紫灰の日時計

二月ほづみ

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剣のつとめ-6

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音をたてないようにそっと開けると、夜の空気が乾いた室内に流れ込み、レースのカーテンがフワリと膨らむ。
「ん……」
 風の流れを感じ取ったのか、少女が身動ぎした。細い手に繋がれた管が揺れて、エリンはぎくりとして駆け寄った。しかし、次の瞬間聞こえたのは、穏やかな寝息。どうやら、今ので起こしてしまったわけではないらしい。
 傍で見ていると、眠る少女は穏やかで、今は苦しみを感じていないように見える。暫く見つめていても少しも目を覚まさないので、恐る恐る額に手を添えてみる。少し熱い。辛くないのだろうか。
 元気な時はひどく気まぐれで、外ではものすごく行儀が良いのに、二人でいると突拍子もないことを言い出しては自分を困らせるアーシュラ。けれど、こうして大人しくベッドに繋がれている姿を見ると、早くいつもの奇想天外な発言を聞きたいなと思う。剣と主は一心同体。だったら、辛いことも半分こに出来ればいいのに。
「…………エリン?」
 いつの間にか、彼女の目が開いていた。
「お加減は?」
 少し驚いていたけれど、顔に出さないようにして言った。
「入ってきては駄目だと言ったのに」
「申し訳ありません」
 さっさと部屋に戻れと言われるかと思ったが、アーシュラは何も言わなかった。だからエリンは、勇気を出して続ける。
「剣は、主人と離れてはいけないと言われました」
「言われたって、ツヴァイに?」
「はい。だから、お加減の悪い時も、傍にいさせてください」
「ふぅん……」
「あ、主が……剣を拒むことは、駄目なのです」
「知っているわ」
 言って、点滴の着いた手を伸ばして少年の手を掴む。そのまま、手のひらを開かせ、自分のものと重ねる。彼女は時々これをやるのだ。そして、自分の方が大きいことを確認すると、満足そうに微笑む。
「わたくし、お前よりふたつも年上なのよ。そんなことくらい、知っているのよ。当たり前でしょ」
「だったら……ここにいても良いですか?」
「わたくしが心配だから?」
「はい」
「それなら嫌よ」
「え……」
「部屋に戻りなさい。明日にはきっと元気になるから、そうしたらお庭に出て、遊んであげるわ」
「アーシュラ……」
 主はプイと背を向けて、布団を被ってしまった。
 何が機嫌を損ねたのか判然としないし、別に遊んでほしいわけではないのだけれど……今そんなことを口にして、彼女をさらに怒らせるのも良くない。ツヴァイにはまた叱られそうだ。
 けれど、とりあえず言われた通り、部屋に戻ることにした。
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