【R18】秘密。

かのん

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満月の夜。

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「若女将の琴音です。」



「おぉ~!若いなぁ!こっち来なさい。」



「はい…」



中年の男性に手招きされて隣に座りグラスにビールを注ぐ。



「いやぁ~若いからピンクの着物がまた似合うな~いくつ?」



「22歳です。」



「じゃあお酒飲めるだろう。」



男性がグラスを差し出してくる。



「…」



「どうした?さぁ…」



「あら…やっぱり若い子のほうがいいのね。」



「大女将~すねないでよ~」



「じゃあ、私にビール注いでくれます?」



「もちろんだよ~」



男性が差し出したグラスを女将が手にとり男性がビールを注いだ。



「若女将も初々しくていいけど、やっぱり大女将の色気には参るな~」



「ふふ…」



「すいません…ちょっと失礼いたします。」



「え!?若女将もう行っちゃうの!?」



「若女将!」



女将と男性の声を無視して部屋の外へ私は出て行った。



「すいません。あとで言っておきますから。」



「…もしかして娘さん?大女将によく似ている。特に若い頃の…」



「はい…」



「もうあんなに大きく…確か娘さんって心臓が…」



「そうなんです。小さい頃は生きられないかもって言われていたのですが、手術が成功して…だけどお酒は飲まないように言われているんです。」



「いやぁ悪いことしちゃったな~勧めちゃったりして。」



「いいんです。そこでうまくかわせないようなら若女将失格です。」



「はは、君も若女将の頃はあんな感じだったよ~ただ仕事には一生懸命だったね。」



「私はあの子を育てないといけなかったから…幼馴染のお母さんに雇っていただいたので必死だったんです。だけどあの子ときたら、接客が仕事なのに男性とうまく話せなくて…」



「22歳なら彼氏とかいるんだろう、きっと。彼氏に悪いと思って話せないとかではなくて?」



「男性にあまり馴れていないんです。父親がいなかったからというのもあるし…手術の跡を気にしているみたいで…」



「深い関係になりたくないってわけか…若いから仕方ないな。」



「私がいなくなったあと…あの子のことが心配なんです。」



「君はまだまだ元気だろう?」



「…そうね。さ、飲みなおしましょう。」




『うわ!コイツの胸にすごい跡があるぞ!』



『やだ~何あの跡怖い…』



小学生の時水着から少し見える傷跡…



それを見たクラスメイトが次々噂して



その日以来、私は人が怖いの――



「ふぅ…ゆっくりでも慣れなきゃ…」



せっかくこのお店で働かせてもらっているんだし…



人に馴れていかなきゃ…



着物だから傷跡が見られることもない



“ジャリッ…”



中庭の池の近くに人の気配がした。



「あの、お客様、そこは滑りやすいので――」



雲の隙間の月明かりで少しづつ客の顔がハッキリと見えてくる。



月明かりのせいなのか、それともその人の肌の色なのか



肌は白く透き通っていて



男性なのに触れたら消えてしまいそうなか弱い雰囲気を持っていた




「満月…」



男性が見ている先には綺麗な満月



まん丸なのにどこか不安定で



そんな満月を見上げている男性は満月に引き込まれて消えていなくなりそう…



まるでかぐや姫みたいに



愛しい人をおいて消えてしまうような表情をしている――



“ジャリ…”



不意打ちに振り向かれて驚いた私の顔を見て



あなたは驚きながらも――














     会いたくない







顔にそんな風に書いているような表情をした



私何かした?



冷たい表情…



ずっと見ていたのがよくなかったのかな?



「あ、あの…」



だけど声をかけた瞬間



たった一瞬だったけど私はあなたのあの表情今でも忘れられない









    愛おしい     









体に氷の矢が突き刺されるような



そんな目をしていたのに



一瞬だけだったけど



私を



ありのままの私をすべて包み込んでくれるような



優しい目をしてくれた








そんなあなたに恋をした








“ジャリ…ジャリ…”



男性は無言のまま桜の横を通り過ぎていく。



“フワッ…”



この香りどこかで――









「消毒液…?」








昔病院にいたころ嫌いだったニオイ



だけど気になる人から同じニオイがしたら好きになってしまうのは不思議…



「若女将!」



「あ…大女将…」



「さっきのは何ですか!?お客様の部屋から出るなんて!あとお酒はあれほど勧められたら交すようにと言ったでしょ!また手術とかになったら苦しいのはあなたなのよ!」



「すいません…あ…」



視線を感じる方をみたら男性が怒られているところを見ていた。



大女将もお客がいたことに気づき、怒るのをやめた。



「と、とにかく、次の部屋に行きましょう。」



「はい…」
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