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それでも美しい
14.意思の等価は
しおりを挟む「お前さんたちずいぶん顔色が悪いが大丈夫かい……?」
零蘭と雛野の姿は目立つ、その容姿も、町の住人とは違う服装も。邪険にされることはなくとも歩くたびに誰かしらが話を振った。誰一人として邪険にはせず愛嬌良く返していた二人だがギルドに向かいながら急激に体調の異変を感じ始める。足が重い。
そしてまた不思議な食べ物を売っている小柄な男の店主が2人に話しかけた。
「ええ、大丈夫よ……」
零蘭は口の端を上げたが、実際はかなり厳しいものだった。となりの雛野も懸命に笑顔を絶やさないが話せば話すほど体力が無くなっていく。なにも理由が見つからない、ただ歩き、話しているだけだというのに病気か虚弱のように疲れてしまうのだ。
ついに雛野が崩れるようにしゃがみ込んだ。
「雛野!」
「なんだ、どうしたんだ……ほらここに座りな!」
店主が自分の座っていた椅子を差し出すと、零蘭は雛野の脇に手を入れ椅子に座らせた。零蘭自身もその足元にしゃがみこむ。汗が額を伝い地面に落ちた。
あまりの疲労に店主が顔を覗き込む、元々真っ白な2人は青白くなっていた。そこで店主は不思議そうに2人に話し出す。
「お前さん達……どうしてそんなに魔力を消費してるんだ?」
「魔力?」
「何か大きな依頼でもあったのか」
零蘭と雛野は目を合わせた。魔力、やはりここは魔法の世界。
「魔力、だって」
雛野が弱々しくも目を煌めかせた。こんな時まで、なんて探究心だろうか。雛野の青白い顔に流れる汗をハンカチで拭うとぎこちない笑顔で最初に拾った花をつまんだ。
「これはもしかしたら……」
「ん?その花……」
店主が花に注目すると同時に花の色が濃くなった。また一気に疲れが増したような気がして、零蘭はだんだん花に憎らしさが芽生え始める。
せめてもっと美しく、品があって、この世のものとは思えないほどの花なら良いのに。この状況ですら零蘭の思考は美しさを花に求めた。
そう思った時雛野がちいさく声を上げる。
「あ……光って……」
すると突然弱い光を発していた花が目を細めるほどの光を放つ。
光り輝き続ける花は大きくなりその形を変えていく。丸みがある小さな4枚の花びらから鋭くしなやかな大きな花びらへと変化した。
それはそれは美しい形だったが、雛野の顔を見た零蘭は思わず叫んだ。もう血の気がない。自身もまた全ての血が抜けるようなそんな感覚に襲われている。
店主が叫び出した。
「なにやってるんだい!魔力をしまえ、このままじゃ……!」
「この、花に、体力吸われてるみたい」
どこも見ていない雛野の目はかろうじて開いている。昔のお人形のようなあの目だ。花を持つ手を包めば指の先まで冷えている。零蘭は何も言わずに花を雛野から引き剥がし地面に落とした。まだ体温は戻ってこない。
「……どうしたら!」
「何か条件が……」
虚ろなまま零蘭に寄りかかる。体を起こす体力もなさそうだ。
零蘭も限界が近かった。雛野を支える力もなく立っているのがやっとだった。もう音もなにも聞こえない。ただ、視界の端で見知らぬ男が何かを叫んでいた。
赤い髪と鎧が視界の端に映る。
英語でもない、アジア圏でもない。
零蘭が知っている12言語どれでもなかった。次第に視界が霞み足に力が入らなくなる。全ての力が奪われている感覚に雛野だけを力強く抱きしめて意識を閉じた。
倒れた2人に駆け寄ると大柄な赤髪の男はしゃがみこみ、零蘭と雛野を眺めた。まだ幼い。2人とも蒼白く、今にも消えてしまいそうだ。その隣に落ちている未だ輝き続ける花に人差し指と中指をかざした。指先から青く光る魔法陣が出ると花の光が消え元の小さな花に戻る。
「ルイの悪戯花……」
2人の浅かった呼吸が元に戻り肺の運動がおおきくなったことを見届けると2人とも担いで歩き出す。身長は女性の割に高いがずいぶんと軽い。
「その子達、イガルあんたんとこの新入りか?」
騒動を目の当たりにしていた店主が雛野と零蘭を訝しげに見ていた。
イガルと呼ばれた男は豪快に笑った。その振動で肩に乗せられた零蘭が嫌そうに唸る。
「くくっ、たしかにこんなメチャクチャな魔力の奴はうちのモンかもな」
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