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誠一の嘘。③

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「はっ…!」



目を開けるともう外は暗くなっていてお客もいなくなっていた。
気持ちが良すぎてこんなにも寝てしまうなんて…自分でも驚いた。
外というのもあって少し寒かった。



「あのこれよかったら…」



「え?」



このとき美緒が入れてくれたカフェオレが俺は今でも世界で一番おいしいと思う。



「これ…」



「あ、寒いと思ったので勝手にかけてしまいました。すいません。」



美緒のパーカーなのだろう。
俺の肩幅には小さすぎて肩は冷えていたんだけど
その優しさで心から温かくなった。



「ありがとう、あとこのカフェオレもすごく美味しいよ。」



そういうと美緒が頬を赤くして照れ笑いしている姿が可愛くて
美緒が俺のことを意識していることを知った。



美緒を手に入れたい。
そう思ったら本屋に何度も通って
偶然を装って美緒に近づきたかった。



美緒は……思ったとおり恋愛になれていなくて
優しく接すれば嬉しがり微笑んでくれた。
家に帰れば美緒の優しい笑顔と声が聞ける。
そう思ったら毎日家に帰りたくて、毎日美緒を抱きたかった。
子供のことはその次なはずだったのに――



だけど中々子供ができなくて。
美緒だって子供を欲しがっているし若いからきっと大丈夫。
子供はすぐできる……そう思っていたのが間違いだった。



まさか俺に原因があるなんて――
紗英の時だって俺が原因だったのもあるんだろう。。。



『誠一さん、お帰りなさい。』



『ただいま……』



この事実をどう伝えるべきなのか?
精子がないだなんて……
子供はできないだなんて。



『誠二さん、はいどうぞ。』



疲れていると思ったのかそっと温かいカフェオレを出してくれる。
5年ずっとそばにいて俺を包み込んでくれる美緒を
大切な人を今度こそは失いたくない。



美緒を失わないようにはどうすればいい…?
俺ではもう子供を作るのは絶望的だから――
俺……そうだ。
誠二がいる。
双子だし血液型も同じだから誠二に俺の代わりをしてもらうんだ。



紗英は、子供ができなくて苦しんでいった。
だからこそ、今度こそは子供のことで大切な人を失いたくない。




美緒はきっと俺の言うことを聞いてくれる。
素直で優しい美緒だから――
美緒のため、俺のため、会社のためだと思ったらきっとやり遂げてくれる。



だけど一つ予想していなかったことは
誠二に……思いを寄せてしまったこと。



俺は――
子供を早く作ってもらいなくて5日間だけと自分に言い聞かせて家を出た。
美緒だってあれだけ嫌がっていたし
俺が家にいたらやりにくいだろうからと気を利かせたつもりだった。
だけどそれが間違いで……二人の距離を縮めてしまった。



優しいからこそ
美緒は誠二に惹かれていってしまったんだ。



かなり遅くなったけど俺はそこで気づいたんだ。
子供ができたら美緒はこの家を
誠二と出ていくんじゃないかって――




そうならないために、やらなければならないことはただ一つ。


























美緒の優しさに漬け込むこと。




「美緒、おはよう。」



「誠……一…さん?」



「よく寝れた?今日はお休みだから一緒にどこか出かけよう。」



「あ、あの……っ」



「あぁ、誠二ならもうこの家にはいないよ。」



「え…?」



「アメリカに帰ったよ。」



「アメリカって……子供は…?」



「今回の子供ができなかったら、ハネムーンにそういえば行っていないから行くついでに先進の治療を受けてみようかと思って。一度だけなら治療もできそうだから。」



「そんなっ……それじゃ誠二さんがあまりにも可哀想です!」



「美緒は……自分が可哀想だとは思わないんだね。」



「え…?」



「誠二は……これで満足していると思うよ。」



「どういう…ことですか?」



「こっち来て。」



久しぶりに見た美緒の裸は
自分以外の男に抱かれたようなカラダには見えなくて
真っ白い透き通った肌はすぐ触れたいぐらいだ。



「ここは誠二さんの……」



「うん。誠二の部屋だよ。」



誠二には美緒はやらない。
今まで縛られて色んなものを捨ててきた俺の人生
美緒だけは……もう誰にもやらないんだ。



「この絵見たことある?」



「いえ……ないです。」



俺は紗英が死んだあとにみたことがあるんだ。
そこでアイツの思いを知った。
紗英のことずっと好きだったと――



「これ……わ…たし?」



白い布をめくると出てきたのは年を取らない紗英
美しいあの時のまま――



「美緒じゃない。紗英は右肩にほくろがあるけど美緒にはない。」



「あ……」



「俺も驚いたよ。紗英に似た人がいたんだから。」



そう、親父はわざと美緒と俺を会わせたくてあのカフェに行かせたんだ。
紗英にそっくりだからと――



「誠二も紗英のことが好きだったから驚いたと思うし嬉しかったと思う。美緒を抱けたこと。」



「え…?どういう意味ですか?」



「誠二だって最初は美緒とこんなことすることためらっていたんだ。だけど美緒の写真を見せた瞬間返事が変わった。まだ紗英のことが好きだったなんて思ってもなかったよ。」



「誠二さんが……まだ紗英さんのことを?」



「もう満足したから帰るって……気まぐれな弟ですまない。」



「満足って……じゃああの涙は……何だったの?」



「美緒……」



「誠一さん、やめて!私、誠一さんに抱きしめられてはいけないんです……」



「美緒…?」



「だって…だって私誠一さんのことが好きなはずなのに、誠二さんのを欲しがったり、誠二さんの名前もたくさん呼んで……っ」



「美緒…君が誠二に惹かれるのも仕方ない。俺たちは双子なんだから。でも俺たちには5年間ともに過ごしてきて愛を育んできたじゃないか。そしてこれからも俺は君のそばにいるから。」



「誠一さん……」



「美緒の誠二への思いは一時的なもので同情みたいなもので愛情ではないよ。」



素直な美緒は俺の言うことを聞いてくれた。
もう誠二が美緒の前に現れることはない。
だから、これでいい。
これで大丈夫なんだって思っていた。




『俺は俺だって教えてくれた。だから美緒は紗英ではなくて美緒だ。美緒を……愛しているんだ。』




誠二の言葉を心に閉じ込めて10年過ごしてきたのに
誠二は俺たちの前に現れた。














一人の女性と大きな“秘密”を抱えて――
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