紫灰の日時計

二月ほづみ

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運命との出会い-1

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 外の世界とは厳重に隔てられたアヴァロン城において、皇女アーシュラの存在は、太陽であるといえた。
 命と健康は、どんな者にでも理解のできる明快な財産だ。彼女に仕える者は皆、皇女がその尊い身分に釣り合わぬ弱い体を持って生まれ、苦痛に満ちた日々を送らなければならないことに同情した。だから、アーシュラは、そこに居るだけで、皆の好意を集めた。
 さらに、彼女は目下の者に決して弱音を吐かない。立場を傘に八つ当たりもしない。ほんの幼い少女であった時分から、大人も驚くような冷静さと賢さを持ち、優しく、苦しい時も出来る限り笑顔をみせた。そのことは、皆の驚嘆と、尊敬を集めた。
 エウロには、救国の英雄としての初代皇帝の伝説と偶像が未だ生きている。彼女がやがて素晴らしい皇帝になるであろうことを、疑うものはいなかった。
 しかし、太陽が神々しく照らす、アヴァロンの昼は短い。
 皇女は長い長い時間を部屋に篭もって過ごし、彼女の笑い声を失った城は、夜の日時計のように、正しい時を刻めなくなる。
 そして、その不安は、年を追うごとに深くなっていった。今度こそ、彼女が帰ってこないのではないかと、口には出来ずとも、誰もが思わずにいられなかったからだ。
 長い夜の中にある城において、唯一皇女の傍に居ることを許された剣の少年は、今年、雪の降る季節が来れば、十五になる。
 この城にやって来た当時のことは、もはや曖昧な幼い記憶の彼方にある。
 三歳で突然つきつけられた運命。それにただ従うことしか出来なかった彼は、しかし、今では己が何者であるかをはっきりと自覚していた。
 自分は剣なのだ。それ以外の自分は知らないし、いつか、彼女が言ったように、彼女以外に世界は無い。
 これが幸せな、美しいものであるかどうかは分からない。けれど、内側から身を焼くような高熱に息も絶え絶えな少女がはやく目をさまして、自分の方を見てほしいと、心から願った。
 もう一週間近くも、まともに会話の出来ない状態が続いていた。
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