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平穏が

68.拒絶か欲望か

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そして雛野の次の言葉でさらにオーベインは微笑みを固くした。

「北だけではなく、出て行って欲しいと言わないの?」

「え」

「だってきっと異質でしょう、私達」

微笑んだ。
だが当たり前なのだ、ここはこの世界はそもそも小さな枠の中だ。 根底から自分達がのけものだなんて思うはずもない、そもそもが別世界の存在。

また心の中を読まれたと思ったのかオーベインは一瞬だけ目が動く。それでもすぐに呆れてみせた。

「そうだね異質だ、そして異様だ」

正直、恐ろしく悍ましいと。4人の見た目が美しいと言ったのは嘘ではない。それとこれとは別なのだ。


「おい、オーベイン!」

「イガル、お前だって分かっているだろう。ここまで強い力を持った者がどう見られるか……」

柔らかい雰囲気が一変して張り詰めた雰囲気を醸し出した。王としての威厳はどんなに明るく朗らかに振る舞ったところで無くなったりはしない、やはりこの人間は王なのだ。
イガルはぐっと喉を詰まらせ黙った。

雛野達も約束を重ねる中でもちろん気付いていた、自分達より強い魔力を持つものがいないことに。

「確かに身体能力ではイガルには勝てないけれど、この魔力もう場違いよね」


零蘭までも悟ったように笑うのでイガルは驚いた。
やっと自分達の立場が分かったのか、分からないふりをしていたのかは定かでは無い。

オーベインは頷き、話を続ける。


「それにここ数日で君たちは人数も増えた。しかも君たちが揃ってから、膨大な約束を交わしたね」


元々合間を縫ってはあらゆる神との約束を交わしていた。談笑するように踊るように楽しみながら。それが敬紫たちと合流してからというもの神から現れる事も増えた。そうして会えばさらに神すらも魅力していく。


「そして、この前の騒ぎで決定的に君たちの存在は知れ渡っているよ。既に使いを寄越されてもいる。この街が大騒ぎになっていないのは君たちの類稀なる魅力のおかげだ、私も今日会えてそう思ったよ。呼びつけなかった理由は街の者が望んでいた事もある。でもそうだね、残念ながらこれ以上隠しては置けない」


国のたった1人の頂点に立つものとして、相応しい口ぶりだった。


「恐れられるだけなら良いが、強い力は狙われやすい。いつか君達を狙いに心の無いもの達が奪いに来るだろう」

「私たちもこの世界の知識は入れたわ。だからわかるの、予想以上に力を手に入れてしまったしそろそろ此処を出る頃合いかと」


「……聡明な子達で胸が痛いよ」


優しい王の顔だ。
晫斗も敬紫も何も言わなかった。その後は何事もなかったように食事を進め、いつも通り零蘭と雛野にだけ笑う。

食事を穏やかに終わらせたが、帰りの馬車の中でイガルは謝った。まさかオーベインが出て行く事を望んでいたとは思わなかったのだ。確かに異様な力の持ち主が集まってはいるが可愛がった雛野たちがそんな風に言われるとは思わなかった。

それまで黙っていた清と涼が雛野と零蘭に笑った。

「話を合わせましたね」

「雛野が良いなら私は良いもの。ねえ敬紫」

「うん」

足を組んで平然と答える零蘭と敬紫。

「は?」

イガルは驚いたさっきと全く口ぶりが違う。
雛野が困ったように笑った。

「私はここ好きよ。出て行きたいなんて考えた事ないもの。この力も確かに強いけれど、ここが襲われたとしてもきっと勝てるわ。でもオーベインは王様だから、国の勢力配分が狂ったりしたらいけないでしょう?だから私のわがままもいけないかなって」

「なんだ、つまり、あいつの思いを組んでやったのか」

わがまま放題だと思っていた彼女達が他人の思いを組んだ事にイガルとしては驚いた。

「いやー、ちょっと見ものでしたね」

涼が突然くだけた様子で笑い出す。清もふっと笑い出すがイガルにはその理由が分からない。

「言葉にトゲがあったわ」

「そうねぇぴりぴりしてた」

セリフとは裏腹に口調も顔も楽しそうなのだ。イガルはなんだか肩の力が抜けてきた。しかも驚いた事に敬紫と晫斗が肩を震わせて笑っている。その1番の理由が本当に嬉しそうに頬をぴんくに蒸気させ可愛い顔を綻ばせた。

「嬉しそうに見えるんだが……」

「初めて男の人に拒否されたのよ、なんだか新鮮!」

雛野がそう言うとついに王子2人は吹き出すのだ。

一国の王に拒絶されて喜ぶ人間も珍しい。

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