最後の恋人。

かのん

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伝えたい言葉②

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この時、初めて母親の笑顔を見た。
俺はずっと怒った顔の母親しか知らなかったから……。
笑ったら…こんなにも綺麗なんだ。
不細工って自分で言っていたけど
心から笑っている笑顔に
不細工なんてない。
不細工だと思っている人は
あまりの眩しい笑顔に嫉妬している人だ。



母親はそれから一緒に暮らしている男と別れて
雅さんに仕事を紹介してもらって働いている。
まだ精神的に不安定になることもあるけど
できるだけ規則正しい生活を送って
仕事仲間の人たちと楽しそうにしていると雅さんから聞いた。


母親がミサキや俺にしたことは憎んでいるけど
でも“憎しみ”はいつか“愛”に変わるんじゃないかって思っている。
おれが美咲さんに対しての思いのように……。



「智樹さん、ご無沙汰しています。」


美咲さんのことをずっと想っている人。
この人に俺は…正直かなわないと思う。
どんな美咲さんも受け入れて思って傍にい続けている人だから。


「体調、あれから大丈夫になった?」


「はい。あの時はすいません、ご迷惑をおかけして……。」


「いや全然。それで今日はどうしたの?」


「美咲さんのことで智樹さんに会いにきました。」


「美咲は、まだ帰ってきていないよ。」


「この街にはもういないんでしょうね。」


「そうだろうな…いたらすぐわかるもんな。」


「でも俺、知っているんです。」


「え?」



「智樹さんは、美咲さんと連絡をとりあっていますよね?」


「え……?」


「俺、智樹さんとは比べ物にならないけど、それでも自分なりに美咲さんをずっと見てきました。美咲さんは智樹さんに絶対頼ってくるはずです。美咲さんにとっても智樹さんは特別だから……。」


「特別…か……。」


「何か知っていることがあったら教えてください。お願いします!」


「ちょっと、葵君…!」


土下座をしている俺に驚いて智樹がオドオドし始めた。
額を土につけて土下座するなんて一生ないと思っていたけど
自分のプライドより大事なものができたら
そんなことなんてどうでもいいんだな……。


「葵君……ごめん。残念だけど俺は居場所は知らないよ。これは本当。ただ……。」



「ただ…?」


「美咲から預かっているものがあるんだ。葵君が来たら渡してほしいって、手紙がこの間届いた。」


“葵君は、いつも精神的に不安定だった。だからこそ、智樹から見て、今の葵君ならどんな事実も受け入れられると思える人になっていたら…その時は、これを渡してほしい。”


そんな手紙が智樹の元に届いていた。
初めて葵君に会ったときは
美咲とある意味似ている瞳をしていた。
生きていてもいいことないって…そんな瞳。
でも、今は、イキイキしている瞳をしている。


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