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彼とねこ。②

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鍵は預かっていたので、先に部屋に入ることにした。
外観も内観も古びたアパートで
階段をあがると、カンカンと音が響いた。
手すりは錆びているけど、この感じ私は嫌いじゃない。
今まで、たくさんの人がこの手すりを使ったのかなとか
そういうのを考えるのが、私は好きだから。


「お邪魔します」


誰もいないと分かっていながらも
礼儀として挨拶をしてみた。
6畳一間の部屋で、大きな家具は小さいちゃぶ台、冷蔵庫、電子レンジと布団しかない。


物がないからなのか、部屋は片付いていて
ゴミもきちんとまとめられている。


「お待たせ、何もなくて驚いたでしょ」


「いえ、ただ男の人の部屋って、勝手なイメージですけど、もっと散らかっていると思ってたので」


「あまりごちゃごちゃしたのが好きじゃなくて」


「男の人の部屋というか……人の家にお邪魔したことがないので、すごく緊張しています」


「いや、でも、友達の家とかいかない?」


「私、鈍くさくて……イライラさせちゃうんです、相手を。だから友達ができなくて」


「ふ~ん。僕は、君のことを鈍くさいなんて思わないな」


「え?」



「それいったら、僕のほうが鈍くさいよ。だって、あんなに一直線に、助けに行っていたし」


「……この子、私みたいだなって思って」


「子ねこが君に?」


「どうすればいいのか分からなくて、ウロウロするしかできなくて…でも自分なりにどうにかしたいのにできない感じが似ていて」


「たしかに、今まではそうだったかもしれない。だけど――」


「だけど?」


「君が今まで生きてきた世界以外にも世界はあるんだよ」


「別の…世界?」


「子ねこにとっては、君が、別の世界に連れ出したんだよ」


彼がそういって、右手では私の頭を、左手では子ねこの頭を撫でてくれて、涙が止まらなくなった。


「ごめんなさいっ……」


「ごめん!僕なんか失礼なことを」


「違います!逆です!嬉しくて…嬉し涙です」



「あの…質問してもいいですか?」


「どうぞ」


「その…ヘルメット外さないんですか?」


実は、彼は部屋に帰って来てからも
ヘルメットを外さずに私と話をしていたのだ。
普通に外すだろうと思っていたけど
あまりにも外さないことに、さすがに違和感を感じた。


「えっと…これは顔に、傷があって、人前で見せたくないというか。きっと君は気にしないんだろうけど、ちょっと」


「そうなんですね。ただ呼吸しずらいんじゃないかなって思って」


「呼吸は大丈夫なんだけど、こんなん怖いよねwじゃあ、マスクするから、あっち向いててもらってもいい?」


「分かりました」


後ろを向くとヘルメットを外す音が聞こえて
頭を振って髪の毛がバサバサとぶつかる音も聞こえてきた。


「お待たせ」


「え!あ、ごめんなさい、驚いちゃって」


振り向いたら、マスク姿だけでなく
黒いサングラスもしていて
怪しさ満点の顔になっていた。


「サングラスはどうして?」


「えっと…目にも傷があって」


「なるほど…あ、子ねこちゃん起きたみたいです」


「そういえば名前」


「そうですね、名前決めてないですね」


「それもだけど、僕たちお互いの名前、聞いてなかったよね?」


「そういえば、そうですねw私の名前は結花です。大学2年です」


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