最後の恋人。

かのん

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偽同棲③

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「あっ……」



飲み物が入っていたコップを美咲さんが手を滑らせて床に牛乳をぶちまけてしまう。


「ごめん、葵君…」



「大丈夫ですから。それより服がーー」



「あ、大丈夫だよ。」



「シャワー浴びてきてください。その服は洗濯して乾燥しますから。」



もう少しだけ、



もう少しだけ一緒にいたくて



コップは割れたのにラッキーだと思う自分が何だか情けない。



「いや、でもこれぐらいーー」



断る美咲さんの背中を半ば無理やり浴室に押しながらお風呂に入らせた。



割れたコップの破片を拾いながら美咲さんのシャワーの音が聞こえてくる。



シャワーの音が聞こえてきたらなぜだか動揺してしまってーー



「痛ッーー」



破片で指を切って溢れた牛乳の上に血がポタポタと落ちる。



思春期の中学生じゃないんだから



ただのシャワー音で動揺って……



ミサキとはずっと一つ屋根の下で暮らしてきたのに……


お風呂はいってくるって言われても


シャワーの音を聞いても何も思わなかったのに。。。


ミサキの綺麗なココロに惹かれてずっと守ってあげたいって思っていた。


特にミサキが外見のことで傷つく姿は自分が傷ついているように見えて


ミサキを守ることで俺を守りたかったんだ。


一緒にいて楽しかったし思い出もたくさんあるけどーー


今思えばミサキに対する思いは“恋”と呼べるものだったのだろうか?


美咲さんみたいに触れたくなったり、胸がこんなにも苦しくなるなんてことはなかった。



「あの……葵君?」


「あ……」


いろいろ考えているうちに美咲さんはお風呂から上がっていて、洗面所の隙間を少し開けて声をかけてきた。


「あの服が……」


「すいません、今すぐッーー」


「葵君……?え?どうしたのそれ!」


床にぶちまけている牛乳の上に落ちている真っ赤な血に美咲が驚いて駆け寄ってきた。



「ごめんね。私がお風呂はいっていたから。破片入ってない?」



バスタオル姿で俺の左手を握って傷口を水道にあててくれたけど……きっと自分が今どんな格好か忘れているんだろうな。



「葵君!?」



美咲さんのカラダじゃなくてココロが欲しかったのに……



セックスなんてどうして人はするんだろうってずっと思っていた。



カラダだけ繋がれてもココロは繋げれないのにーー



もしかしたら人は、ココロを繋ぎ止めたいからカラダを繋げたがるのかもしれない。



美咲さんの肌に触れると暖かくて吸い付かれるように手が離れない。



人肌っていいものだって言うけど、自分が生きているって実感できるからいいものかもしれない。




















「美咲さん……好きです。美咲さんを忘れようって思っても、いつも美咲さんが頭の中にいるんです。」

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