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愛し愛される
42.欲望の隠蔽は
しおりを挟む夜のこの世界はかなり冷える。
空間調和石と障壁で囲んだ空間内で魔獣の姿のままのカインに寄りかかり、晫斗は空を見上げた。この空間は何にも侵入されることは無いがかなりの魔力を消費する。空間調和石にも魔力を日々注いでいく必要があるのだ。今日は昼間に涼と清が魔力を込めていた。
「2人は楽しんでるみたいだね」
晫斗と同じくカインに体重をかける敬紫が小さく笑った。それも1秒とも満たないが。
「……ああ」
晫斗もまた目を閉じて思い出す。焔の神ラルが晫斗と敬紫に約束を済ますと、人間らしい微笑みでこういったのだ。
「あの子達も面白い色でしたよ。貴方とそっくりで」
それだけ述べて姿を消してしまった。それだけで雛野と零蘭だと悟ると、思わず笑ってしまったものだ。
やはり、大人しく待っているわけがない。しかもラルに関して言えばこちらが出遅れている。
「……あの」
「なあに」
今日も欠かさずカインの生み出した本を読む清が遠慮がちに2人を見る。
「魔法を使えば連絡が取れるのにいいんですか?」
「うん」
敬紫の答えはさっぱりしていた。
カインから授かった能力は主に水、飛行の2つがメインとなった。だがかなりの知識を会得した4人に授けられる魔法は多岐に渡り、神との約束もその数に比例する。
意識共有は対面し直接魔法をかけなければ使えないが、言語発信はお互いがその魔法の使い手となっている事でどんなに離れていても会話が可能だという。
かなり初期の記憶量でその魔法は手に入れたが、敬紫も晫斗も一向に使おうとしない。おおそらく姫の2人も使えるはずなのに向こうからの連絡もない。晫斗も敬紫も2週間経ち、神から雛野と零蘭の話を聞いても連絡しようとしないのだ。
注意深く清と敬紫の話を聞いていた涼は思わず聞いてしまった。
「心配ではないのですか?」
敬紫がゆっくりと涼に目を向け、首をかしげる。
「例えば2人に危険が及ぶとして、そういうのは全部、その前に分かるよ。2人が楽しんでいるのも何となく。ね、晫斗」
敬紫の言葉に晫斗が頷く。清は思い出す、たしかにいつもこの4人が自ら進んで連絡を取っていたのを見たことが無い。なぜかお互いの居場所が把握できている。あまり焦った様子がないのもそのおかげか、と改めて納得した。
清がそこで珍しく挑発するように2人に問う。涼はため息をつきながらも止めなかった。だいたいそういう時の質問は涼にも興味がある事だ。
「では……会いたいですか?」
「……お前のそういうところ嫌いじゃない」
敬紫が珍しく清を褒めたが、その顔は清を見ていない。
まるで彼女に触れるようにその唇を撫でた。
「触れたくない時なんて、出会ってから一度もないよ」
その答えが清を満たす。欲望のままに生きるその姿が全てを魅了してやまないのだ。
「……そういう貴方がおれは好きです」
「そう」
清の敬紫を見る目はもとより忠誠も愛も全てねじ込んだものであり、同じく涼も目を輝かせるのだ。晫斗はいつも清の遊びに付き合うことは少ないがこの時ばかりは違っていた。
「このゲームは、ご褒美が決まってるからな」
飢えたケモノではない、なんて誰も言っていない。
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