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愛し愛される

46.可愛いか強いか

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まず何よりも、格好だった。いつものドレスで外へ行かせるわけには行かない。


「……可愛くないわ」

「なら、この話は無しだ」


ついに頑固オヤジとしての片鱗を見せ始めたイガルは零蘭に言い放つ。そこは防具屋だった。所狭しと並んだ衣類、鎧や盾などは重厚なものが多い。店主も高身長で鍛えられたイガルよりも巨体で、雛野と零蘭を合わせても遠く及ばない。


「でもそれは着ないと思うよ……」


雛野が珍しく困った顔で零蘭の横に立つと、気を利かせた店主が零蘭と雛野にと椅子を設けたのを見たイガルはため息をついた。イガルがこの店に来てそんなサービスを受けた記憶がないからだ。零蘭がゆっくりとその椅子に腰掛けるとその長い足を組んで見せる。


「あなたのお金なのは重々承知だけど……それならなおさらそんなに可愛くないもの買わないで。イガルが着るなら似合うと思うけど、私たちが着たら鎧に着られて滑稽よ」


たしかにイガルが身に付ければ光り輝く鎧は男らしいだろう。それでも、戦う者は男が殆どだ。防具も女性物がないわけではないが、ひどく頼りない。ならばせめてと盾も選んでやったがそんな大きな物を持ちたくないとわがままを言うのだ。


「それにそんなもの着なくても防御壁は張れるわよ?それなりに使えるし、そんな簡単に破られない。ちゃんと試したもの」

「うん、今の魔力の最大限と、他のみんなにも全力で攻撃してもらったり……あ、的はちゃんと他のものにして自分には念のため防御壁貼ったよ?」

「……つってもなぁ」


魔力から見る零蘭と雛野のその才能と力量は恐ろしいものだが、実践では話が変わってくる。接近戦になったとして動けない時に鎧は必要だ。
イガルの戦闘スタイルも接近戦がメインなだけに防御の大切さが身に染みているのだ。


「まあ、でも動きやすい服にはしたらどうかな。靴だけは硬度の高いものにするとか大事な胴体だけでも……」

そこまで言ってウルエラは後悔した。まだ死という恐怖を知らない2人にこんな事を言うのは早かったと。とは言えイガルの言う通り防御は要だ。ウルエラも着込んでいないように見せてはいるが、至る所に防具は忍ばせている。
雛野は知ってか知らずか、その胸元に着ているアーマーあたりを見て微笑んだ。


「そうね、不安にさせるのも間違っているし……」

その瞳が輝くと記憶も知識も起動される。タイピングの代わりに瞬きをした。数秒で答えが導き出されこの問題は解決する。零蘭の手を取り悪戯に笑うと弾んだ声でこう言った。

「店主さん、このお店で1番防御力が高いものを全身で2人分お願い」





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