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ステップを踏むように
5.必然と偶然が
しおりを挟む「痛え…………」
「さて、もう満足しましたか?別にまだやりたいというなら止めませんし後日でも何でも」
うめき声が溢れる中で清が笑った。この会話の結末に興味はないので返答も求めていない。
「まあ、俺らに下るなら連絡しろよ」
代わりに相手のまとめ役らしき人物に紙を渡した涼はすぐに翻して隅にあるソファに向かう。神として崇める者がいるからだ。
「晫斗さん終わりましたよ、出ましょう」
「……」
ゆっくりと開けられた目が涼を捉える。何も返事はなくただ身体を伸ばした。そんな晫斗に笑うと涼がまた話しかける。
「敬紫さんもう外にいますよ」
結局騒音の中最後まで熟睡していた晫斗に誰一人として手を出さなかった。涼がそれをさせなかったし、たとえ寝ていても薙ぎ払う程度の力はある。晫斗が緩く起き上がり出入り口の大きなシャッターを見た。外の音は何も聞こえない。
「……零蘭がきてる」
「え?」
今日一番の俊敏な動きで立ち上がるとすぐに外に向かっていく。その光景に驚きながらも涼は立ち上がる。背後から清が近寄ってきた。
「外にお二人が」
「……ほんと、何でわかるんだか……」
「後のことは任せてきたので俺たちも行きましょう。雛野さん達行きたいところがあるみたいですし」
どことなく嬉しそうに話す清に返事をして晫斗の後を追う。清が嬉しそうな顔をするなんて世も末だが、彼らが相手では仕方がない。
砂利と草が広がる外に出ると場違いな大きな黒塗りの車が一台。その横に晫斗と敬紫を見つけた。スライドして開く窓に敬紫が顔をいれ、相手にキスを落とす。
「あ」
涼が思わず声を上げてしまい今更口を手で抑えると、隣の清が呆れたようにバカですねと小さな声を漏らした。
「涼くん?清くんもいる?」
声だけが窓から投げかけられた。
このままでは車から降りてしまうと感じた涼と清は車に駆け寄る。ドアが開き出ようとする2人に声をかけた清。
手前に座っていた雛野が微笑む。
月の光に照らされた雛野の目がカチリと光ると、美しい瞳に清はいつもの笑顔で賛辞から始めた。
「今日もお美しいですね。ああ、どうか降りないで下さい足場が悪いですから。敬紫さん、晫斗さん乗ってください。ここはもう大丈夫なので」
「もう大丈夫なの?じゃあ2人も乗りなさいよ」
凛とした声が奥から響く、雛野の横から零蘭が顔を出して清と涼を促した。運転席と仕切られたこの車は6人でも幅があるので窮屈さは感じない。
「……鉄の匂い」
全員が乗り込むと、零蘭が顔をしかめた。晫斗は隣の零蘭の腰に手を置いてもう眠り始めていた。その手は重なっている。
「でも無傷ですから」
「……無傷だから良いわけではないけれど」
ため息も綺麗な人だと、清は思った。
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