【R18】秘密。

かのん

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ゲーム。

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「俺とゲームをしないか?」




忙しい父親に遊んでもらった記憶なんてない



だからこの日のことはよく覚えている



「どんなゲーム?」



8歳の俺は父親に遊んでもらえる、それだけで嬉しくて仕方なかった。













「お前はこれから拓也として生きるんだ。」












「え…?」



「お前は今日から拓也だ。」



「拓也…?」



「そうだ…お前が拓也であることは俺と拓也の秘密だ。」



「何で…何で拓也にならなきゃいけないの?」



「…」



父親は無言のまま俺の頭に手を乗せた。













「ゲームだからだよ、和也…」











「…うん、わかった。」



「いい子だ。」



俺の質問の答えはもらえなかったけど、父親がいうならそうなんだろうと思った



とにかく拓也になればいい



8歳の子にこれから先どんなことを待ち受けているかなんて想像がつかなかった



父親とゲームができる…一緒に遊べる…それだけでよかったんだ



「もし誰かにばれたらどうなるの?あと僕がやめたくなったら?」



ニコニコしていた父親の顔が急に強張ってきたのを今でも覚えている…















「ゲームオーバーだ。」



















俺はその日『和也』という名前を捨てた





父親に和也と名前で呼ばれたのはこれで最初で最後――



双子の兄の拓也は俺と違って人あたりもいい、勉強もできる、何より父親と同じ道の医者になりたがっていた



だけど――



双子の俺達は体が弱くて手術を何回もした



何回も何回も手術して…拓也だけ治らなかった…



父親が手術を失敗した



それを父親は病院のこと、自分のことを考えて公にしたくなかった



父親の手にかかれば治らない人はいない



父親の手術の成功率は100%



だから拓也の手術の失敗を隠すために優秀な拓也を表にだして



俺達は二人で一人



俺は…拓也の影だ



勉強も嫌いで人との付き合いも好きじゃない



拓也が医者を目指したから一生懸命勉強した



父親に褒められたくて…




体が弱い拓也が表に出れないときは俺が医者の拓也を演じるために



なりたくもない医者になった



何度も引き返したくて



和也に戻りたくて引き返そうと思ったことはあった



だけど



みんな俺をみれば「拓也先生」と声をかけてくる



琴音でさえも…



引き返したくてももう引き返せれないところにいた



もうこのまま一生



拓也の影として生きていくのか…



拓也が死んでもずっと拓也として…



俺はもう誰にも和也って呼ばれずに死ぬしかないのか?



そんな時琴音に出会った――



「拓也…昨日…」



俺の――



「拓也の初恋の人に会った。」



そう、拓也のでもあり俺のでもある――



「え…?もしかして病院に入院していたあの琴音?」



「若女将して元気してた。」



久しぶりに琴音に再会したあの日嬉しくて拓也に話したのが間違いだったかもしれない



いや逆に琴音に自分が近づきたくて



わざと拓也に言ったのもある…



「よくお母さんみたいに23歳で結婚したいって言ってたな…」



「そうだったな…」



「琴音と話した?」



「話は少ししたけど…琴音は病院であったことは覚えてないみたいだ。」



「まぁ…琴音小さかったからね…でも綺麗になっているんだろうな…」



「…綺麗になってたよ。」



月明かりの下、着物姿で凛とした姿で立っている彼女は息をのむほど綺麗だった














「琴音に会いたいな…」











俺はその一言を期待していた…



だから、拓也が会いたいって言って予想した通りだと思った



本当は和也で会いに行きたかったけどもう拓也でしか会いにいけないから――



「ゴホッ…ゴホッ――」



「拓也!!」



「はぁッ…和也…俺はさ、もう長くないよ…」



「拓也…そんなこと言うなよ…」



「最近体の調子が悪いんだ…お前に代わってもらうのも多くてごめん…」
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