初恋の人。

かのん

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カノンさんの初恋【幼少期】②

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また海斗がからかってきた。



翔は立ち上がり、カノンの手を引っ張り幼稚園の園舎の中に歩いていく。



「面白くねぇーの!」



海斗は翔がいつも立ち向かってこないのが面白くなさそうだった。



「あ、あの…翔君。」



「うん?」



「どこ行くの?」



「僕の秘密の場所。」


「秘密の…場所?」



翔の『秘密の場所』って言葉にも



繋がれた手にも



ドキドキが止まらなくて…



ずっとこのままでいたいって子供ながらに思った



「ここだよ。」



「ここ…」



幼稚園の裏にも大きな木が一本あった。



「ここちょっと日当たり悪いんだけど…でも誰もこないから集中したいときはここで本を読むんだ。」



「ここ…翔君の秘密の場所でしょ?私に教えていいの?」



「かのちゃんも本が好きだし…ここならゆっくり読めるよ。二人だけの秘密ね。」



「二人だけの…」



花音も知らない二人だけの秘密の場所――



それだけで嬉しくて



胸がキュンとして



いつも花音ちゃんと仲がいいけど



私にも望みはあるんじゃないかって思った…

















だけど翔君は次の日から急に幼稚園にこなくなった――












「先生、何で翔君お休みなの?」



翔の教室へ行ってみると花音が先生に質問していた。



「うん、風邪引いているみたいだよ。早くよくなるといいね。」



「うん…」



「じゃあ、手紙書いてみたらどうかな?先生今日翔君の家にいくから渡してきてあげる。」



「本当?」



翔君、風邪なんだ…



私も手紙を書きたい――



「先生…」



「あなたはお隣のクラスの…」



「私にも画用紙ください。」



「いいわよ、はい、どうぞ。」



「ありがとうございます。」



だけどいざ画用紙の前にすると何てかけばいいのかわからない…



花音は何て書いているんだろうって気になってきた。



「秘密の手紙の書き方教えてあげる♪」



「秘密の手紙…教えて先生!」



秘密の手紙――?



「白のクレヨンで書きたいこと書くの。白だと色がなくて見えないでしょ?」



そう言いながら先生はハートを画用紙に描いた。



「先生、白じゃ見えないよ~」



「でもね、鉛筆でこうやって塗ると…」



二人のやり取りをみて、自分も秘密の手紙を書くことにした。



花音が白のクレヨンを使い終わったあと、白のクレヨンで画用紙に大きく自分の思いをぶつけてみた。
















【すきです。】



たった一言



バレンタインにもいえなかったこの一言

















先生のあとをつけて翔の家に行ってみた。



玄関で母親らしき人が先生と話していた。



翔はいないのか玄関には出てこなかった――



先生が帰ったあと、インターホンを押すかどうか迷った。



翔の親がでれば、先生の目を盗んで、親のお迎えが来る前にこっそりと幼稚園を抜けだしたことがばれてしまう…



じゃあ、せめてポストに――



ドキドキしながらゆっくりと手紙をポストの入り口へ近づける。



やっぱりできない!



そう思い手紙を引っ込めた瞬間



「うちに用かな?」



スーツ姿の男性の話しかけれた。



メガネをかけているこの男性、翔の父親だ。



だってすごく似ているから――



「あ…」



怖くなって逃げ出してしまった。



手紙を…初めてのラブレターをポストに入れることができずに…



幼稚園に走って帰った。



急いで帰ったけど、幼稚園では私がいないことが騒動になっていて、先生にも親にも怒られた。



どこに行っていたかなんていえなかった…



初恋の思い出として



宝箱にこの手紙を閉まっていた



25年間ずっと――



まさか再会するなんて思っていなかったから…



再会したら



そのときは今度こそこの手紙を渡そうってずっと思っていた
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