紫灰の日時計

二月ほづみ

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太陽の少年-3

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「……言っておきますけど、僕は演奏が特にうまいわけじゃありませんから、そこは期待しないでくださいよ?」
 彼女のまなざしに気が付いた少年は、苦笑して言った。
「ふふふ、無理な相談ね。楽しみだもの」
「ほんとに? 困ったなぁ」
 無人の広間で、ゲオルグは持参した遠い国の楽器を演奏した。ちょっと緊張していて、今日のために練習した難しい曲を弾くのは不安だったので、咄嗟にいつも弾いている気に入りの曲を奏でることにした。
 澄んだ音が、高い石の天井に吸い込まれていく。一つ一つの音を確かめながら奏でるような、ゆっくりとした、穏やかで優しい音だ。
 それはとても美しい響きであったけれど、何だか落ち着かない気もした。しばらく演奏したところで、少年はふいに手を止める。
「あら、もうおしまい?」
 彼の手元を熱心に見つめていたアーシュラは、不満気な声をあげる。
「皇女殿下、謁見はこの広間でないといけませんか?」
「え?」
 ゲオルグは苦笑して、天井を仰ぐ。
「ここも静かでいいんですけど、せっかくなら、カリンバは風のある場所で聞いたほうがいいから」
「まぁ……そうなの?」
「そうですよ。この音はね、自然の中で聴くのが素晴らしいんです。僕はいつも外に持っていくか……出かけない時も、屋根に登って弾きます」
「屋根に!?」
「いいもんですよ」
「やってみたいわ」
「殿下が?」
「おかしい?」
「いいえ、傑作ですねそれ」
「でしょう!」
 この人が屋根になんて登ったら、背中から羽が生えて飛んでいってしまいそうだなと、ゲオルグは内心思う。彼がそんなことを考えているなんて思いもしないアーシュラは、ふわっと立ち上がって、微笑んだ。
「では、お庭に行きましょう、ゲオルグ」
「え……」
 突然名を呼ばれ、思わず驚いた声を上げてしまう。
「あれ、違った? 名前」
「あ……いや、そうではありません。合ってます。そうじゃなくて……憶えていらっしゃるとは、思ってなくて……」
  言いながら照れたような、慌てたような様子で俯くゲオルグを、きょとんとした表情で見つめ、少女は笑った。
「あなたの名を尋ねたのはわたくしよ? 忘れたりしないわ」
「殿下……」
「さあ、ゲオルグ、お庭に行くわよ。今日はお天気が良いから、きっと風も気持ちいいと思うわ。続きを聴かせて頂戴」
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