、最後は1歳児が描くようなレベルの絵になっていた。
「少しづつ右手の動かなくなってきています。まだ初期の症状とはいえ日によってつらいようです。もう絵が描けない、だから部屋にあった絵を捨てたんです。あの頃にはもう戻れないから…」
「誠二は…ALSなんだよ、母さん」
「ALSって、筋肉が少しづつ動けなくなる」
「そうです……最近は日本でもこの病気は知られるようになったみたいですね。」
「誠二を…助ける方法はないの?」
「これからどんどん手足の筋肉は動かなくなります。そして呼吸が…自分でできなくなります。」
「そんな……」
「呼吸器をつければ長く生きれるかもしれない。だけどきっと誠二君は…」
「はい、拒否しています。」
「どうして誠二は拒否しているの!?お金ならあるわ!!」
「お金の問題じゃありません!!!」
いつも笑顔の円花さんが怒りいっぱいの声を荒げて
周りにいた私たちは驚いたけど
円花さんの気持ちわかる…これはお金の問題じゃない。
「小さいころからほったらかしでしたよね?誠二から聞きました…初恋の人はお兄さんと結婚して自殺、二番目に好きなった人とは跡取りのために……でも好きになっちゃって、子供と美緒さんの幸せを願っているから会えないって…ずっと一人で我慢していたんです。」
誠二さん…あなたはいつもそうだよね。
自分を犠牲にしてまで私や永一の幸せを願ってくれている。
私は置いて行かれたのかもと思ったこともあったのに――
本当にごめんなさい。
「呼吸器をつけたら、介護の負担が増えます。誠二は、私でさえ介護されるのを嫌がっていました。だけど日本に帰りたいっていうので無理やり今回ついてきたんです。婚約者と名乗って――」
「誠二さん……」
今はよく眠っている誠二さんの顔を見れるだけでも幸せなんだと実感する。
いつまでこの顔をみることができるの…?
「あとは美緒さんです。」
「私…?」
「病気を公にしたら美緒さんは誠二の介護をするっていうかもしれないって…美緒さんは誠一さんと家庭があるし、子供もいるから負担になりたくないし、自分と同じ経験をさせたくないって……」
「同じ経験って…?」
「愛する人を亡くす経験です。愛する人を亡くした悲しみを抱えて生きるのはつらい時もたくさんあります。私も……パートナーをASLで亡くしました。」
「円花さんが……」
「誠二は呼吸器をつけることを望んでいません。誠二は最後に美緒さんと子供に会ったら、自分を諦めるようにしてアメリカへまた帰る予定でした。だけど――」
「私がいけないの…私がっ――」
「慶子さん…?」
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