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それぞれの欲望を

34.知識も愛も

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意思共有がかかっていないメンバーのために通訳としてウルエラとイガルが2人の横のソファで酒を煽っていた。

零蘭と雛野に次々とギルドメンバーが話しかけ、大半が跪きその美しさを褒めていく。
雛野はその全員に名前と得意魔法を短く質問していたがその簡単な質問に答えるだけで花のような笑顔を返してくれるものだから男達の胸を熱くさせる。
零蘭も握られた手に応えるように両手を重ね、妖艶に微笑んで見せた。2人同時に綺麗に微笑まれた時には全員しっかり骨を抜かれているのだ。

「こんな美女を毎日拝めるなんて……」

「生きててよかった……」

「踏んでほしい……ぐすっ」


泣き始めた者もいる。




「お前ら……」

あまりの情けなさにマスターとして恥ずかしくなりイガルは呆れた。ウルエラは元からとしてもどいつもこいつも零蘭と雛野に屈服しすぎである。確かに美しく可憐な彼女だが、子供みたいな反応も多いと言うのに。


特に雛野はそれが顕著である。
ソファの前には暖炉があり、ふたりはそこが気に入ったようで、ブランケットと読みたいと言っていた生き物の図鑑を渡せば目を輝かせて読み始めた。


「零蘭見て?」


大きな図鑑を渡された雛野がその可愛らしい声を上げた。隣の零蘭をつついて開いていたページを見せる。零蘭がゆっくりと図を見ると一瞬だけ目を見開かせた。

「ユニコーンって居るのね……綺麗」

「旅には打って付けの足の速さだよ」

「なんだ見たことねぇのか?」


頷いた雛野が文字に指を当ててポツリとポツリと読み出した。雛野の本の催促にイガルもウルエラも勉強熱心だと思っていた程度だった。まさか丸ごと頭に入っているとは想像していない。


「長寿……対話可能……性格、気難しい」

「なに、お前、もう読めるのか?」


意思共有では読書は出来ない。あれはあくまでも対話としての共有なのだ。しかし、雛野はすでに自分の力で読んでいる。

「さっきの本に書いてあった言葉よ?」

にっこり笑って、また図鑑に視線は戻っていく。零蘭がいつもの事のように雛野を紹介した。

「雛野、記憶力が良いから」

「それにしても……」

ウルエラは驚いた。本を渡したのは2時間ほど前だ。
読んだからって覚えられるものではない。

そんな意思を読み取ったのか雛野が笑ってみせた。

「覚える事は記憶ではなく、記録なの」

あの魔力量にこの知識吸収の力。この世界の魔法は知識に頼る部分が多い。それならばこの子は恐ろしく成長するのではないか。ウルエラはいつのまにか口角が上がっていた。雛野はその昂りを知ってか知らずかウルエラに話しかける


「私、魔法が知りたいわ」


ウルエラに丸く大きな目が瞬く。
ぞっとするほど美しい。



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