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時間と繋がりが

81.忠義と戯れで

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「嫌だなぁ……剣まですぐ覚えるから可愛げがないね」

「可愛げなんて求めたこともないな」


着実に剣技に磨きがかかってきた晫斗と敬紫に、リザは面白くないと不満げだ。
魔法は諦めたとしてもたった数日でリザを超えられては面白みもない。
晫斗はいつも通り欠伸をしながら俺が可愛かったら何になると言う視線を向けた。鞘に剣を収めた敬紫が無表情で一言告げる。

「リザはわがままだよね」

「あたしがわがままじゃない時なんて無かっただろ」

「まあ、確かに」

「…………随分と仲良くなりましたね」


これほど驚くのは雛野と零蘭に数日付きっきりだったからだ。
あまりにも熱中して本を読むのでいかにして食事と睡眠をとらせるか、あの図書館は寝泊まりができるのは良いのだが寝なくては意味がない。

そうして甲斐甲斐しく世話をしたのち、清と涼が久しぶりに主人の様子を覗きに来たところだった。
常人並に話している3人のその姿に驚いたのだ。


「これで仲がいいならもっと口数が多いはずだけど?……なんだ、お姫様のお勉強は終わったの?」

やれやれと清の元に向かったリザが辺りを見渡す。姫はどこだと探している横で涼も唖然とした様子でつぶやく。

「敬紫さん達がテンポよく話してるなんて珍しい……」

「…………あたしが言うのもなんだけど、あんたらもっと清と涼を大切にしたらどうだ」

リザにとって仲良しこよしなんてどうでも良いことだ。結局好き勝手するのは自分だから。
でも清と涼に至ってはこれほど尽くしているのに、と無いはずの良心が痛んだ。振り返ってみた先の敬紫と晫斗は真顔だ。

「してるけど」

「え?!」

「……っ」

ポツリと吐かれた敬紫の言葉についていないシッポがブンブンと動く。涼は今にも泣きそうなほどキラキラした目で、清はうっとりと胸でも打たれたように言葉も出ない。


「こうなるから」

「ちょうど良いんだよ」


飴と鞭。確かにこれほどいちいち喜ばれては身が持たなそうだとリザも共感した。常人なふりをしていてもこの騎士2人も十分変わっている。リザは笑いながら練習場から廊下へと歩いていく。

「ちなみにお二人はもう着替えられてますよ」

「あたしも着替えるかな……準備が出来たならあたしにも聞かせてよ。お姫様の作戦会議だろ?」

「……ああ、雛野さんの部屋へと伝言は頂いていますよ」

「了解」

やっと現実に戻ってきた清がいつもの様子で微笑んだ。大切な話に美味しい料理とケーキは付き物だと用意をさせているのも思い出す。


「もちろんお酒も用意してありますよ」

「当たり前」


上着を脱ぎ清に渡すと晫斗は欠伸を一つ。前髪を書き上げた敬紫の目が雛野と同じように輝いた。

「ちゃんと寝かせたの、あの子たち」

「もうあの手のこの手で」

「そう、よくやったね」

たったこの一言で泣きそうなほど嬉しくなるのだから、いつだって傅きたい気持ちだ。
意気揚々と後に続く2人を最後に扉は閉まった。
こうして準備が整った。

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