天使に恋をした。

かのん

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二人の夢⑥

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「わかった…ならもう会わない。連絡もこのままにしよう。お店にもこないでほしい。」






「え?」






「M社の次期社長夫人が俺と友達なんてダメでしょ。」






「そんなことないよ!」






「俺が!」



「え?」





「俺がもう会いたくないんだ、真莉亜に…」






「雅君…」






「じゃあ、お幸せに。」






これが二人が最後に会話した内容だった。



あれから一ヶ月が経過した。





雅は以前は女性をモノとしてみていたが、今は大事に扱っていた。





だからなのか、最近はさらに指名が増えて忙しかった。






だけど目を瞑れば真莉亜のことを思い出し、会わない日はなかった。



真莉亜は元気にしているのだろうか。





何をしているのだろうか。






何を食べて、大好きな料理はしているのか。






怪我はしてないのか。






幸せなのか。



雅はこの日常連客と街を歩いていた。





人がたくさん歩いているのに






どうして会いたいと思う人は一瞬で見つけられるのだろう。






真莉亜が道路の向こう側に立っていた。



もちろん側には健二も立っていた。





二人は見つめあいながら会話しているようだった。






「どうしたの?」






「あ、ごめん。」






「キャッ…」



目の前に涼子が立っていた。





髪の毛も服もボサボサ、手には包丁を持っていた。






「この子なの、雅!この子が雅の好きな人なの!?」






涼子はヒステリックな声でたずねてきた。






「逃げて!」



常連客はその場から逃げて警察を呼びにいった。





「待て!!!」






「違うよ、涼子さん。あの人はお客さんで好きな人じゃない。」






「…雅、お願いだから一緒に私と逝って。私、あの日警察に歩道された日、剛にも旦那にも見捨てられたの。もう生きていく価値がないのよ。」



「涼子さん…」





「お願い、雅…愛しているから!」





涼子が雅に包丁をつきつけ走ってきた。






生きている価値がない…それは今の俺にとってもそうだった。






真莉亜がそばにいないなんて考えたくもない。



“ドンッ…”





雅は地面の上に倒れこんだ。






「痛ッ…」





痛いがどこも出血している感じではなかった。





どちらかというと自分の体の上に誰かが乗っているようだった。



“フワッ…”





長くてやわらかくて、落ち着く香りがする髪






真莉亜の髪の毛だった。






「真莉亜?」





真莉亜をみると包丁がつきささって血がどんどんにじみ出ていた。



「どう…して?」






涼子はその場にいた人たちと警察官に押さえつけられていた。






「真莉亜!どうして!?しっかりしろ!な!?」






真莉亜は手を一生懸命雅のほうに伸ばし、顔を触った。






「真莉亜、ごめん。本当にごめん。傷つけることばっかり言ってごめん。」



真莉亜はにっこりと微笑んで目を瞑った。





「真莉亜?真莉亜?真莉亜!真莉亜!!真莉亜!!!」





どれだけ彼女の名前を呼んだのだろう。





何回呼んだかわからない。





声がかれるまで彼女の名前を呼んだ。



雅はずっと真莉亜の手を握って離さなかった。





手を握っていて気づいたことがある。





真莉亜は婚約指輪をしていなかった。





もしかしたら落としたのかもしれないと必死で探したが見当たらなかった。



真莉亜はすぐ救急車で運ばれたが、もう一度雅の顔に手を伸ばしてくれることはなかった。






「真莉亜…」





病室に健二が駆けつけた。






「どうしてこんな…お前!」





健二は雅を殴りつけたが、雅は抵抗せずに殴られ続けた。



そのままお互い泣き崩れた。





お互い何も離さず数時間が経過していた。





「…本当に俺のせいですいませんでした。」





雅が重い口を開いて健二に土下座した。



「…」






「本当なら結婚して家庭を作るはずだったのに…すいません!」






「…結婚ならナシになったよ。」






「え?」





健二がポケットから真莉亜がしていた婚約指輪を出した。



「これ、真莉亜の…」






「そう、俺があげた婚約指輪。今日返されたんだ。」






『健ちゃん、ごめんね、呼び出して。』





『大丈夫だけどどうした?』





『これ返したいの。』



真莉亜が婚約指輪を健二に渡す。





『え?どういうこと?』





『健ちゃんとは結婚できない。』






『どうしたの?』






『健ちゃんは私にとって童話の王子様みたいで…ずっと大好きだった。そんな人にプロポーズされて嬉しかったよ。だけど…』



『私、大事なことに気づいたの。お姫様に私はなれないの。』






『え?』






『私童話のお姫様みたいになれないから…ニセ王子様とのほうが合うみたい。』

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