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自由でこその愛がある

59.仰せのままに

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2人が壊したギルドは元の形と全く同じように直した雛野に続き全員が同時魔法を発動したのを見ていたリザ。その才能に驚いたところでイガルが出店を他のメンバーに代わらせると異世界メンバー6人とイガルにウルエラとリザを交えて食堂に移動する。

当然のように隣に座り手を繋ぐ姫と王子に突っ込む者はもういない。そして雛野達のこれまでの経緯を話すとリザは案外落ち着いていた。


「ふうん?じゃあ魔法すら知らなかったわけか。大した才能だね」

あっけらかんと酒を片手にリザが言えばその軽さにイガルは驚く。そんなものなのだろうか。


「同時魔法ってそんなにすごいことなの?」

「伝説だよ……まさか敬紫も晫斗も使えるとはな……」

もういまさら驚くよりもだんだん呆れが強くなる。ましてや戦闘センスまで身につけつつあるのだ。イガルはなんだか嫌気がさして酒を煽った。


涼と清が誇らしげな顔をする。

「我らが主人はどこにいても神のようなものですから」

「2人も相当の変わってるよねぇ」


ウルエラが2人を笑った横で、リザはイガルに問いかける。


「カインも気に入ってるんだ?」

「晫斗と敬紫に清と涼は直々に教わってるぜ」

「やるねぇ」


カインがここまで育て上げるのも珍しい事だった。よほど根性が気に入ったのだろうとリザはたのしげに笑う。

「それもすごいことなのねぇ」

特に気にしてもいない零蘭は果物を口に運びながら聞いていた。リザは笑ってそっと零蘭の顎に手を添える。


「それに、こんな美人もなかなかいないぜ?」

「あらありがとう」

「そいつ手が早いから気をつけろよ零蘭」


リザは女だがその辺の男よりも性格は男らしい。
良いものは褒めるしやりたいことはやる、食べるものは食べる。そして食べ物でも人間でも、男でも女でもそれは共通だった。

その顔は中性的で顎までのショートヘア。黒髪もハスキーボイスも魅力敵だったが、零蘭はどちらかと言えばその腹筋に見とれている。


「あなたのスタイルも本当に素敵」


零蘭は何かを含んだ妖艶な笑みで返すとリザが面白そうに笑った。

「これは王子も大変だね」

この問いに晫斗が答えることはない。
それにしてもと、リザは話を続けた。
 
「王子に騎士付きのお姫様は何かやりたいことでもあんのか?全然帰りたそうじゃないね」

「こいつらにこういう常識は通じないぜ。なんなら楽しんでんだから」

「やりたいことかぁ」

雛野が楽しげに笑ったが零蘭は少し遠い目をした。この後のセリフが分かっているようだ。エメラルドグリーンの目が輝いた透明な瞳には無限の可能性が写る。お人形のように可憐なその口で一言。

 

「ぜんぶ、やりたいな」

「それはまた随分と……」

流石のリザもあっけに取られた。
雛野のある意味恐ろしい言葉の語尾にはハートマークが付いていたが、それに甘く微笑み返すのは敬紫だけである。

「可愛い雛野」

その唇に口づけが落とされる前に涼はそっと目を閉じ、清は変わらずにこにこと微笑む。口づけにリザはヒューと口笛を鳴らし、ウルエラがやれやれと手を広げ、晫斗は零蘭の肩で眠そうだ。

イガルはそれを見て頭が痛くなってきた気がしたがお酒のせいにした。零蘭が可笑そうに告げる。

「パパ、ここにもいるわよ?バカップル」

「もう好きにしてくれ……」


もうパパでもなんでも良い。
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